「グハっっ!!!!」
「…あ」
的確に打ち抜かれた掌底。
それにクラクラしながら、衝撃でヨロヨロと黒子っちから離れる。
「す、すみません、黄瀬君…!」
顎をおさえてフラフラするオレに慌てた様子で近寄って来る、黒子っち。
見てないけど、きっと心配顔してるだろう、黒子っちにオレは何とか苦笑いを浮かべて。
「だ、大丈夫っス。ごめんね、黒子っち」
「黄瀬君が謝る必要ありません…!本当にごめんなさい。あ、あの…ボク…ボク、その…」
「ホント大丈夫っスから。黒子っちが気にする必要ないっスから」
シュンとして。
辛そうな顔をしてる黒子っちを見て、胸が痛む。
あぁ、そんな顔させたい訳じゃないのに。
「そんな顔、しないで。黒子っち。オレのほうこそ、ごめんなさい」
「謝らないで下さい。ボクが悪いんですから…」
「黒子っちが謝る必要なんてないっスよ。オレが…」
「黄瀬君は悪くないんです…!」
「黒子っち…」
「…ごめんなさい。いつもいつも」
俯いたまま、まるで何かに耐えるように。
黒子っちの拳が握られてる。
「…拳、そんなに強く握っちゃ掌傷つけちゃうっスよ?」
「……良いんです」
「良くないっス。黒子っちの手は、大事な手なんスから」
「黄瀬君…」
そっと黒子っちの手を握れば。
ビクっと微かに身体を強張らせたのが解って。
「今日のトコは、もっ帰ろっ。…ね?」
「………はい」
オレはそれに気付かない振りをして、繋いだ手をそのまま引く。
振り払われない事にこっそり安堵しながら、ゆっくりと歩き始める。
何気ない会話をしながら、黒子っちがさっきの事を気にしないように、細心の注意を払う。
いつもの場所で黒子っちと別れ、黒子っちが見えなくなるまで手を振る。
そして。
「…ハ・ァァァァァァァっ…」
思わず長いなっが〜い溜め息を吐く。
これで一体何度目だろう。
手を握るのは大丈夫。抱き締めるのも。
でもキスして、それを深くしようとすると、身体に触ったりしたりすると。
…イグナイトが飛んで来る。
きっと意識してやってる訳じゃないんだと思う。
その証拠に黒子っちは、オレの呻き声と共にビックリした顔をして、その後辛そうな顔をする。
必死に謝る黒子っちにオレは大丈夫だと苦笑いを浮かべて。
ごめんね、早かったね、ビックリしたね、と黒子っちに伝える。
それでも黒子っちは辛そうな、泣き出しそうな顔をする。
そして毎回言うんだ。
「違うんです」と。
でもそれ以上の言葉はいつも紡がれなくて。
オレはもうどうして良いのか解らなくなる。
それなら。
触らなきゃ良い、触れなきゃ良いって解ってるのに。
手を伸ばせば触れる所に居る、抱き締めればおずおずと回される腕とか。
そう言うのにたまらなくなって。
無意識に触れてしまう。抱き寄せてキスしてしまう。
もっともっと近づきたい。もっともっと触れたい。深く深く。
黒子っちにオレを刻み込みたい。
オレに黒子っちを刻み込みたい。
温もりだけじゃなく。深く深く、奥深くまで。
「…でも」
それはオレの勝手なエゴな訳で。
…黒子っちは違うのかな。
でも黒子っちもオレを好きだと言ってくれた。
手を繋ぐのも、抱き締めるのも許してくれる。
それ以上許してくれないのは…
「やっぱ本能的に男同士ってのに拒否感あんのかな…」
でもそれなら受け入れる事すらしてくれないような気もする。
応えてくれたって事は少なからずオレの事、好意的には見てくれてるって訳で。
「でも拒否られるって事はそこまでじゃないって事…?」
自分で言ってズーンっと凹む。
中学の時に告って、一時別れた?否、オレは別れたとは思ってなかったけど。
高校に入って、もう一回逢う事が出来て。
もう一度告った。
「今でも黒子っちが好きです」って。
で、黒子っちも泣きそうな顔して、「…ボクもです」って言ってくれた。
その時は幸せで幸せで。
高校は別れちゃったけど。でも繋がってるって思えて。
今だって時間を見つけては二人の時間を過ごしてる。
中学みたいにいつも一緒に居られないけど。
それでも中学以上の絆を感じてた。
感じてる、のに。
「…も、解んねーっスよ」
黒子っちが解らない。
ヤな事ならはっきり嫌だと、黒子っちなら言うだろう。
でもそれもなく。
ただイグナイトが飛んで来る。
それも意識的にやってるんじゃなくて、無意識で。
無意識でオレの事、拒否ってる…?
好きなのに。付き合ってるのに。
心の距離が遠過ぎて。気持ちの比重が違い過ぎて。
…挫けてしまいそうなオレが居る。
・
・
・
その後も特とした進展もなく。
モデルの仕事で東京に行けば、やっぱ黒子っちに会って。
電話やメールで距離を縮めた。
でも。
やっぱり怖くなって。
出来るだけ。黒子っちに気付かれない範囲でオレは黒子っちに触れるのを控えた。
黒子っちだって好きでオレにイグナイト飛ばして来る訳じゃないから。
オレが、オレさえ我慢すれば。
黒子っちにあんな顔させないで済む。
「…ぁの、黄瀬君」
「ん?なぁに?黒子っち」
「その…」
僅かな逢瀬の時間。
駅までの僅かな時間を一緒に過ごしていると、黒子っちがオレを呼ぶ。
オレが返事をすれば、珍しく言い淀む黒子っち。
何だろう、と首を傾げて黒子っちを見れば。
いつもは真っ直ぐオレの目を見て話す黒子っちが、視線を彷徨わせて。
「あの、ですね」
「うん。どうしたの?黒子っち」
「え、っと…」
「?」
「その…」
言い難そうに、でも懸命に言葉を紡ごうとする黒子っち。
黒子っちが言い淀むなんて珍しいな、と思いながら。
オレは急かす事なく黒子っちの言葉を待つ。
「…き」
「き?」
「……………」
「?どうしたんスか、黒子っち。『き』何?」
「黄瀬君」
「あ、オレ呼ぼうとしたの?うん、なぁに?」
「…き」
「うん」
「き、…」
「??黒子っち??」
「き―――、まつテストですね、そろそろ」
「ぅん?あ〜、そう言えばそっスね。…ハーっ、気が重くなるっスね〜」
「…そうですね」
「?そんな落ち込むほどヤなんスか」
「そう言う訳、じゃないんですけど…」
「でも黒子っち、良くもないけど、悪くもないじゃないっスか」
「…気にしないで下さい。自分の不甲斐なさに打ちのめされただけですから」
「??」
言い淀んだと思ったら、紡がれた言葉。
確かに気の進む話ではないが、事の他肩を落とす黒子っちの様子に慌てたら。
苦笑いを浮かべて、またオレのよく解らない言葉が飛び出す。
「え、っと、黒子っち…?」
「それでですね」
「ぅん?」
「ボクも、そろそろ試験期間に入るんです」
「やっぱ何処も試験期間は大体一緒なんスね」
「はい。それで…」
「?」
「学校違いますが、一緒に勉強しませんか…?」
「え、良いんスか?!」
「良いも何も…ボクが誘ってるんですが…」
「黒子っちが迷惑じゃなければ是非!オレの頭じゃ、黒子っちに勉強教わる事になると思うっスけど」
「ボクも教えてあげられるほど頭良くないです」
「オレよりはマシっしょ?じゃぁ…」
どっか図書館とかで、と言おうとしたオレの言葉を遮って。
「黄瀬君の家にお邪魔しても良いですか?」
「…え゛」
黒子っちから言葉にオレは思わず動き・思考共にストップさせる。
嫌々。いやいやいやいや、待って、黒子っち。
黒子っち、知ってるっスよね?
オレん家が両親共働きなの。しかも休日も何もない、つうか休日こそ家に居ないって。
2人っきりになるんスよ?
解ってるんスよね?解って言ってる?否、黒子っちの事だから解ってない可能性の方が…。
「…駄目、ですか?」
「い、いや、駄目じゃないんスけど…」
「けど?」
「えーっと…多分親、居ないと思うんスけど」
「はい。お仕事でいらっしゃらないんですよね?」
「っス。それでも良いんスか?」
「それはどう言う意味で?」
「どう言うって………」
まさか2人っきりっスよ?とか、オレ色々我慢出来る自信がないとか。
…言える訳なくて。
「た、大したおもてなし出来ないと思うんスけど」
「そんな気を遣わないで下さい。ボクは全然気にしません」
「そ、そっスか…」
「はい。なので是非、黄瀬君の部屋でお願いしたいです」
嫌々!んな簡単に頷いちゃ駄目っスよ!!
密室で2人っきりとか、オレ、襲い掛からない自信ないっスから!
んで拒否られても止められる自信ないっスから!!
「え、っと…黒子っちの家は不味いんスか?」
「…母が居て、集中出来ないと思いますから」
その方が良いんスよ!!
誰も居ない、2人っきりの部屋とか、据え膳みたいじゃないっスか!!
今からでも遅くない、部屋が散らかってるとか模様替えの途中とか何か理由つけて黒子っちの家か別の場所で…!!
「黄瀬君の部屋に行くの、中学以来ですね。…楽しみです」
「〜っっ」
言えない!んな嬉しそうな顔してる黒子っちに言える訳ないじゃないっスか!!
「あ、あはは、何も面白いモンなんて、ねーっスよ?」
何とか出来た事と言えば。
乾いた笑いを浮かべるだけだった。
・
・
・
「お邪魔します」
「…いらっしゃーい」
結局黒子っちに言い出せず、迎えた当日。
最後の頼みで親に土曜日在宅の希望を託したが。
やっぱ仕事で出掛けてしまい、どうしようどうしようと思ってる内に時間になってしまった。
時間通りに来た黒子っちを玄関で出迎えながら、変わらない様子の黒子っちを見つめる。
あれかな。黒子っちにとってはコレは男友達とテスト勉強するのと変わらないのかな。
それともオレなら嫌がったら止めてくれるって思ってるのかな。
…どっちにしろ、黒子っちは解ってない。
オレだって、男だって事。…同じ男なら解ってくれてると思うんスけど。
安全だと思われてるのかな。
「…黄瀬君?」
「…へ?」
「ボーっとしてるようですが、どうしたんですか?」
「あ、あぁ…オレ飲みモン用意して行くんで、先に部屋行ってて」
「はい。あ、でもお構いなく」
「そうはいかないっスよ。大切な黒子っちっスから」
「…有難うございます」
自分の思考に没頭してたら。
黒子っちに呼び掛けられて我に返る。
オレは慌てて黒子っちに部屋に行くよう話して、キッチンへと向かう。
「…ハー、危ない危ない」
ジュースとお菓子を用意して、深く溜め息を吐く。
何度も自分に落ち着けと言い聞かせ、危ない思考を追い払う。
そして覚悟を決めて自分の部屋へと向かう。
「黒子っち、お待たせ〜」
なるべく平静を装って部屋に入れば。
部屋の中央に用意したテーブルに教科書やらノートを出して、ちょこんと座ってる黒子っちの姿。
そんな姿も可愛いな、と思いながら。
オレも黒子っちの傍に腰を落とす。
…気付かれない程度の距離を開けて。
「黄瀬君の学校の範囲って何処ですか?」
「オレんトコはココまでっスね」
「あ、同じくらいですね」
そんな会話をしながら、お互い勉強を開始させる。
でもオレは全然教科書の内容なんて頭に入って来なくて。
…近くに黒子っちが居る。
その気配にばっか集中してしまい。
全然勉強に身が入らない。
「……………」
「…黄瀬君」
「っ、な、何?!」
ボーっと黒子っちの横顔見てたら。
急に話し掛けられ、思わず力一杯返事してしまった。
黒子っちはそんなオレに微かに驚いた様子で。
「全然進んでないみたいですけど…何処か解らないんですか?」
「あ、あぁ、ぅん。えっと、ちょっとココの公式、どれだったかなーと思って…」
「どれですか?」
「こ、ここっス…」
聞かれて、思わず目に入った数学の公式を指差す。
すると黒子っちはオレが開けてた距離を一気に詰め、教科書を覗き込む。
「あぁ、これなら解ります。これは、この公式を…」
「……………」
手を伸ばせば触れられる距離に、黒子っちが居る。
手を、伸ばせば…。
「…瀬君?」
「…っ!」
思わず手を伸ばそうとした時、黒子っちがオレを見る。
思ったよりもずっと近い距離に黒子っちの顔。
見つめ合ったまま、無言の時間。
オレは吸い寄せられるみたいに黒子っちに顔を近づけて。
「……………」
「…んっ…」
零れる、吐息。
唇に伝わる、黒子っちの温もり。
嫌がってないかな、勉強しに来てるのに、こんな事して怒ってないかな、とチラリと微かに目を開けば。
…目の前に頬を赤くした、見た事ない、色っぽい顔をした黒子っち。
それにクラクラして。
スっと指を黒子っちの頬に滑らせる。
サラリとした柔らかい黒子っちの頬。真っ赤だからなのか、熱い。
その指を滑らせた、瞬間。
「ガっっ…!!」
「あ…!」
…的確に貫かれた顎先。
「〜つぅっっ」
「す、すみません、黄瀬君!」
「てててて…」
「!血、血が…」
「へ?あ、あぁ…」
口に広がる微かな鉄の味。
どうやら舌を噛んだみたいだ。
「たいひょうふっ…っ、舌噛んだみたいっス…はは」
「……………」
「勉強しに来てくれたのに、ごめんね、黒子っち」
「……………」
「えっと、教えてくれてた奴っスけど…」
「……………」
何とか雰囲気を戻そうと言葉を紡ぐが。
黒子っちは俯いたまま、何も言わない。
あ、あれ…?
もしかして怒って帰っちゃうとか?!
こんな雰囲気のまま帰すとか、無理なんスけど!!
「黒子っち…?」
どうしようかと思ってたら、黒子っちがクルっと身体を反転させ、ゴソゴソと鞄を漁っている。
えぇ、マジで帰るとか言い出されたら…!!
「黄瀬君、あの…」
「ご、ごめんっス!!あの、もう絶対こんな事しないから…!!」
慌てるオレに、黒子っちはスっと鞄から出した物をオレに差し出す。
「帰んな……って、何スか、コレ?」
「ネクタイです」
「あぁ、帝光の。懐かしいっスね」
「はい」
「で、これがどうしたんスか?」
「これで、縛って下さい」
「縛っ…え、何をっスか??」
「ボクを、これで縛って下さい」
「は、はぁぁぁ???!!!」
言われた意味を理解出来てないオレを置いて。
黒子っちがスっと両手を差し出す。
「ボクの手首を縛って下さい」
「い、嫌々!!意味解んないっスよ、黒子っち!!」
「君を傷つけないように。…僕を縛って下さい」
「!?ちょっ、ふざけんなよ!!」
「だって、ボクはいつも君を傷つける!縛ってしまえば…」
「だからって黒子っちが傷ついて良い訳ないだろ?!オレだって黒子っちを傷つけたくない!!」
「でも…」
「それに…こう言う事は無理強いする事じゃない!黒子っちは良いって言うまで…黒子っちの嫌がる事、しないから…」
「嫌じゃないんです…ヤな訳、ないじゃないですか…」
「え…」
「嫌じゃないんです。君に触れられるのは、その…ぅ、嬉しい、です」
「じゃぁ、何で…」
「……………」
黒子っちの言葉に茫然としながら、確認するように問えば。
黒子っちは俯いたまま、何も言わない。
「嫌じゃないんです…。だから……縛って下さい……」
「…ヤじゃないなら、縛る必要ないじゃないっスか…」
「いいえ、ボクはきっとまた。君を殴ってしまう…」
「だから。無理、しなくて良いんスよ?」
「無理じゃないんです!!」
「黒子っち…」
何処か意固地になってる気がする。
それでも。
縛ってまで、オレは黒子っちと結ばれたいとは思わない。
そんな…そんな一方的な事、したくないんだ。
どう言えば、黒子っちは解ってくれるだろう。
「君と…一つになりたいんです…」
「!!」
「だから。…お願いです…」
もし。
もしこれで断れる男が居たら、見てみたい。
こんな…好きな子に、こんな事言われて。
「…っそ!」
オレは差し出された手首に、グルっとネクタイを巻き付け。
そのままベットへと黒子っちを移動させる。
そしてベットヘッドに残りのネクタイを結び付ける。
「…先に言っとくけど。もう泣いても喚いても、途中で止めてあげれないっスから」
「……はい」
最後通告のつもりでそう言っても。
黒子っちは静かに頷くだけで。
やっぱ嫌だって。無理だって言って欲しかった。
オレも覚悟を決めて、黒子っちの身体に覆いかぶさる。
「…っ」
おでこ、頬と唇を落として。
そのまま首筋に移動すれば。
黒子っちは息を詰めて。
反射的になのか、ギシっとベットが軋んだ。
チラリと見れば、多分手が動いたんだろう。
けれどネクタイで縛りつけられた手は動く事が出来ず。
ギシギシとベットが軋むだけ。
「…ぁ…」
スっと身体のラインを探るように手を動かせば。
小さな悲鳴のような声が聞こえて、またベットがギシギシと鳴る。
そこで。
「…っ、っぱ無理っス!!」
オレの良心だか、何だかが限界に達した。
「き、せく…」
「こんなのただの強姦じゃないっスか!!オレ、こんなんで黒子っち抱きたくな……」
言い終わる前に、ポロリと涙が零れる。
悲しいんだか、悔しいんだか解らない。
だた思うのは、オレは黒子っちと結ばれたい。
けどそれはこんな風じゃなく。
お互い求めて、求められて。
身体だけじゃなく、心も一つになりたいって事。
でも、こんなの違う。
こんなの…オレが望んでた、待ち焦がれてた行為じゃない。
「黄瀬君…泣かないで下さい…」
「泣いて、なんかない、っス…」
「ごめんなさい…ごめんなさい、黄瀬君」
「ぁやま、謝んないでよ、黒子っち。…オレ、待つから」
「ま、つ…?」
「黒子っちが、覚悟出来るまで。オレに抱かれても良いって思うまで。ずっとずっと待つ、から」
「黄瀬君…」
「ずっとずっと好き、だから。だから、ゆっくり、一緒に居よ?ね?」
オレがそう言うと、黒子っちはゆっくりと首を振る。
「え…?く、黒子っち…?」
「待つ、必要なんてない、です」
「な、で…?それは…どう言う、意味?」
指先が冷たくなるのが解る。
指先だけじゃない。身体全部、血液まで冷たくなる感じだ。
嫌われた?オレの事、嫌いになっちゃった…?
「覚悟なんて、とっくに出来てます。ボクは。黄瀬君なら、黄瀬君になら、抱かれても良いと思ってます」
「な、ら…どうして…」
「…怖い、んです」
「だから、オレ待つって…」
「違うんです。その、待つ、じゃないんです」
「どう言う…?」
黒子っちの言ってる意味が解らない。
訳が解らず黒子っちを見れば。
オレが解ってないの解ってるみたいで、悲しそうに辛そうに言葉を紡ぐ。
「ボクは……女の人みたいに柔らかくない。胸だってないし」
「え?」
「ボクに触って。黄瀬君がボクを男だと、固いしかない男だと解って。離れてしまう事が『怖い』です…」
思いがけない言葉で、オレは理解が追いつかなかった。
茫然とするオレに、黒子っちは涙を流したまま。
「……ごめん、なさい」
「……何で謝るんスか?」
「ボクのエゴで君に嫌な思いをさせました。…すみません。これ、外して下さい」
悲痛そうに謝る黒子っちに、オレはゆっくり優しく、黒子っちが怯えないように抱き締める。
強張った身体が、緩和するまで。優しく、優しく。
「黄瀬…君…?」
「…オレの方こそ、ごめんね。黒子っち」
「な、んで君が謝るん…ですか…?」
「オレ、黒子っちの事全然解ってなかった。不安になってるって事とか、全然、解ってなかった…」
少し顔を上げ、黒子っちの涙の痕を指で拭う。
そして黒子っちと目を合わせたまま、笑う。
まだ涙が残ってて、格好良いとは言い難い笑顔だったかも知れないけど。
黒子っちが安心するように。少しでも、黒子っちに伝わるように。
「そんな不安、吹き飛ばすから」
「え…?」
「そんな不安吹き飛ばすくらい、黒子っちの事愛すから。オレがどんだけ黒子っちを好きか、黒子っちだけか」
「…黄瀬君…」
「そんで、そんな不安なくなって、オレで良い、オレに触られても良い、って思ってから、シよ?」
「…っ、黄瀬く……黄瀬君が良いです…ボクは、黄瀬君が…っ…」
「うん。だからこれ以上ないってくらい愛してあげる。まだ時間はたっぷりあるんだからさ。…焦らないで、オレ達のペースで一緒に紡いで行こう?」
そう言って、オレは黒子っちを縛っていたネクタイを外す。
「あ〜…痕になっちゃったっスね…痛かったよね?」
赤黒く残ってしまった手首の後を、何度も撫でて。
もっと早く止めれば良かった。
綺麗な黒子っちの肌に痕を着けてしまった事を後悔してたら。
「…黒子っち?」
ポスン、とオレの背中に温もり。
振り返ろうとしたら、どうやら黒子っちがオレの背中に顔を押し付けてるみたいだった。
「…ごめんなさい、ごめんなさい。黄瀬君」
「もう謝るの止めよ?キリがないっスよ」
なるべく気安く聞こえるように、苦笑い交じりに言えば。
「…そう、ですね。じゃぁ、これだけ言わせて下さい」
「ん?」
「有難う、黄瀬君。ボク、君を好きになって良かったと思います」
これ以上ない黒子っちの言葉に。
オレはゆっくりと微笑んで。
「…有難う。オレも黒子っち好きになって良かった。こんな優しい気持ち、知ったんスから」
身体を重ねる事は出来なかったけど。
でもそれ以上に心を重ねる事が出来た。
こうして少しずつでも、ちょっとずつでも。
時間を重ねて、心を重ねて。
黒子っちに近づきたいな。
んで、いつか身体も重ねられたら良いな、と思った。
「…それでは勉強しましょうか」
「え゛、ココはあの、もうちょっといちゃいちゃする雰囲気じゃないんスか?」
「充分しました。期末テストも近いんですから。さ、勉強しますよ」
「……はぁ〜い」
黒子っちは何処までも黒子っちだな、って思った。
・END・
2012/11/20UP