黄瀬君は時々、ボクをひどくイラつかせる。
「じゃぁ、ボクはここで」
モデルの仕事で近くに来たので、会いにに来たと言う黄瀬君との帰り道。
分かれ道に差し掛かり、別れの言葉を口にすると、黄瀬君は。
「もう遅いし、危ないから送るっスよ」
「……………」
当然のようにそう言う黄瀬君に、ボクは思わずムっとしてしまう。
「黄瀬君」
「はいっス?」
「ボクは女の子ではありません」
黄瀬君は時々ボクを女の子扱いする。
夜道は危ないから。
荷物重そうだから。
確かにボクは運動選手として体力はないし、非力かも知れない。
でもボクは女の子じゃない。
「?知ってるっス」
「だから危なくなんてありません」
「危ないっスよ!変質者に遭うかも知れないっス!!ここから黒子っちの家まで、道結構暗いっしょ?!」
「暗いですけど。男を狙う変質者なんて居ません」
「居るっスよ!黒子っち可愛いし!!」
「可愛くなんてありません」
「黒子っちは自分が解ってないっス!!」
「…力説されましても」
彼の思考回路は一体どうなっているんだろう。
それとも視力に問題があるんでしょうか。
「とにかく。ボクは男で夜道が危ないなんて事はありません。これ以上黄瀬君の遅くなるのは駄目です」
「駄目じゃないっスよ。てか、このまま黒子っちと別れた方が駄目っス!」
押し問答だ。
けれどここで引く訳にいかない。
黄瀬君だって解っているんでしょう。
ボクは男で、それに影も薄い。
ボクを狙う変質者なんて居ない。
「黄瀬君」
「何スか?!」
「そう言う事は女の子にしてあげて下さい。ボクは大丈夫なんで」
「大丈夫じゃないっス!それに何スか、それ。オレは黒子っちを送りたいんス」
「黄瀬君に送られたい女の子はたくさん居ます」
「そう言う問題じゃないっス!オレは黒子っちを送りたいから送るんス。他の誰じゃなく、黒子っちを送りたいんス」
「…ハァ」
どうすれば納得してくれるんだろう。
今日折れてしまえば、次、また次とボクが折れざるを得なくなる。
それだけは避けたい。
何度も言うようだが、ボクは男なのだ。
「黄瀬君」
「もー、何スか。帰ろうよ、黒子っち」
「君が駅に向かって行けばボクも帰れるんです」
「ヤっス!送るっス!!」
「ボクは女の子ではありません。君は時々ボクを女の子扱いしますけど、ボクは男なんです」
「解ってるってば。てか、オレ黒子っちを女の子扱いなんてした事ないっス」
「してますよ。今だって夜道は危ないとか、他に荷物が重そうだから持つとか」
「だって本当にそう思ったっスよ?」
「そう言うのは女の子だけにして下さい」
「えー?オレ、女の子だからって、んな事しないっスよ?」
「…え?」
「まぁ荷物は重そうにしてたら手伝うかも知れないっスけど、夜道なんか送った事ないし送ろうとも思わないし」
「……………」
「黒子っちだから送りたい。後もうちょっと一緒に居たいっスから。あ、って事はどっちかって言うと口実っスかね?」
あはは、と笑って言う黄瀬君に、ボクの思考回路は止まる。
彼は今何って言った?
“ボク”だから?
ボクだから送りたいと。
じゃぁ、今までのはボクを女の子扱いしていた訳ではなく。
「…っっ」
「黒子っち?」
カァーっと熱くなるのを止められなかった。
咄嗟に俯いたけど。
きっと黄瀬君には見えていたはず。
「ど、どうしたんスか?!もしかして具合悪い?!」
「ち、違います…」
「でもなんか顔真っ赤っスよ?熱が…」
「き、気にしないで下さい…」
「や、でも…」
「か、帰りましょう…」
「ちょっ、マジで大丈夫っスか?!」
「大丈夫です…ほら、置いて行きますよ」
「え、送ってって良いんスか?」
「駄目と言ってもついて来るのでしょう?」
「っス!」
ヨロヨロと歩き出したボクに黄瀬君が付いて来る。
あぁ、もう。断る事出来なかったじゃないですか。
何処か腑に落ちないボクとは裏腹に。
隣に並ぶ黄瀬君をチラリと見れば。
ニコニコと嬉しそうに笑っている顔が見えた。
それが何だか悔しくて。
「…黄瀬君って」
「え?何スか、黒子っち?」
「ズルいですね」
「へ?な、何でっスか?てか、何がっスか?!」
そんな風に言われたら。
強引に強固に頑なに、送らせなくて良いなんて無碍に出来ないじゃないですか。
そんなボクの意趣返しとも言うべく言葉に、黄瀬君はキョトンとした顔を浮かべる。
それから慌てた顔をして。
「え、え、何がズルいんスか?ねぇねぇ、黒子っちー!!」
「知りません。黄瀬君うるさいです」
「だって、黒子っちぃ〜…」
君には何気ない言葉なのかも知れませんが。
…心臓に悪いです。
自覚して下さい!
・END・
2012/08/31UP