バタン。


「……………」


聞こえた音に火神がそちらに顔を向ければ。
部室のロッカーを閉めた黒子の姿があった。


「…黒子」
「何ですか?」
「何かお前、今日機嫌悪くねェか?」
「別に。…普通ですけど」
「そっか…?」
「はい。…それではお先に失礼します」


ペコリと頭を下げて、スタスタと部室を出て行く黒子の背中を目で追いながら。
火神も鞄を抱えて、部室を後にする。
校舎を出て、校門に抜け。
お腹が空いたのでマジバに寄ろうか考えてると。


「…あ?」
「…ぁ」


視界の端に映った人影。
見間違いか、そう思ったが相手も自分に気づいたらしく、小さく声を漏らした。


「黄瀬…何やってんだよ、お前」
「ぁ〜…やっほ、火神っち」


その人物に呼び掛けると、相手は力なく微笑んで、ヒラヒラと手を振って見せた。


「黒子ならもう帰ったぞ。オレよりちょっと前に出たくらいだから、ここら辺に居んじゃねーか」
「あ〜…ぅん、知ってるっス」
「はぁ?黒子が目的じゃねーなら、お前何しに誠凛来たんだよ?」
「いや〜…たははは…」
「?」


何処か弱々しい黄瀬の様子に、火神は首を捻る。


「どうしたんだよ、お前」
「え?何がっスか?」
「何か……弱ってる?」
「はは。何スか、それ」
「否、何かそんな感じがするつうか…」
「あ〜…、火神っち、今ちょっと良いっスか?」
「あ?」


黄瀬に誘われ、火神は行くはずだったマジバへと向かった。


「で?」
「へ?」
「へ?じゃねーよ。オレに何か用があったから、ココ来たんだろーが」
「あ〜…その〜、用つうか…」
「あ?」


いつまでも用件を切り出さない黄瀬に痺れを切らして火神が訊ねれば。
黄瀬は言い出し難そうに視線を微かに彷徨わせた後。
チラっと火神を見て。


「…今日、黒子っちの様子、どうだったっスか?」
「はぁ?」
「確か、火神っちって黒子っちとクラスも一緒だったっスよね?授業中とか、部活中でも良いっス!今日の黒子っちの様子、知りたいんスけど?!」
「ますます意味解んねーんだけど。つうか、どんだけ黒子大好きっ子だ、テメー」
「否、そうじゃなくて!…あ、否、そうなんスけど!!」
「どっちなんだよ」
「あぁ、もう!質問に答えて!普段通りだった?それとも、不機嫌そうだった?!」
「どうだったって言われても…あぁ、そう言えば」
「そう言えば?!」
「何か不機嫌そうだったな。ほんのちょっとだったけど、ロッカー閉める音もデカかったような…」
「…や」
「や?」
「やっぱりぃぃぃ〜……」


そう言うと、黄瀬はテーブルに突っ伏す。


「やっぱって…何だよ。心当たりあんのかよ?」
「………したんス」
「あぁ?んだよ、聞こえねー」
「だから!…黒子っちと喧嘩したんス」
「喧嘩?」
「…っス」
「お前と黒子が?」
「そうっス!何度も確認しないで!…悲しくなるっス」
「しょうがねーだろ。信じられねーんだから」
「え?どう言う事っスか?」
「あぁ、気にすんな。しっかしまぁ…お前と黒子が、喧嘩…ねぇ」


黒子と黄瀬の関係は火神も知っていた。
男同士だが、所謂『お付き合い』をしていると。
知った当初は物凄く驚いたが。
まぁ自分に被害がなければ、当人同士の問題だし。
そう言うのも有りなんじゃねーの?くらいに思っていた。
それに何かと黒子と行動する事も多かった火神は、間近で2人の様子を見る機会もあり。
幸せそうな2人の様子に、外部が口を出すのも何だか無粋なような気もして。
特に黄瀬は黒子にベタ惚れで。
今口にした『喧嘩』も、黒子と黄瀬で成立するのか、微かに首を傾げたくなった。


「成立すんのか?」
「成立?何がっスか?」
「喧嘩だよ、喧嘩。お前基本黒子に逆らわねーじゃねーか」
「まぁ、そうなんスけど。するっスよ。すンごくたまぁ〜に」
「喧嘩の原因は何なんだよ」
「売り言葉に買い言葉って言うか…成り行きみたいなモンっス」
「んじゃぁ、謝れば良いじゃねェか。んで、謝ってもらえば」
「事はそう簡単じゃないんス!」
「そっかぁ?」
「はぁ〜…単純な火神っちが羨ましいっス」
「誰が単純だ!つか、何、んなにビクビクしてんだよ」
「だって黒子っちめっちゃ怒ってるかも知れないじゃないっスかぁ!」
「お前なぁ…」
「どうしよう…オレ、黒子っちに嫌われたら生きて行けない…」
「否、言い過ぎだろ、それ」


シクシクと泣き始める黄瀬に、火神は手にしていた残りのバーガーを口に放り込む。
モグモグとそれを咀嚼しながら、今言った自分の言葉を否定した。


「…お前マジ黒子にフラれたら生きて行けなさそうだな」
「うぅ…冗談でも、そゆ事マジ言わないで欲しいっス…」
「ほんっとお前って残念なイケメンだよな」
「…うっさいっス…」


いつもの返答も何だか力ない。
そんな事なら喧嘩なんてしなきゃ良いのに、と思いながら。


「…まぁ」
「?」
「オレには関係ねーけど」
「ちょっ、見捨てる気っスか?!」
「だってオレ、関係ねーし」
「ひでーっス!ここで会ったが100年目っスよ!!」
「日本語間違ってんし」


ガタっと席を立ち、トレーに積まれた空のバーガーの包みを捨てる。


「電話でもメールでも。悪ぃと思ってんなら、素直に謝りゃ良いだろーが」
「それが出来ないから困ってるんスよぉ!」
「頑張れよー、残念なイケメン君」
「火神っちの裏切り者ー!!」
「うっせェ!てか、何々っち付けんな!!」


追って来る様子もなく。
どうやらまたテーブルに突っ伏したらしい黄瀬を見ながら。
火神は微かに溜め息を吐き出す。
そして携帯を取り出し、操作する。


「…別にアイツの為とかじゃねーし」


相棒が不機嫌なのは、色々と支障を来たすから。


「はぁ。…んと、めんどくせー」


携帯をポケットに仕舞い、歩き出すと。
暫くして走って来る人影に気づく。
それにニっと笑って。


「遅ぇよ」
「すみません。有難うございます、火神君」
「バーガー2個な」
「はい。今度。必ず」


走ってる為か単語だけ呟いて。
すれ違う瞬間、コッっと拳をぶつける。
明日はきっと、上機嫌な君に会えるだろう。



・END・
2012/09/05UP