寝静まった夜。
不寝番以外の者は眠りに落ち、いつも騒がしい、モンキー・D・ルフィ率いる海賊船が静寂に包まれた、ある夜。
「……ロ」
「…ん…」
「…ロ、……ロってば」
自分の身体を揺する、微かな振動と、自身を呼ぶ声。
夢なのか、それとも現実なのか。
夢現のゾロが、その手を掴む。
「…んだよ…」
その感触に、あぁこれは現実か、とうっすらと思う。
閉じていた眼を開け、まだ覚醒のしない頭で、目前を見る。
そこに居たのは。
「…んだよ、ルフィ」
ハンモックで自分よりも先に寝ていた船長・ルフィが自分を揺り起していた。
「………敵襲か?」
そんな気配も感じないが、何となく出た言葉。
案の定ルフィは首を小さく左右に振って。
「……ぃ」
紡がれた小さな言葉。
ルフィにしては小さい声に、ゾロは首を傾げながら。
「…?何だよ、聞こえねェよ、ルフィ」
「…だから。……い」
「は?はっきり言えよ」
「だから。…寒い!」
「寒い?だって昼間は……」
昼間は暑過ぎると言うくらい、暑かった。
寝る時だって、暑くて。
寝るために入ったこの部屋も、とても蒸していたのだ。
なのに寒いなんて。
何を言ってるのだ、と思ったが。
「……寒ィ……」
言われた言葉を反芻して。
呟いたら。
白い息と共に感じる、体感温度。
チラリと部屋に設置された窓を見れば。
「雪?!」
屑々と降る白いものに、ゾロは眼を丸くした。
どう見ても雪だ。
「…本当、グランドラインの気候は滅茶苦茶だな…」
解っていた事だが、体感すると本当に理解を超えている。
「そこに掛け布団あんだろ?そこから…」
「メンドイ」
「…おい」
部屋の隅に積まれた布団の中から掛け布団でも出すよう言えば。
はっきりと紡がれた言葉。
気持ちは解らないでもないが、じゃぁ自分にどうしろと言うのだ。
不思議に思っていたら。
「?何やってんだよ、ルフィ」
ゴソゴソと自分の掛け布団を剥ぎ、その中に入って来たルフィ。
その行動を不思議そうに見続けたゾロ。
「…へへ、あったっけェ」
ギュっと自分に抱きついて来て、嬉しそうに微笑むルフィに。
「……狭ェだろ、おい」
「こうやってくっついてれば狭くねェよ」
果たしてそうだろうか。
元々一人用の敷布団。
くっついているからと言っても、寝返りも打てない状況だ。
「…嫌、か?」
黙っているゾロに断られると思ったのか。
少し情けない顔をして自分を見るルフィに。
駄目と言ったら出て行くのだろうか。
そんな考えを思い浮かべながら。
「…いーや。おれも寒かったからな」
そんな顔をされては出て行けとも言えない。
元より自分が断るなんて、思ってもいないだろう、この船長は。
…計算ではなく、きっと確信。
甘える相手をよく嗅ぎ分けている。
「しっかし、すげ〜降ってるな。な、これって積もるかな?」
「すでに積もってんじゃねェか?」
窓を見る限り、積もっている景色は見れない。
何と言ってもここは海の真ん中、グランドラインなのだから。
しかし粒の大きな、空から降るそれは、確実に積もりそうな雪の結晶で。
きっと部屋を出て甲板に出れば。
そこはきっと銀世界なのだろう。
「ししし、じゃぁさ、ゾロ。明日雪合戦しようぜ」
「…あぁ」
そんな
眼の前で。楽しそうに笑うルフィを前に。
たまにはそんな事をしてみて良いかと、頬が緩む。
…本当に自分は。この船長に大甘だ。
でもそれが嫌じゃない。
「って柄じゃねェか…」
「?何がだ」
「何でもねェよ。…ほら、もっとこっち来い」
「ん、でも、そしたらゾロの顔、見れねェじゃんか」
「…良いから、もう寝ろ。明日雪合戦すんだろ?」
「おう!」
「だったら寝坊出来ねェだろ」
「ん…あ、なぁなぁ雪だるさんも作ろうな!」
「解った解った」
「約束だかんな!」
「へいへい」
「本当に約束だからな、ゾロ!!」
「了解、
その言葉に満足したのか。
それとも、元々夜更かしが苦手だからなのだろうか。
ルフィはギュっとゾロの背に回していた腕の力を微かに強くして。
規則正しい寝息を吐き出す。
「…お休み、ルフィ」
その腕の中。
安心した顔で眠るルフィの寝顔に。
柄じゃねェのにな、と思いつつも。
くすぐったさを胸に、ゾロも眼を閉じるのだった。
「……ゃす、み…ぞろ…」
・END・
2010/10/27UP