「どう言う事なのかな?ん?銀八先生?」
「ゃ、だから、その…」
「余ものぅ、代理で居るだけだからのぉ〜問題を抱えたくはないのじゃ」
(じゃぁ放っちてくれないかな、放っといてくれないかなぁ?!)
「ん?何か言ったか?」
「イエイエ?何も」
「そうかのぉ…まぁ、とにかく。火のない所に煙は立たずじゃ。噂が本当なら、お主はおろか…土方の方にもそれ相当の罰がいくからな。覚悟しておくように」
「!!…肝に銘じておきます」
〜Frohliche Weihnachten〜
「随分絞られたみたいじゃのぉ、銀八」
「!辰馬」
パタンと扉を閉じて、廊下に出るとそこには坂本の姿が。
「ったくよ、あのアホ代行。代行なら代行らしくお抱えで大人しくしてろってんだよ」
「あっはっは。暇じゃきぃなぁ。おんしは目立つき、目ェ付けられたんじゃろ」
「あぁもう。死んでくれないかなぁ、死んでくれないかなぁ!!」
ブチブチと愚痴りながら、銀八は坂本と並んで廊下を歩く。
「呼び出された理由ちゅうのは、アレじゃろ?例の噂」
「そ〜それ。…ったく、
「海外研修ちゅうとったぞ?」
「海外ね〜研修で海外たぁ、好い気なモンだぜ。代理で来た理事長は、アホだし」
「あっはっは〜言えちょる」
「…でも…」
「ん?何じゃ?珍しく難しい顔しちょって」
「珍しくは余計だ、珍しくは!」
「どぎゃんした?」
「ゃ、その、う、噂…の事なんだけどよぉ」
「あぁ、おんしと土方が出来ちょるちゅう噂か?それこそ根も葉もない噂じゃろ?出来とるちゅうか…」
「銀八!!」
「…噂をすれば何とやら、じゃな」
「…あの野郎…」
「銀八!…んなトコに居たのかよ」
タッタ、と廊下を走り土方が姿を現す。
銀八と坂本の前で足を止め、坂本に視線をやりジロリと睨む。
「土方…“先生”を付けろと何遍言ったら解んだよ、おめーはよ」
「んなトコで何やってんだよ、探したんだぜ」
「
「んな事より、明日!明日、俺と過ごそうぜ!」
「明日ぁ?んで?」
「だってクリスマスだぜ?クリスマスは、恋人と過ごすもんだろ?」
「だ〜れが恋人だ、誰が。寝言は寝てから言え」
「いて!んだよ、俺がこれだけ求愛してんだぜ?」
「頼んでねェ」
「ムっ。…あのなぁ。言っちゃ何だが、これから先、アンタの人生でこれ以上求愛される事なんかねェぞ?何が不満なんだよ?!」
「あのねぇ?
「良いだろ?!どーせ予定もねェんだからさぁ!!」
「決めつけんな!つうか、『ただの』生徒のお前と過ごす理由なんかねェだろうが。却下だ!!」
「『ただの』はねェだろう?!俺はお前が好きなんだから!!」
叫ぶように言った言葉に、ビクリと銀八に身体が強張った。
「っ…!」
それはほんの微かで。
銀八の隣に居た坂本が微かなそれを感じ取って。
「…?」
「何遍も言ってんじゃねェか、俺はお前が…!」
しかしそれに気づかない土方は構わず言葉を続けようとした。
続けようとしたが…。
「…めろ」
「え?」
「止めろ」
「…おぃ、銀八?どぎゃ…」
「そう言うの、止めろ」
「…銀、八…?」
俯いていた顔がゆっくりと起き上がって。
いつもとは違った、真摯な顔をした銀八が土方を見つめる。
「今までずっと黙ってたけど。…そう言うの止めろ。俺は先生でお前は生徒。それ以上でもそれ以下でもねェだろうが」
「…っ!」
「おい、銀八。おんし、何言う……」
「お前の
「っ…おま…俺の気持ちを、疑う、のか…?」
「疑ってんじゃねェ。確信してんだ。…とにかく。今後お前からそう言う言葉は聞きたくねェ。……以上だ。もう帰れ」
それだけを言うと、銀八はクルリと踵を返し、廊下を歩き始める。
最初は土方と銀八の背中を交互に見ていた坂本だったが、「気ぃつけて帰れ」と土方に声を掛けると、銀八を追い掛ける。
「おい!おんし、何ちゅう言い方するんじゃ。あんな言い方おんしらしく…」
「…良いんだよ」
流石にあんな言い方は酷だと、銀八に言った坂本だったが。
「銀、八…?」
「良いんだよ。…代理理事長に目、つけられてんだ」
「おんし…土方かばちょったのか」
「かばってんじゃねェ。一時の感情でアホな目見たら馬鹿みてェだろうが。
「
「な、何だよ…」
「わしゃぁてっきり土方がおんしに夢中なんじゃ思ちょったけど…こりゃぁ…」
「な、何だよ!自分の生徒可愛く思っちゃいけねェのかよ!!」
「誰も悪いとは言うてないぜよ」
「…お前の言い方はどーも引っ掛かるんだよ」
「あっはっは!まぁ、気にせんと。…しっかしなぁ、銀八」
「何だよ?」
「あの言い方はどうかと思うぜよ」
「…良いんだよ」
「…………………………………」
「…嘘、じゃねェし」
ポツリと呟かれた言葉は、少しトーンが低くて。
はぁ、と坂本は溜息を吐く。
そしてバン!と銀八に背中を叩いて。
「あで!何しやが……」
「………行くか」
「…は?」
「明日!飲み行くか!!奢っちゃるぞ!!」
「あだ!!な、何だよ、急に!!」
「寂しい独りモン同士、飲み行くか言うちょるんじゃよ!!」
「はぁぁぁ??意味解んねェっ!!!」
「あっはっは〜良いぜよ、良いぜよ」
「……………………………」
ポツンと廊下に佇む土方が居る。
前方を見つめているが、それは何も映していなく。
ただ呆然としていた。
『お前の
先程銀八に言われた言葉が頭の中を駆け巡る。
そして、ギュっと拳を握り締めた。
「な…っ、何なんだよ、一体!!」
拒否された、その事に対してのショックもあった。
だが、それよりも。
今は自分の気持ちを勘違いだと言われた事に対しての怒りの方が大きかった。
怒りで握り締めた拳が痛かった。
「ぁ、おい、トシ!!」
「!…近藤さん」
「?どうしたんだ、怖い顔して」
突然肩を叩かれた。
振り向くとそこには満面の笑みを浮かべた近藤が立っていて。
いつもと様子の違う土方を、今度は心配顔で見つめた。
「な、何でもねェよ。それより、どうしたんだ?」
「あ、あぁ。トシを探してたんだ」
「俺を?」
「あぁ。なぁ、明日用事入ってるか?」
「明日?」
「そう!あのな、合コンが入ってるんだが、どうにもこうにも人数が足りくてな!どうかな?トシ」
「合コン…」
言われた言葉を思わず復唱した。
何てタイミングが良いのだろう。
(この場合、良いのか…?)
微かに考える土方に、近藤はハラハラと返答を待って。
「…良いぜ」
「え?!」
土方の返答に思わず驚く。
「だから良いつってんだろ。断って欲しかったのかよ」
「そそそそそそうじゃねェけど!トシは一途だから断られんじゃないかと思ってさ!…や、でも良かった!これで面子バッチシ!!」
「…あぁ」
「じゃぁ詳細はメールで送るからさ!サンキュな、トシ!!」
「あぁ。じゃぁな、近藤さん」
笑顔で去った近藤に手を振りながら。
「…合コン、か」
『お前の
土方の脳裏に、また銀八の言葉が過ぎる。
それに歯軋りをしながら。
「…っ、勘違いじゃねェって事、見せてやるよ!」
そしてクリスマス聖夜。
「トシ!こっちこっち!!」
「わぁってるよ、近藤さん。んなデカい声出さなくても」
「はっはっは!スマンスマン。…それにしても凄い人ごみだな」
「…まぁ、クリスマスだしな」
「なぁなぁ、トシ」
「な、何だよ、擦り寄って来て」
「…今日の合コンな、妙さんが来るんだ」
「妙?…あぁ、志村の姉ちゃん?」
「そうそう!で、だ!上手くいくよう、トシ、協力してくれ!!」
「あ?あぁ、別に良い……」
その時だった。
近藤を見ていた土方の目が見開かれて。
「…トシ?」
「…っ、悪い近藤さん、俺やっぱパス!!」
「え?お、おい、トシ!!何処行くんだ!?トシ〜?!」
(嘘だろ……?)
人ごみにぶつかりながらも、土方は道を進む。
先程、一瞬だけ飛び込んで来たモノ。
それを追い掛ける。
(見間違いであってくれっ…!!)
錯覚であって欲しい。
それは祈りにも似た、願いだった。
だが…。
「…ぅそ、だろ…?」
そしてそこで見たモノ。
「なぁなぁ、良いじゃろ?」
「だ〜からぁ〜本っ当お前しつこいなぁ」
肩を並べて歩く。
「銀…八…」
銀八と坂本の姿だった。
「本っ当にしつこいって!」
「じゃったら大人しく白状すれば良いぜよ」
「だぁから違うって!!」
「…わしゃぁてっきり土方の片想いじゃぁ思っちょったが、そうかそうか、おんしもなぁ〜」
「俺の話を聞けっての!!」
バーの一角で繰り広げられる会話。
程よく薄暗い店内はざわざわと人の会話が聞こえる。
クリスマスともなれば男女がロマンティックな雰囲気で過ごすにはもってこいのバーだった。
そんなバーの一角に銀八と坂本は居た。
「あ〜…ったく。驕りだと思って来てみれば…。何よこれ、何よこれ。尋問?尋問ですかってんだ、この野郎」
「あっはっは、タダより高いもんはないちゅう事ぜよ」
「お前が言うな!!…ったく、最悪のクリスマスだ」
「だったら土方と過ごせば良かに。やっぱクリスマスは好きな奴と過ごすんが一番ぜよ」
「だから違うから!好きじゃねェから、あんな奴!!…あぁ、もう、同じのもう一杯!!」
「そんな頑なにならんでも良かに。人を好きんなるちゅうは良い事じゃぞ、銀八」
「うっさい、辰馬!もうお前の財布すっからかんになるまで飲み尽くしてやる!!」
グビグビとペースを上げて飲む銀八に。
坂本は苦笑して。
店員を呼ぶと、先程の銀八の注文と幾つかの食べ物を注文した。
「あんな飲み過ぎるなよ、銀八。わしゃ送らんぜよ」
「…へぃへ〜い」
カランと、コップに入った氷が音を立てた。
「うぃ〜…飲み過ぎた…」
時計の針が天辺を越えて。
寒さが増す夜中、銀八はようやく帰路に着いた。
定まらない足で、何とか自宅を目指す。
「ったくよ〜辰馬もしつけェんだよ」
ブツブツと文句を言いながら、歩く。
「先生が生徒好きになってたまっかっての。バーカー!」
誰も居ない道に、銀八の声だけが響く。
「俺はなぁ〜10歳以上年上で、しかも男で、先生なんですよぉ〜」
フラフラと足がもつれて。
「…言えるかっての、ちくしょー」
ドンと電信柱にぶつかった。
ふと足が止まって。
暫く電信柱に身体を預けながら、空を見上げる。
冬の澄み切った空気に。
星が良く見えた。
「…帰ろ」
ボーっと星を眺めていたが、銀八は。
ようやく身体を起こして、また歩き出した。
その足は先程のよろけたものではなく。
トボトボと、少し寂しそうに見えた。
「は〜くしゅん!!…うぉ、寒ぃ!これ雪降るんじゃねェか?」
自分の住む、アパートが見えた。
その瞬間出たくしゃみと震え。
急に寒さが身体に浸透して来た気がした。
ハァと吐く息が白く、ブルリと震えた身体を両手で抱き締めて、家路を急いだ。
…その時。
「……ぁ」
アパートの出入り口で見つけた。
小さな姿。
「ひ、じか…た…?」
「……………………………」
2階へと続く階段の下で、うずくまって。
…土方が居た。
「ど、したんだよ…お前…」
突然の事で頭が回らない。
「何…してん、だよ…」
土方の顔は、真っ赤になっていて。
そして寒さでか。
微かに身体が小刻みに震えていた。
「おまっ、いつから居たんだよ?…うわっ、ほっぺ冷たっ!と、とにかく家入れ!温まって、え〜っと…」
触れた頬は死人のように冷たくて。
銀八は慌てながら、土方の手を引こうとした。
その時。
「…今日、何処…行ってたんです、か?」
「…は?」
「今日。今まで、何処行ってたんですか?」
「ぇ、っと…?」
「…お酒」
「はぃ?!」
「お酒臭いですね。…飲んでたんですか?」
「あ、あぁ…ちょっとな。そ、それより、早く家ん中入って。今風呂沸か……」
「誰とですか?」
「…え?」
「誰と。…飲んでたんですか?」
「…ぁっと…」
真摯な瞳で聞いて来る土方に。
銀八は微かに戸惑った。
そして少し瞳を泳がせてから。
「と、友達と…」
「……………………………」
「クリスマスで、独り身の、寂しい野郎友達と…皆で、飲んで、た」
「……………………………」
そう言って。
銀八は土方に背を向けた。
そして階段近くの自分の部屋の鍵を開けて。
「ほ、ほら、早く中に入れ。風邪引く前に着替えて、ぁ〜っとこんな時間か。お前親に連絡………」
「―――――――坂本とは楽しく飲めましたか?」
「…え?」
呟かれた言葉に、銀八は振り返った。
「俺見たんですよ。街中で。アンタと坂本が並んで歩いてるトコ」
「ぁ、ぅ…あ」
「性格悪ぃな、銀八。…俺の気持ち知ってて、弄んだんだ」
「ちが…、今日の事は昨日突然決まって…!」
「じゃぁ何で嘘吐いたんだよ!!」
「!!」
「やましい事がねェなら、坂本と飲みに行ったって言えば良いじゃねェかよ!やましい事があるから、そう言うんだろ?!」
「ぅ…だ、って…」
「…何だよ」
「………………………教師、のプライベートな事、だから」
「はっ!…出たよ、はいはい」
「………………………………………」
「教師教師って。教師なら、生徒に嘘吐くなよ」
「………………………………………」
「俺は俺なりに、一生懸命アンタに気持ちを伝えようとしたんだ。それを、んな風にされるとは思わなかった」
「…ぁ…」
そう言って。
土方が銀八に背を背を向けて歩き出す。
先程、銀八が歩いて来た道だ。
「きょ、教師…だから…!」
「…あ?」
「…教師だから嘘吐くんだよ…」
その土方の背に、銀八は声を掛けた。
…震える、小さな声。
「教師だから…『ただの』…ただの生徒のお前に、言い訳、出来…なぃ、から…」
「…銀八…?」
「教師だから…ただの生徒のお前に、誤解されても、言い訳出来ねェから…」
「……………………………」
「だ、って…変、だろ?…ただの生徒に、懸命に言い訳する、なんて…」
「……………………………」
「今日…だって…教師が、ただの生徒と一緒に…授業でも何でもない、この日に、一緒に居たら誤解、されんだろ…」
「……………………………」
「好きだって言われたって、応えられる訳、ねェだろう…だって……俺は『先生』なんだから……」
「……………………………」
「思ってもない、嘘、吐かなきゃいけねェんだよ…」
「…………大嘘吐き」
道に向いていたつま先は。
いつしか、銀八の方に向かって歩き出した。
「大嘘吐き」
「ぅ、っせ…!」
「教師のクセに、…嘘吐き」
「好き、で…ついてんじゃ…ねェっ…!」
俯いて佇む銀八を。
土方はふわりを抱き締めて。
「…でも。嘘嫌だ」
「…ダ、メ…だって…」
「だから。嘘はもう嫌だつってんだろ」
「…って…代理理事長に、目…つけられてる」
「……おま、もしかして…?」
「…………………………………」
「…はぁ。……確かにさ、俺アンタより年下だし、頼りねェの解るけど」
「…………………………………」
「独りで何でも抱えるなよ。…節度守るから。……なぁ、好きつってよ」
「………………ヤだ」
「…嘘吐き」
抱き締めた腕を緩めて。
見つめ合えば。
自然と、閉じられる、瞳。
「…ん…」
微かな吐息を奪うように。
土方はそっと、自身の唇と銀八の唇に合わせた。
…ただ、合わせるだけのキス。
それなのに。
まるでお互いの気持ちが流れ込んで来るみたいに。
「…は、ぁ…銀八……」
「………………好き……………」
・END・
2006/12/24