「…おい、起きろ。…起きろって。……おい、銀時!!」
「…ん…」
うつ伏せになって寝ている、まだ夢見心地の後ろ頭に俺はそう叫ぶ。
しかし、暫くモゾモゾした後、そいつはまたスースーと寝息を立てる。
「〜っっ、おい、銀時!テメっ、俺まで遅刻させる気か!!」
バシっと強めにその後頭部を叩けば。
「〜っっ、いってェな…」
「じゃぁ、さっさと起きろ。おら、もう一発殴られてェか?」
「ん〜…起きるよ。起きますよ。…ったくよぉ、オメーはもうちっと優しく起こせっての…」
むっくりと後頭部を抑えながら起きる。
「じゃぁ、テメーで起きられるようになるんだな。…ほら、制服。とっとと着替えねェと、遅刻だぞ」
「げ、もうこんな時間?!何でもっと早く起こさねェんだよ!!」
「起きねェテメェが悪いんだろうが?!俺は30分前から起こしてるっつうの!」
そう叫びながら、銀時はバサバサと寝巻きを脱いで着替える。
俺はいつも通り、奴の机から今日授業に使う教科書を詰める。
「…ったく、毎朝毎朝。俺ぁテメーのお母さんじゃねェつうの」
…俺、土方十四郎。
銀魂学園に通う、高校2年生だ。
「しょうがねェじゃん。ほら、俺って低血圧だから」
「じゃぁ、夜もっと早く寝る努力をしやがれ!」
「考えとく〜」
そしてこの寝坊助は、坂田銀時と言う。
俗に言う、幼馴染って奴だ。
俺とコイツの出会いは、在り来たりなもの。
親の転勤で俺の隣に引っ越して来た、坂田家。
つっても、コイツの母親はコイツを産んですぐに亡くなってしまっていて、来たのはコイツとコイツの親父。
「坂田です。今日隣に引っ越して来ました。宜しくお願い致します」
引越しの挨拶に来たコイツの親父。
コイツは親父の後ろに隠れて、チラチラとこちらを伺っていた。
後になって解った事なんだが、コイツは自分の容姿にコンプレックスがあるらしい。
そりゃぁそうだろう。
コイツの髪は特徴がある。
クルクルの天然パーマに、色は白髪…つうより銀髪だな。
光に当たるとキラキラしてとても綺麗だ。
だけど初対面の人には異様な目で見られるらしく、いつもそれに気にしている。
…まぁ、高校生になった今はそうでもねェみたいだけど。
「息子の銀時です。…ほら、銀時。挨拶しろ」
「…ぁ、ぅ、…」
父親に紹介され、ズイっと前に押し出された時のアイツの顔。
それは少し怯えているようにも見えた。
「あら、可愛い。銀時君、幾つ?」
屈んで銀時に視線を合わせながら、俺の母親が聞いた。
それにビクリと身体を強張らせながら、銀時は。
「…3歳」
小さな手を3本立てて。
銀時は小さく答えた。
「あら。じゃぁ、トシと一緒ね。銀時君、ウチの子、十四郎って言うの。宜しくね?」
「…………………………」
「…………………………」
そう言われて。
俺も母親にズイっと銀時の前に立たせられる。
「……………………………」
「……………………………」
暫くお互いを凝視してから。
「……お前」
「……何」
徐に口を開いて、スっと俺は手を伸ばした。
「…………す、っげー」
「な、何だよ!」
伸ばした先は、コイツの髪。
触れた指先に俺は、今でも思う。
「お前の髪、すっげー柔らかいし、綺麗だな。宝石みてー」
「…っっ…!」
その時の銀時の顔、多分一生忘れねェだろうな。
「…おっし、用意出来た!」
俺が昔の事を思い出していたら。
銀時はとっとと支度を終えていて。
今度は俺が慌てて教科書などを銀時の鞄に詰める。
「トシ、いつでも出れるぜ」
「…OK。これ、鞄。それと朝食な」
「おっ、サンキュー。頂きまっす!」
俺は詰め終わった鞄を銀時に渡して。
今朝方俺の母親に渡されたトーストを銀時に差し出す。
銀時はそのまま俺の手からパクリと口に咥え、鞄を肩に掛ける。
「…しっかし。いつまで続くなだろうなぁ、テメーとの腐れ縁」
「ふぉれふぁふぉふぃのへりふ」
パンを口に咥えたまま、しゃべる銀時。
本来なら何を言ってるか解んねェはずが。
付き合いが長いからなのか、はっきり解ってしまう。
今のは「それはこっちの台詞」だ。
「……はぁ」
「ゴックン。…ぁ、何その溜息。大体トシの頭ならもっと良いトコ行けただろうがー。銀魂高校選んだのトシじゃん」
「そうだけどよぉ…」
元々高校は別になる予定だった。
コイツの成績は中の下、まぁあんま悪くねェ程度。
俺はと言うと、先生に「部活ばかりで勉強が全然出来ない」と言われるのが嫌で、勉強は上の中。
…因みに俺と銀時は同じ部活、剣道部に所属していた。
近くにあった剣道道場に、幼少の頃から2人で通ってた。
話は逸れたが、だから高校はお互い別になる予定だったんだ。
それが偶然、俺が高校の剣道大会で、惚れ込んだ人が居て。
最後の剣道、その人とやりたいって思ったって。
それが銀魂学園…銀時が受験する予定の高校だったって訳だ。
「俺は嬉しいけどなぁ、トシと一緒」
「…ぇ…」
その言葉にドキっとする。
「だってトシに高校送ってもらえるし」
「…んなこったろうと思ったよ」
自転車通学の俺に便乗している銀時。
こんな奴だって解ってた…解ってたじゃねェか、十四郎!!
「ほれ、早く行かねェと遅刻すっぞ」
「テメェを待ってたんだろうが!!」
「はいはい、待っててくれて、有難うな。トシ」
「〜っっ、頭を撫でるな、頭を!!」
「いーよな、トシの髪。真っ黒の直毛。俺と正反対」
「俺の話を聞け!!」
「いーじゃん、減るもんじゃねェし。それより先に俺の髪触ったのトシじゃん」
「あぁ?あれは触ったつうより叩い……」
「今日の話じゃなくて。…覚えてねェ?」
急いで銀時の部屋を出て、家の外へ。
隣の家の…まぁ、俺ん家だが、そこから自転車を出す。
「………………………………」
自転車を引いて。
いつもならすぐに跨る俺だが、銀時から紡がれた言葉に思わず動きを止め、銀時を凝視してしまう。
まさか…否、でも…?
「まぁ、昔の話だしね。…ほら、行こうぜ」
苦笑いをしてから、銀時がそう促して来た。
俺は「お、おぉ…」と短く返事をして、自転車に跨る。
そしてそれに続いて、銀時が後ろに立ち乗りをして。
肩に掛かった、微かな温もりと重み。
俺はそれを感じて、自転車を発進させる。
「…覚えてるぜ」
「あぁ?何?」
良いスピードが出て。
風を感じる。
俺はその風に消えてしまうくらいの小さな声で、呟いた。
「何?何つったの??」
「…覚えてるつったんだよ!」
俺がそう叫ぶと。
銀時は驚いた気配を見せた。
俺はそれに気づかないまま、自転車を走らせる。
坂を下りて、スピードが乗る。
始業の開始のチャイムまで。
後5分。
・END・
2007/11/18UP