「たぁ〜つまぁ!もういっけんんん〜……」
「何ゆうちょるんじゃ!こればあベロベロに酔っ払って、はや1軒もないじゃろうが。とっとと家にいぬるぞ」
「えぇ〜…これからなのに〜…」
「明日は卒業式じゃろうが。ほがなベロベロになったら、明日は絶対二日酔いじゃよ」
「そっつぎょうしきがなんぼのもんじゃぁ〜いぃぃ!!!」
「だぁぁぁ!!はや夜も遅いから、ほがな大きな声出しちゃダメちや」
「ひよっこが何を卒業するってんですかぁ〜…」
「おんし…もけんどて淋しいかえ?」
「淋しかないですよぉ〜手の掛かる奴等が居なくなるってんで、清々してますぅ〜…」
ヨロヨロと、正に千鳥足で歩く銀八に、辰馬が寄り添い肩を貸す。
それに然して抵抗もなく寄り掛かり、銀八は叫び続ける。
「淋しかぁないってんですよぉ〜…このヤロー……」
紡がれる言葉は心なしか弱い。
そんな銀八に辰馬は苦笑しつつ、歩を進める。
長い付き合いだ、銀八の今の気持ちも何も、解りきっている。
…そしてその想いも。
「ったく、しょうがない奴じゃな。…ほら、そろそろおんしんくに着くぞ。しっかと歩きーや」
「ん、ん〜…辰馬ぁ?」
「何ちや?」
「…ほんっと、俺年取ったよなぁ…」
「…ほりゃあおんしより年上のわしに対する嫌味か」
「だってよぉ〜…この間入学して来て、んでよぉ、うっるせェガキ共だと思ってたのによぉ、いつの間にか俺の背ぇ越して…卒業でぇ…」
銀八のマンションの前に着く。
「おんし、鍵は?」
「はぃぃぃ〜…」
「ったく、酔い過ぎちや」
「酔ってねェェェ〜…」
「充分酔っちゅうよ」
「んんん〜……」
ガチャリと渡された鍵を鍵穴に差し込み、ドアを開く。
「ほれ、おんしんくに着だいちゅうよ!」
「あ〜あんがとぉ、辰馬ぁ〜…」
「ったく…げにまっことしょうのない奴じゃ!」
ドサっと銀八をベットに横たえる。
銀八はヒラヒラと手を振って、ヘラヘラと笑っている。
「…辛いんか?」
「…どーだろ…」
「お別れやろが」
「…うん。…うん、そーだよなぁ…明日…ぁ、もう今日か。これ終えちまったら、もうあいつとは会えなくて。…教室行っても会えねェんだよなぁ…」
いつの間にか笑みも消え、銀八はポツポツと語る。
ヒラヒラと振っていた手を目蓋の上に持って来て。
「…正直、実感沸かねェんだよ。これでお別れとか会えないとか…毎日が当たり前過ぎて…当然過ぎて…解んねェー…」
「…銀八…」
「もう…『多串君』って呼んでも、『土方だ!』って突っ込みも、不意に見せる笑顔とか…そう言うのもぅ見れねェなんて……解んねェよ…解りたくねェよ…」
「…告白、してみたらどうなが?」
サラリと、辰馬が銀八の髪を撫でる。
流れたそれは、微かに銀八の瞳を覗かせて。
ジっと睨むように銀八が辰馬を捕らえる。
「…馬鹿言うな。男の教師の俺が生徒に…同性生徒に告白して何が生まれるってんだよ」
「解らんよ?もけんどたら上手く行くかも知れん」
「馬鹿、阿保、脳足りん。上手く行く訳ねェだろうが。もうちっとは真面目に話し聞け。このスカポンタン」
「えずい言われようやか〜…」
「真面目に聞かねェからだよ」
ゴロリと銀八は寝返りを打って。
辰馬に背を向ける。
「…後悔せんの?」
「……しねェよ」
「嘘はいけんぜよ」
「っっ、嘘じゃねェっ!だって…だってどうしようもねェだろうが!相手は生徒で、しかも男で!!俺なんか…俺なんか男で…先生で…おっさんで……」
ガバっと横になっていた身体を起き上がらせ、銀八が叫ぶ。
そこには微かに涙が浮かんでいて…。
「…言わなきゃ、卒業後も遊びに来てくれるかも…知れない」
「おんしはげにまっことそれでエェんか?」
「………………………」
「おんしがそれで後悔せんなら、わしは止めんよ。でも、それでおんしがほき後悔するがじゃったら、わしは断然応援するぜよ!」
「……振られんのが目に見えてても?」
「やってみん事には結果はわからんちや」
「……………………………」
きっぱりと言い放つ辰馬に。
銀八は暫し黙り込んで。
「で?おんしはどうするが?」
「……寝る」
「はぁぁぁ?!おんし、わしの話聞いちょったのか?!」
「うっさい辰馬。もう寝る。お前も帰れ」
「…げにまっことおんしは解らん奴じゃ」
「…………………………」
「おんしの気の済むようにしたらしょうえい。わしは応援するき。…お休み、銀八」
「…………………………」
よいしょ、と辰馬は立ち上がり、玄関へと向かう。
銀八は再びベットに寝転び、辰馬に背を向ける。
「…辰馬」
「んぁ?」
「……さんきゅ」
小さく呟かれた銀八の台詞に。
辰馬は歩みを止めて、振り向く。
そして。
「なんちゅう事ぁないき。…頑張りーや」
フっと笑って。
バタンっと部屋を出た。
「…全く。難儀な奴ぜよ」
辰馬が呟いた言葉は。
夜の闇へと消えて行った。
…夜はまだ、明けない。
・END・
2006/07/16UP