「…オレにしときゃ良いじゃないっスか」
……ぁれ?オレ何でこんな事、黒子っちに言ってるんだっけ?
夕暮れの教室。
教室にはオレと黒子っち2人きり。
まるでドラマのワンシーンみたいだ。
そんな事を考えながら、オレは今日この日、さっきの台詞を言うに至った経緯を考えた。
…あぁ、そうだ。
今日は確かテスト期間で練習が休みで。
本当は帰ってテスト勉強しなきゃいけなくて(笠松先輩にも1個でも赤点取ったらシバくって言われたし)
でも仕事の打ち合わせもあって。
すぐ終わるって言われて、渋々東京まで出て。
本当に仕事の打ち合わせは終わって。
これですぐとんぼ返りするのも何となく勿体ない気持ちになって。
携帯を開いて。
(…もう帰っちゃったかな)
多分誠凛高校もテスト期間で部活休みだろうな、とか考えて。
でも帝光時代、こっそりバスケしてた事を思い出して。
もしかしたらまだ学校に居るかも知れない。
微かな希望を抱いて、黒子っちの居る誠凛高校へと足を向ける。
案の定、生徒が疎らに下校していて。
もしかしたら居るかも、と希望は期待に変わって。
以前校門で待ってたら、誠凛の女生徒に見つかって、ちょっとした騒ぎになった。
その時黒子っちに。
「君はもうちょっと、自分が目立つ事を自覚して下さい」
と言われた。
またあんな騒ぎになったら、きっと。
「…もう、君出入り禁止にします」
なんて言われかねない。
…ぅん。想像したら、すっげーリアルに想像出来て、オレ今ちょっと泣きそう。
そう思って、隠れながら誠凛高校へ近づく。
これじゃぁまるで不法侵入者だ。
や、まぁ誠凛高校の生徒じゃないオレがこうして誠凛高校敷地内に入るのは不味いのは解ってるけど。
でもちょっと黒子っちが通う学校ってのも興味があって。
オレは気が付いたら校舎の中へと入っていた。
黒子っちに見つかったら、お説教だろーなーなんて思いながら、人目を避けて進む。
確か黒子っちのクラスは1年B組。
まだ居るかな?
そんな事を考えながら、目指すは1年B組。
キョロキョロしながら廊下に出てるプレートを確認してると。
「…あ」
あった。
1年B組。
黒子っちは居るかなーと教室を覗こうとしたら。
「…だろ?」
「……出来ません」
微かな話声。
この声は黒子っち、……と火神っち?
思わずサっと身を潜めて。
聞き耳を立てるが、声ははっきりとしない。
…何を話してる?
「……お前だって、本当はもう解ってるんだろう?」
「……何を、ですか?」
「この期に及んでシラバックれんのかよ」
ドアから離れた所で話してるのか。声が遠い。
それでも聞こえた声に、耳に全神経を集中させて。
そして。
「……好きだぜ」
「…っっ」
火神っちの声で聞こえた、『好き』の言葉。
オレは思わず叫びそうになった。
でも何とか自分の手で口を塞ぎ。
あわや叫びそうになるのを何とか食い止めた。
息を止め、バクバクと心臓が鳴る。
く、黒子っちは?黒子っちは何て答えたんスか?!
えぇい、ドアが意外にも分厚くてよく聞こえない!!
それでもオレは、何とかドアの向こうの声を聞き取ろうと、ドアに張り付く。
結果、聞こえて来た声は。
「…考えさせて下さい」
小さな、黒子っちの声。
その言葉にオレは、全身の血が冷たくなったのを感じた。
“カンガエサセテクダサイ”?
…中学時代から、オレは黒子っちに恋してた。
けど、男同士。
友達でも良い。この気持ちを知られて疎遠になるくらいなら、この気持ちを隠したまま、黒子っちの傍に居たい。
そう思ってたオレは、ずっと自分の気持ちに蓋をしていた。
傍に居られれば良い。呼べれば良い。それに返事してくれて、他愛もない会話をして。
たまにどっか出掛けられたり、休日にバスケ出来たり。
贅沢は言わない。
だってきっと黒子っちは男からのそんな好意、嬉しくないはずだから。
なのに。
…なのに、何で?ソッコー断るんじゃないんスか?
それとも火神だから?火神だから、考えるんスか?
やっぱ黒子っちにとって、火神は特別なんスか?
「……ちゃんと、答え出せよ」
「………はい」
考えに没頭してたオレは、その声に我に返る。
火神っちがこっちに向かって歩いて来た。
オレは慌ててドアから離れ、隣の教室に身を隠した。
そんなオレに気付きもしないで。
火神っちは廊下を歩いて行く。
何で、どうして、が頭をグルグルと巡る。
それは黒子っちに対しても、火神っちに対しても。
どうしてすぐ返事しなかったんスか。
どうしてオレが出来ない事、アンタはすぐ出来るんスか。
どうしてオレじゃ駄目なんスか。オレをアイツの、何が違うって言うんスか。
どうして黒子っちのバスケとしての相棒だけじゃなく、隣まで奪おうとしてんスか。
繰り返す、何で、どうして。
オレはゆっくり教室から出ると、また黒子っちの教室を覗く。
黒子っちは席に座って、窓の外を見てる。
カタンって、火神っちが開きっ放しにしてったドアが音を立てて。
「…っ、き、黄瀬君?!」
「こんちわっス」
「ど、どうして君がココに…!」
珍しい。
黒子っちが慌ててる。いつだってオレが突然現れても。
微かに、目を見開く程度。それなのに、今は。
まだ、火神からの告白で動揺してんスかね。
そう考えたら、イラっとして。それから胸がチリっと痛む。
怯えて言えないオレが悪いのに。言えたアイツが凄いとは思いたくなかった。
それに、オレじゃどうしても崩せない黒子っちの表情を、アイツがいとも簡単に崩すのも。
…正直悔しくて堪らない。
「仕事の打ち合わせがあって。すぐ終わっちゃって、勿体ないから黒子っちに会いに来たっス」
「れ、練習は…」
「テスト期間で休みっス。黒子っちんトコもそうでしょ?」
「そ、そうですね…」
「黒子っちは?テスト勉強で残ってる訳じゃないっスよね?」
「ボクは…」
それっきり俯いてしまった黒子っちに、オレも口を閉ざす。
…意地悪な質問だ。
一部始終知ってるのに。
「…何か、ちょっと懐かしいっスね」
「懐かしい?」
「放課後の教室に2人とか。中学時代は結構あったじゃん?」
「そう…ですね」
「でもあの頃とは違う。オレも黒子っちも、違う制服着て」
「…他校に勝手に入って来ちゃ駄目ですよ」
「それ今言うんスかー?」
ゆっくり歩いて、窓側に行く。
見下ろした校庭は夕陽で赤く染まっていて。
ガランっとしていて、誰も居ない。
「…昔、さ」
「?」
「放課後、まだバスケ部に入る前。誰も居ない教室に残って、校庭見てた事あるんスよ」
あの頃。
何もかもがつまらなかった。燻ってた。
スポーツは好きで、結構見境なくなんでもやってた。
でもしばらくすると皆諦めちゃって。
結局いつも独りだった。
友達は居た。でも深く関わる事もなく。
モテもした。モデルって肩書きも。この顔も。とても役に立った。
けど、独りだった。
「校庭見て、野球部だったかな?練習見てて。セイシュンしてんなー、ダッセーって思ってた」
本当は羨ましかった。
誰かと競える事。誰かと共有出来る事。
オレにはそれがなかったから。出来なかったから。
「…ほんとはオレも、そうしたかったのに」
「…黄瀬君」
「でもね、それから青峰っちのプレイ見て。バスケ部入って、皆に会って。…今なら、あーアレがセイシュンって奴かーって思えるっス」
「まだ青春真っ只中じゃないですか」
「はは、そうっスかね?んー、そう、かもね」
「……海常、楽しいですか?」
「そうっスね。海常の皆とやるバスケは楽しいっス」
「そうですか」
「…黒子っちは?」
「え?」
「黒子っちは楽しい?セイシュン、してる?」
オレの言葉に、黒子っちは柔らかく笑って。
「…そうですね。楽しいです。青春、してますよ」
その言葉に、やっぱり嬉しいと同時にツキンと胸が痛くなる。
その青春の中に、オレは居ない。
「あー、バスケしてぇ…」
「学生ですからね。勉強も、大切です」
「っスねー。勉強に部活。ほんと、セイシュンっスわ」
オレの言葉に笑う黒子っちに。
オレはゆっくり黒子っちに向き合って。
「そんでさ?後一個、セイシュンあんの、知ってるっスか。黒子っち」
「え?後一個ですか?」
「そっ」
「…何でしょう。解りません」
少し考え込む仕草をして。
解らないと真っ直ぐオレを見る。
オレは微かに笑って。
「…恋愛」
「っ、…恋愛、ですか」
「そっ。黒子っちは、恋してる?」
「と、突然ですね」
「そっスか?…で。答えは?」
「そ、れは…」
言い淀む黒子っちに。
オレは近くにあった机に軽く腰を落として。
「勉強はそれなり。部活はがっつり。んで、恋愛もしてたら、パーフェクトだと思わないっスか?」
「な、にが…」
「セイシュン」
「……………」
「ねぇ、黒子っち」
「…はぃ、何ですか…」
「…オレにしときゃ良いじゃないっスか」
「…っ」
オレの言葉に。
黒子っちが息を飲んだのが解った。
そりゃそうだ。
「ば…馬鹿な事言わないで下さい。君もボクも…男じゃないですよ」
「良いじゃないっスか。当人同士の問題っスよ」
「君は…モテるでしょう。可愛い女の子もたくさん……」
「そりゃオレは何でも出来ちゃうし、女の子にもモテちゃうけど」
「…サラリと自慢しないで下さい」
「こう見えても、結構真面目に言ってるんスよ?」
「…っっ」
強張るのが解った。
…可哀想な黒子っち。
一日で二回も告白されるなんて。…それも男から。
「き、みは…」
「?」
俯いて。
強く拳を握ってるのが解る。
あぁ、そんな風に強く握ってしまったら、掌が傷ついてしまうな。
黒子っちの手は大切なのに。
魔法みたいなパスを出す、大切な手、なのに。
「っ、そんな…そんな言い方…!!」
あぁ。
やっと黒子っちの表情を崩す事が出来た。
こんな形で伝えたくなかった。
こんな形で別れたくなかった。
出来る事ならこの先も。
黒子っちの隣に居たかった。
他愛もない事で笑って。時々バスケして。
そんな、何処にでもあるような日常を、他の誰でもない、黒子っちと作りたかった。
ただ隣に居るだけで良かったのに。
女の子に取られるなら、…諦められた。
多分。…きっと。
その子の隣で、黒子っちが幸せならそれで良いと思った。
でも。
同じ男なら。火神っちなら。
…考えただけで駄目だった。
だってオレと同じじゃないか。
オレと同じで、何が違う?
外見?性格?バスケのスタイル?
確かに全然違うかも知れない。
…でも男だ。
オレも火神っちも同じ。男だ。
ねぇ、黒子っち?
オレの何が嫌?何が駄目?
アイツとオレの、違いって何?
「…ごめんね?オレ、帰るっスわ」
聞けない。聞ける訳ない。
これ以上この空間に耐えられなくて。
黒子っちからの決別の言葉なんか聞きたくなくて。
オレはゆっくり腰を上げて、教室を出ようとした。
そしたら。
「君は…っ、そうやって軽く、言います、けど…!」
軽く?
違う。スマートに見られがちだけど。
中身なんてドロドロだ。
でもそうしないと耐えられない。
「君はそんな火遊びみたいな気持ちで言ってるかも知れませんが!ボクは、ボクは…!!」
「っ、火遊びみたいな気持ちで何か言ってねェよ!じゃぁ、何?真剣に言ったら応えてくれんの?絶対オレを選んでくれないくせに!!」
友達としてしか見てないなんて言葉要らない。
だってそう思ってもらうように接して来たんだ。
そうなれるよう、努めて来たんだ。
でも本当は違う。
他の誰でもない、黒子っちに。黒子っちの。
唯一無二になりたかった。
だけど、でも。
「…選びますよ」
「え?」
「君が真剣に。本気で。そう言ってくれるなら。…ボクと同じ気持ちなら。ボクはそれに応えます」
「な、に言って……」
選ばれないと思ってた。
中3の時に消えた君は。最後までオレを選んではくれなかった。
高1で会った君は。やっぱりオレじゃない誰かの隣に居て。
オレはいつまでも、友達でも何でも。
黒子っちの唯一無二になれないんだと。
「オレが真剣に、本気で、黒子っちが欲しいって言ったら。応えてくれるって言うんスか?」
「…はい」
「友達とか親友じゃないんスよ?友情とか親愛じゃなくて、愛情で、…応えてくれるって言うんスか?」
「……はい」
「抱き締めても良いの?キスしても良いの?…それ以上の事、しても良いの?」
「………い、きなりは無理ですけど。その、…時間を頂ければ」
「〜〜〜〜〜っっ」
選ばれないと思ってた。
選んでもらえないんだと。
だから友達になろうとした、親友になろうとした。
誰より近い距離で傍に居て。
幸せな君を見て居たかった。
それで良いと思ってたんだ。
そう思おうとしてたんだ。
だって、そうしないと耐えられない。
「ぅわっ、ちょっ…苦しいです、黄瀬くっ…!」
「好き」
でも言っても良いんスか?
蓋をしなくても良いんスか?
「好きっス。中学から、ずっと…ずっと黒子っちが好きです。黒子っちだけが…好きっス」
「…はい。……ボクも好きですよ。黄瀬君」
幸せって、多分そんな遠い場所にあるんじゃなくて。
今居る場所から。
一歩、勇気を出した一歩のその先にあるんじゃないかって思う。
「…だから、そろそろ放してくれませんか?見つかると、その」
「ヤっス。…ずっと、ずっと我慢してたんスから」
「…じゃぁ、あの、力を、その…もうちょっと緩めて下さい。そろそろ息が苦しくなって来ました」
「…逃げない?」
「逃げませんよ」
「……火神っちの所にも?」
「…何でそこで火神君が出て来るんですか」
「あの、…実はオレ、さっき聞いちゃったんスよ」
「?何をですか」
「黒子っちと火神っちの会話」
「あ、あぁ…だから言う気になったんですか」
「っス。…本当は言うつもりなんかなかったんス。…けど」
「ふふ、じゃぁ火神君には感謝しなきゃいけませんね。ボクも言う気がなかったですから。自信も確証もありませんでしたし」
「う〜……まぁ、そう、っスね」
「?何でそこで不満げな顔するんですか」
「だって。……火神っちの事、ちゃんと断ってね」
「断るって……何をですか?」
「何って…火神っちの告白!!!」
「告白?火神君、誰かに告白したんですか?」
「火神っち、黒子っちに告白したじゃないっスか!聞いてたんだから、隠さないで欲しいっス!!」
「え、されてませんよ。君、何言ってるんですか?」
「…え?」
「え?」
お互い顔を合わせて。
「だ、だって教室で火神っち、黒子っちに言ってたじゃないっスか。『好きだ』って」
「あ、えぇ、はい。言ってました」
「ほら、告られてんじゃないっスか!」
「違います。火神君が言ってたのは、君の事ですよ、黄瀬君」
「へ?オレの事?」
「黄瀬君がボクの事好きだろうって」
「え…だって『好きだぜ』って」
「はい。『黄瀬はきっとお前の事好きだぜ』って」
「え?」
「え?」
言われて。
何か今、脳内フル活動させて。
カァァァと顔が赤くなるのが解った。
オレは黒子っちから手を放して、手で顔を覆ってしゃがみ込む。
「えー…じゃぁオレ勘違い?しかも火神っちに解っちゃうほど、あからさまだった?」
「…解りません。ボクは、その…解りませんでしたから。…それで火神君に、その…好き合ってんだから、黄瀬君に聞いてみろって」
「それはそれで〜……」
じゃぁ、アレっスか。
『答え出せよ』ってオレに対してっスか。
オレに対してなんスか!!
解り難いんスよ!!!
「火神君に報告しないといけませんね」
「…そうっスね。ついでに牽制もしとくっス」
しゃがみ込んだオレに、黒子っちが手を伸ばして。
「する必要ないと思うんですけど」
そう言って笑った黒子っちの顔は。
今までみた事ないくらい綺麗な笑顔で。
絶対手に入らない、選ばれないと思ってたのに。
…今は手を伸ばせば届く、選ばれたんだって。
「さぁ、帰りましょう。先生にバレる前に」
「っスね。…あ〜、綺麗な夕陽っスねー」
「青春、っぽいですね」
「っスね!」
・END・
2012/11/15UP