たまの休み。
火神はストリートバスケにでも繰り出そうと思っていたが。
バッタリ(と火神は思ってる)会ったカントクに。
「い〜ぃ?今日はバスケやっちゃ駄目よ?火神君は負担激しいんだから、休むのも練習のウチ!」
と念を押されてしまい。
これでストバスにでも行ってしまえば。
明日間違いなくバレて、とんでもない目に遭うだろう。
そう思って、火神は溜め息を吐きながら、でも帰る気にもならず。
仕方なしに街をブラブラとしていた。
ふと立ち寄ったCDショップで特に買いたいものもないが、洋楽コーナーを眺め。
視聴コーナーで流行りの音楽を聴く。
ある程度の時間が経過し、外に出れば。
「…何か降りそうだな」
どんよりとした空に、降る前に帰るか、と微かに足を早める。
しかし。
「…チっ」
家に辿り着く前に雨は降り始め、しかも一気に土砂降りと言うべき勢いになり。
火神は小さく舌打ちをし、雨宿りをするべく、軒先へと急ぐ。
「っそ、間に合わなかったか…」
屋根のある所で一時避難し、空を眺める。
黒い雲が広がり、強い雨のせいで景色さえも白い。
これは弱まるまで時間が掛かりそうだ。
濡れも良いから走って帰るか、とも思ったが、夏とは言え濡れて帰るのも体調を崩しそうで。
体調管理も選手としての役目だ。
それだけは避けたい。
待つだけ、と言うのは退屈だが、仕方ないと諦め、火神はもう一度溜め息を吐く。
すると。
ばしゃばしゃと言う音が聞こえ、段々とこちらへ近づいて来る。
霞掛かった視界の中、見えたシルエットがこちらに向けて走って来て。
「うわ〜…最悪っス。急に降って来るんだもんな〜」
聞こえて来た、聞き覚えのある声に、そちらを見れば。
「…あ」
「げっ」
見知った顔が、濡れた髪をかき上げながらこちらを見ていた。
「ちょっと〜、『げっ』はないんじゃないっスか、『げっ』は」
「思わず出ちまったんだよ。つか何でお前がココに居んだよ」
「仕事の打ち合わせっス。早く終わったんで、ついでに買い物もしてたんスけど。雨に降られちゃって」
「はっ、ざまぁ」
「アンタも一緒じゃないっスか。アンタも降られた口っしょ」
「ケっ」
プイっと黄瀬から目を放し、空を見上げる。
雨足は、まだ弱らない。
「そーゆーアンタも部活どうしたんスか?サボり?」
「んな訳ねーだろ。オレも今日は休みだ」
「あーそっスか。でも意外」
「ぁん?」
「ストバスとか行って、休みでもバスケしてそうなのに」
「カントクに釘刺されたんだよ。今日はバスケ禁止って」
「はは、見透かされてんだ。アンタ、解り易そうだもんね」
「…うっせーよ」
軽い笑い声が聞こえ、何だか居心地が悪くなる。
雨に濡れるのを覚悟で、もう出てしまおうか。
ここから自宅までなら、さしてズブ濡れになるほどでもない。
本当はもう少し雨足が弱くなってから行きたかったが、何となく気まずい空間に居辛い。
そのままお風呂にでも入ってしまえば、体調を崩す事もないかも知れない。
「じゃぁな」とだけ言って軒先を出ようとした、矢先。
「は…くしゅん!!」
「…は?」
「え、っくしゅ!」
続けざまに聞こえたくしゃみに、そちらを向けば。
ブルっと震える黄瀬の姿が。
「…着替え、持ってねェのかよ」
「今日部活休みだったんスよ?持ってる訳ないっス」
「タオルは?」
「ハンドタオルなら持ってるっスけど、それじゃぁ全然足りないっスね」
「…チっ。……しょーがねーな」
ゴソゴソと鞄を漁り、火神はそれを取り出すと、黄瀬に差し出す。
「…ほらよ」
「へ?」
「だ、だから!…これで少し拭けよ」
「あ、あぁ…どもっス」
取り出したのは、タオル。
それをキョトンと見る黄瀬に、早く受け取れと言わんばかりに押し付ける。
「火神っち、今日部活ないのにタオル持ち歩いてんの?」
「…ちゃんと洗ってあっからな」
「へ?あ、ち・違う違う!そう言う事言ってんじゃなくて!!」
「あ?」
「部活休みなのに、いつもこんなでっかいタオル持ってんのかなーと思って」
「あぁ…、ストバス行く予定だったからな」
「ふ〜ん。…ぁ、これ洗って返すっスね」
「いーよ。どーせ洗う予定だったからな」
「え、やっぱ洗ってないんスか?」
「ちげーよ!ストバスで使う予定だったつってんだよ!!」
「解ってるっスよ。ジョーダンっス。火神っちはホント、からかい甲斐があるっスね」
「テんメっ…!」
「黒子っちに会いに行くついでに返しに行くっス。黒子っちに会いに行ける口実が出来るしね」
「タオルはついでかよ…つーか、相変わらず黒子馬鹿だな。テメーは」
「まーねー…って、ふぇ・へっぶし!」
会話の間に聞こえた黄瀬のくしゃみ。
「ちゃんと拭けよ。タオル貸してやった意味ねーだろーが」
「ちゃんと拭いてるっスよ。でも濡れた服着てるから意味ないっス」
「一応Tシャツもあるけど…」
「さすがに軒先で着替える訳にもいかないっスよー」
「別に良いだろ。男なんだし」
「いやいや!男だとか関係なしに、駄目っしょ?!人目とかあるし」
「そっか?アメリカだと夏、自分家の庭とかじゃ、男は大体上半身裸だぜ?」
「自由の国と比べないで欲しーっス!!」
さすがについこの間までアメリカに居た男だと呆れながら。
さてどーしたものか、また濡れるの覚悟で駅まで走ろうかと考えていたら。
「…おい、黄瀬」
「何スか?」
「すっげー、すンげーヤだけど、これで風邪引かれんのも目覚めが悪ぃから、妥協してやる」
「妥協?何をっスか?」
「10分くれー走ったトコに、オレん家があるから。そこまで濡れっけど。…来るか?」
「え、良いんスか?」
「すンげーヤだけどな」
「ぁは、火神っち、やっさしー!うんうん、お邪魔するっス」
「OK。んじゃ、丁度雨足も弱まったトコだし、行くぞ」
「っス」
「遅れても待たねーからな」
「だいじょーぶっスよ。オレ、長距離も得意っスから」
そんな会話をし、顔を合わせてニっと笑い合う。
そして同時に軒先から飛び出し、バシャバシャと音を立て、火神の家へと一直線に向かう。
途中。
「おい、馬鹿黄瀬!お前が先に行ってどーすんだよ!!」
「へっへ〜、火神っちが遅いからついね〜」
「テメ…!負けっかよ…!!」
「あ、早っ、火神っち」
「…あ、道間違えた」
「ちょっ、急に止まんな…!!」
「あ」
・
・
・
「あ〜ぁ、火神っちのせいで、オレぐしゃぐしゃなんスけど」
「お前が勝手にコケたんだろーが」
「コケてないっス!滑って転んだだけっス!!」
「同じだろ」
「全然違うっス!つーかその原因作ったの、アンタっしょ?!ヒデーっス!!」
「お前見てて飽きねーよな。コントみてぇな奴」
「やかましいっス!!」
プリプリと怒る黄瀬を余所眼に、火神はピッピッとボタンを押し、タオルで濡れた髪を拭く。
そして、違うタオルと着替えをポイっと黄瀬に投げ渡し。
「取り敢えずコレに着替えとけ。風呂は後10分くらいで沸くからよ」
「…どもっス」
「腹は?減ってるか?」
「えーっと、それなりに減ってるっス」
「解った。後、着替えたらさっさと制服寄越せ。今から洗濯すりゃぁすぐ乾かしてやっから」
「はい、っス…」
「?何ボーっとしてんだよ」
「あ、ぃや、うん。…んでもないっス」
「変な奴」
そう言って火神は着替えを完了させると、キッチンへ立ち、黙々と作業している。
そんな火神の背中を眺めながら、黄瀬はのろのろとした動きで、タオルで髪を拭き、着替えを始める。
「えーっと、火神っち何してんスか?」
「あ?夕食の支度」
「へ?!あ、アンタが用意するんスか?!」
「?あたりめーだろ。他に誰が居んだよ」
「お、おかーさんとか」
「居ねェよ」
「え?!あ、ご、ごめん…!」
「あ?何でいきなり謝ってんだよ」
「だ、だって亡くなってるなんて…」
「死んでねーよ!勝手に殺すな!!アメリカに居んだよ!!親父と一緒に」
「あ、あぁ…そっスか。…はービクった。ぁれ、じゃぁ火神っち、独りで住んでんの?こんな広い家に?」
「しょーがねーだろ。帰国寸前で日本行けなくなっちまって、編入手続きは済ませてるしよぉ」
「えー、良いっスね。自由そう」
「まー、自由ちゃぁ自由だけど、全部テメーでやんなきゃいけねェからな」
「あ、そっか。それは大変っスね」
「大変つうか、メンドー…ぁ、風呂沸いたな。黄瀬、お前さっさと入れ」
しゃべってる内に10分経過したのか、タイマーの音が響いて。
振り返った火神の言葉に、黄瀬は驚き、慌てて両手と首を降る。
「え、い、良いっスよ、火神っち先入って」
「お前が入ってる間に夕飯の支度すっから。一応客らしいから、いーよ」
「らしいからって…」
「それにお前さっきくしゃみ連発してたろ。風邪ひく前にあったまって来い」
「…っス」
最もな事を言われてしまい、黄瀬はゆっくり頷く。
「bathroomの扉開けといたから。それからタオルも出しといたから」
「サンキューっス」
「あぁ、後、制服洗濯機に入れとけよ」
「うぃーっス」
それだけを言い、黄瀬はリビングを後にした。
そしてポツリと。
「…何か、火神っち母さんみてぇ」
男らしい言動とは裏腹に、細やかな気配りに思わず苦笑が漏れる。
「火神っちっておんもしれー♪」
さっさと入って交代しよう、と考えながら、黄瀬は鼻歌交じりにお風呂場へと向かった。
・
・
・
「火神っち〜、おっ先っス〜」
「早ェな…お前ちゃんと温まって来たのか?」
「温まって来たっスよー。さっさ、火神っちも入った入ったー」
「お、おう。出たらすぐ飯にすっから。TVでも見ててくれ」
「了解っス〜」
ヒラヒラと手を降って、火神を見送ってから。
改めて部屋を見渡して。
「しっかし、何にもねー部屋だなー」
必要最低限の物と、バスケット関連の物しかない。
本当に食う・寝る・バスケしか考えてない男だ。
「ホント面白い男っスねー」
とポツリと呟いたトコで、ガチャっと音がし。
「おーし、飯食かー」
「早っ!アンタの方こそ、早いっスよ!!ちゃんと洗って来たんスか?!」
「洗って来たよ!んだよ、早い方が良いだろーが!早くて悪ぃのかよ!!」
「ぁ、家探しなんてしてねーっスよ。火神っちのえっちぃビデオとか探してねーっス」
「ねーよ!!んなモン、持ってねーよ!!!」
真っ赤になって怒鳴りさまが可笑しくて。
黄瀬が声を出して笑っていると。
「チっ。飯にすっから、さっさと座れ」
「は〜ぃ」
火神の言葉に頷いて。
ソファに座れば。
運ばれて来る数々のおかず。
黄瀬は思わず言葉を失った。
「…えーっと、デリバリー?」
「はぁ?んなのいつ頼んで、いつ来たんだっての。何言ってんだよ」
「えぇ、じゃぁコレ、火神っちが作ったの?」
「ったりめーだろ。まぁ簡単なモンばっかだけどな」
「はぁぁぁ…」
目の前の美味しそうな食べものに、感嘆の溜め息を吐く。
「んじゃ、食うか」
「い、頂きます…」
フォークを取って、おかずの中から一つ口に放れば。
「う、美味い…」
「あっそ。そりゃ良かった」
本当に眼前の男が作ったものなんだろうか。
今日は何かと火神の意外な一面を見せられたが、これが今日一番の驚きだ。
思わず手が止まり、黄瀬はジッと火神を見た。
「?何だよ。人の顔、ジーっと見て。何か嫌いなもんでもあったのか?」
「あ、いや!オレ、好き嫌いないっスから。大丈夫っス。コレ、すっげー美味いっス」
「…そりゃぁ何よりだ。んじゃ、さっさと食え。オレが全部食っちまうぞ」
「っス!」
その視線に気づき、微かに怪訝そうな表情を浮かべて問い掛ける。
黄瀬はそんな火神に慌てて首を振り、気を取り直しておかずにフォークを伸ばす。
美味しそうに、嬉しそうにおかずを食べる黄瀬に。
火神は一瞬黄瀬から視線を外し、それから微かに唇を綻ばせる。
「火神っちのコレ、いっただき♪」
「あ!テメ、何しやがんだ!!」
「早いもの勝ちっスよー」
「んにゃろー…んじゃ、オレはこれをもらう!!」
「ちょっ、それすンげー美味かったから最後に食おうと残してたのにー!!」
「早いもの勝ちなんだろ」
モグモグと口を動かしながら。
あれやこれやと取り合いを始める。
それでも2人で笑い合いながら。
出されたおかずを全て平らげると。
「は〜…食った食った」
「食ってからすぐに横んなると、牛になるっスよ」
「はぁ?んだ、そりゃ」
「日本ではそう言われてるんス」
「…変な国」
日本ではよく言われる事なのに。
海外生活の長かったらしい火神には馴染みがないようで。
しみじみと言う火神が可笑しくて、黄瀬はまた笑った。
「じゃぁ、片づけはオレがやるっスね」
「ぁ?良いよ。オレが後でやっとく」
「いーっスよ。美味い飯食わせてくれたお礼」
「…あ〜、んじゃ、洗いはお前がやってくれ。拭くのオレがやる」
「え、良いっスよ」
「2人でやった方が早いだろ」
よいしょ、と起き上がり、空になった皿を片づけ始める。
ぶっきらぼうに見えて、とても優しい火神に、黄瀬はもう苦笑するしかない。
そして自分も皿を片し、それを持ってキッチンへと向かう。
「…火神っちって外見に反して優しいっスよねー」
「はぁ?んだ、そりゃ?」
「独り事なんで気にしないで欲しいっス」
「?変な奴」
不思議そうに首を傾げる火神に。
まぁ気にしないで、と呟いて。
「洗い終わったら、火神っちに渡すっスね」
「おう」
2人でキッチンに立って。
洗い終わった皿を黄瀬は火神へと渡す。
「はい、火神っち」
「おう」
「へい、火神っち」
「あいよ」
「ほい、火神っち」
「…おぉ」
「ん、かーみっち」
「かーみっち?!つかお前、黙って渡せねーのかよ!!」
そんなやり取りを楽しんだ後。
「あー、帰んのメンドー…」
片づけを済ませ、時計を見ると。
そろそろ帰らなければいけない時間に差し掛かっていた。
こんな楽しい時間を終わらせてしまうのは勿体ないなーと黄瀬は思いながら。
広いリビングで、大の字になって寝ころび、ポツリと呟いたら。
「じゃぁ、泊まってくか?」
「…え?」
「どうせウチはオレ独りだし。お前とお前んトコの親が良いなら、オレは別に良いぜ」
「マジっスか?!ウチ結構放任なんで、全然オッケーっス!」
ガバリと起き上がり、黄瀬は早速携帯で親に外泊を知らせるメールを送る。
予想通りな親の返信に、ニンマリしながら。
「じゃぁ、ベットはじゃんけんスかねー」
「はぁ?」
「え、まさか一緒に寝ようってんスか?それはちょっと…」
「ちげーよ!何お前ベットで寝ようとしてんのかって聞きたかったんだよ!!」
「まさかオレに硬い床で寝ろつうんスか?オレこれでもモデルっスよ。体型崩れたら困るっス」
「おまっ、さっきじゃんけんって!!」
「オレじゃんけんも強いんスよねー」
「“も”ってバスケでオレに負けたクセに?」
「ぐっ…次やったらぜってー負けねっスよ!!」
「返り討ちにしてやるよ」
ぐぐぐとにらみ合った後。
「とにかくどっちかがベットでどっちかが、リビングのソファーな」
「っス。勝者がベットっスね」
「おう!…っと、じゃんけんする前に、毛布と枕出してくらぁ」
「興が削がれるっスねー」
そう言い出した後、立ち上がる火神に、黄瀬も後を付いて行く。
「何で付いて来んだよ」
「やー、他の部屋にも興味あるって言うか。火神っちの部屋、見して?」
「別に面白いモンなんかねーぞ」
「うん。それでも見てみたい」
黄瀬の発言に首を傾げながら、小さく勝手にしろ、と呟く。
それに微笑みながら、黄瀬は火神の背中に付いて行く。
すると。
「ほら」
「へ?」
「オレの部屋」
「マジっスか」
ガランとした部屋は先程のリビングと変わりなく、必要最低限のものしかない。
「ホント火神っちってバスケ馬鹿っスよね」
「はっ、何だ今更。黄瀬もそうだろ」
「そうっスけどー。ここまでオレの部屋、ストイックじゃないっス」
「色々あると片すのメンドいんだよ」
「あーなるー。お、火神っちのベットデカいじゃん。これならオレ達2人で寝ても平気…」
じゃないっスか、と言い切る前に、ボスボスっと柔らかい物音が聞こえた。
黄瀬がそちらを振り返ると。
クローゼットを開けていた火神が、どうやら中身を盛大に落としたようだ。
「どーしたんスか、火神っち?」
「…お、おま、お前が恐ろしい事言うからだろーが!!」
「恐ろしい事?」
「一緒に寝るとか!!」
「えー?だって火神っちのベットデカいから、オレとアンタが一緒に寝てもそんなキュウキュウにならなさそうだなーって」
「ねーよ!!何でオレとテメーが一緒に寝なきゃいけねーんだよ!!」
真っ赤になって怒鳴る火神に、黄瀬はキョトンとした表情を浮かべて。
「だから、例えばつってんじゃないっスか。何焦ってんの、火神っち…?」
「べ、別に焦ってねーよ!!」
「??」
「つか、お前なまじ小奇麗なツラしてっから、何つうか調子狂うんだよ…」
ガリガリと後頭部を掻きながら、ぼそりと呟く火神に。
黄瀬はますますポカンとしてしまう。
「ちょっ、アンタもしかして男が好きとか、そっち系っスか?」
「な、ちげーよ!!つか、日本ではこう言うの普通なのかよ?」
「へ?何が?」
「あんま親しくねー奴がベット共にするとか…」
「ブハっ!ベット共にするって!何時代っスか。男女じゃないんスから。オレ達男同士っスよ?それともやっぱ火神っちってそっち系なんスか?」
「ちげーつってんだろーが!!ベットなんて、思いッくそpersonal-spaceで可笑しくねーのかって言ってんだよ」
「は?え??ごめん。今なんて??」
「Personal-spaceだよ。えっと、日本語で何て言うんだ?縄張り?」
「縄張り?!つか、発音良過ぎて聞き取れないっスよ」
「パーソナルスペースだよ」
「あぁ、パーソナルスペースね…まぁ確かに近いっスねぇ…」
でもそんなに照れる事っスかねぇと思っていたら。
「とにかく。ぜってー一緒には寝ねェからな」
「や、俺だってそんなに一緒に寝たい訳じゃないんスけど…」
頑なな火神に、何故だか凄く自分が一緒に寝たがってるみたいになってる事に黄瀬は納得がいかない。
「あー、もう良いっス!とにかく、じゃんけんしよ!んで、どっちがベットか決めよっス」
「おう。えーっと、じゃんけんってのは“Rock-paper-scissors”で良いんだよな?」
「は…?また英語っスか??何スか、それ」
「Rock-paper-scissorsだよ。えーっと、グーとチョキとパーの奴」
「ちょっ…パーん時、んでんなに綺麗に指揃えてんスか。ちょー面白いんスけど」
「え、日本のパーってこうじゃねぇのか?」
「こうっスよ。パーって指開くの」
「へー、アメリカでは揃えんだよ」
「世界共通じゃないんスね。ルールは変わんないっスよね?グーがチョキに負ける?」
「そこは変わんねェ。ただ3種類のRock-paper-scissorsってのとdynam…ぇっと、ダイナマイトってのがある」
「ダイナマイト?」
「手種が7種類あんだよ」
「7種類?!多いっスね!!」
「グーとチョキとパーは変わんなくて、他に、water・air・sponge・fireがある。あぁそれからパーは掌下に向ける」
「へー。…後、出来たらもうちょっと、発音悪くお願いするっス」
「…日本語で言ってやるよ。水・空気・スポンジ・炎な。水はグーに勝って、空気は水に勝つ。パーが空気に勝って、スポンジがパーに勝つ」
「ふんふん」
「チョキがスポンジに勝って、炎がチョキに勝つ。んで、グーは炎に勝つ」
「あー…何となく解るっス。グー→炎→チョキ→スポンジ→パー→空気→水、んで→グーって事っスね」
「おぉ、んな感じ。なかなか賢いじゃん」
「ふっふ〜ん、まぁね」
「じゃぁ、続けるぜ。こっから更にややこしくなんだけど」
「へ?」
「他にグーは、炎とスポンジに勝てて、水と空気に負ける。炎はスポンジとパーに勝ち、水と空気に負ける」
「…はい?」
「んでチョキはスポンジと空気に勝って、グーと水に負ける。スポンジは空気と水に勝って、グーと炎に負ける。パーは空気と水に勝ち、炎とスポンジに負ける」
「ちょちょっ…!」
「空気は炎とグーに勝って、スポンジとチョキに負ける」
「ちょーっと待ってって、火神っち!!」
「ぁん?」
「ギブっス。もーギブっス。何が何だか訳解んなくなった…」
矢継ぎ早に告げられるルールに、黄瀬は慌てて火神を制する。
火神は指でその形を作りながらルールを話す、黄瀬にはもう何が何だか解らない。
「だよなー。オレも最初は訳解んなかったし。つか今も実際やってて訳解んなくなる」
「っスよねー。えっと、空気とスポンジと…??」
「組み合わせだけで25種類くれーある。…多分」
「パっと出た瞬間、勝ったんだか負けたんだか解んないっスね〜…」
「他にも特別ルールみてーのがあって、それ合わせっと101通りくれーになる」
「それ全然お手軽ゲームじゃないっスよ…」
「試しにやってみっか?」
「激しく遠慮するっス!!」
黄瀬の激しい拒否反応に、火神はケラケラと笑いながら。
じゃぁ普通のじゃんけんやろーぜ、と火神は手を前に出す。
黄瀬も頷きながら、手を前に出し。
「じゃーんけーん」
「ぽん!」
火神がグーで、黄瀬がパー。
「おっし、オレの勝ちっス!」
「くっそ〜負けた…」
絶対にベットが良い、と言う訳ではないが、負けるのが何となく癪に障る。
そんなお互いの気持ちを解り合いながら、勝負に一喜一憂する。
「じゃぁ、オレベットね」
「まぁそう言う約束だったからな…」
「悪いっスね、火神っち♪だからオレじゃんけん強いつったじゃないっスか」
「うっせー。あー、もうムカつく。絶対ベットが良い訳じゃねーけど、黄瀬に負けたってのがムカつく」
本気で悔しがる火神を見ながら。
「オレも負けず嫌いっスけど、火神っちも相当負けず嫌いっスよね」
「負けんの好きな奴なんて居ねーだろ」
「まーねー」
「あー、気分悪ぃからもう寝るか」
「っスね。んじゃ、お休み、火神っち」
「あー、お休み」
「ぁ、ついでに電気も消してって」
「へいへい」
パチっと電気が消され、バタンと火神が部屋を出て行く。
黄瀬も寝る準備をし、静かに目を閉じる。
…それから数時間が経った頃。
バタンと言う音に黄瀬が目を覚ます。
「…?」
リビングで寝てる火神がトイレにでも起きたのだろうか。
それにしてはドアの音が間近で聞こえた気がしたが、黄瀬は特に気にもせず再び眠ろうとすると。
「?!」
ドサっと言う音と共に、自身に掛かった圧迫感。
驚いて目を開けば。
「か、火神っち?!」
真横に火神の顔。
そして火神のその腕は、黄瀬の身体の上にあって。
え、え、え?!何何何?!と黄瀬はパニックになった。
(え、火神っちってそっちの人?!)
何と言葉を発すれば良いのだろうか。取り敢えず何か言おうと口を開いた瞬間。
「スー…スー…」
「もしかして寝、てる?」
「スー…スー、んが」
「…んだよ、ビックリさせやがって。火神のクセに」
どうやら夜中にトイレに目覚めたらしい火神は。
トイレを済ませ、そのまま自室に戻ってしまったのだろう。
…黄瀬の存在を忘れて。
「腕、重いんスけど」
どうしようか考えて、取り敢えず自分の身体の上にある火神の腕を退けようと掴めば。
「…ん…」
「は?ちょっ…!!」
ギュっと抱き締められてしまった。
何がどうしてこうなったのか、黄瀬は動揺しながら考える。
これは叫んで起こした方が良いだろうか。
首に掛かる火神の寝息がくすぐったい。
モゾっと動けば火神の力はますます強まるばかりで。
身動き一つ、取れない。
「…もーマジ勘弁してよ」
「ん、スー…スー…」
「もう良いや。オレも寝よ」
実害はないと考えると、もうどうでも良くなってしまう。
自分とさして体格の変わらない男に、抱き締められていると言うのに、不思議と嫌悪感もなく。
黄瀬は観念して寝る事にした。
先程考えた火神を起こすと言う選択肢は。
聞こえる聞き心地良い寝息に、諦めにも似た気持ちでその選択肢を排除した。
・
・
・
「ギャァァァァ!!!!!!!!!」
「っ…ぅっさ…何スか、朝っぱらから〜…」
「な、な、な…何でお前がオレのベットに居んだよ!!」
「えー、そりゃじゃんけんに勝ったんだから」
「いや、だから、……ぁれ?」
キョロキョロと辺りを見回し、火神が首を捻る。
「言っとくけど。オレの寝床に侵入して来たのは、火神っちの方っスよー」
「…あぁ、そっか。黄瀬が来てたんだな」
ようやく事態を把握したのか、火神は気まずそうに視線を彷徨わせて。
「…悪かったな」
「いーえ。…どーいたしまして?」
「プっ、んで疑問系で、しかもどーいたしましてなんだよ」
「だっーて他に言葉思いつかなかったっス」
可笑しな返し方をしてるなと言う自覚をしつつ、黄瀬が返事を返すと、火神は苦笑してまた言葉を返す。
それが微かに気まずい空気を吹き飛ばして。
「朝飯にすっか」
「っス」
「オレ、朝はパン派だから文句言うなよ」
「オレも朝はパン派っスから大丈夫っス」
背後から黄瀬の言葉を聞きながら、火神はクローゼットからYシャツと制服を取り出す。
「お前の制服、洗濯終わってリビングに置いてあっから」
「サンキューっス!」
制服に着替え、TVを見ながら朝食を食べる。
他愛もない会話をして、時計を見て、鞄を取った。
じゃれ合いながら、歩いていけば。
「…お早う、ございます」
「黒子っち!オハヨーっス」
「ハヨ」
黒子が背後から声を掛けて来る。
それに黄瀬は嬉しそうに黒子の元に駆け寄り、火神はそんな黄瀬を呆れながら見る。
「黄瀬君は朝から元気ですね」
「黒子っちに会えたっスからねー」
「はぁ…因みに何でお2人がこんな朝早くに一緒にいらっしゃるんですか?」
「あぁ、昨日バッタリ会って」
「火神っちの家に泊めてもらったっス〜」
「ばっ、言うなよ!!」
「え、何で?」
「親しいみてェだろ!!」
「あぁ、そうっスね…ぁのね、黒子っち。昨日ね、火神っちに救済してもらったんス」
「救済、ですか」
「ほら、昨日急に雨が降って来たじゃないっスか」
「はい。急に土砂降りになりましたね」
「っス。傘持ってなかったんで雨宿りしてたら、火神っちも居て」
「はぁ…」
「結構濡れてたんで、火神っちが家に呼んでくれて」
「好きで呼んだんじゃねーよ。何かくしゃみしてっし、見ちまったからな。あれで風邪でもひかれたら目覚め悪ぃから、しょうがなく、だ!」
「何か…そこまで否定されると、さすがに複雑なんスけど…」
力強くそう吐く火神に、黄瀬も思わず苦笑を浮かべる。
「ね、黒子っち。火神っちってさ、何気にモテんじゃないっスか?」
「え?」
「は・はぁ?!何だよ、いきなり!!嫌味か、黄瀬!!」
「ぇ、モテねーんスか?」
「…っ!…モテねーよ!!悪かったな!つか、モテたくもねーわ!!」
「え゛、火神っちもしかして…」
「ちげーよ!!変な想像すんな!!!」
「火神君、女の人苦手なんですよ」
「ふ〜ん、そうなんスか。そりゃ…何て言うか勿体ないっスね」
「は?」
「え?」
黄瀬がそう言うと、火神と黒子すらもキョトンとした表情をする。
その表情を黄瀬は満足そうに見つめて。
ニコっと笑うと、タっと走り始めた。
「んじゃ、オレ学校行くっスねー!」
「ちょっ、おい!意味解んねーんだけど!!」
「じゃぁねー、黒子っち!また来るねー!!」
「結構です。気をつけて行って下さい」
走りながら時々振り返りながら手を振る黄瀬を、黒子と火神は眺める。
そしてそれが見えなくなると。
「なぁ、黒子」
「はい」
「勿体ない、ってどう言う意味だ?」
「多分、ですが、金銭や財産・才能と言うような自己の所有物を無駄に散財するという意味ではないでしょうか」
「や、そうじゃなくて!今黄瀬が言った意味だよ!!」
「はぁ…ボクに解る訳ないじゃないですか」
「ぅわ、何か気持ち悪ぃ!!」
頭をぐしゃぐしゃと掻き回す火神を眺めながら。
黒子はゆっくりと歩き始めるのだった。
・END・
2012/08/19UP