俺の名前は坂田銀八。
予備校で塾の講師をやってる。
本当は学校の先生になりたかったが、…まぁあれだ。
今は学校も色々あっからな。
予備校で経験詰みのも良いだろう。
…なんて嘘だ。
ぶっちゃけ、不況に煽らて職に溢れた訳だ。
そろそろ就職活動もしねーと、とは思うんだけどな。



「…あ〜さぶさぶ。朝のこの寒さだけは、どーにも慣れん」



塾の講師ってのもなかなか楽しい。
つうか楽だ。
学校の先生みたく、やれ進路指導だ、やれ学級崩壊だねェからな。
…あ〜このまま講師続けてよっかなぁ。



「…ブツブツ」
「…ぁ」



バス停に着くと、何やら単語帳片手にした学生。
…土方十四郎。
うちの塾の生徒だ。
確か専攻は理数系だったな。



「…はよ、朝からお勉強?偉いねぇ」
「……………?」



俺が声を掛けると土方は唖然とした顔して。
まぁそうだよな。
俺の担当は文系で、コイツ教えた事ねェし。
何より俺の今の格好つったら。
グルグルに巻いたマフラーに顔の半分を埋めて
その上寒ぃからジャンパーのフードまで被ってんし。


「ぁ…ハヨ、ございます…?」



それでも挨拶し返して。
ん〜偉い偉い。



「…?」



俺が土方を知ってるのは偶然。
俺の友達、坂本辰馬って奴が理数系担当で土方を教えてるから。
辰馬曰く、



「土方はげにまっこと優秀な奴ぜよ〜」



と話してたからだ。
優秀ねぇ…その上この容姿たぁ、まぁ将来有望だな、おい。


(…まっ俺には関係ねェか)


バスが来て。
パサリとフードを取ると。



「あ」
「あ…?」
「塾のじじっ…ぁ、っ!」
「じっ…!!」



ぷっしゅ〜……



『歌舞伎町住宅前〜歌舞伎町住宅前〜』



「……………………………」
「……………………………」
「……お客さん!乗るの?乗らないの?ドア、閉めちゃうよ?」



タイミングが良いのか悪いのか。
来たバスに、2人して乗り込まないで居ると。
バスの運転手が痺れを切らして、俺達に問い掛けて来る。
ハっとなった俺は。



「の、乗る!乗ります!!」



そう叫んで、バスに乗り込んだ。
すぐにバツが悪そうな顔をして土方も乗り込んで来る。
先に乗り込んで座れた俺は、土方を見ないように窓に顔を向けた。
暫くしてバスは走り出し、景色が流れる。


(ジジィ、ね…)


昔っから慣れてしまったと言えば、慣れてしまった。
…俺のこの、髪。
それは驚く程、白い。
本当は銀髪なんだけど、それは光に当たらないと解らない。
光に当たらなければただの白髪で。
髪だけを見て、年寄りだと思う人も居るから。
それはそれでショックではないのだけど。
だ・け・ど。
面と向かって言われればやっぱり腹は立つ。
俺はまだ20代なんだから。


(染めようかなぁ〜)


チラリと伸びた前髪を一つまみして。
それは外から差し込む光に、今では銀色に光る。


(でも俺、人口的でヤなんだよな〜)


学生の時、一度だけ染めた。
それは嘘なまでに黒くなり、元より色が入り易い髪質、と言うのも手伝って。
それはそれは人工的色に染め上がった。
それから俺は染めてない。


(髪がヤワってのもあるんだよな〜。アレからすっげー痛んだし)


生え変わりまで、すっげー恥かいたしな。
ぼんやりそんな事を考えていたら。



『銀魂学園前、銀魂学園前〜』



ゾロゾロと降りる学生。
そう言えば俺ん時も学ランだったな〜…。
なんて、考えてたら。



「……!」
「…さっきは、ごめん」



ポンと叩かれた肩。
振り返ったら土方君が居て。
ペコリと降り際にそう言った。



「…………………………」



ぷっしゅ〜と言う音と共に閉じるドア。
…ってか、今『ごめん』って言った?
それってさっき言った『ジジィ』って事に関してだよね?
………………………………………。



「…ぶふっ!」



思わず噴出してしまう。
これってアレじゃね?
俺よりアイツの方が、さっきの事気にしてね?
ってか、今時の高校生ってあんな素直な訳?
俺の受け持ってる生徒なんか…。



「…ってか、『今時』とか思ってる時点で俺結構おっさんじゃね?!」



どんよりと曇ってた気持ちが。
少しだけ。
…晴れた気持ちになった。





・END・
2007/04/12UP