『…もしもし?』
何度か鳴った携帯コール音。
近藤はそれを手に取って画面に表示された名前にフっと笑みを零す。
「…トシか?」
『…あぁ、うん。……ごめん、寝てたか?』
「ぃや…ベットには入ってるんだがな。明日の事考えると、なかなか…な」
『…俺も』
言葉短くそう答えると、お互い黙ってしまう。
『俺…さ、近藤さん』
「…ん?」
『…ずっと…『大人』になりたかったんだ』
「…大人に?」
『あぁ…でも、さ』
「あぁ…」
『…大人になる、イコール、『卒業』には結びつかなかったんだ』
「そうか…」
『…だから。…だからこれで…明日を迎えて、それが終わったら…アイツと…銀八とお別れ、だなんて思ってもみなかった…』
『………………………』
そう呟いたきり、土方は黙ってしまった。
受話器から。
彼の息遣いだけが聞こえて来る。
近藤は、ただ土方から紡がれる言葉に静かに耳を傾けた。
『…なぁ』
「ん?」
『『卒業』って…何卒業すんだろーな』
「…何だろうな。トシは…何からだと思う?」
『…解んね。解んねェけど…こうやって、俺達は出会いと別れを繰り返して行くんだなって思う…』
時期が来れば『卒業』と言う名のステップを踏む。
誰かと別れ、誰かとまた出会う。
『卒業』と言う中で。
付き合っていく者、それっきりの者。
それは選別される。
自分の意志だったり、自分の意志外で。
自分達は『卒業』するのだから。
ではそれは何から?
自分は何を得、何から『卒業』するのだろう。
…まだこんなにも迷っていると言うのに。
心は揺れ、未練を持っていると言うのに。
別れたくない。『卒業』などしたくないと思っているのに。
「…トシ」
『ん?』
「告白…しないのか?」
3年間。
ずっと静かに想い続けて来た。
誰に明かすでもなく。
ただただ、見つめて。
恋焦がれて来た。
それに気づいたのは近藤だった。
近藤だけだった。
ふと気づくと。
土方の視線の先にはいつも銀八が居て。
フっと。
あぁ、トシは今恋しているんだな、と近藤は思った。
相手が男、しかも担任教師だと言うのに。
少しの嫌悪感、違和感も覚えずに。
ただ、淡白な土方が。
誰かを想う事を、密かに祝福した。
『…して…どうなるってモンでもねェだろ…』
『…トシ…』
『教え子の…しかも男だぜ?告白したって結果見えてるモンじゃねェか。玉砕覚悟で、なんてそんな芸当俺ぁ出来ねェよ』
「玉砕とは…決まってないんじゃねェか?」
『おいおい、近藤さん。アンタ、志村姉に頭殴られ過ぎたんじゃねェのか?玉砕以外、道があるかってんだ』
受話器の向こうで、シュボっと音がした。
「トシ、お前卒業間近に、煙草で退学喰らいたいのか?」
『んなヘマしねェよ』
「今…家なのか?」
『いいや、外。…どーも家に居ると辛気臭ェ考えしか浮かばなくてな。…ちょっと気分転換』
「しょうがねェ奴だな。…見つかんなよ」
『見つかんねェよ』
「その自信が何処から来るのかさっぱり解らん」
『近藤さんに言われたかねェなぁ』
微かに笑って。
また沈黙が訪れる。
「トシ」
『何だよ』
「俺はお前の心に任せるよ」
『は?』
「告白するにせよしないにせよ。…後悔だけはすんよ」
静かに。
力強く呟かれた言葉に。
土方はそっと笑って。
『…サンキュ』
小さく呟かれた言葉に。
近藤は静かに受話器を切った。
手の平の中には。
畳まれた携帯が、微かな光を放っていた。
時刻は静かに頂点へと差し掛かろうとしていた。
・END・
2006/07/15UP