「…俺の事好きだろ?銀八…」
俺がそう言うと、銀八は一度口を開いて、また下を向いてしまう。
「…おい。下向くんじゃねェ」
「………離せ」
「…は?」
「離せつったんだよ、馬鹿っ!」
ガン
「…ぃてっ…!」
何か呟いたから、顔を近づけたら、いきなり
思わず捕らえていた手首を離して、当てられた顔に手を当てた。
痛てて…んだよ、さっきまで大人しかったのによぉ…。
「な、にしやが…」
「…たくよ〜。俺の意図皆無にしてんじゃねェつうの」
さっきまでの大人しげな様子はなく、銀八は懐から煙草を取り出し、それに火を点ける。
「意、図…?」
「はぁ〜、あそこまで読んどいて、そりゃぁねェつうの…」
「おい、何言ってんだよ」
ブツブツ言う銀八に、俺はその言葉の意味が解らず声を掛ける。
俺がそう言うと、銀八はゆっくりと振り返る。
窓から差し込む光が、銀八を照らす。
銀髪の髪が光に晒され、キラキラと光る。
俺はそれが眩しくて。
目を細める。
…心底、この輝きを手に入れたい。
そう思う。
「…洒落じゃねェんだぞ」
銀八の言葉。
洒落?
「男の…しかも先生に、んな事言うなんて、洒落じゃ済まねェんだぞ」
指に挟んだ煙草を俺に向ける。
紫煙の煙がゆっくりを上がっては消える。
「…洒落じゃねェんだよ」
「あ?」
「こっちこそ洒落じゃ言えねェんだよ」
「…………………」
ギュっと強く拳を握って。
強く強く呟く。
「洒落で男に…男の先公に告白なんか出来ねェし、キスだって出来ねェよ」
「………………」
「洒落じゃ、3年ちょっとも…男の先公好きで居られるかよ」
「………………」
「好きだ。…アンタだけ。アンタだけが欲しい」
下を向いていた顔を上げ、銀八の瞳を見つめる。
銀八も逸らさず、俺の瞳を見つめ返す。
ただお互いを見て。
数分…沈黙が流れる。
それを破ったのは銀八だった。
「…はぁ」
「何だよ…」
もたらされた溜め息に思わず眉間に皺が寄るのを感じる。
「怖い顔しないの。折角の男前が台無しよ」
「…人が一世一代の告白してんのに、いきなり溜め息吐かれたらそう言うツラにもなんだろうがよぉ」
「だって……溜め息しかないでしょ」
「…んでだよ」
「学校にも可愛い女の子居るでしょ?お前、モテんだし」
「…だから。俺はアンタが良いつってんだろ。他じゃ意味ねェ」
「俺、先生よ?お前の担任」
「たまたまだろ。たまたま、俺の担任だった。別に担任だから、とか先生だとか、んなの関係ねェ」
「おっさんよ?しかも男だし」
「〜っっ、だから!断んならさっさと断れよ!何だってんだよ、一体!!」
イラついてそう怒鳴れば、銀八はハァと紫煙と共に溜め息を吐き出して。
「どーしても俺が良いんだ?」
「……あぁ。アンタじゃなきゃ意味がねェ」
「何度も言うけど、おっさんだしぜ?一応、先生だし。男だし」
「一応なのかよ。…つうか、んなの最初っから解ってたし、ブレーキは掛けてた。でも全部納得済みで、それでも俺はアンタを選んだ」
「…後悔しねェ?」
「しねェってのっ!!!」
銀八はもう一度、ハァと溜め息を出して、持っていた煙草をまた懐から出した携帯灰皿で片付けた。
「…?おい」
「……解った」
「………………は?」
「だ〜か〜ら…解ったって」
「え?な、何が??」
解った、って…え?何が??
「俺が好きなんだろ?」
「あ、あぁ…」
「おっさんでも、先生でも、男でも。…俺が良いんだな?」
「お、おぅ…」
「ん。解った。りょーかい」
「お、おぉ。……って、ええ??!」
何?!
何その展開、この展開!!
「解ったって…それだけかよっ!!」
「だって…それからどうとかお前言ってないじゃん」
「あ?」
「好きって…お前が俺を好きってのは『解った』って言ってんじゃん」
「あぁ?!んなのありかよ?!!」
「ありなんじゃない?」
くっくっくと銀八が咽喉の奥で笑って。
また、煙草に火を点ける。
「ちょっと待てよ、おいっ!!」
「土方」
「何だよっ?!」
「大人はね、
「あぁ?!」
「取り合えず、今日はもぉ良いから帰んなさい。課題は、まぁ…合格にしてやるから」
「帰ってって…全然話は済んでねェじゃねェかっ!!」
「じゃぁね、多串君。気をつけて」
「〜〜っっ、土方だ!!!」
銀八はもうすっかり話を聞く・話す状態じゃなくなってて。
俺に背を向けて、準備室の備え付けの机に座って何かし始めてる。
この状態になったらダメだ。
何を言っても、相手にすらされねェ。
「解ったって…じゃぁ、俺と付き合うんだよなぁ?!」
それでもすごすご帰るのは馬鹿みてェだから。
俺は銀八の背にそう叫ぶと。
「じゃぁって何よ、じゃぁって」
振り向きもせずに、煙草を持った手を頭上でプラプラ振って。
「妥協で付き合うにはリスクが大き過ぎだぞ〜」
「妥協じゃねェっ!じゃぁ…どうしろってんだよ?!どう言えば、アンタは俺のモノになってくれる?!」
「………………………」
俺の言葉に、銀八はキィっと椅子を回転させて俺と向き合う。
「そんなの自分で考えなさい。幾ら教師だからって、そんなのまで指導する程俺ぁ親切じゃねェぞ?」
「だからってコレで終わりってのはあんまりじゃねェかよ?!解ったって、じゃぁ答えは?!答えもなしなのかよ?!」
余裕なコイツがムカついて。
どうすれば良いか解らない
俺はそう怒鳴り続ける。
それでもコイツの余裕は崩れなくて。
結局。
この差は縮まらないのかよっ…!
教師と教え子。
永遠に縮まらない、年の差、立場。
「銀八っ!!」
「あ?まだ何か…」
…だけど。
そんなモン最初から解ってたし、縮まらないなら…!
「…覚えてろよ。毎日口説きに来てやるからな」
「…は?」
「覚悟しろよ」
「ちょっ…!」
「じゃぁな、『先生』」
縮まらないなら、飛び越えるだけだ。
オチないんなら、オチるまで付き合ってやる。
覚悟しとけよ、こんちくしょう!!
それから。
俺は毎日銀八の居る準備室に足を運んで。
毎日毎日、自分でも馬鹿なんじゃねェかってくらい「好きだ」「付き合え」云々を言い続けてる。
「おまっ…本当、しつこいから!しつこい男は嫌われるぞ?!」
「だから、アンタがオチれば問題ねェだろ?」
「んなっ…!オチませんから!!」
「じゃぁ、んな弱音吐くなよ」
「弱音とかじゃないから!ウザいから!!マジでウザいから言ってるんですけど?!」
「ウザいなら。もう言えないように、こっぴどくフってくれって言ってんじゃねェか」
「ぐっ…!だ、だから…、それはっ…!!」
「フれないんだろ?じゃぁ、それって『脈あり』って奴なんじゃねェの?」
「だからそうじゃねェから!何て言うの?教え子への愛と言うかね?!」
「だったら、その愛を教え子から1人の人間に変換してくれよ」
「〜っっ!!あぁ言えばこう言う奴だなぁ!!」
「アンタに言われたくねェよ」
銀八が俺のモノになる日も近い…はず。
・END・
2006/04/24UP