カコカコ。


「……………」


黒子は目の前で巨大なパンを片手に携帯電話を弄っている火神を見る。


「ん?何だよ、ジっと見て」
「最近火神君、よく携帯弄ってますね」
「そう、か?」
「えぇ。休み時間になると結構弄ってますよ。彼女でも出来たんですか?」
「はぁ?ちげーよ。黄瀬だよ」
「黄瀬君?」


あまり携帯を弄っている印象もなかった火神だったが。
ここ数週間は休み時間になると携帯を弄っていた。
メールをする相手でも出来たのかと黒子が問い掛ければ、火神は思い切り顔をしかめて。
黒子もよく知る人物の名を告げた。


「何でココで黄瀬君が出て来るんですか?」
「だから。メールの相手」
「メールの相手、黄瀬君なんですか」
「そうだよ」


確かに火神と黄瀬は、黒子を介して知り合いになったが、メールをやり取りするまでの仲だっただろうか。
と言うより黒子の知らない間に仲良くなってたのだろうか。
そんな疑問を黒子が口にする前に。


「この間偶然会ってな、連絡先交換したんだよ」
「はぁ…」
「んで、何でかメールのやり取りするよーんなって。つうか、アイツマメだな。しょっちゅうメール送って来る」
「彼、メール魔ですよ」
「下んねーメールよく送って来やがる。よくネタ尽きねーな」


そう言いつつ、火神が携帯を弄る。
どうやら送ったらしく、携帯を置き、手にしていたパンを頬張り咀嚼していると。
置いた携帯が震える。


「……………」
「……………」


やはりパンは持ったまま、携帯を開き、またポチポチと携帯を弄り出す。
何とはなく気になって、黒子は。


「…何て来たんですか?黄瀬君」
「あー?今日の昼飯のメニュー。ポテトサラダパンと海藻サラダだと。つか、ポテトサラダパンって何だ?」
「焼そばパンの類似品じゃないですか。ポテトサラダがパンに挟んである、とか」
「美味いのかな」
「解りません。ボクも食べた事も見た事ないです」
「ふーん。それだけでよく足りんな。お前もそうだけど、アイツも小食だな」
「火神君が食べ過ぎなんです」


言葉を紡ぎながらも、火神は携帯を手放さない。
手放さない所か、カチカチと操作している所を見てると、どうやら返信を打っているようだ。


「…返信、してるんですか?」
「あぁ?まぁ…」
「何て?」
「何てって…オレの昼飯のメニュー?」
「…君も充分マメですね」


ボクなら無視します、告げれば、火神は微かに口籠るような素振りを見せた後。


「そりゃぁ忙しかったら無視っすけどよぉ」
「大事な用件なら返信しますけど。火神君もそう言うタイプかと思ってました」
「や、オレもそんなマメにメールする方じゃねーけど」
「でも黄瀬君のメールには付き合うんですね」
「…何かお前怒ってねーか?」
「何でボクが怒らなきゃいけないんですか」
「そうだけど…」


いつになく言及するような黒子の言葉に、火神は口籠りながら。


「お前も黄瀬に何か送れば?」
「良いです。結構です。と言うか、送る用事なんてありません」
「黄瀬みたく下んねーメール送れば良いじゃねーか」
「遠慮しておきます。そんな事したら、毎日来そうじゃないですか」
「“来そう”じゃなく、間違いなく“来る”ぜ」
「尚更辞退します」


きっぱり言い放つ黒子に、多分黄瀬喜ぶぜ、とだけ言い、携帯を弄ったまま食べ掛けのパンに喰らいつく。


「ん〜…」
「お行儀悪いですよ、火神君」
「お〜…」
「もう…」
「おっし、送った!…あ、もしかしてお前が機嫌が悪かったのって、オレが食いながらメールしてたからか?」
「違います。まぁ、褒められた事ではないとは思いますけど」
「あー…まぁ、もう送ったから、これ食い終わるまで返信はしねーよ」
「別にボクは…」


と言葉を紡ごうとした黒子の鞄から、微かなバイブ音が聞こえる。
何だろう、と黒子が鞄から携帯を取り出し、携帯を確認すると。


「…火神君」
「んぁ?」
「黄瀬君からメールが来てるんですが」
「おぉ。何だって?」
「…はい」


スっと黒子は携帯を火神に渡す。
それを見ると、携帯の画面には。

『黒子っち、不機嫌なんスか?何かあった?大丈夫?』

と画面に表示されていて。
携帯を前に、心配顔の黄瀬の顔が浮かんで、火神は思わず噴き出した。
そんな火神を他所に、黒子はまだ不機嫌そうな表情のまま。


「さっき黄瀬君に何て送ったんですか」
「あ?黒子の機嫌が悪ぃって」
「ボクにまでメールが伝染して来たじゃないですか。止めて下さい」
「はは、黄瀬菌お裾分け?ほら、またメール来てんぞ」
「え…?ちょっ…」


ポイっと渡された黒子の携帯を受け取ると。
また黄瀬からのメールが届く。


「もう、ボクを巻き込まないで下さい…!」
「はは、どんどんメール来んな」
「笑い事じゃありません…!…あぁ、もう!」


ヤケのように携帯を弄る黒子。
火神がひょいと携帯を覗けば。
どうやらメールを送っているらしい画面表示。
それに火神はニヤリと笑って。


「何て送ったんだ?」
「『不機嫌なんかじゃありません。至って普通です』と送りました」
「ほら、お前だってどうでも良いメール送ってんじゃん?」
「これは“送ってる”でのはなく、“送らされてる”んです!」


いつになく声を荒げる黒子が可笑しくて。
火神はまた笑う。
そしてまた黒子の携帯が震える。


「今度は何ですか…」
「プっ…くはははは」


げんなりした様子の黒子と、携帯を覗き込めば。
表示された内容に、火神は爆笑するのだった。

『祝!黒子っちからの初☆普通メール』



・END・
2012/09/02UP