麗らかな午後。
惰眠を貪るために甲板に出たおれだが。
ふと船首に座ってるルフィを見つけ。
微かな逡巡の後に、ルフィの後ろのマストに寄り掛かって座った。
コイツの場合、目を離すと自分が悪魔の実の能力者だと言う事も忘れて、船首で暴れる。
んで、落ちる。
そう言う事が多々あったから、おれはなるたけコイツが船首に居る時は目の届くトコに居る事にしている。
「釣果はどうだ、ルフィ?」
腰を下ろしてふわぁ、と欠伸をした所に、釣竿片手にウソップが来た。
あぁ、ボーっとしてんのかと思ったら、釣りしてんのか。
「さぁ〜っぱりだ。そっちは?ウソップ」
「こっちもさっぱりだ」
「あ〜…腹減った」
ドサっと後ろに引っくり返ったルフィと変わるように、今度はウソップがその近くに釣り糸を垂らす。
「…何だ。さっきおやつ食ったばっかじゃねェか」
「あんなんじゃダメだぁ〜…おれの腹は満たされねェ…」
…まぁ、あれだけ大食らいだからなぁ。
コイツの腹を満たすなんて、なかなか難しいんじゃねェか。
「もうちっとで夕食だ。それまで我慢しろ」
「ダメだ〜!腹減って腹減って死にそうだ!!」
「…威張るな…」
「まぁ待ってろ、ルフィ!おれが今、すっげェ大物釣ってやるから!!」
何の根拠があるのか、ドンと胸を張ってウソップが言う。
…そう言えば。
「…あぁ。何で釣りなんかしてるのかと思ったら、あれか」
「んん?」
「冷蔵庫に鍵、付けられたんだな」
道理で盗み食いに行かないで、釣りなんかしてる訳だ。
おれがそう納得すると、ルフィはカサカサとほふく前進をしておれに近づく。
「…なぁ、ゾロ」
「な、何だよ…」
ジっと黒い大きな目がおれを見つめる。
何だ?
まさか、おれに冷蔵庫斬れとか言うんじゃねェだろうな?
「ゾロも知らねェのか?」
「は?何が?」
「冷蔵庫の暗そう番号!」
「…暗証番号な。……知らねェよ。つうか、あのクソコックがおれに教える訳ねェだろうが」
「そうだよなぁ〜……てか、船長のおれに内緒なんてけしからん!」
「盗み食い常習犯がよく言うぜ」
「…ぐぅ…」
おれがそう言うと、ルフィは変な声だけあげて、パタリと顔を伏せた。
…自覚があるだけ何よりだぜ。
「おれもなぁ〜何かと思って、何回か試してみたんだがな〜さっぱりだぜ。やっぱ目星がないとダメだよな〜」
…試したのか、ウソップ。
つうか、何で、んな細っこいのに人一倍食うんだ、お前らは。
育ち盛りで片付かねェぞ、おい。
「…ん?待てよ」
目星?
別に食い物に、んな執着はねェが、何つうか秘密にされると暴きたくなる。
基、あのクソコックの考えを見抜いたようで気分が良いな。
「暗証番号、か」
そう言えば昔ナミが言ってたな。
『海賊なんて自己主張が激しい奴ばっか。だからね?鍵つきの宝箱なんて大抵、その船長の誕生日だったりするのよ?』
そん時ぁ、どうやってそいつの生年月日を知るんだ、と不思議に思ったもんだが。
ナミの事だ。
どう言う宝をソイツが集めてて、とかそう言う情報収集ん時についでとばかりに、生年月日も知れるんだろう。
「生年月日、ねぇ…」
あいつが、んな簡単な暗証番号にするとは思えねェな。
それに、確かにこの船の台所は奴に預けてあるが、たまに違う奴が使う事もある。
「おい、ウソップ」
「ん?何だよ、ゾロ」
確かウソップ、一度はその暗証番号解読やったんだよな。
「暗証番号って、4桁だよな?」
「あ?あぁ、そうだけど…」
4桁か…奴の誕生日だけ、とは限らねェから…。
「後は、奴の好みそうな桁…」
あいつの好きなもの?
…んなもん知るか!つうか、知りたくもねェっ!!
「大体何でおれがクソコックの好きな………好きな?」
待て待て。
おれが、つうか、誰もが知ってるあの馬鹿の好きなモン、あったじゃねェか!!
「おい、ウソップ!」
「あ?今度は何だよ?」
「ナミの誕生日はいつだ?」
「は?ナミの?」
「あぁ」
「…7月3日だけど」
「…7月3日…」
4桁にするには、「0703」か。
…ん?ちょっと待てよ。
この船にゃ、女はナミ1人じゃねェ。
「おい、ウソップ!!」
「だから、何だよ!!」
「ロビンの誕生日は?」
「は?」
「良いから、教えろ!!」
「2月の6日だよ!!」
「2月6日か」
合わせれば丁度4桁になる。
ナミとロビンの誕生日で、多分正解だな。
あのアホコックの考える事なんか、お見通しだつうんだ。
問題はナミが先か、ロビンが先か…。
「おい、ゾロ。他は誰の誕生日、知りてェんだよ」
「…いや、他は良い」
「はぁ?ナミとロビンって…何だよ、ゾロ。お前のサンジみたいなトコあんだな。女だけ、誕生日祝ってやるってか?」
「アホ抜かせ!その、エロコックが…!」
「サンジが?」
「エロコックが……」
思わず口を塞ぐ。
ここでデカイ声出して、内容言っちまえば、おれまで盗み食いをする奴だなんて思われちまう。
それだけならまだしも、それを否定して、じゃぁ何で冷蔵庫の暗証番号を考えたんだとか突かれたら、藪から棒だ。
「サンジの誕生日は、3月2日だぞ、ゾロ?」
「あ?…あぁ、3月2日か」
…別に知りたくもねェ、奴の情報が…………ん?
「…おい、ルフィ」
「ん?」
「今、グル眉の誕生日、3月2日つったか?」
「あぁ、言ったぞ!サンジの誕生日は3月2日だ!」
おれは思わず頭を抱えた。
…解った。解っちまった。
つうか、解りたくもなかった!
考えるんじゃなかったぜ、クソっ!!
ナミの誕生日が、7月3日。
ロビンの誕生日が、2月6日。
んで、アホコックの誕生日が3月2日。
つまり。
「73」「32」「26」
丁度あのクソエロアホコックの誕生日の数字がど真ん中に来るじゃねェか!!
番号は「7326」で間違えねェっ!!!
「…嫌々、これで決まりと決まった訳じゃねェ…」
その夜、不寝番をしていたおれは、こっそりキッチンに忍び込んで、祈るような気持ちで暗証番号を入力した。
『ピ、ピ、ピ、ピ、…カチ』
「…………………あのコック、マジで頭悪いんじゃねェか…………………」
世の中、知らなくて良い事が山ほどある、と言う事をおれは学んだ。
・END・
2008/04/19UP