「黄瀬!おま、犬に戻れ!!今すぐ!!!」
「は?!…ちょっ、いきなり何々スか!!」
ガチャガチャと忙しない鍵の開錠の音と共に部屋に飛び込んで来た火神っちの言葉に。
ウトウトとしていたオレは飛び起きる。
意味も解らず、しかも寝惚けたオレの眼前に火神っちの顔。
すンげー慌ててる。けど、何で?
「いーから!!」
「意味解んな…!!」
理由を聞く前に、チュっとキスされて。
ポンっとオレは犬の姿に戻る。
…いつもは犬の姿になる事を嫌がる火神っちが珍しい。
案の定火神っちは犬に戻ったオレに怯えながら、バタバタと部屋を出て行った。
ビビるくらいなら犬に戻さなくても良いのに。
不思議に思いながら、散らばったさっきまで着てた服を口に銜えて片づけてたら。
ガチャっと三度目の玄関の扉が開く音がして。
「?」
「もう良いんですか?」
「あ、あぁ…悪かったな、待たせて」
「いえ。それでは…お邪魔します」
「おぉ、まぁ適当に座っててくれ」
「はい」
聞いた事のない第三者の声に、お客さん?と首を傾げていると。
「…大きなわんちゃんですね」
「…わふ」
リビングに現れたうっすーい人。
火神っちの友達?
ジっと見てるとトコトコと近づいて来て、頭を撫でられた。
「前に言ってたわんちゃんって君ですか…。犬が苦手な火神君が犬飼うなんて、ちょっと面白いですね」
あー、そうっスねぇ。
オレがこの姿んなると、怯える怯える。
以前何かの拍子でちゅーしちゃって、犬の姿になった時はひどかったっスねー。
面白れーから、時々寝てる火神っち襲って、犬の姿に戻って。
んでそのまま火神っち追い掛け回して、人間になった時、こっぴどく説教されたっス。
そんな犬大っ嫌い(嫌いつーか、苦手?)な奴が、幾ら人間になれるたって、オレを傍に置いとくなんて、本当火神っちってお人好しつうか。
まぁその恩恵にあやかってるオレが思う?事でもないんスけど。
「待たせたな、黒子。…ひっ」
「ワン!!」
「ちょっ、馬鹿黄瀬!その姿で近寄んなつってんだろ!!」
「ワンワン!!」
「その姿って…犬は犬以外の姿にはなれないと思うんですが…」
ですよねー。
まぁ、アンタは知らないと思うっスけど。
オレ、人間になれるんスよ。
「あ…あー、そ、そうだよなー…」
「黄瀬君って言うんですか、その犬」
「お、おぉ…」
「人間みたいな名前ですね」
「あー、まぁな…」
ちょっと。
何目ぇ逸らして言ってんスか。
馬鹿正直って言うか、嘘吐くの下手っスよねー火神っちって。
オレがヘマ扱くより、アンタからバレんじゃないかって思うっスよ、マジで。
「ガゥ!!」
「な、何だよ!!近寄んなって!!!」
「ちょっと。火神君の飼い犬でしょ。そんなに邪険にしたら可哀想じゃないですか」
「飼い犬じゃねーし。それにいーんだよ、コイツは」
「良くないですよ。蹴り、当たってないですか?よしよし」
「クゥーン、クゥーン」
「何甘えた声出してんだよ、気色悪ぃ」
「ウゥゥー」
「い、威嚇すんな!!」
「火神君、黄瀬君は何か芸、出来るんですか?」
「あ?『お手』とかは出来るらしいぜ」
「らしいって…君の犬でしょう」
「あー……そう、だな」
「黄瀬君、『お手』」
「ワン!」
「『おかわり』」
「ワフ」
「ふふ、お利口お利口」
「コイツっ…!オレには反抗的なクセして…!!」
「え、そうなんですか?」
「そうだよ!…黄瀬、『お手』!!」
出された火神っちの手を、前足で横からバシっと叩く。
「……………」
「……………」
「……………」
「…火神君にはしないんですね。よくそれで仕込めましたね」
「オレが仕込んだんじゃねーよ!!」
「ワン!」
「コ・ノ・ヤ・ロー!!こうなったら、意地でもさせてやっからな!!黄瀬、『お手』!!」
しつこく言い放つ火神っちに顔を横に向けて、ツーン。
「テメェっ…どうやら夕飯は要らねーみてーだな」
「!!」
ちょっ、動物虐待反対!!!
「黄瀬、『お手』!!」
「ワフ」
あーもー、しょうがないっスね!
オレは前足を上げると、火神っちの顔目掛けて。
ポスン、と言う音と共に沈黙。
ソフトタッチなのは、せめてものオレの優しさっス。
「~っっ、黄瀬、コノヤローっ!!!」
「ワン!!!」
「ギャッ!!馬鹿、追い掛けて来んな!!!」
うるさい火神っちを追い掛け始めれば。
さっきの勢いは何処へやら、火神っちはオレから逃げ出す。
それが面白くてドタバタやってると。
「あの、火神君。愛犬とじゃれ合い中に申し訳ないんですが…」
「愛犬じゃねーよ、馬鹿犬だよ!!駄犬だよ!!!」
「バゥっっ!!」
「ギャーっっ!!!!」
「さっさと見ませんか。…これ」
スっと出されたディスクに、オレは足を止める。
「ワフ…?」
「あ、あぁ、そうだったそうだった。悪かったな、黒子」
「いえ」
火神っちもオレが止まった事により足を止め、影の薄い人…ぇーっと黒子クン?からディスクを受け取る。
どうやら何かを鑑賞するようだ。
えー何何?何見るんスか?
ワクワクしながら、オレもTVの前に移動し、座ると。
「君も一緒に見るんですか?」
「ワン!!」
「ふふ、飼い主と一緒でバスケが好きなんですね」
「…ワン」
嫌々。
飼い主じゃないから。火神っちは飼い主じゃないっス。
通じない言葉に、パタパタと振ってた尻尾が、ピタっと止まって、そのままシュンとなるのが自分でも解った。
言葉が通じないって不便…。
「始まるぞ」
「はい」
パっとTVに映ったのはバスケだった。
あ、火神っちだ。うっすーい人も居る。
って事は火神っち達の試合?
ジーっとそれを見て、…驚いた。
早い流れで流れるパス。
パスが出されたと思うと、いつの間にか黒子クンが中継役でパスが曲がって。
フリーの選手がシュートを決める。
凄い…火神っちに何度かバスケの試合、見せてもらったけど。
こんな選手見た事ない。
凄い。…すンげー!!
「…やっぱりこの頃は連携が拙いですね」
「だな。パス連携、確認した方が良いか?」
「そうですね…試合ではその形に持って行くには難しいでしょうが、お互いの癖などは解ってた方が良いと思います」
横で話をする2人の声なんか全然耳に入らなかった。
すっげー、すっげー!!!
こんなバスケなんてあんだ!!バスケの試合は火神っちが学校行ってる間にいっぱい見たけど。
こんなバスケする人、初めて見た!!!
「…こんなトコですかね」
「そうだな。明日から練習に取り込むか」
「えぇ」
「ワン!!!」
「わっ、どうしたんですか?黄瀬君」
凄い凄い!影薄いとか思ってマジすんませんでした!
オレはすっかり黒子っちのバスケが気に入って。
尻尾をいっぱい振って、黒子っちの顔をベロベロ舐める。
「ふふ、くすぐった…、ぁは、も、良いですってば…ちょっ、わ!!」
「黒子?!」
気が付けば黒子っちの事押し倒してて。
それでも構わず、黒子っちの顔舐めてたら。
…あ、と思った瞬間には一層柔らかい感触。
ぁれ?これもしかして唇じゃね?と思った瞬間、火神っちからも「あ゛!!」と言う叫び声。
あ、やべ、これ人型んなっちゃうんじゃね?と思ったけど。
「……………」
「……………」
「も、もうくすぐったいし、苦しいですよ、黄瀬君」
ピタリと動きを止めたオレを黒子っちが制して。
そーっと火神っちを見ると、火神っちも固まってて。
あれ?黒子っち驚いてないっスね?もしかしてオレと火神っちが知らないだけで、ちゅーで犬が人型んなるって結構普通の事?
とか思ってたら。
「黄瀬…おま、何で人んなんねーんだ…?」
「…ワフ」
「火神君…君、何言ってるんですか?」
呟かれた火神っちの一言。
あ、やっぱオレ人型んなってねーんだ、と自分の前足を見る。
…うん、オレのいつもの足。
ここ最近見てなかったっスけど。
「えー?」
火神っちも不思議そうに、オレの身体を触りまくってる。
嫌々、変わりないから。
そしたら黒子っちが。
「…君、犬苦手じゃなかったんですか」
「え?……どわぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「…苦手なんですか、違うんですか、どっちなんですか」
「苦手だよ!!!!!!」
「飼ってる人の台詞じゃないですよね…」
「うっせーな!!!!色々事情があんだよ!!!!!」
叫びまくる火神っちを余所に。
黒子っちはデッキからDVDを取り出し、鞄に仕舞うと。
「じゃぁ、今日の所は帰ります。火神君、また明日」
「お、おぉ…」
「お邪魔しました」
ペコリと頭を下げて部屋を出てった。
何つうか、クールな人っスねぇ…。
そんな姿を見送って、クルリと顔を火神っちの方へ向ける。
「ワン」
「…何だよ」
「ワン」
「嫌、何言ってるか解んねーし。つうか、お前人間になれなくなったのか?」
「ワフ」
首を傾げてみれば。
それで解ったのか、火神っちは溜め息を吐いて。
「でもさっきは人間から犬んなったし。…お前マジで訳解んねーな」
オレだって訳解んねーっスよ。
えー、このまま人間になれなかったら、どーすんの?
火神っち、犬 苦手だし。
うーん………取り敢えず試してみるっスか。火神っちで。
「ワフ」
「…何だよ」
「ワン!」
「や、何ジリジリ近づいて来てんだよ。さっき黒子にキスしても人間になれなかっただろ。もうお前人間に……」
「ワン!!」
「わ、馬鹿!近づくな!!オレは犬が苦手なんだよ!!!」
「ワンワン!!」
「た、タンマ、タンマ!!Stoooooooooooooop!!!!!!!Stay、Stay!!!!!!!!!」
ぅわ、何その妙に良い発音。
つか、アンタが犬苦手なんて知ってるし。
アンタからしてくれんの待ってたら、日が暮れる所か飯食いっぱぐれそうだし。
それにオレ、言いたい事もあるし。
もう人型になれないか否か、試せるしでイッセキニチョーって奴っス、オレあったま良いー!!
「ワンワン!!!」
「ギャー!!!!!!!」
ポンっ
「火神っち!!…ぁ、しゃべれた」
「は?!おま、何、人間になれ……」
「火神君、すみません。そう言えばカントクから今後のスケジュール表渡すよう言われ……え?」
「く、黒子……」
「……………」
「……………」
この場合。
どうすれば良いんスかね。
-コマンド-
▷逃走
▷服を着る
▷キスする(火神っちに)
▷キスする(黒子っちに)
さて、どれが一番この状況に相応しいっスかね?
「…すみません。お邪魔しました」
「嫌々!!ちょっ、待て、黒子!!!お前、盛大に何か勘違いしてるだろ!!!違う!!!違うから、これ!!!!」
「勘違いって何ですか。素っ裸の男が火神君を押し倒してるとか……あぁ、大丈夫です。ボク、偏見とかありませんから」
「待て!!これにはすっげー深い訳つうか、事情があってだな…!!」
「すみません、勝手に入って来たボクが悪かったです。チャイム鳴らしたんですけど、応答がなかったもので。どうぞ、ごゆっくり…」
「だからちげーんだって!!!!…てか、黄瀬!!お前もさっさと退け!!!そして服を着ろ!!!」
「へ?あ、そっスね」
「と言うか、ボクは何も見てないし、解りません。ボクハナニモミテナイ…」
「ミスデレすんな!!!!!!!っっっ、頼むから、話を聞いてくれ――――――――っっっ!!!!!!!!!!!」
・END…?・
2012/11/08UP