ふと感じる違和感。そして馳せる思い。
考える事は、思い浮かぶ顔は。
           お前の事ばかり。

告白 × 違和感 × 兆し



「好きです。私とお付き合いして下さいでございまする」
「…悪ぃ」


告げられた言葉に返事をすると沈黙が訪れた。
呼び出されて何となく予想していたが、いつになってもこの瞬間は居心地が悪い。
恋愛に関して興味がない訳じゃない。
俺だって健全な高校生だ。
女の子に興味がない訳じゃない。
だけど誰かと付き合いたいと思わないのだ。
それをするには自分には時間も気持ちもないのだから。


「私の事…嫌いでございまするか?」
「…嫌…そう言う訳じゃねェけど」


いつもなら。
そう、いつもならそれで終わる告白タイムが今日は終わらなかった。
思いもよらない言葉に戸惑いながら返事をすると…。


「それでは他に好きな方がいらっしゃるのでございまするか?」
「嫌…だから…」


アンタの事よく知らねェし。
小声で返した言葉に。
彼女はしばし口を噤んで。
それから。キっと彼女は俺を見た。


「それでございましたら…」


そして、とんでもない言葉を俺に投げつけた。


「私の事を知って下さいでございまする!」
「…は?」
「私にチャンスを下さいでございまする!」
「い、嫌…だから…」
「試しに…今日、少しだけ私とお付き合いでございまする!」
「は…はぁぁぁぁ?」


突然紡がれた提案。
んなモン、丁重にお断りするのが常、なんだけども…。


「私、松平くり子と申しますでございまする」
「…松平?………げ」


その女の後ろで、今にも俺を殺しそうな勢いで睨みつける、教師。
松平…そう言う事か…。
俺を今にも殺しそうな勢いで睨む男はこの学校の教師、松平片栗虎…。
……そうか。片栗虎のおっさんが溺愛してるって娘はコイツか。
つうか似てねェな、おい…。


      ん?)


何だ?
紙見せて来たぞ?あぁ?何か書いてあんぞ?
えぇっと…何々?


『栗子を泣かせたら殺すぞ』……?


…おいおい、お前何構えてんの?
いっぱしの教師が生徒に銃器向けますか。
つうか、銃刀法違反とか、ムシか。ガン無視か。
…ハァァァァァァァ。


「…わーった。但し、今日だけ、な」
「ほ、本当でございまするか?!」
「あぁ…男に二言はねェよ…」


頭を抱えつつ、俺はコイツに言ってやりたい。
「後ろを見ろ」ってな。







「あ?何だって?」
「だから…先帰ってろって」
「何でぇ?!約束したじゃんか、今日遊び行こうって!」
「だから、用事が出来ちまったんだって!!」
「用事?何か用事あったのか?」
「い、嫌…その…」


何と言えば良いのか、俺が言いよどんで居たら。


「土方様〜お待たせしましたでございまするぅ〜」


背後から掛けられた声。
ダラっと。
汗とも冷や汗ともつかない汗が俺の額、頬、背中に一気に吹き出た。


「…………………ふぅ〜〜〜〜〜〜〜ん」
「や、銀時。違うんだ。これはだな、その…」
「そっかぁ〜。彼女とのデートね〜。てか、トシいつの間に彼女なんか作ったんだよ?俺には一言も言ってくれなかったな〜?」
「ち、違うんだ、銀時!これには訳が……」
「………………帰る」
「……は?」
「じゃぁね、色男さん」


銀時はそう静かに呟いて、踵を返し、さっさと校門へ向かってしまう。
…ヤバい。あれは相当怒ってる。
そりゃそうだよな。先約反故して女と遊びに行こうってんだもんな。


「土方様?どうしたのでございまするか?」
「…ぃや、何でもねェ…」


まぁ良い。
これに付き合って、やっぱ付き合えねェってきっぱり断って。
帰りに銀時ん家行こう。
土産の1つでも持って行きゃぁ曲がったヘソもすぐに直んだろ。
…はぁ。何だこの四面楚歌。
俺、何か悪い事でもしたか?何かの罰か、こりゃ。


「はぁ…じゃぁ、行くか」
「はい!でございまする」


俺はカラカラと自転車を引き、松平と歩き始めた。
途中、コイツ乗せたら早いんじゃねェか?と思わないでもなかったが。


「…………………………………」


どうにも乗せる気になれなかった。
それがどうしてなのか自分でも解らなかったけど。
もしかしたら乗せてコケて。怪我でもさせたら、片栗虎のおっさんに殺されそうって思ってるのかも知れねェな。


「…あ」
「…あ?」
「土方様、ソフトクリームが売ってるでございまする」
「…あぁ」


松平が指差した店は銀時お気に入りのソフトクリーム屋。
前にすっげー美味いってんで、付き合わされた。
ったく。俺は甘いモン得意じゃねェってのに。


「買うなら買いに行けば?俺はここで待ってるから」
「土方様はお食べにならないでございまするか?」
「あぁ…俺ぁ甘いモン苦手だからな」
「そうでございまするか」
「俺は気にせず、お前は食えよ」
「じゃぁ…失礼させて頂くでございまする。……スミマセン、ソフトクリーム1つ下さいでございまする」


…銀時なら。
こんな時、んな事聞かないでさっさとテメーの分だけ買って食べたな。
そんで…。


『ほい、トシ』
『あぁ?』
『ぜってー美味いって。甘味に関する俺の舌は天才的。騙されたと思って1口食ってみ?』


…そうそう。
要らねェつってんのに、俺に1口勧めるんだよな。
俺は甘いモン苦手だつってんのに。


「…あ!」
「な、何だよ…?」


なんて思い出していたら、俺の隣で松平が小さく声を上げた。
俺はビクっと驚いてそちらを見ると、松平は感動したように。


「ここにソフトクリーム、とても美味しいでございまする…!」
「…あぁ」


自他共に認める、甘味大王の御墨付きだからな。


「だけど、ここのは…」
「…?」
「美味いんだけど、溶け易いんだよ。…ほら、端んトコ、溶けて垂れてんぞ」
「あぁ…!」
「ほら、ティッシュ」
「あ、有難うでございまする…」


あぁ、そうだった。
これも銀時に教えてもらった事だったな。


『でもさぁ〜』
『?何だよ』
『ここの。すっげー美味いんだけど』
『あ…?美味いならそれに越した事ねーだろうが』
『溶け易いのが難点なんだよな…って言ってる側から垂れってっし…!トシ、ティッシュ持ってねー?ティッシュ!』
『はぁ?んなモン持ってる訳ねーだろうが!うわ、銀時、手手…!すっげー事になってんぞ…!!』
『持ってねーの?!ぅわ、トシ身だしなみ失格!』
『そう言うお前だって持ってねェだろうが!あぁ、もう良い!俺の手拭いで拭いちまえ…!』
『おぉ、トシ、サンキュー!』
『ったく…解ってんならさっさと食え』
『ん〜でもゆっくり味わいたいし』
『そりゃ解るけど…。…また垂れて来てんぞ』
『ぁわわわ…!』
『んなに好きならまた来れば良いじゃねェか。んな遠くでもねェし、自転車で行けばすぐだろ?』
『……………………………………』
『な、何だよ…?』
『へへ、何でもな〜い。んじゃ、そん時はティッシュ必須な、トシ』
『俺がかよ?!テメーで用意しろよ』
『やーだよ。めんどくせェ』
『お前なぁ…はぁ、ったく、しょうがねェな』


…それから何故かティッシュを常に携帯してる俺って一体。


「土方様?」
「…ぁ」


思わず回想に思いを馳せていた俺を、小さな声と大きな瞳が呼び戻す。
…やべェやべェ。
それから。
何処行くでもなし、こいつが見つけた店とかに寄って。
ようやく夜の帳が下りて来る。
…長かった…。


「……ここで大丈夫でございまする」
「そう、か…」


その言葉に。
何処かホっとしてる自分に気づいた。
…つくづく無理は出来ねェ性質みてェだな。


「ぁ、のよ…それで…」
「はい。…解ってるでございまする」
「は…?」
「本当は。土方様は誰かとお付き合いする予定がない事も」
「は?あ?あぁ、ぅん?」
「…ごめんなさいでございまする」


ペコリと頭を下げられて。
俺ははっきり言って、現状把握に必死だった。
ど、どう言う事だ??


「…思い出が欲しかったでございまする」
「…思い出…」
「貴重な時間を下さいまして、本当に有難うございましたでございまする」


もう一度ペコリと頭を下げられて。
俺は何とも返事が出来ずに居ると。
彼女はクルリと踵を返して。
タッタッタt駅の方へと走って行ってしまった。


「……………………………………」


何とも言えない気持ちで。
ただ握っていた自転車のサドルをギュっと握った。
中高通して。
女の方が大人だっつう、何処かで聞いた事のある話を思い出して。
その時は何の事だかよく解わなかったが、今なら何となく解る気がする。
女は結構割り切った物の考え方をするもんなんだな…。


「はぁ…んじゃ俺も帰るか」


自転車を方向転換させ、家へと向かう。
陽の落ちた風は冷たくて。
…あぁ、そうだ。銀時んトコ行こうと思ってたんだ。
そう気づいて。
何だか今日は。妙に銀時との事を思い出す一日だったな。
そんな事を考えながら。
俺はペダルを漕ぐ、足を強めるのだった。



・END・
2008/04/21UP