手の中にある、何でもないチケットが。
今の俺には天国行きにも、地獄行きにも思える。
馬鹿な事をしてる自覚はある。
けれど。
少しでも、ほんの少しだけでも。
…想い出が欲しい。
他の誰でもない。お前とだけの、想い出が。

夏休み × チケット × お誘い× 試験前
「土方にバレた?」
「…かも知れない」
「何じゃ、はっきりしやーせんね」


澄み切った青空の下。初夏にしては心地良い風が吹く、ここは学校の屋上。
昼食を食べながら開いた俺の言葉に、辰馬・高杉は互いに顔を見合わせてる。
うぅ…何だかもう、顔上げてんの辛くなって来た。


「何じゃ、何かあったかえ?」
「…ぅん」
「んだよ、はっきり言えよ。うざってーな」
「……………………………………………」
「…止めぃ、晋助。今回はマジでヘコんでるぜよ」
「…チっ。解ったよ。悪かったって、銀!んで?んでそう思ったんだよ」


高杉の言葉にズンっと心の圧し掛かる。
うん。俺もマジ、ウザってーとは思ってるよ?思ってるけど、しょうがねーじゃん。事が事なんだからさ…。


「…何があったって訳じゃねェんだけど。……昨日さ、避けられた」
「避けられたぁ?」
「昨日なが?そうじゃったか?そう思ったか、晋助?」
「うんにゃ。普通にしてたじゃねェか。今朝だって一緒に登校してたしよぉ」
「その今朝だよ!チャリ乗る時、肩に手ぇ乗せたら、ピクって動いた!!それに何か言いたそうにしてたしよぉ!!」
「ほがぁ…」
「動きはするだろ。一応生きてるんだからよ、アレも」
「アレとか言うなぁ!…ぐす」
「……突っ込むトコはそこかよ」
「つか、泣きな」


あぁ、もう!涙出て来たよ!!
泣いちゃうよ?!銀さん泣いちゃうよ?!だって男の子だもん!!


「心配し過ぎちや、金時。おんしの気のせいぜよ」
「つか、んなに気になんなら聞いてみれば良いじゃねェか」
「あぁ、それ名案やき。しょうえい機会がやないかね」
「何処がだよ?!つか、何て聞きゃぁ良いんだよ!!」
「そりゃぁ…」


アホな事を言う辰馬、高杉に。
俺は俯いていた顔を勢いよくあげた。
そしたらこのアホ2人は顔を見合わせて、それからゆっくりと俺の方を向き、辰馬がニコっと笑うと。


「ほがぁ…『俺の気持ちに気づいてる?』にかぁーらんね」
「馬鹿か!!お前等に相談した俺が馬鹿だったよ!!」
「馬鹿はお前だ…」
「やき、金時。しょうえい機会ぜよ?いつまでもグダグダしとってもしょうえい事ないきに。おんしの為にも。ちゃんと気持ち伝えなきゃいかんぜよ」
「だから!おま、今まで俺の話聞いてた?!俺は『今までの関係おさななじみ』って言う関係を捨てたくねェんだって!!」
「それももうはや限界だっておんしも感じてるんじゃろ?」
「う…」
「つーか、これも俺達何度も言ってるよな?『だからって今までの関係おさななじみって言う過去がなくなる訳でもない』って」
「うぅ…」
「はや年貢の納め時ながやないが?」
「うぅぅ…」
「んでとっとと振られて来い」
「うっさいよ、高杉は!!」
「んだと、銀!てめ、今まで親切に悩み聞いてやった俺に何つう口の利き方してんだ!このヘタレ!!」
「ヘタレ言うな!!俺はお前と違ってガラスのハートなの!!」
「チキンハートの間違いだろ!!」
「あっはっは〜。元気が出たようで何よりぜよ」


ぎゃいぎゃいと言い合う、俺と高杉。
そんな俺達を見て、辰馬がいつもの笑う声を上げて。
いつもの日常、いつもの会話。
心の何処かで思ってた事。
…これ以上。気持ちを隠しとく事なんて出来ない。
解ってたけど。
それでもやっぱり怯える俺に、2人はそっと背中を押してくれる。
今だってトシに告るとか。そんな事考えるだけで、トシの反応とか関係が壊れる事とか。
怖くて怖くてしょうがないけど。
でも。
今こうして。少し前を見れる、馬鹿言える。
それくらい出来るのが…嬉しく思える。


「にしたち、金時」
「んぁ?」
「そろそろ夏休みぜよ。その間、ゆっくり考えたらしょうえいきに」
「……ぅん。そうするよ」
「決めるもやるのも。テメー次第なんだぜ。銀」
「……ぉう。わーってるよ。……サンキューな」


高校に入って。
初めての夏休みが来る。
それが明けるまでに。俺は。俺達は。
何かが変わるんだろうか。変われるんだろうか。


「…って、あれ?したら、そろそろ期末とかじゃね?」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
「「「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」」」







じっとりと。
手に汗が湧いて来るのが解る。
あぁ、こんなに緊張したのって何振りだろう?
剣道の試合?高校の入学試験?
…どっちも、んなに緊張しねェな。
……まぁ、とにかく。
俺はこれ以上ないくらい緊張してる。
何がって言うと。


『ぁ、ねぇねぇ、十四郎』
『あ?何、母さん』
『今日ね、新聞の更新したら招待券もらっちゃって』
『招待券?』
『そっ。遊園地のね、招待券。十四郎にあげるから、行きなさい。ほら』
『や、でも俺、遊園地とか…』
『なぁに?高校生にもなって彼女も居ないの?』
『…大きなお世話だよ。それに俺は今、剣道に……』
『あ、それなら銀ちゃんと行けば良いじゃない』
『……は?』
『そうよそうよ。せっかくだから銀ちゃんと行ってらっしゃいよ。そろそろ夏休みでしょ?夏休みの想い出に。はい。無駄にしちゃダメよ』
『ゃ、ちょっ、母さん…!』


…と言う訳で、俺のポケットには今、遊園地の招待券が2枚入っている。
…。
……。
………。
と言う訳じゃねェよ、俺ぇぇぇぇっ!!
え、コレどうすんの?!
つか、母さん!!
アンタ、男子高校生2人で遊園地とか、どんだけ寒い事やらせんだよ!!
つか、俺も!!何誘おうとしてんだよぉぉぉぉ!!!


「…嫌々。寒い。寒いよ」


つか、銀時もさすがに男2人で遊園地とか、断るよな。うん。

『タダで行けんなら行く』

「……………………………………………」


あぁ、言いそう。アイツなら言いそう。

『マジで?!行く行く〜♪』

「……………………………………………」


嫌々。何夢見てんの?さすがにそれはねェだろ。
…ジっと。手にあるチケットを見る。
……無駄にするのは良くねェよな。うん。
せっかく母さんがくれたんだし。
これはアレだよ。母さんが銀時と行けつったからで。
嫌々、別でにデート、とかそんなんじゃなくて。


「…母さんがくれて、使わねェのも何だから、もし良ければ…」
「何ブツブツ言ってるんでぃ、土方さん」
ぅわっ!!!…そ、総悟!!テメ、いつの間に…」
「ん?土方さん、その手に持ってるの…」
「ぁっ!?な、何でもねェよ…!!」


サっと背中にチケットを隠したが。


「……………………………………………」
「……………………………………………」
「…へぇ〜」
「な、何だよ…」


時すでに遅しって奴で。
ニヤ〜と笑う総悟に、俺は冷や汗を流しつつ、努めて冷静な振りをする。


「デートに誘うんですかぃ?」
「デっ…!!ち、違ェよ!!!こ、これは、その…か、母さんがくれて…銀時と行けって…」
「だから。デートに誘うんじゃねェですかぃ?」
「っ、だから!違ェって!!つうか、テメーにくれてやるよ!!…誰かと行け」


グイっとそれを総悟の胸に押しつけ。
俺は屋上へと続く階段を昇っていたが、踵を返して教室へ向かおうとした。
だが。


「ちょっと待って下せぇ」
「あぁ?」


総悟に呼び止められ、俺は足を止める。
総悟はくしゃくしゃになったチケットを手に。


「気が変わりやした。…これ、アンタと旦那とで行って下せぇ」
「はぁ?」
「土方さんと旦那で行けつってるんでぃ」
「な、何だよ、急に…」


俺に近づき、チケットを俺に向ける。
俺は総悟の意図が見えず、それを受け取りもせず、ジっと総悟を見る。
何、考えてやがる…?


「そうじゃなきゃ。言い触らしやすぜ?土方さんが旦那をデートに誘おうとした、って」
「デートって…だから違うつってんだろーが。ただ、母さんからそれ貰って。無駄にすんのも悪ぃと思ったから。つか、最初に銀時と行けつったのも母さんで」


別に、俺は、と言おうとしたが。
ニコっと。本当に年相応に笑った総悟に。


「だったら良いじゃないですかぃ。当初の目的通りで」
「……………………………………………」
「別にそれ行った後に、土方さんと旦那がデートした、なんて触れて回りやせんから」
「…何が、目的だ?」
「やだな〜人聞きの悪い。ただ、もらっても俺ぁ使い道もねェし。だったら当初の目的通り使った方が良いと思っただけですぜ?」
「……………………………………………」


総悟の意図を、俺は本当に図りかねていた。
コイツが何の目的もなく、んな事言うなんて到底思えねェ。


「本当の本当に、それ以上の意図はねェんですぜ?…あぁ、強いて言うなら、見てられなくなったんです」
「は…?」
「俺ぁ結構旦那ん事気に入っててね。もうそろそろ良いんじゃねェかなと思いやして」
「おい、総悟。さっきから何言ってんだか、俺にはさっぱりなんだが」
「だからアンタは鈍いつってんでぃ」
「んだと?!」
「良いからさっさと旦那誘えつってんでぃ。さっさと受け取らねェんなら、この足で触れ周りに行きやすぜ」
「…解ったよ」


総悟の言ってる事は、まるで理解出来なかったが。
コイツは言った事は本当に実行する奴なので、俺は差し出されたチケットを受け取る。
そして。


「旦那、屋上でしょう?さっさと行って下せぇ」
「てめ、本当に触れ回んねェだろうな…」


教室戻って、すでにそんな話で満杯なんて真っ平ご免だ。
俺が訝しげな眼差しを送ると。


「誓って今回のは触れ回りやせんて。…健闘祈りやすよ」
「……何なんだ、アイツ」


ヒラヒラと手を振って帰って行く総悟を見送り、俺は首を傾げる。
本当に訳の解らん奴だ。…まぁ、今に始まった事でもねェが。


「……………………………………………」


俺は持っているチケットを手に、屋上へと続く扉に近づく。
…あぁ、もう。
それこそ、アレだ。後は野となれ山となれ、だ。
行く行かないはアイツに任せちまえば良い。
断られればそれまで。
行きたいと言うなら、行けば良い。
…自殺行為だってのも解ってる。
いつボロが出るかも解らない。
気持ちを加速かせるような、馬鹿な真似してるって事も。
でも。
想い出が欲しい。
幼い頃に培った、懐かしくも暖かくなるような想い出が。
いつか、そういつの日か、もしかしたら来るかも知れない。
この想いが風化した時、そう言えばあんな事したな、とか。こんな時、こんな事してたな、とか。
今出来る、今しか作れない想い出。
何かに託けて。何かを言い訳にしてしか動けない俺だけど。
それでも。


「…おい、銀時居る」

「あ、トシぃぃぃ!!!!!!!!!勉強教えて!!!!!!!!!!!!!」

「か…って、はぁ?」


・END・
2010/07/26UP