金魂、こんな日常
・おやつ編
・お夕飯編
・お風呂編
・就寝編
・お目覚め編
<金魂、こんな日常>
・おやつ編・
「…ったく、何で俺が」
ブツブツと独り言を言いながら土方は帰路に着いた。
「大体アイツは居候だってんだ…」
『土方さん!』
『あぁ?何だよ、山崎』
『これ、署長から皆にって配られたものです。丁度土方さん居なかったんで別に取って置きました』
『あぁ?!ってこれ、バっ…!』
『土方さん食べないなら、あの同棲してる人に差し上げれば良いんじゃないですか?』
『〜っっ、アイツは居候だっ!!!!』
『わ―――――――!!す、すいませんんんん!!!!!』
今思い出してもムカムカするのか。
土方はますます眉間の皺を深くして、煙草の煙を吐き出す。
「つうか、んなに食う訳あるか…ケーキ、3つだぞ」
そう。
持たされたものはケーキ。
しかも何を考えているのか3個も。
「男が、んな甘いモン食うか…」
土方自身も甘いモノは一切食べない。
別に嫌いと言う訳ではないが、食べ終わった後のムカムカ感がどうしてもダメだ。
1個なら何とかコーヒーと一緒に流し込めるが、それ以上は受け付けない。
「…チっ、捨てちま……」
こんなモノ、持ち帰っても誰も喜ばない。
そう土方が考えた時…。
(待てよ)
ピタリと歩を止める。
(アイツ、確かコーヒーにしこたま砂糖入れれたな…)
ブラックで飲む土方には俄かに信じられない量の砂糖をコーヒーに投入する金時に、何度かそれはコーヒーじゃない、と言い放った記憶がある。
(もしかして…?)
そう考えれば、イチゴ牛乳が前に冷蔵庫にあった。
誰が飲むんだ、と不思議に思っていた、風呂上りの金時が飲んでいた。
(…甘党?)
特に聞いた事も考えた事もなかったが、金時は甘党なのかも知れない。
そう考えて土方は手にしているケーキの入った箱をマジマジと見る。
(……ま、まぁ、食わなかったら捨てりゃぁ良いか……)
傍にあったゴミ箱に捨てようしたが、それを止めて。
土方は家に向かい、止まっていた歩を進めた。
(断じて俺が買ったんじゃねェ…断じて…俺が要らねェのを欲しいならくれてやるだけだ…)
ブツブツと独り言を言いながら。
「ただいま」
「おっかえり、土方君!!…あれ?手にしてる箱、なぁに?」
それからすぐに。
土方は満面の笑みを浮かべる金時に。
(…まぁたまには家事やってもらってる礼として、ケーキくれェ買っててやっても良いか…)
などと思うのだった。
・END・
<金魂、こんな日常>
・夕飯編・
「おい」
呼ばれて金時は下げていた顔を上げる。
「ん?」
「アレは?」
「アレ?」
「そうだよ、アレだよ。いっつも言ってんだろ。置いとけって」
アレ、と言われ暫し首を傾げていた金時だったが、思い当たるものがあったのか。
「あ、あ〜…アレね」
「そうだよ、アレだよ」
「でもさ、今日のおかずに、それは要らないんじゃないかな?」
「俺は要るんだよ。良いからさっさと出せって」
「う〜…」
「唸ってねェで、ほら」
そう言って手を出す土方に、金時は釈然としない。
はぁ〜と溜め息を吐いて。
「…土方君さぁ」
「あ?」
「ご飯作った人の気持ちって考えた事ある?」
突然の金時の言葉に、土方は微かに動揺するが。
「な、何だよ、突然…」
「一生懸命さ、金さんがご飯作ってるのに、毎回毎回、マヨネーズぶっ掛けられるって…俺の料理ってそんなに口に合わねェ?」
「んな事ぁねェけど…」
「じゃぁ何でマヨネーズぶっ掛ける訳?」
「だから。俺はより美味く食おうと…」
「それがマヨネーズぅぅぅ?!ってか、そんなコレステロールばっか食ってと早死にするぞ?!」
「良いんだよ!!俺は好きなモン我慢して長生きするより、好きなモンいっぱい食って早死にしてェの!!」
「ム〜…」
「それに飯が不味かったら、毎晩毎晩早く帰って食わねェよ」
「…え?」
「残業で遅くなるつって、外食するっての」
「…………………」
「ほれ。より美味しく食うから。早くマヨネーズ」
「…何か上手く丸め込まれた気がするんですけど…」
「気のせいだ」
はい、と金時は冷蔵庫からマヨネーズを取り出し土方に渡す。
それを受け取った土方は、殺人的な量のおかずに掛けて。
「頂きます」
いつの間にか礼儀正しく手を合わせて食べるようになった。
「どーぞ」
『それに飯が不味かったら、毎晩毎晩早く帰って食わねェよ』
言われて。
初めて気づいた。
一緒に暮らし始めて。
土方の帰宅は7時前後。
刑事ってのは思ったより帰宅早いんだな、と思っていたが。
(そうかそうか)
それは残業しないように土方が帰って来たと言う事。
(そう言えば前に張り込みで徹夜って時も、一回帰って来て飯食ってたな…)
自分が作ったものを楽しみにしてもらえるのは嬉しい。
「…もぉ〜しょうがないな」
「…あ?」
「じゃぁ今度、金さんがマヨネーズを使ったモン、作ってやっから」
「………………………」
「それはマヨネーズ掛けないで食べてね?」
「……………おぅ」
・END・
<金魂、こんな日常>
・お風呂編・
「んじゃ、風呂入って来る」
「ほい、ごゆっくり」
「…………………」
「ん?何?…一緒に入りたいの?」
「アホか!!…大人しくしてろよ」
「はいはい〜」
そう言い放って。
土方はタオルと下着を持って風呂場へと向かった。
(毎回毎回一緒に入ろうとか言うから、素直に頷かれて思わず凝視しちまったぜ…)
脱衣所で服を脱ぎ、先ほどの金時の反応を思い返す。
『じゃぁ、風呂入って来る』
『あ、じゃぁ金さんも』
『男同士で風呂に入れるか!!』
『え〜男同士だからこそ、一緒に入れるんじゃん』
『それは温泉とか特別な場所だろう!!』
『土方君と居る場所なら、金さん的には何処でも特別な場所だよ〜』
いつもされる会話に土方は頭痛を覚えながら、風呂に入る。
軽く身体を洗って、湯船に入る。
「あ〜…疲れた……」
今日は聞き込みで色々歩き回った。
クタクタの身体に温かい湯が疲れを癒す。
すると…。
「…?」
脱衣所でガタガタ音がする。
「何だ…?」
様子を見ようと、湯船を出ようとした時…。
「ひじかったくーん!!金さんが背中洗ってあげるー!!!!」
「だーっっ!!!!人の入浴中に乱入してくんじゃねー!!!!」
…土方の休まる時はない。
・END・
<金魂、こんな日常>
・就寝編・
「ったく…」
パタンっと寝室の扉を閉じて土方は小さく溜め息を吐いた。
どうにも金時と暮らし始めてから、調子が狂いっ放しだ。
いつもの自分はもっと冷静なはずで。
いつも仕事して、帰って、また朝を迎えて…。
規則的な生活を送っていた。毎日が同じで。ただ繰り返し。
それに不満を覚えた事はない。
なのに…。
「くそっ…」
「いつも」の日常が何処かへ行ってしまった。
「いつも」と違うなんて違和感しかないはずなのに。
今は…何処か満たされていて。
「いつも」の日常なんて思い出せなくなってしまっている。
「…認められるかってんだ…」
微かに湿った前髪をくしゃっと掻き揚げて。
土方はベットに沈んだ。
明日も暑くなるだろう。
疲れた身体。
フっと疲れに任せて土方は瞳を閉じた。
「………………………」
今何時だろう。
土方はフと目覚めた。
「いつも」なら。
寝てしまって目覚ましがなるまで起きないのに。
(咽喉、渇いたな…)
感じた咽喉の渇きに、土方は部屋を出てキッチンへ向かう。
「そっと…」
ソファーで眠る金時を起こさないように、土方はそっと冷蔵庫に向かう。
その時…。
「うおっ?!!び、ビックリした…起きてたのかよ…」
人の気配を部屋の隅に感じて、そちらに視線を向けた。
「…ぅん…」
視線の先には毛布を肩に掛け、膝を抱える金時が居て。
「…?どうした?」
暗い部屋のせいで相手の顔がはっきりと見えない。
けど、聞こえて来た声はいつもの明るいものとは違って。
「…怖い夢でも見て眠れないってか?」
「…ぅん…」
「………………………」
冗談半分でからかいの言葉を投げたら。
それはあっさりと肯定されて。
しまった、と思った時には、すでに遅かった。
「……………寝ない気か?」
「……落ち着いたら寝る」
「……傍に居ない方が良いか?」
「………うぅん。……人が……土方君が居た方が落ち着く……」
近づいて。
さらりと髪を撫でたら。
天パの金時の髪は見た目以上に柔らかくて。
(綺麗…)
サラサラと撫でる度に金糸が揺れる。
「…大丈夫、か?」
「…ぅん。……有難う」
小さく呟いたら。
小さな声で返って来た。
それが酷く、心許なくて。
「…土方君疲れてんでしょ?……俺に構わず寝て良いよ」
「……………………………」
「…土方君?」
無理に笑ってる顔が。
寂しそうで。
切なくて。
「…寝れるかよ」
「土方君?」
ドカっと土方は金時の隣に腰を下ろして。
「お前は俺をどんだけ非情な人間だと思ってんだよ。んなツラした奴見つけて寝れるかよ。目覚めが悪くなる」
「…土方君…」
「居て良いなら、幾らでも居てやるよ。…だ、から…んな顔、す、んな…」
照れからか。
土方は金時から顔を背けて。
ポツポツと言葉を紡ぐ。
「…知ってるよ」
「…え?」
「土方君がすっげェ優しいって事。俺知ってるよ」
コツンっと。
金時は隣に座った土方の肩に自身の頭を置いて。
「…多分、土方君が知らない土方君も。…俺は知ってる」
「何だ、それ…」
「言葉通りの意味、だけど?」
「意味解んねェ…」
暫く黙ってたら。
すぅすぅと。
規則正しい寝息が聞こえて来た。
「…寝ちまったし」
ちょっと横を向けば。
幼い寝顔が映る。
「…お休み、金時」
そう言って。
土方もそっと瞳を閉じた。
・END・
<金魂、こんな日常>
・目覚め編・
ふと。
目蓋の上から感じる眩しさに金時は目を覚ました。
(…っ、おわっ!!)
目を開けて。
危うく叫ぶそうになるのをどうにか堪えた。
…目が覚めたら土方の顔。
(そ、そうだった…昨日の夜嫌な夢見て…)
水を飲みに来た土方に見つかった。
時々見る怖い夢。
夢の中では自分はいつも独りで。
目覚めた時に感じる、リアルな孤独感。
寒くて寒くて。
そう言う夢を見た日はいつも。
部屋の隅で毛布を肩に掛けて、蹲る。
…早く夜が明けろ、と。
そんな時に土方に見つかったものだから。
明日早いから土方は早く寝た方が良い、と言った。
こんな自分を見られたくなくて。
本当は誰かに…土方に傍に居て欲しいと願っているのに。
そんな金時に土方は、目覚めが悪いと金時に付き合って、隣に座ってくれた。
ポツポツと会話をして。
耳に感じる、土方の声。
右肩に感じる、土方の温もり。
それにひどく安心して。
眠れない、と言っていたのに。
気づけば会話の途中で眠りに落ちてしまった。
隣ではまだスヤスヤと眠る、土方の寝顔。
金時はそれを静かに見ながら、また土方の肩に寄り掛かる。
(何だかね…)
こんな風に『甘えたい』と思って甘えるのなんて初めてだ。
『甘える仕種』なんてホストとして働いて、たくさんして来たと言うのに…。
「…眠ぃなぁ…」
あくびを噛み殺して。
ウトウトと眠気が襲う。
夜明けまでもう少しだけ時間がある。
この温もりを感じて寝てしまえば、怖い夢なんて見ないだろうけど…。
「今度はこの幸せが目覚めたらなくなっちゃいそうだよ…」
幸せな夢を見ているようだ…。
…この時間がもう少しでも長く続けば良い。
金時はそう思いながら。
静かに目を閉じた。
・END・
2006/08/12UP