それを聞いた時耳を疑った。



「え…?」



聞き慣れた名前と信じられない会話の内容に、俺は思わず立ち止まり振り返って聞き耳を立てる。



「嘘っ?!」
「本当だってば。アタシ聞いちゃったんだもん。ほら、クラスメイトの近藤って人に話してるの」
「でも全然噂になってないよねぇ?」
「うん…何かあんまり人に言いたくないみたい」
「…家庭の事情、とか?」
「かなぁ?」
「…そっかぁ」
「どうする?告白…する?」
「う〜ん…でも玉砕確実だよ?」
「うん…でもしないで後悔するより良いんじゃない?」
「…そう、だね。ぅん。…あ〜でもショック」
「ショック〜…突然過ぎよぉ…」


「…土方さんが…」


遠ざかる声を聞きながら。
俺の足は準備室に向かう。
ガラリと戸を開けて。
ガランとした準備室に入って。
パタンと戸を閉めた途端に足がガクンとなった。
後ろにあったドアが俺の身体に当たりガタガタと鳴る。
何だ…?足に力が入らない。
ほら、いつも通り立たなきゃ。
いつも通り…?
俺っていつもどんな感じだった…?
目の前がぼやける。輪郭がぼやけて、瞬きの数が増えて、鼻が詰まる。
…あぁ、もしかして今俺泣いてる?



「引っ越し…」



先程の会話が頭に甦る。
土方が?
引っ越し?
いつ?



「って言うか…」



俺、聞かされてねェ…。



「…何だ、よ…」



俺達一応付き合ってるんだよな…?
だってアイツから告白して来た訳だし…。
頭を過るのは…。



「もしかしてそのまま捨てられる…?」



ぼつりと呟けば、それは急に現実味を帯びて。


…意外に早かったな。


なんて思う。
そんな事を思ったら、何だか妙に冷静になって。
ゴシゴシと袖で涙を拭って。
すくっと勢い良く立ち上がる。
…そうだよ。いつか来ると思ってたんだ。
それが思ってたより早かっただけの話。
遅かれ早かれ、若いアイツは俺みたいなおっさんに飽きて。
いつか…捨てられる。
…解ってた事だ。
解ってた…。
いつか、こんな日が…来る、の…。



「先生」



ガラリと戸が開いて。
振り向くと、そこには…。



「…土、方…」
「やっぱココか。職員室に居なかったからココに来て正解だったな」
「……………」



笑顔で話す土方に、俺は背を向けて窓際に設置してある机に座る。
探してた…何で?何の用で?
もしかして…?



「何だ?用事か?」
「…何だよ。用事がなきゃ会いに来ちゃいけねェのかよ」
「…そうじゃないけど。探してるぽかったからさ」
「あぁ…実はな……」



土方から紡ぎ出される言葉に俺はゴクリと唾を飲む。



「ダメんなっちまった」
「…は?」
「デートだよ、デート。明後日の。ちょっと家の用事入っちまって」
「え…」
「悪ぃ!この埋め合わせは必ずするから!…な?」
「あ…ぁ〜…しょうがねェな。…まっ家の用事じゃしょうがねェよ。今度パフェ奢れよ」
「あぁ。…本当ごめん。じゃ、俺ちょっと急ぐから」



…普段気にならない事が気になる。
今までドタキャンなんてした事あったっけ?
今まで…こんなあっさり去られる事、あったっけ…?
それは俺が…知ってるから?
お前が引越しする事。
…別れたがってる、って事。



「…土方!」
「…ぁ?何?」



思わず叫んでしまって。
ハっとする。言ってどうする?言ってどうなる?
…何て言う気だ?
何を言う、気だ…?



「お前…何か俺に言う事ない?」
「え?」



…情けねェ。
縋ってどうする気だよ。
あいつが別れたがったら、きっぱり別れる。
そう決めたはずだろ…。



「な、何がだよ?」
「…………」



…言えば良いじゃねェか。
引っ越すんだって?って。
言えば良いじゃねェか。
…それで俺とも終わりなの?って。



「ぎ、銀八…?」



それとも。



「………解った」



俺には。



「え?」
「…気を付けて帰れよ、土方君」



別れを告げる価値すらねェって事か…?



「あ、あぁ…」
「また『明日』な」



その『明日』も来週にはなくなるんだ。
その時は。
また『明日』なんて言わないから…。



「…バイバイ、土方君」
「あぁ、じゃぁな」






















































「んじゃ、ホームルーム終わり。気ぃつけて帰れよ〜」



それから。
日常は何もなく、過ぎた。
…妙に勘の良い、同僚の辰馬には。


「顔色悪いぜよ?」


なんて言われたけど。


「…昨日、ちと飲み過ぎた」


と答えれば。
「しょうがない奴じゃ!」と大笑いされた。
…そう。
何でもない事なんだ。
いつも通りにして居れば。
誰も気づかない。
誰も解らない。
…そして。
時が来れば忘れさせてくれる。
忘れられる。
…アイツの事も。
…この胸の痛みも。



「……………………」



ガランとした教室に。
アイツの姿は無い。
いつもは。
銀八銀八と。
煩いくらいだったのに…。
ココ2〜3日まともに顔を…会話をした記憶がない。
避けられてるの、かな?
それとも…。
…新しい彼女…出来たのかな。



「…っ…」



ズキンズキンと胸が痛む。
…今だけ。
きっと今だけだ。
こんなに痛いのも。
悲しいのも。
時間が経てば。
…全て忘れさせてくれる。
忘れられる…。



「…早く、戻らなきゃ…」



それが資料室になのか。
それとも日常になのか。
それともいつもの俺に、なのか。
…さっぱり解らない。
フラリと教壇を離れて。
誰も…アイツの居ない教室を出る。
…これもいつか、日常になる。
いつか…いつか…。



「銀八…!?」
「…っ…」



廊下を歩いていたら。
ガシっと捕まれた腕。
突然。
突然意識が現実に戻される。
この声、温もり。
近くに…まだ近くに在る、アイツの存在。



「…ひ、じ…かた…ど、した…」
「フラフラ教室出て来たと思ったら!…っ、何て顔色してんだよ!真っ青だぜ?!」



…忘れられる訳がない。
解ってる。
解ってるんだ。
若いお前は、これから。
数え切れない出逢いと。
数え切れない経験をする。
そして。
今の恋愛が。
間違いだと。
過ちだと気づく。
そしたら俺は。
お前の枷にしかならなくて。
邪魔にしかならないから。
黙って去るのが教師…大人としての正しい道。
解ってる。
全部全部…解ってる。
解ってたんだ。



「とにかく資料準備室に戻るぞ?…歩けっか?」
「…っ!」



この…優しい腕に囚われたら。
2度と戻れない。
離せない。
解ってた…解ってて。



「…っ、なせっ!!」



…俺は掴んだ…



「銀…ぱ、ち…?」



…包まれてしまった…



子供ガキが…要らねェ心配してんじゃねェよ……」
「なっ…!」



優しくなんかすんな。
…どうせ捨てるなら、もう俺に触れるな。
俺の心を掻き回すな。



「俺に…構う、な…」
「おぃっ!どう言う事だよ!!銀八っ!!!」



土方が口を開き掛けたが。
俺は何も言わずに、何も聞かず土方に背を向けて。
ただ手にしていた出席名簿をギュっと握り締めて、廊下を歩いた。
痛い…痛い痛い痛い痛い。
何処がとか何がとかそんなの解らない。
でも痛い。
…何もかもが…

















































仕事が全て終わると、俺は真っ直ぐ家に帰る。
カーテンも引かず、電気も点けず。
ただボーっとしていた。


(あ〜…飯、食わなきゃ…)


最後に飯を食ったのはいつだろう。
いつもは美味しいケーキやお菓子、甘味だって食ってない。
辛うじて、水だけは口にしているけど。
…あぁ、もぅ何だか考えるのも面倒臭い…。
考えなきゃ…動かなきゃいけないって解ってる。
俺は大人だから。
教師だから。



ガチャ、ガチャガチャ



「…んぁ?」



その時だった。
玄関から音が鳴って。
バタン、ドタドタって音が響く。
…人が来た?
否、でも俺鍵閉めたよな…?
でも…?



「…居ないのか?」
「…っ!」



カチャリと開いたドア。
そこから聞こえた声に俺は身体を強張らせる。
何で…?何でこんな時間に来るんだよ…?
明日は引っ越しだろう?
最後の最後まで、俺には教えてくれなかった…。
否。クラスの誰にも言ってなかったみてェだけど。
…せめて…俺には教えて欲しかった。
結局俺は。
お前の担任にも。
恋人にもなれなかったんだな…。



「…まだ…帰ってねェのか…」



フゥっと土方は溜め息を吐いて。
スっと動く気配がする。
もしかして…電気点けようとしてる…?



「…点けるな!!」
「ぅわっ!!…い、居たのかよ、銀八…」
「俺ん家に俺が居るのは当たり前だろ…」
「電気も点けずに何してんだよ…ほら、電気電気…」
「いーから点けるな」
「何で?…まさか電気でも止められてんじゃねェだろうな?」
「馬鹿。んな訳ねェだろうが」
「じゃぁ何で?」
「何で…って…」



お前の顔、見たくないから。
俺の顔、見られたくないから。
…そう言えれば、どれだけ楽だろう…。
でも言えない。
何で?って聞かれたら困るから。
…俺がお前の引越しの事、知ってるなんて知られたくないから…。
別れたがってる、なんて…。



「…っっ…」
「銀八?」



微かに気配が動くのを感じた。
俺は自分の腕を強く自分の身体に巻きつけて。
…まるで自分を抱き締めるかのように。
力を込めて。
強く…強く。
崩れないように。



「…近寄るな」
「え?」
「近寄るなつったんだよ」
「な、んだよ、それ…」
「今…お前の顔見たくない。だから近寄るなって言てるんだ」
「っ、んで?!何でいきなり近寄るな、なんだよ!俺ぁ何かしたか?!」
「煩いっ!!怒鳴るな!!!」
「っっ」



怒鳴りたいのは俺なんだ。
お前にとって俺って何?
何に属するんだよ?
恋人?
セフレ?
担任教師?
それとも…。



「…様子が可笑しいから…来てみりゃぁ…おぃ、どうしたんだよ」
「…どーもしない…」
「どうもしない訳ねェだろ?…何かあったなら言えよ。…俺、何かしたのか?」
「何か…」



何か?
お前がそれ、俺に聞くのか?



「っくっくっく…」
「…銀八?」
「くっく、ぁ、あっはっはっはっは…」
「何、笑ってんだよ…」
「だ、だって…っくっくっく…笑いたくもなるだろう…ぁはは」
「何が可笑しい?」
「…引っ越し…」
「…ぇ…?」
「引っ越し。…すんだって?俺が何も知らないと思った?」
「な、で…それ…」
「『何かあったら』?『何かしたか』?…くっくっく、どの口がそれ言うんだよ?」
「…………………」
「…別に良いぜ」
「え?」
「別れたいんだろ?引っ越しを機に、男の、しかもおっさん教師と、こんな危ない関係リセットしたいんだろ?」
「ち、違っ…!」
「一言俺に言えば良いんだよ。『やっぱおっさんは嫌だ。別れてくれ』ってな。そしたら…」
「…そうしたら、別れて…くれんのか?」
「………………………」



…悲観する事なんて何もない。
解りきってた事、なんだ。
解りきってた…。



「……あぁ。小便臭ェ子供ガキとお別れ出来て、こっちも清々すらぁ」
「…それ、本気で言ってんのかよ」
「………………………」
「おぃ」
「…………あぁ。冗談で…んな事言えっかよ」



こうするのが正しい道。
正しい教育者おとなの在り方なんだ。
そう…これが……。



「…冗談で…ぃぇ、る…かよ…」



縋るなんて出来ない。
だってそんな事をしたら。
優しいコイツの事。
俺を捨てるなんて出来ない。
出来ないから。



「ぉ別れ、だ…な」



正しい事をしているはずだ。
俺は教師として、大人として。
正しい事をしている。



「俺ん家の…鍵、置いて…ぃけよ…」



…なのに。
軋みだす。
頭が。胸が。心が。…全てが。
引き攣りだす、壊れてしましそうだ。
何もかもが…。



「それ、から…何で転校す、んのか…知んね…ェけど」



夢なら良いと思ってる。
けど、この軋みが、痛みが現実に戻させる。
全て現実なんだ。
……あぁ……
自分の言葉に胸が痛む。
ありもしない事を考えてしまう。



「クラスメイト、に…は、せ、めて挨拶…くらぃして、け…」



『もし』俺が同級生だったら。



「…おい」
「……………」



『もし』俺がクラスメイトだったら。



「おい」
「…何?」



『もし』俺が……『女』だったら…。



「…こっち向け」
「…っ、な、で…」
「良いからこっち向け。俺を見ろ」
「…ゃ、だ…んで、別れる野郎の顔、見、なきゃ…な、ねェんだ…よ」



縋る事が出来るだろうか、出来ただろうか。
…許されたろうか…



「………その程度か、お前の気持ちなんか」
「…………………」



その、程度
俺の気持ち、なんか∞∞



「…ざけんなよ」
「……ぁ?」
「ふざけんなよ!!その程度?俺の気持ちなんか?!お前に俺の気持ちが解ってたまるかよ!俺は大人だから、教師だから…男だから!」



掴み掛かって。
睨みつけた。
顔を見たくない、とか。
顔を見られたくない、とか。
もうそんなの頭になかった。
ただ…。
ただ、この気持ちすら否定されたようで悔しくて。
それだけは否定されたくなかった。



「…やっと、こっち見た」
「っ!」
「…泣くなよ」
「な、泣いてなんかいねェっ!!!」



スっと目元に伸ばされた指を払いのける。



「じゃぁ、目から流れてんの何だよ…」
「泣いて…ね…っ、これは…ち、が…ぅ」



涙なんかじゃない。
もしこれが、涙だってんなら。
それは捨てられんのが悲しいから泣いてんじゃない。
予想が現実のモンになって悲しいからじゃない。
…泣いてなんか…いなぃ…。



「言えば良いじゃねェか。…別れたくなんかねェって」
「ば、かぃう、な…」
「言えない…ぃゃ、言わないのは年上のプライド?」
「…がぅ…」
「それとも教師としての意地か?」
「…がぅ、ち、が…ぅ」
「じゃぁ何だよ?!」
「違うっ!!俺はお前の負担になりたくない!未来を…未来これからを閉ざしたくはねェんだ!!」
「負担って何だよ?!俺がいつ、アンタが負担になるつった?未来これからを閉ざすつった?!」
「お前は…」
「…?」
「…これから色んな人に出会う、色んな経験をする」
「………………………」
「…そしたら…俺はお前の負担になる。…重荷にしかならないんだ…」
「だから…っ何で…何でそうやって決め付けんだよ!解んねェだろうが!!」
「…っっ…」



だって…。
だって見えるじゃねェか。
…永遠なんか…
ねェんだから…。



「お前はまだ若いから解んねェんだよ…未来これからの事」
「だったらっ…!」



ギュっと抱き締められて。
その温もりに。
その温もりが。
愛おしくて。
悲しくて。



「俺は大人になんかなりたくねェっ!解んなくて良い!!未来これからなんか解んなくて良い!」
「ひ、じか…」
「ずっと大人になりたいと思ってた」
「……………………………」
「大人になって、アンタに追いつきたいと思ってた…」
「土方…?」



抱き締めていた身体を離されて。
窓から差し込む、微かな光の中、土方の顔が見える。
真摯で…俺の知らない顔。
…こいつ、知らない間に大人っぽい顔するようになったよな…。



「……好きだ」
「…ぇ…」
「好きだ。好きだ。好きだ!…何度だって言う。別れたいなんて思った事もない」
「だ、って…おま…引越…し…」
「好きだ」



またギュっと抱き締められて。
もう訳が解らない。
だって引越しするんだろ?
それで…俺は…知らなくて…知らされてなくて…。



「…好きだ…」
「答、ぇ…なって、ね…っ」
「好きだ。…好きだ」
「…っ、ば、かやろ…っ」



折角手離す覚悟を決めたのに。
悲しくたって。
身体が、心が。
引き裂かれそうに苦しくても。
お前の未来これからの為に。
お前の為に。
好きだから。
愛してるから。
決心したのに…。



「んな事、ぃわれ、たら…」



手離せなくなる。
声も。
温もりも。
存在も。
何もかも。
恋しくて。
愛おしくて。
…手離せなくなる…。



「…き」
「ぎ…んぱ…ち…?」
「…すき」
「……………………」
「好き…だ…」
「銀八…」
「…好き、好き…好きだ、…土方…」



言っちゃダメだって。
解ってる。
だってコイツは。
明日にはもうココには居ない。
離さなきゃダメなんだ…。
だから…。



「…ぃな、く…なら、な…で」
「…銀八…」
「居なく、ならないで…ひじ、かた…」



なのに。
溢れ出した想いが止まらない。
掴んだ手を…腕を…離せない…。



「…銀八」
「…んっ」



離された身体に。
熱い口付け。
クラクラする…。
窓から差し込み街の灯り。
暗い部屋。
息遣いと、温もりだけ。



「…ぁ、は…っ、ひ、かた…」
「…んっ…」
「…んっ!」



どのくらい経っただろう。
長い口付けに、酸素が足りなくて。
はぁはぁと荒い息を立てて、離れた。
温もりが急に離れて、周りの空気が冷たく感じる。



「…も、帰れ…ぁ、した…早いんだ、ろ…」



これ以上一緒に居たら。
本当に手離せなくなる。
だから。
早く。
一刻も早く。



「…電車…まだあるよな…」



俺が帰宅したのが8時ちょっと過ぎ。
ドタバタやってたから…今、何時だ…?



「電車なんか使わねェよ」
「…え?」
「…隣」
「…はぃ?」
「だから、隣。……引っ越して来た。入居、本当は明日からだけど、まぁ今日の夜からでも良いだろ」



…。
……。
………。
え〜と。
こいつ、今何つった??



「さっき引越しの挨拶兼ねたケーキ持って来たんだ。何処やったかな…」
「……………………」
「あ。なぁ、銀八。もう電気着けても良いよな?」
「………………………」
「てか腹減ったな。な、銀八も腹減らね?」
「……………ちょっと待て」
「あぁ?何だよ?」
「引っ越しって…まさか」
「あぁ。そりゃ今回のこったろ。俺だけココに引っ越して来た」
「ちょっと待てぇぇぇぇっ!!!何だ?何だそりゃ?!」



パニックになる。
引越し。
『引越し』
けどそれは…。



「っと」



パっと明るくなった室内。
土方が電気を着けたからだ。



「おっ、あったあった、ケーキ」
「………………………」
「銀八、コレ冷蔵庫に入れとくぞ?」
「……てめェ……謀ったな……」



ようやく繋がった。
つまりは。
…そう言う事か。



「別に謀ってねェよ。アンタが勝手に勘違いしたんだろ」
「うるせェェェェっっ!!何だ?!じゃぁ、何だ?!俺の独り相撲?!独り相撲ですかぁぁ?!!」
「…まぁ、まさかあんな勘違いするとは思ってもみなかったけどな」



ニっと笑った土方に、俺はハタと気づいた。
……ちょっと待て。
俺はさっき何を言った…?



「まぁ色々本音言えたし、聞けたしな?」
「…………ちょっとお前、そこのテーブルの角に頭ぶつけて記憶飛ばせや。マジで」
「ヤだね。誰が。こんな貴重な体験なかなか出来ねェからなぁ?」
「………っっ………」



一生の不覚だぁぁぁぁ!!!!



「銀八」
「あぁ?!」



俺が羞恥に悶えてると、ふと呼ばれる。
思わず返事してしまったら…。



「確かに未来これから俺は色んな奴に会って、色んな経験をするかも知れない」
「………………………」
「でも。…こんなに好きんなったのはアンタが初めてだし。未来これから、何も、全部」
「…っ」



スィっと手を取られ。
手の甲にキスされる。



「…アンタにやるから。俺を…信じてくれ」
「……………………」
「簡単に『別れ』を認めないでくれ。仕方ないなんて…諦めないでくれ」



くそっ、この卑怯モンが…。



「…お前」
「…あ?」
「…タラシの才能あるわ」
「は??」
「将来は警察より、ホストの方が良いんじゃね?」
「な、何だよ、それ!!」



『お前』を信じろなんて…。



「おい、銀八!!」
「所でお前、何ケーキ買って来たんだよ。ショートケーキ欠かしてねェだろうな?」



…最高の殺し文句じゃねェか。



「おい、人の話を…」
「…上等じゃねェか、お前」
「え?」
「…ぜってェ離してやらねェから覚悟するんだな」
「………………………」
「『大人』を本気にさせたお前が悪いんだからな。…まっ、悪い大人に引っ掛かったと思って諦めな」
「…………上等だ、コラ」



そこには。
確かに微笑む。
…俺とお前が居る。





・END・
2006/06/22UP