「くーろこっち!」
「…また来たんですか」
「相変わらず素っ気ないっスねー、黒子っち。折角オレが会いに来たのにぃ」
「頼んでません」
「も〜…」


勝手に会いに来た黄瀬君の勝手な言い分に溜め息を吐く。


「黒子っちはホントにツレないっスね〜。オレ達、親友じゃないっスか〜」
「君と親友になった覚えはありません」
「ひどっ!オレ、黒子っちの事大好きなのにー…」


この言葉にピクリと眉が上がる。
黄瀬君はよくボクにそう言う事を言う。
彼は解ってないのだ。
君がボクにその言葉を言う度に、ボクがどんな気持ちになるかなんて。


「…黄瀬君」
「ん?何スか、黒子っち」


ボクが呼び掛けると、黄瀬君はニコニコと返事をして来る。
その表情・態度にボクは微かにイラっとする。
彼は何も悪くない。それは解ってるけど、でももうすみません。
…もう限界なんです。


「……ボクは君の事を友達だと思った事はありません」
「え?く、黒子っち…?」
「ボクは君を、友達だとも、ましてや親友だとも、思った事はありません」


ボクの言葉に黄瀬君は固まって。
ボクを凝視したまま、言葉を探してるようだった。
先程の笑みが顔に張り付いたまま、でもそれはゆっくりと歪んでいって。


「く、黒子っちは、オレの事、…嫌い、なんスか?」


泣き出しそうな顔をして、彼は何とかその言葉だけを紡ぐ。
その言葉にボクはキュっと唇を結んでから、ゆっくりと、覚悟を決めるように口を開く。


「いいえ。…ボクは黄瀬君の事、嫌いじゃないです」


ボクがそう言うと、黄瀬君はあからさまにホっとした表情を浮かべた。
その表情にボクの胸は微かに痛む。
でもボクはその胸の痛みを無視して、覚悟を決めて言葉を続ける。


「ボクは黄瀬君の事が好きです」
「!じゃ…」
「でもそれは。友達としてじゃないです」
「…え?」
「ボクは。友達としてではなく。黄瀬君が…好きです」


彼にも伝わるように、一つ一つ言葉を区切って言う。
ジっと目を見つめて言えば。
どうやらようやく意味が解ったらしい黄瀬君は、徐々に目を見開き、硬直したままボクを凝視する。


「これで解って頂けましたか。…それではボクはこれで失礼します。さようなら」


身動き一つせず硬直する黄瀬君に頭を下げ、ボクは立ち去る。
これでもう、彼が誠凛に来る事はないだろう。
そしてもう、「黒子っち」「黒子っち」と懐っこくボクに付きまとう事もなくなるだろう。
そう思うと胸が痛くなる。
彼に言った事は嘘ではない。
ボクは彼に恋慕を抱いており、彼がボクに友情を示してくれればくれるほど、ボクは苦しくなった。
笑顔で話をしてくれる度に。ボクは彼を騙してる気分になる。
こんな形で彼の情を踏みにじる事はしたくなかったが。
正直もう限界だったのだ。
彼が会いに来てくれればくれるほど。笑顔を向けてくれればくれるほど。
ボクは期待する。そしてその期待はいつも淡く打ち砕かれる。
彼がボクに向けているのは、恋慕ではなく友情。
当たり前だ。
彼は男でボクも男で。容姿の整った彼の周りには、女の子がたくさん居るのだから。
…嬉しかった。
影の薄いボクを、いつも見つけてくれて、笑顔を向けてくれて。
…知られたくなかった。
そんな君に、ボクが恋慕を抱いている事なんて。
どうしてただの友情じゃ駄目だったんだろう。どうして恋慕なんて抱いてしまったんだろう。
後悔しても、もう遅い。
ボクは彼に恋慕を抱いてしまった。
ボクは彼にボクの気持ちを打ち明けてしまった。
あの笑顔は。あの優しさは。もう二度と。ボクに向けられる事はないだろう。
ごめんなさい。
君の優しさをこんな形で砕いてしまって。
許して下さいとは言いません。ボクは君に、酷い事しかしませんでした。
何一つ、君にあげる事は出来ませんでしたが。君はボクに。色んなものをくれました。
…有難うございます。君と会えて良かった。





黒子っちに告白された。
モデルなんてやってるせいか、そう言う事…男が男に告白されるなんて、見るのもされるのも珍しくないんスけど。


「…知り合いにされるのは初めてっス」


しかも絶対言われなさそうな相手に。正直ビックリっス。
そんな事、今まで全然想像した事もなかった。
…まぁ、当たり前ちゃぁ当たり前だけど。


「黒子っちが、オレを、ねぇ…」


しっかしいっつも冷たくあしらわれる事はあるけど、でもまさか好かれてるなんて想像もつかなかった。
もしかして冗談?とも思ったけど、冗談を嫌う黒子っちが、そう言う事言うとは思えない。


「…それに」


例え冗談でも。この手の事を冗談でも、黒子っちが言うとも思えない。
て事はやっぱマジ、って考えられる訳で。


「…うーん」


黒子っちは。
帝光時代のチームメイトで。最初オレの教育係だった人。
そしてオレに「勝負」の意味を教えてくれた、オレを変えてくれた2人目の人。
1人目は青峰っち。
退屈だった日常を刺激のあるものにしてくれた。
思い通りにならないものがあるって知った。
そして2人目は黒子っち。
最初はナメてた。
すぐにヘバるし、ドリブルだって上手くない。シュートだって外してる方が多いし。おまけに影は薄いし。
でも試合を見てみて、その印象は一変した。
見たら出来るオレが、見ても模倣コピー出来なかった。
まぁ、キセキの世代の皆の技は見ても模倣コピー出来ないけど。
でもそれは。オレの身体能力以上の力な訳で。それは解ってる。
けど、黒子っちは違う。
オレが黒子っちより身体能力が劣ってる訳じゃない。
と言うより身体能力なら、オレの方が断然上だ。
でも模倣コピー出来ない。黒子っちの技は黒子っちしか出来ない。
身体能力が全てじゃない。それだけじゃないんだって事を、黒子っちは教えてくれた。


「…黒子っちが、教えてくれた」


目を閉じて、今までの黒子っちの事を思い出す。
…オレとは正反対の黒子っち。
いっつも本を読んで、物静かで。
冷めてるようで、好きな事には全力で意外にアツイ。
外見とは裏腹に、頑固で男気がある。
そんな黒子っちをオレは…。


「…オレは…」


自分にはないものを持っていて。
オレはそんな黒子っちの事、マジ尊敬してて。
自分にしか出来ないバスケを持っている。
皆が驚くパスをして。
そんな黒子っちからのパスをもらって、オレが決める。
オレは黒子っちとするバスケが好きだ。
オレは。黒子っちの事が好きだ。


「…ん?」


好き?


「…ぅん。好き」


自分の思った事にオレは素直に頷く。
…そう。オレは黒子っちが好き。
オレを見る、黒子っちの上目遣いとか。
可愛いと思う。


「…あれ?」


可愛い?ぁれ?あれれ??
あれ…れ?


「ちょっ、ちょっと待て!ちょっと待って!!」


何か顔超熱いんスけど?!
あれ、ちょっと待ってオレ。


「もしかして…」





溜め息が零れる。
昨日は結局寝れなかった。
後悔と安堵。色んな気持ちが溢れて、結局一睡もする事が出来なかった。
朝練も集中出来なかったし、授業も上の空だった。
放課後の部活も集中出来ず、先輩や火神君にも心配されてしまいました。


「…ハァ」


今日何度目か解らない溜め息をまた吐いていると。


「…黒子っち」


聞こえた声に思わず身体が強張った。
その声と、独特の呼び方。
まさか。でも。何で。


「黄瀬、君」
「コンバンワ、黒子っち」
「どう、して…」


もう会う事はないと思ってた人物が。
昨日の今日でボクの目の前に居る。
何で。どうして。
茫然とするボクの前に、黄瀬君はゆっくりと近づいて来て。


「また来ちゃった」
「な、んで…」
「ちょっと話、したいんスけど」
「……………」


その言葉に。素直に頷く事が出来ない。
何を言われるんだろう。
怖くなる。


「駄目、っスか…?」
「…いいえ。大丈夫、です」


それでもココまで来てくれた黄瀬君を、無碍にする事も出来ず。
ボクは俯いたまま、承諾する。
怖くてしょうがないけど。でも。
心の何処かでこっぴどく振られるのを期待しているのかも知れない。
そうしなきゃ。
ボクは黄瀬君を諦められない。
だから。苦しくて辛いかも知れないけど。
ボクは彼の言葉を受け止めなきゃいけない。
学校の付近で話せる内容でもないから。
ボク達は歩いて、行き先もなく歩き始める。
人通りもなくなり、無言の時間が続く。
すると。


「黒子っち」
「…っ」


黄瀬君から口火を開いて。
ボクは思わず息を飲む。
覚悟していても、やっぱり怖くなる。
どうしよう。逃げてしまいたくなる。


「ちょっと、確認したい事があるんスけど」
「確認…ですか」


予想外の言葉に、思わず黄瀬君を見れば。
珍しくひどく真面目な表情で、ボクを見つめる黄瀬君の姿がそこに在る。


「…昨日、黒子っちがオレに言った言葉は冗談なんかじゃないっスよね?」
「え?」
「冗談とか…罰ゲームとかじゃないっスよね」


彼の言葉にボクは思わずムっとしてしまう。
それは何だか眠る事すら出来ず悩んでいた、ボクの気持ちを無碍にされたような気分だ。


「…ボクは冗談は苦手です。それに、幾ら罰ゲームでも、やって良い事と悪い事の区別くらい出来ます」


不機嫌を露わにしたまま、ボクを黄瀬君に告げる。
すると黄瀬君はホっとしたような顔をして。


「…良かった」
「良かっ、た…?」
「オレ、あれから考えたんス」
「はぁ…」
「そんで、“答え”が出たんス」
「“答え”…?」


黄瀬君は何を言っているんでしょうか。
考えるって何を?
“答え”って何の答えが出たと言うのでしょうか。
ボクがポカンと彼を見ていると。


「オレも、黒子っちの事……好きっス」


言われた言葉に、思わず口が開いたまま固まってしまう。
彼は…黄瀬君は何を言っているんでしょう。
ボクが、好き?


「何を…言っているんですか…?」
「オレ、気付いたんス。オレも、黒子っちの事好きって事に」
「ち、違います!君はボクを……そう、君はボクを『友達』として好きなんです。だけど、ボクは…!」


思わず頭を振って言う。
伝わったと思ったのに伝わってなかった。
違う。違うんです。
ボクは君に友情を向ける事は出来なくて。
ボクが言った『好き』は君の言ってる『好き』とは違っていて。
どうすれば伝わるんだろう。


「違わないっス。オレは黒子っちの事、『そう言う意味』で好きっス」


混乱するボクに、黄瀬君は畳み掛けるように言葉を紡ぐ。


「オレは黒子っちが好きです」


再度紡がれた言葉に。
信じられないと、首を左右に振る。
だって。だって…!


「…どうすれば、信じてくれるっスか?」


そんなボクに、黄瀬君は困ったように微笑んで、首を傾げる。
どうすればって…そんな事、ボクの方が知りたいです。
もう会う事もないって思ってた。
試合で会ったとしても。
もう以前のようにあの笑顔で、「黒子っち」なんて呼んでもらえる事はなくて。
きっと、冷たい目でボクを見ると思ってたのに。


「き、君はきっと勘違いをしているんです…」
「勘違い?」
「思ってもみない相手に、そんな事を言われて。しかもそれが中学時代のチームメイトで」


混乱する頭で、何とか言葉を絞り出す。


「だから、その、」
「勘違いじゃないっスよ」
「混乱してるんです」
「混乱してるのは、黒子っちの方じゃないっスか?」
「だって…でも…」
「じゃぁ…証拠、見せれば良い?」
「証拠?」
「…キス、しても良っスか?」
「え…」


言われた言葉の意味が解らなくて。
理解する前に、スっと黄瀬君の顔が目の前にあって。
あ、と思う前に頬に柔らかくて温かい感触がした。


「……………」
「ほんとは唇にしたかったんスけど。それはまぁ、ちゃんと両想いになってから」
「う、そ…です」
「嘘で男にキスするほど、酔狂じゃないっスよ。オレ」
「夢、ですか…」
「夢じゃないっスよ。ほら、ちゃんと感触あるでしょ?」


頬をフニフニと摘ままれて。
彼の存在を、温もりを…感じる。


「本当、ですか…?」
「っス。…オレは黒子っちが好きです。だから。オレの恋人になって下さいっス」
「〜っっ」


嘘みたいだ。信じられない。
二度と向けられないと思った。二度と呼んでもらえないと思った。
期待して。打ち砕かれて。それでも諦めきれなくて。でも苦しくて。


「キス…しても良いっスか?」
「…はぃ」


ゆっくりと近づいて来た黄瀬君に。
ボクはゆっくりと瞳を閉じた。
ただ。彼の温もりだけが、身体じゅうに広がるのを感じながら。


「……………」
「……………」


合わせた唇から、熱が伝わる。
少しして離れたそれに、ハァ…と小さい吐息を零したら。


「…黒子っち、顔真っ赤」
「…君みたいに慣れてないんです」


余裕のある表情でそんな事を至近距離で紡がれて。
思わずムっとしてそう言えば、苦笑いみたいな表情を浮かべた。
何だかそれすらも余裕に見えて、何だか腹立たしくなってしまう。


「大体何で急に好きだなんて言うんですか。君はずっとボクの事、『親友』だって言ってたじゃないですか」
「あ〜…それはきっとそう思うようにしてたんだと思うっス」
「?どう言う事ですか」
「オレ、きっとずっと黒子っちの事、『そう言う意味』で好きだったんだと思うんスよ。でもそんなの、絶対受け入れてもらえないと思ったから、『親友』になる事で傍に居ようと思ってたんだと思うっス」
「…自分の事なのに、随分曖昧な言い方しますね」
「オレも気付いたの昨日っスから。言われた後、ずっと考えてたんスよ。黒子っちの事」
「…ボクもずっと、黄瀬君の事考えてました」
「そうなんスか?」
「はい。もう二度と、会う事も、呼んでもらう事すらなくなるんだろうな、と」
「何でぇ?!」
「だって。…男に告白されたんですから。きっと気味悪がられるだろうと思って」
「んな事ないっスよ!それにきっと。黒子っちが言ってくれなきゃ、オレこの気持ちにずっと気付けないままだったかも知れないっスから」
「…そうですか」


それなら。
告白して良かったのかも知れない、と。
夜も眠れないほど苦悩したけれど。今なら思える。


「あ、ねぇねぇ、聞いても良いっスか?」
「何ですか?」
「黒子っちってさ、オレの何処好きになったの?やっぱ顔?」


…一瞬にして、告白した事を後悔してしまいました。


「ハァ…きっぱりとそう言える君がある意味凄いと思います」
「え…違うんスか?」
「違いますよ」
「え、じゃぁ何処?」
「…そうですね。バスケに真摯な所とか。一見ちゃらんぽらんなようで、実は芯があって。負けず嫌いな所も良いと思います」


ボクは指で数えるようにしながら、言葉を紡ぐ。


「仲間に対して付き合いが良い所も…まぁ、それは認めた相手にだけって言うのがアレですが、一度認めてしまえば、寛容な所も感心します。それから…」
「ちょっ、ちょっと待つっス、黒子っち!!」
「え…?」


幾つか上げて行くと、ストップの声が掛かる。
そして黄瀬君の方を見ると、腕を突っ張って、ボクの方に向けて。俯いて居て。
でも微かに見える耳は真っ赤で。


「黄瀬君…?」
「何か、ちょ、すンげー恥いんスけど!!自分で聞いといて何々スけど、もー良いっス!!つか、何黒子っち、デレ期?!」
「何ですか、デレ期って?」
「今まで冷たくあしらってたのに!!何かもう、オレ死にそうなんスけど?!」
「死なれるのは困ります。折角両想いになったんですから」


向けられる手をキュっと握れば。


「!!何かもう、色々噴き出しそうっス、オレ…」
「色々って何が噴き出すんですか」
「色々は色々っス!!」


意味が解らないが。
キュっと握った手をキュっと握られて。
伝わる温もりが幸せで。


「帰りましょう、黄瀬君」
「えー、もうちょっと一緒に居たいっス」
「ボクもそうしたいですけど。でも、これからも一緒に居られるじゃないですか」
「ん〜…そうっスね。ね、黒子っち!今度の休み、いつ?デートしよ、デート!」


手を繋いだまま。
幸せな帰路へと着くのだった。



・END・
2012/09/08UP