期末テストの期間は生徒より先生の方が忙しい。
生徒はテストを受ける前に試験勉強やら何やらで忙しいだろうけど。
俺達先生だって、やれ、試験作りだの、やれ、採点だの、やれ、どの生徒がどの科目のどれが苦手だの。
集計して、確認して。
本当…本っ当に!大変なんだってば!!



「銀八」
「あぁ?!今採点で忙しいんだって!」
「…解ってっけどよぉ」
「お前もさぁ、ようやく試験から解放されたんだからさ、友達と遊んで来いよ」
「そう、だけど…」



休日。
ようやく試験から解放された土方が家に遊びに来てる。
久々の恋人の逢瀬。
そりゃ楽しみたいよ。
楽しみたいけどね!



「あぁ、明日あのクラスとこのクラス授業あんじゃん!終わるかよ、採点!!」



試験明けの次の授業に試験を返し、その時間違いの多かった問題を教えたい。
だから俺はなるべく早く採点を終え、生徒に返すようにしている。
そんなお陰で今、俺は休日返上でテストの採点をしている訳だが。



「…銀八」
「あぁ、もう、何?!!」
「手伝おうか?」
「駄目に決まってんだろうが!!」
「だって、すっげェ大変そうじゃん!!」
「そうだけど!確かに大変だけどね?!それは俺の仕事なんだから!お前もう、良いからどっか遊んで来い、な?」
「だって、お前すっげェ顔色悪いぜ?!」
「あ〜…昨日半徹夜だからな…」
「…お前がそんな仕事熱心だとは知らなかった」
「失礼な。…まっ、試験とか、そう言う時くらいはちゃんと働かないとな。本当に給料泥になっちゃうから」



試験から解放された恋人は。
誰と遊ぶでもなく、何で特に相手も出来ない俺んトコなんか来たんだか…。



「それは良いけど!…根詰めすぎだって!少し仮眠しろって!な?!」
「駄目駄目!明日にはコレ返さなきゃいけないんだから、この分だけでも採点終わらせなきゃ!!」
「こんなに?!」
「…こんなに」



ドサリと机に置かれたテストの山。
…2クラス分あんだからしょうがねェじゃねェか…。



「急いでやるのも良いけど、寝不足の頭でやったって効率悪ィって!マジで顔色悪いから仮眠しろ!起こしてやるから!!」
「解った!1クラス分終わったら寝るから!な?!」
「駄目だ!今寝ろ、すぐ寝ろ!!ぶっ倒れてからじゃ遅いんだから!!」
「解ったから!!!」



土方から背を向けて、カリカリとペンを走らせる。
あぁ、これ終わったら、このクラスの平均点出して、んでアレもやってコレも…。
…終わるんかな、マジで?!!



「銀八!!!」
「…っっ…」



…あぁ、もう。
寝不足の頭に土方の声が響く。



「聞いてるのか?!心配してるんだぞ、俺は!!!」
「………っさいなぁ……」
「あぁ?!」



やる事は山積み。
アレもコレもやんなきゃ。
なのに。
後ろでゴチャゴチャ土方が煩い。



「…ぅっさいつったの!俺は大人だから、自己管理くらい自分で出来るの!後ろでごちゃごちゃ言うな!仕事の邪魔だ!!」
「…っ!!」
「…ぁ…」



イライラして。
いつもはかわせる、軽口が利けない。
怒鳴ってしまって思わず口を押さえる。
…心配してくれてるって。
解ってる。
解ってるのに。



「…ごめん」
「……………心配なんだ。マジで」



……土方の言う通りかも。
全然余裕ねェな、俺。



「…ぅん。解ってる…解ってる……」



そう言えば、試験終わって帰って来てからまともに飯も食ってねェ。
早く採点終わらせれば。
早く色んな事が出来る。
そうすれば。
…こいつと居れる時間が増える。
そんな事思って。
いつもは削らない睡眠時間や食事の時間を削ってる。
それなのに。
肝心のコイツに心配掛けてる。
―――――――傷つけてる。



「…………銀八?」



俺はスクっと立ち上がると寝室へ向かう。
驚いた顔をしている土方を置き去りにして、俺は寝室から枕を持って部屋に戻る。



「銀八?」
「座れ」
「へ?」
「そこ。ソファーに座れ」
「へ?こ、こうか…?」



土方が座ったのを確認して。
ボスっと。
土方の膝に枕を置く。



「…寝る」
「お、おい!寝るのは良いけど、そこでかよ!!」
「悪ぃかよ。男の固い膝枕じゃ痛いから、枕持参」
「…悪かったな、固くて」
「悪いとは言ってないじゃん」
「………………………」



サラリと土方が俺の髪を撫でる。
…あ、気持ち良いかも、それ。



「…ごめんな。八つ当たりして」
「…それは…別に、良いけど、よ」
「………ごめん……」
「良いってば。…でも。マジで、んな根詰めるなよ。身体の方が大事、だろ?」
「そだね。…これじゃぁどっちが先生か解んねェな」
「授業中以外は『恋人』だろ?」
「…ん」



土方の細くて…でもしっかりとした指が何度も俺の髪を撫でる。
それが心地よくて。
俺は静かに目を閉じた。



「…寝たのか?銀八…」
「……寝た」
「本当に寝た奴は口利かねェよ」



そう言って。
土方は俺の眼鏡を取って。



「…お休み、銀八」



そう言って、目蓋に優しくキスしてくれた。
そんな優しさが、棘だった気持ちを丸くしてくれる。
八つ当たりして、ごめんな。
…お休み、トシ。





・END・
2006/07/14UP