「んナぁミさぁぁぁん、ジュースですよぉぉぉ」
船に響く声とハートの嵐。
甲板から上甲板を見上げると、片手にトレイ片手にクルクルとハートを飛ばしながらナミにジュースを持って行くサンジの姿。
いつもの風景と言えば、いつもの風景だが、ゾロはそれを見て、深い溜息を吐いた。
「はぁ〜………なぁ、ルフィ」
「んぁ?何だ、ゾロ」
ゾロの傍でボーっとしていたルフィにゾロは声を掛ける。
それにボーっとしたまま返事をするルフィ。
恐らく眠いのだろう。
こっくりこっくりと船を漕ぎながら、今にもその大きな瞳は閉じてしまいそうだ。
「…お前、あれ見てどうも思わねェ訳?」
「あれ?」
くいっと首で指す先には、デレデレとナミと会談中のサンジ。
それを見ながら、ルフィは首を傾げる。
「どうって何がだ?」
「何って……」
きょとんとした様子のルフィにゾロはまた溜息を吐く。
「…だから。デレデレとしやがって、ムカつかねェのかって聞いてんだよ」
「ムカつく?何で?」
「何でって……」
「いつもの事じゃん。…サンジー!おれにもジュース!!」
言われた言葉に、そうだが、と納得するが。
「そりゃそうだけどよぉ…お前等付き合ってだろ?」
「付き合ってる?誰と誰が?」
「だ、誰とって……」
「?」
意味が全く解らない、と言う風なルフィに、ゾロは驚いてしまう。
「だって…お前、サンジの事好きだろ?」
「おぅ、おれはサンジが好きだぞ!」
おっかなびっくりに質問を投げれば、勿論!とニカっと笑って答えるルフィ。
ゾロは言葉を探しながら、続けざま質問を投げる。
「だよな。…んで、クソコックもお前が好きだって言ったんだよな?」
「おう!サンジもおれの事好きつったぞ」
「……………………あ〜…っと」
「?何だよ、ゾロ。変な奴だな」
それはこちらの台詞だ。
そう思いながらも、ゾロはそれは口に出さず、考える。
そして。
「……でも、付き合ってはいねェと」
「おう」
きっぱりと。
間髪入れず返答したルフィに、ゾロは思わず頭を抱えた。
それはどう言う事だ?
ルフィはサンジが好きで、サンジもルフィが好き。
それはきっと、仲間が好きとかそう言う事じゃなくて、つまりはそう言う事。
そう言う事だと…自分は思っていた。
別に男同士とか、そう言う偏見は特に持たなかった。
自分には縁遠い関係だが、でもまぁ、お互い納得しているなら、それで良いと思った。
何より。
ルフィが幸せなら、それで良いと思っていたから。
でも、どうやらそれは違う?
「何間抜け面してんだよ、マリモン。…ほれ、ルフィ。ご注文のジュースだ」
「おー!サンキュー、サンジ!!」
悩んでいたら、ルフィ用のジュースを持って現れたサンジ。
ジっとサンジを見ながら。
「おい、クソコック」
「ぁん?」
「…ちょっと来い」
「あぁ?何だよ?」
「良いから、ちょっとこっち来い!!」
「ぅわ、何だよ、テメ!!」
グイっとサンジの腕を引っ張って、ルフィから離れる。
ルフィは美味しそうにジュースを飲みながら、その光景に首を傾げる。
「んん?何だ、アイツ等??」
喧嘩か?と思いつつ、青い空を見上げる。
今日は穏やかで静かだから、多少の喧騒も良いかな〜などと思いながら。
「痛っ、いてェよ、クソ剣士!テメェの馬鹿力で繊細なおれの腕を掴むな!!何だってんだよ!!」
「お前、ルフィと付き合ってんじゃねェのか?」
「………は?」
強引に引っ張られる腕を力付くで引き剥がす。
見れば掴まれていた所は赤くなっている。
それに文句を言おうとしたが。
それよりも。
ゾロから紡がれた言葉に、文句は吹き飛んだ。
「お前、ルフィと、その…付き合ってんじゃねェのか?」
「は?…ゃ、お前、そんなきっぱりと……」
「照れるな気色悪ぃ。つか、ルフィは、お前と付き合ってねェつってたぞ」
「…………………は?」
言われた言葉に、微かに照れて。
それでも頷こうとした瞬間。
次に紡がれたゾロの言葉に、サンジは思考を停止させた。
「ぞ、ゾロ君…?お前、今何つったぁぁぁぁぁ!!!!!」
しかしすぐに持ち直し、ガっとゾロの胸元を掴んで叫ぶ。
「だ、だから!ルフィがテメェとは付き合ってねェつってたぞ?どうなってんだよ、一体?」
「あぁ??!!んだ、そりゃ!!!」
「こっちが聞きてェよ!お前とルフィって、そう言う関係じゃねェのかよ!!」
「そうだよ!何だよ、それ!!」
経緯を教えろと言えば。
取り合えず、手を離せと、手を払われた。
それに小さく「…悪ぃ」と答えながら、サンジはゾロの言葉を待った。
「さっきナミにジュース持ってってやってたろ。デレデレしてやがったから、ルフィにムカつかねェのかって聞いたんだよ」
「…余計な事をルフィに言ってんじゃねェよ」
「事実だろうが。つか、あの場所に居たら、嫌でも目に入んだよ」
「…チっ。……それで?ルフィは何つったんだよ」
「何で?」
「は?!」
「だから、『何で?』つったんだよ!!」
「何で…?」
「あぁ。『いつもの事だろ』って」
「……いつも……」
「凹むな。ウゼェ。そんでおれが『お前等付き合ってんじゃねェのか?』って聞いたら『付き合ってねェ』って…はっきり言ったぞ、ルフィの奴」
ゾロの言葉にズドーンと落ち込んだサンジに、ゾロはまた溜息を吐く。
今日は何回溜息を吐かねばならないのか、と思いながら。
「でもテメーの事は好きだつってたぞ?」
「でも付き合ってねェつったんだろ…?」
「あ〜…、まぁ、……きっぱりと」
こちらも容赦なく、きっぱりと言い放たれた。
それにまた落ち込んだサンジ。
どうしたもんかと、ゾロは逡巡したが、それよりも先にサンジがスクっと立ち上がった。
「ぉい…」
「確かめて来る」
「……は?」
「ルフィに確かめて来るつったんだよ!!」
「お、おい!」
そう叫ぶと、サンジは足音も派手に、甲板に居るルフィの元へ。
「おい、ルフィ!!」
「お?どした、サンジ??」
「おれとお前は恋人同士だよなぁ?!」
「は?どうしたんだ、急に」
「良いから、答えろ!おれとお前は恋人同士だよな」
「う、うん…そう、だけど……」
サンジの言葉に照れながらも、ルフィはコックリと頷いた。
「は?ちょ、ちょっと待てよ、ルフィ。さっきはお前、コイツとは付き合ってねェって……」
しかしそれに異を唱えたのは、後から追っ掛けて来たゾロ。
ゾロの言葉に、ルフィは目をぱちくりとさせなら。
「へ?だってゾロ、付き合ってるかって聞いたじゃん」
「そ、そうだけど…」
「おれ達、恋人同士だけど、付き合ってはねェよ。…な、サンジ」
「…………は?」
「…………あ?」
驚いたのはサンジとゾロ。
「…ちょ、ちょっと待て、ルフィ。お前恋人同士の意味、解ってんのか」
「馬鹿にすんな!知ってるぞ!恋人同士ってのはアレだ。好き合ってるって事だろ」
「でも、付き合ってはねェ、と」
「おう!!」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
ルフィの力一杯の言葉に、サンジもゾロも溜息も出なかった。
「…ぁ、あのなぁ、ルフィ。恋人同士つう事はだ。付き合ってるって事なんだよ、お付き合いしてるの、おれ達!」
「へ?そうなのか??」
「そうなの!!」
すでに涙声にも聞こえる、悲痛なサンジの叫び。
流石のゾロも気の毒に思ってしまう。
世間から浮世離れしているとは思っていたが、まさかここまでとは…。
「じゃぁさ、聞くけどさ、サンジ」
「あ?」
「お付き合いって、何すんの?」
「は?」
「お付き合いって、どうすんの?」
「どうって……」
「恋人同士と、何が違うんだよ?」
「それは…………」
ルフィから紡がれた言葉。
そう聞かれてしまえば、確定した言葉を持ってはいない事に気づいた。
「そ、それはだな〜…」
「おう」
「それは〜……」
「それは?」
「…………………………………………その人のモノになるって事だ」
「は?」
サンジから紡がれた言葉に、呆然としたのはゾロ。
何を言い出すんだ、この男は。
そう視線を送るが、サンジの言葉は止まらず。
「モノ?」
「そう!その人だけの人になるって事だ!!」
「ふ〜ん…じゃぁ、サンジはおれのモノなのか?」
「そうだ!」
「それじゃぁ、変わんねェな」
「………は?」
「だってお前。もうおれのモンじゃん」
「………………はぃ?」
「お前はもう、おれのモンだろ?」
「お、おぉ…?」
「じゃぁ、変わるんねェな!」
「ぇ、ぁ、ちょっ…ルフィ……?」
「あ〜、そう考えると、おれ、ゾロとも付き合ってるんだな」
「……………………………………………は?」
「だって、ゾロだっておれのモンだろ?」
「…は?ゃ、そう、だけど……」
「そう考えると、おれ、この船の皆と付き合ってんのか。は〜すっげェな!」
「否、ルフィ、それちが……」
「そっかそっか〜!ん〜、何か楽しいぞ!!」
すっきりとした様子でルフィは立ち上がり、伸びをする。
「そう言えばおれ、チョッパーに呼ばれてんだ!行って来るな!!」
「ゃ、ちょっと……待って、ルフィ……」
「じゃーなー!!」
タッタッタと走っていってしまった、ルフィは見送って。
ガックリと項垂れるサンジ。
「…つまり、だ」
「……………何だよ」
「ルフィは皆のモンっと」
「〜っっ、ルフィはおれのモンだ!!!」
・…END・
2010/06/17UP