「土方にバレた?」
「…かも知れない」
「何じゃ、はっきりしやーせんね」
澄み切った青空の下。初夏にしては心地良い風が吹く、ここは学校の屋上。
昼食を食べながら開いた俺の言葉に、辰馬・高杉は互いに顔を見合わせてる。
うぅ…何だかもう、顔上げてんの辛くなって来た。
「何じゃ、何かあったかえ?」
「…ぅん」
「んだよ、はっきり言えよ。うざってーな」
「……………………………………………」
「…止めぃ、晋助。今回はマジでヘコんでるぜよ」
「…チっ。解ったよ。悪かったって、銀!んで?んでそう思ったんだよ」
高杉の言葉にズンっと心の圧し掛かる。
うん。俺もマジ、ウザってーとは思ってるよ?思ってるけど、しょうがねーじゃん。事が事なんだからさ…。
「…何があったって訳じゃねェんだけど。……昨日さ、避けられた」
「避けられたぁ?」
「昨日なが?そうじゃったか?そう思ったか、晋助?」
「うんにゃ。普通にしてたじゃねェか。今朝だって一緒に登校してたしよぉ」
「その今朝だよ!チャリ乗る時、肩に手ぇ乗せたら、ピクって動いた!!それに何か言いたそうにしてたしよぉ!!」
「ほがぁ…」
「動きはするだろ。一応生きてるんだからよ、アレも」
「アレとか言うなぁ!…ぐす」
「……突っ込むトコはそこかよ」
「つか、泣きな」
あぁ、もう!涙出て来たよ!!
泣いちゃうよ?!銀さん泣いちゃうよ?!だって男の子だもん!!
「心配し過ぎちや、金時。おんしの気のせいぜよ」
「つか、んなに気になんなら聞いてみれば良いじゃねェか」
「あぁ、それ名案やき。しょうえい機会がやないかね」
「何処がだよ?!つか、何て聞きゃぁ良いんだよ!!」
「そりゃぁ…」
アホな事を言う辰馬、高杉に。
俺は俯いていた顔を勢いよくあげた。
そしたらこのアホ2人は顔を見合わせて、それからゆっくりと俺の方を向き、辰馬がニコっと笑うと。
「ほがぁ…『俺の気持ちに気づいてる?』にかぁーらんね」
「馬鹿か!!お前等に相談した俺が馬鹿だったよ!!」
「馬鹿はお前だ…」
「やき、金時。しょうえい機会ぜよ?いつまでもグダグダしとってもしょうえい事ないきに。おんしの為にも。ちゃんと気持ち伝えなきゃいかんぜよ」
「だから!おま、今まで俺の話聞いてた?!俺は『今までの関係』って言う関係を捨てたくねェんだって!!」
「それももうはや限界だっておんしも感じてるんじゃろ?」
「う…」
「つーか、これも俺達何度も言ってるよな?『だからって今までの関係って言う過去がなくなる訳でもない』って」
「うぅ…」
「はや年貢の納め時ながやないが?」
「うぅぅ…」
「んでとっとと振られて来い」
「うっさいよ、高杉は!!」
「んだと、銀!てめ、今まで親切に悩み聞いてやった俺に何つう口の利き方してんだ!このヘタレ!!」
「ヘタレ言うな!!俺はお前と違ってガラスのハートなの!!」
「チキンハートの間違いだろ!!」
「あっはっは〜。元気が出たようで何よりぜよ」
ぎゃいぎゃいと言い合う、俺と高杉。
そんな俺達を見て、辰馬がいつもの笑う声を上げて。
いつもの日常、いつもの会話。
心の何処かで思ってた事。
…これ以上。気持ちを隠しとく事なんて出来ない。
解ってたけど。
それでもやっぱり怯える俺に、2人はそっと背中を押してくれる。
今だってトシに告るとか。そんな事考えるだけで、トシの反応とか関係が壊れる事とか。
怖くて怖くてしょうがないけど。
でも。
今こうして。少し前を見れる、馬鹿言える。
それくらい出来るのが…嬉しく思える。
「にしたち、金時」
「んぁ?」
「そろそろ夏休みぜよ。その間、ゆっくり考えたらしょうえいきに」
「……ぅん。そうするよ」
「決めるもやるのも。テメー次第なんだぜ。銀」
「……ぉう。わーってるよ。……サンキューな」
高校に入って。
初めての夏休みが来る。
それが明けるまでに。俺は。俺達は。
何かが変わるんだろうか。変われるんだろうか。
「…って、あれ?したら、そろそろ期末とかじゃね?」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」
「「「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」」」
・
・
・
・
・
じっとりと。
手に汗が湧いて来るのが解る。
あぁ、こんなに緊張したのって何振りだろう?
剣道の試合?高校の入学試験?
…どっちも、んなに緊張しねェな。
……まぁ、とにかく。
俺はこれ以上ないくらい緊張してる。
何がって言うと。
『ぁ、ねぇねぇ、十四郎』
『あ?何、母さん』
『今日ね、新聞の更新したら招待券もらっちゃって』
『招待券?』
『そっ。遊園地のね、招待券。十四郎にあげるから、行きなさい。ほら』
『や、でも俺、遊園地とか…』
『なぁに?高校生にもなって彼女も居ないの?』
『…大きなお世話だよ。それに俺は今、剣道に……』
『あ、それなら銀ちゃんと行けば良いじゃない』
『……は?』
『そうよそうよ。せっかくだから銀ちゃんと行ってらっしゃいよ。そろそろ夏休みでしょ?夏休みの想い出に。はい。無駄にしちゃダメよ』
『ゃ、ちょっ、母さん…!』
…と言う訳で、俺のポケットには今、遊園地の招待券が2枚入っている。
…。
……。
………。
と言う訳じゃねェよ、俺ぇぇぇぇっ!!
え、コレどうすんの?!
つか、母さん!!
アンタ、男子高校生2人で遊園地とか、どんだけ寒い事やらせんだよ!!
つか、俺も!!何誘おうとしてんだよぉぉぉぉ!!!
「…嫌々。寒い。寒いよ」
つか、銀時もさすがに男2人で遊園地とか、断るよな。うん。
『タダで行けんなら行く』
「……………………………………………」
あぁ、言いそう。アイツなら言いそう。
『マジで?!行く行く〜♪』
「……………………………………………」
嫌々。何夢見てんの?さすがにそれはねェだろ。
…ジっと。手にあるチケットを見る。
……無駄にするのは良くねェよな。うん。
せっかく母さんがくれたんだし。
これはアレだよ。母さんが銀時と行けつったからで。
嫌々、別でにデート、とかそんなんじゃなくて。
「…母さんがくれて、使わねェのも何だから、もし良ければ…」
「何ブツブツ言ってるんでぃ、土方さん」
「ぅわっ!!!…そ、総悟!!テメ、いつの間に…」
「ん?土方さん、その手に持ってるの…」
「ぁっ!?な、何でもねェよ…!!」
サっと背中にチケットを隠したが。
「……………………………………………」
「……………………………………………」
「…へぇ〜」
「な、何だよ…」
時すでに遅しって奴で。
ニヤ〜と笑う総悟に、俺は冷や汗を流しつつ、努めて冷静な振りをする。
「デートに誘うんですかぃ?」
「デっ…!!ち、違ェよ!!!こ、これは、その…か、母さんがくれて…銀時と行けって…」
「だから。デートに誘うんじゃねェですかぃ?」
「っ、だから!違ェって!!つうか、テメーにくれてやるよ!!…誰かと行け」
グイっとそれを総悟の胸に押しつけ。
俺は屋上へと続く階段を昇っていたが、踵を返して教室へ向かおうとした。
だが。
「ちょっと待って下せぇ」
「あぁ?」
総悟に呼び止められ、俺は足を止める。
総悟はくしゃくしゃになったチケットを手に。
「気が変わりやした。…これ、アンタと旦那とで行って下せぇ」
「はぁ?」
「土方さんと旦那で行けつってるんでぃ」
「な、何だよ、急に…」
俺に近づき、チケットを俺に向ける。
俺は総悟の意図が見えず、それを受け取りもせず、ジっと総悟を見る。
何、考えてやがる…?
「そうじゃなきゃ。言い触らしやすぜ?土方さんが旦那をデートに誘おうとした、って」
「デートって…だから違うつってんだろーが。ただ、母さんからそれ貰って。無駄にすんのも悪ぃと思ったから。つか、最初に銀時と行けつったのも母さんで」
別に、俺は、と言おうとしたが。
ニコっと。本当に年相応に笑った総悟に。
「だったら良いじゃないですかぃ。当初の目的通りで」
「……………………………………………」
「別にそれ行った後に、土方さんと旦那がデートした、なんて触れて回りやせんから」
「…何が、目的だ?」
「やだな〜人聞きの悪い。ただ、もらっても俺ぁ使い道もねェし。だったら当初の目的通り使った方が良いと思っただけですぜ?」
「……………………………………………」
総悟の意図を、俺は本当に図りかねていた。
コイツが何の目的もなく、んな事言うなんて到底思えねェ。
「本当の本当に、それ以上の意図はねェんですぜ?…あぁ、強いて言うなら、見てられなくなったんです」
「は…?」
「俺ぁ結構旦那ん事気に入っててね。もうそろそろ良いんじゃねェかなと思いやして」
「おい、総悟。さっきから何言ってんだか、俺にはさっぱりなんだが」
「だからアンタは鈍いつってんでぃ」
「んだと?!」
「良いからさっさと旦那誘えつってんでぃ。さっさと受け取らねェんなら、この足で触れ周りに行きやすぜ」
「…解ったよ」
総悟の言ってる事は、まるで理解出来なかったが。
コイツは言った事は本当に実行する奴なので、俺は差し出されたチケットを受け取る。
そして。
「旦那、屋上でしょう?さっさと行って下せぇ」
「てめ、本当に触れ回んねェだろうな…」
教室戻って、すでにそんな話で満杯なんて真っ平ご免だ。
俺が訝しげな眼差しを送ると。
「誓って今回のは触れ回りやせんて。…健闘祈りやすよ」
「……何なんだ、アイツ」
ヒラヒラと手を振って帰って行く総悟を見送り、俺は首を傾げる。
本当に訳の解らん奴だ。…まぁ、今に始まった事でもねェが。
「……………………………………………」
俺は持っているチケットを手に、屋上へと続く扉に近づく。
…あぁ、もう。
それこそ、アレだ。後は野となれ山となれ、だ。
行く行かないはアイツに任せちまえば良い。
断られればそれまで。
行きたいと言うなら、行けば良い。
…自殺行為だってのも解ってる。
いつボロが出るかも解らない。
気持ちを加速かせるような、馬鹿な真似してるって事も。
でも。
想い出が欲しい。
幼い頃に培った、懐かしくも暖かくなるような想い出が。
いつか、そういつの日か、もしかしたら来るかも知れない。
この想いが風化した時、そう言えばあんな事したな、とか。こんな時、こんな事してたな、とか。
今出来る、今しか作れない想い出。
何かに託けて。何かを言い訳にしてしか動けない俺だけど。
それでも。
「…おい、銀時居る」
「あ、トシぃぃぃ!!!!!!!!!勉強教えて!!!!!!!!!!!!!」
「か…って、はぁ?」
・END・
2010/07/26UP