「…何、コレ…」
銀八の、呆れ返った声が部屋に木霊する。
そんなの俺だって言いたい。
「や、その…」
でも俺の口から出て来たのは情けない声だけ。
「俺ゃぁ聞いたよな?テスト前なのにこんな事してて大丈夫なのか?って。お前それ、何て返した?何て返しましたかぁ?忘れたとは言わさねェぞ、この野郎」
「や、だから、その…」
言える言葉は皆無に等しい。
「何だよ。言いたい事があるなら言ってみな。聞いてやるから」
「や、ヤマが外れた、かな〜…な、んて…」
「あぁ?!ヤマが外れただぁ?!じゃぁヤマ外れたらお前は毎回こんな点数だってのか?今までの上位入選は偶然か?偶然だったのか?!おめでとう!!」
怒り狂う銀八に俺は口を閉じるしかない。
それもそのはず。
俺は今回のテストで散々な点数だった。
言うならば、赤点。
しかも全科目。
我ながらよく取ったものだ…。
「担任の俺の立場も考えろよな〜…しかも前夜まで一緒に居たなんてバレてみろよ。俺、懲戒免職もんだつうの」
チっと舌打ちして、銀八は煙草に火を点ける。
坂田銀八は。
3-Zの担任教師。
そして。
「…悪ぃ」
俺、土方十四郎の恋人。
…だったりする。
「悪いで済んだら警察は要らないのよ〜多串君」
テスト前夜、心配する銀八を余所に、まぁ、その…色々イイ事までしてしまい、その結果散々たる結果がを出してしまい、今に至る。
今までの感覚で高を括っていた。
それは否めない。
テストを受けてみて、初めて気が付いた。
俺は銀八と付き合える事になって、どんだけ浮かれてたかって事を。
「…マジ悪ぃ。ちょっと浮かれ過ぎてた」
正直に謝罪の言葉を口にすると。
「はぁ〜。…なぁ、土方。俺達、会うのちょっと自粛しない?」
「なっ…!」
突然の言葉に俯いてた顔を上げた。
何…?何言い出すんだ?
「俺と付き合う事でお前の勉学妨げるなんて、本心じゃねェしさ…」
「べ、別にアンタとの事で今回の点数なんかじゃ…!」
「でも俺と付き合いだして、この点数でしょ?俺お前の恋人?だけどさ、その前に教師だし。一応」
ペラリと出された答案用紙が何も痛ェ。
つうか、何で恋人ってのが疑問系なんだよ…。
「ぅ…そ、それは…」
「な?別に別れようつってんじゃねェんだしよぉ」
「でも…」
「でももだってもねェの!取り敢えず!追試終わるまで会わない。俺の話は以上」
「はっ?!け、決定事項かよ?!つうか俺の意見なし!?」
「ある訳ねェだろ、この赤点野郎!」
「だから悪ぃつってんだろ?!追試でばっちし挽回するつってんだろ?!」
「言ったな!?言ったな言ったな!!赤ザフだったら1ヵ月、Hなしだかんな!勿論チューも!!」
「おぉ、上等だ!その代わり、満点だったらご褒美貰うかんな!」
「おぉ、良いぜ!受けて立とうじゃねェの!」
正に売り言葉に買い言葉。
「そうだなぁ…じゃぁ土方が満点取れたら、…キスやるよ。しかも満点分だけ」
「なっ…!」
それじゃぁあまりにも罰との差がねェか?!
「ちょっと待てェっ!それじゃぁ余りにも…」
差が…と言おうとした。
したんだけど…。
「…土方は欲しくない?俺から、キ・ス」
う…そ、それは…。
「ん?」
首を傾げて、上目遣いに俺を見るな!
そうだよ!
よく考えたら銀八からキスとかってした事ないじゃん!!
「どうなの?…多串君」
「土方だつってんだろ。…満点分、だからな」
…あぁ、もう!
コレが惚れた弱みって言うのか?!
「全教科満点取ったらその分だけキス、もらうからな!!」
俺はそれだけ怒鳴ると、ダダダっと銀八の資料室から走り去った。
くっしょ〜、こうなったら全教科満点取って、キスしてもらうしかねェじゃねェか!!
「……くっくっく、まぁ精々頑張ってよ。多串君」
「土方だつってんだろうがぁぁっっ!!!」
上等だ、コラぁっ!!
ちくしょう!
俺は教室に戻るとバサバサと教科書を出す。
「勉強ですかぃ?赤点大王」
その様子を近くで見ていた総悟が声を掛けて来た。
「うるせェ。今俺に声掛けをじゃねェ」
イライラする。
自分が赤点取った事。
そしてそれで銀八に会えなくなっちまった事。
そんな事を言い出した銀八。
あぁ、つうかもう全部に。
「何そんなにイライラしてんでさぁ?先生方も驚いてやしたぜ。あの土方さんが全科目赤点だなんて」
「うるせェつってんだろ。今回はちっと油断してたんだよ」
「心配してんですぜ?土方さん推薦狙いでしょ?内申大丈夫ですかぃ?」
「内、申…?」
すっかり忘れてた。
俺には夢があって。
それの為に頑張ってた(?)
…勉強をしてた。
『俺と付き合う事でお前の勉学妨げるなんて、本心じゃねェしさ…』
銀八の言葉が頭を何度も繰り返し響き渡る。
そうだよ。あいつは俺の夢を知ってる。
『会うのちょっと自粛しない?』
もしかしたら。
あいつだって断腸の思いだったのかも知れない?
俺を心配して。俺の将来に心配して、あぁ言ってくれた…?
「なっさけねェ…」
本当、心底てめェが情けねェ。
舞い上がって。
それで心配掛けて。
それなのに逆ギレ(?)して。
「見てろよ」
全科目、満点取ってやるからな…。
「惚れ直させてやんよ」
ちゃんと、将来の事も、アンタの事も。
考えてるって。
真剣に思ってるって。
思い知らせてやるよ。
んで。後日。
「ふざけんなっっ!!!」
「え〜何ぃ?約束通りだろ?」
「何処がだよっ!!『キス』って言ったじゃねェか!教師のクセに嘘吐く気か?!!」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜。『キス』じゃん。間違いないよ」
めでたく全教科満点取った俺は。
約束だと銀八に『約束の履行』を迫ったら。
「うん。そうね。土方、今回は頑張ったもんね。…自業自得だけど」
「…うっせ。……ほら、早く…寄越せ。褒美…くれ、んだろ…?」
「…ん。…目、閉じて…?」
「ぉ、おぅ…」
言われたまま、目を閉じる。
…ぅわっ、緊張して来た…!
ドサっ、バラバラバラバラ…
「………………………」
「口惜しいが、やるぜ。『キス』」
「……………は?」
「だから。『キス』だってば。欲しかったんだろ?それ美味しいもんなぁ〜」
…美味しい?
ソロソロと目を開いた俺の目に飛び込んで来たモノ。
降って来た、一口チョコの嵐。
「な、何だよ、これ?!」
「え〜何ぃ?約束のブツ、だろ?」
「何処がだよっ!!『キス』って言ったじゃねェか!コレ、チョコレートじゃねェかよ!!!」
「うん。『キス』チョコレート。美味しいよ?」
…………………。
『そうだなぁ…じゃぁ土方が満点取れたら、…キスやるよ。しかも満点分だけ』
…………………。
『…キスやるよ』
…………………。
キス『して』やる、とは言・って・な・い…?
「…あ、もしかしてチューかと思ったの?やっだ〜多串君のエッチ〜。…誰もキス『して』やるとは言ってないじゃん。キスやるって言ったのに」
「テメっ…教師のクセに生徒謀る気か?!」
「失礼な。人聞きの悪い事言うな。多串君が勝手に勘違いしたんでしょ?ぃやぁ〜日本語は難しいねぇ?」
「〜〜っっ、詐欺だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺の…俺の苦労って何?!
や、結果的には将来の俺の為、ではあるけどよぉ…。
「……あぁ、あぁ、あぁ…そうだよ。こんなこったろうと思ったよ。俺のせいだもんな、赤点。あぁ、あぁ、そうだよなぁ…」
自業自得だけど、…でも…でも…でもよぉっ!!!
「…………人間…否、教師不信になりそうだぜ……」
俺がそう呟いた時。
「…トシ」
「え?!…………っ!!!」
2人っきりでも滅多に呼ばれない名で呼ばれて。
驚いて振り向いた瞬間。
煙草の匂いと、甘い香りが鼻腔をくすぐる。
そして、唇に柔らかくて温かい感触…。
こ、これ…?!!
「…頑張ったから特別な。ごほーび」
「ぅ、そだ、ろ…」
…たまには。
赤点も良いかも知れない。
「あ。次赤点取ったら別れるからな」
「!!!!」
・END・
2006/05/16UP