今まで秘密なんかなかったのに。何だって話した。何だって話してくれた。
いつからだろう?話せない事が出来たのは。互いが秘密を持つようになったのは。
いつの間にか出来た距離。踏み出せない距離。縮められない距離。触れられない、距離。
…いつだって拒絶されるのが、怖いから。
『幼馴染』…それが俺達を繋ぐ唯一で無二の絆。

居眠り × 指先 × 予想 × 臆病



「お、銀時!お早う!!」
「…朝から元気だなぁ…ハヨー、ゴリラ」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」
「ぁんだよ。何、ジロジロ見てんだよ」
「否な…トシは?一緒じゃないのか?」
「今、チャリ置きに行ってるけど…」
「そうか!なら良いんだ!!じゃぁ、後でな、銀時」
「お、おう」
「あ、お妙さ〜〜〜〜ん、お早うございま〜〜〜す」
「朝っぱらからうっとおしいんじゃ、このゴリラァァァ!!!」
「……………………………………………………」
「…あら。銀さん、お早う」
「あ、あぁ、お早う…」
「ぁら?」
「あ?」
「…今日は土方さん、お休みなの?」
「……休みじゃねーよ。今、チャリ置きに行ってる」
「そう。じゃぁ、教室でね」
「あぁ…」


ちらほらと生徒の姿の見える下駄箱。
あちこちから聞こえる朝の挨拶。
ぼんやりとそれを眺め、下駄箱から上履きを取り出し、履き替える。


「あ」
「んぁ?」
「銀さん、お早うございます」
「おー、ハヨー、新八」


この冴えない駄眼鏡は志村新八。俺のクラスメイト。
…以上。


「以上って事はないでしょ?!もっとあるでしょ、紹介文!!ってか、駄眼鏡って何スか?!!」
「ぅお?!オメー、人の思考にも突っ込み入れんなよ」
「突っ込みたくなくても突っ込みたくもなりますよ。駄眼鏡で終わらされて黙ってられませんよ」
「だって他に言いようねーだろうが」
「ぐっ、それを言われると…」
「だろ〜?」


それでもブツブツと文句を言う新八が、ふと。


「…そう言えば今日は土方さん、お休みですか?」
「…登校してるよ。今チャリ置きに行ってるよ。つか、皆して何だってんだよ…」
「皆?」
「今日、お前で3人目。それ聞かれるの」
「そうなんですか?…クス、でも、そうですね」
「?何だよ」
「何か単体で居られると不思議な感じします。いつも一緒に居る気がしますから。何だかんだで仲良いですよね」
「…そう、見えるか?」
「え?」
「いいや、何でもね。つか、野郎同士で仲良いもねーだろ。…ただの幼馴染だよ。腐れ縁」


新八達には、いつもの俺達に見えるのだろうか。
やっぱり俺の気のせいなのだろうか。
…いつ頃からだろう。トシの様子が少し変わった気がする。
何処が、って明確な事が解った訳じゃないけど。
でも何故だか、ここ最近俺は違和感に苛まれていた。
何かがいつもと違う。何処かがいつもと違う。
……あぁ、そうだ。

(あの日、以降だな…)

トシが休日の早朝に、皮ずる剥けるくらい素振りした、あの日以降。
何だか、何処だか、トシの様子がおかしい気がする。
どうかしたのか聞いても。「何が?」と言われるだけだし。
…俺の気のせいなのか?


「お、金時。お早うぜよ」
「銀時だっつってんだろーが。辰馬、テメーいつまでこのやり取りやらすつもりだ。終いにゃ、そのモジャモジャ毟るぞ」
「あっはっは〜。手厳しいちや」
「…?…おい、銀時」
「あ?何だよ、高杉」
「お前…今日は一人か?」
「まっことちや。土方はお休みなが?」
「……ちげーよ。チャリ置きに行ってるよ」


ドサっと机に鞄を置き、俺は辰馬と高杉に手招きをする。


「…?何だよ」
「良いから。ちょっと耳貸せ」
「何ちや?」


首を傾げながら、2人が俺に顔を近づける。


「…俺とさ、トシってさ」
「?何だよ」
「……んな一緒に居るイメージ、ある?」
「…………………………………………………」
「…………………………………………………」


俺が至極真剣に聞くと。
辰馬と高杉は顔を見合わせて。


「イメージちゅうか」
「2つで1匹だよな」


2人の言葉に、撃沈。


「つか、1匹って何だよ、1匹って」
「つうか、銀」
「んぁ?」
「顔、赤いぜよ?」
「しかもニヤけてて気持ち悪ぃぞ」
「う、うるさいよ、高杉!!てか、マジでか?!か、鏡!鏡持ってねェか?!」
「んなモン、持ってる訳ねーだろ」
「ワシも持っちゃーせん」


マジか?!
つか、嬉しいとかじゃねェからな!!
な、何か、その、俺的には、んな一緒に居る気がしなかったから、人にそう言われて、照れくさいつうか…!!
あぁ、そんなイメージ?的なね…!


「…お」
「…?」


顔を手で覆ってたら、微かな高杉の声。
…?何だ、と顔を上げたら。


「!」
「…?どうしたんだよ、銀時」
「…っ、ととととトシ?!」


いつの間に来たのか。トシの姿。
ヤベっ…!


「ん?お前、顔赤いけど、熱でもあんのか?」
「ぇあ?!べべべべべ別に、んな事ねェよ?!きょ、今日暑ぃからな!そのせいじゃね?!」
「?暑いか」
「うん!暑い!そうそう!真夏並み?!」
「ぷくくく…」
「晋助、笑ったら悪いぜよ。…くくくく」
「テメーだって笑ってんじゃねーかよ、くくくく」


焦って答える俺の横で笑ってる辰馬と高杉を睨みつけて。
…教室に担任が来て。今朝の話はお終い。
あ〜…ヤバかった。
まだ微かに熱い頬を忘れるかのように、窓の外を見る。
春の初めの、麗らかな日差し。
1時限目何だっけ?数学だっけか?あ〜、ぜってー眠くなりそう。
そんな事をツラツラと考えてたら、ホームルームもあっと言う間に過ぎて。
すぐに1時限目。
俺の覚えてた通り1時限目は数学で。
窓から差し込む暖かな日差しに、ふわっと欠伸をしたら。
ふと、眼に入った。
前の席。トシの頭。
こっくりこっくり。

(珍しいな、トシが居眠りするなんて)

時折ガクっと船を漕いで。
諦めたのか、いよいよ寝る体制になってしまった。

(…本当、珍しい)

珍しいトシの居眠り。
…眠れないのだろうか。
トシだって人間だ。居眠りの1つや2つするだろう。
そう思うのに。ふと思った。
夜、眠れてないんじゃないだろうかと言う考え。
確証もないのに。
でも俺は。俺がそれが正解なんじゃないかと確信していた。



「トーシー。トーシトシ、トーシ」
「…ん…」


…あれから。
結局昼休みになるまでトシは眠り続けた。
途中、先生にバレやしないかとドキドキしたが。
不思議と見つかる事はなかった。
寝かせたいのは山々だが、昼飯を食わないで放課後まで、と言うのは流石に辛いだろうと。
俺はトシを起こす事にした。
トントンっと机を叩いて、トシを呼ぶ。


「いつまで寝てんだよ。もう昼休みだぞ」
「…ん…おぉ、そっか」


寝惚け眼でトシがむっくりと起き上がる。
…やっぱ夜眠れてねェんだな。
何思い悩んでんだか知んねーけど、んな深刻んなってんなら一言相談くれェしてくれたって…。


「なぁ、トシ。お前、もしかして夜………ぶはっ!」
「?んだよ」
「あははは!と、トシ!何それ!!」
「あぁ?何だよ。人の顔見て、何笑って…」
「デコ!何か、ここ、赤く…」
「…っ!」

ガタ…!

赤くなったトシのデコ。
そこに触れようと伸ばした指先。
刹那。


「あ、赤く…?」
「……………………………………………………」


トシがまるで俺の指先を避けるかのように、腰を浮かせた。
…否、まるで、じゃない。明らかに。
避けた。俺の指先を。俺に…触れられるのを。


「…なってるぜ、デコ」
「あ、あぁ。ずっと、伏せてたから、か…」


しまった、って顔。一瞬だけした。


「大分赤いか…?」


悟られないように、すぐ、『いつもの』顔に戻したけど。


「わははは、大丈夫だよ。んなの飯食ってる間に消えちまうよ。デコ赤くなってる以外はいつもの男前さ。…さ〜、飯飯」


俺がお前の表情、見逃す訳、ないじゃん。


「お、おぉ…」


『今の反応、何?』なんて聞けない。
だってもし。もしかしたら。
一番嫌な予想が頭を過ぎる。
どっくんどっくんと心臓が大きく脈打つ。
それなのに。身体は震えが来るほど、寒気を感じてる。
否、でも、まさか。
予想しては打ち消し。否定する。
震えそうになる手を、無理やり、抑え込んで。
違う。だって絶対悟られないようにして来た。
今までも。これからも。

『トシ、気づいてないよな…?』

言いたい言葉と共に。
俺は飯を飲み込む。
…もしかしたら。トシが俺の気持ちに気付いたのかも知れない。
……いつからだろう。こんな、臆病になったのは。
距離だけが。広がる、広がり続ける。
『幼馴染で、ただの腐れ縁』
それが俺とトシの絆。唯一無二で、…ただそれだけ。


・END・
2010/05/01UP