「犬が人間に…ですか?」
「あぁ。…信じらんねーと思うが、さっきの犬が、コイツなんだ」
「っス!改めまして、黄瀬涼太って言います!1歳になったばっかの野良犬っスー」
何とか事態を収拾させた火神っちが、黒子っちにそう説明する。
黒子っちはちょっと考えるような仕草をしてから、顔を上げてオレを見る。
オレはそれを笑顔で受け止めて。
「御二人でボクを担いでるって事はありませんよね?」
「…だったらもっと尤もらしい嘘吐くっての」
「ですよね。俄かには信じ難いですが…えぇっと、どうすれば、そう…変身?するんですか?」
「…………kiss」
「え?」
「だっ、だから!!キスだよ、キス!!キスすると人間なったり、犬んなったりすんだよ!!!」
「………えぇっと」
やけくそのように火神っちが叫べば。
黒子っちは瞬間きょとんとした表情をして。
「火神君、TVの見過ぎじゃ…」
「ちげーって!!マジで!!本当に、真剣に、マジで!!コイツ、キスすると、犬から人間になんだって!!」
「だってさっき、黄瀬君…ぁ、犬の方の黄瀬君です。に唇、舐められた気がするんですが…」
「あ、そうっスね。でも黒子っちとちゅーしても人型んなんなかったっス!」
「黒子、っち…?」
「あ、オレ、認めた人の事、っち付けて呼ぶ事にしてるんスよ!」
「…はぁ、そうですか」
「ちょっ、冷たくないっスか?!犬ん時はあんなに可愛がってくれたのに!!」
「犬の黄瀬君は可愛かったですから」
「人型のオレも可愛いっしょ?!」
「寝言は寝てから言って下さい」
「ヒドっ!!黒子っち~…!!」
黒子っちの反応にシクシクと泣く、可哀想なオレ。
……ぁ、そうだ。
「黒子っちのバスケ、すっげーっスね!アレは真似出来ねっス!今度、オレともバスケしてね!!」
「…復活早いですね、君」
「野良に冷たい人間も居るっスからね!ね、オレともバスケしてよ!!」
「解りました。そんなにきゃんきゃん吠えなくても、聞こえてますよ」
「わーい」
言いたかった事を言えて、満足。
しかも望み通りの答えももらったし。
それでオレはもう用済みとばかりに、口を噤むと。
「えぇっと、話は逸れましたが」
「おまっ、…本当クールだな」
「これでもかなり混乱してます。特に、火神君の頭の中が」
「オレかよ!!」
「とにかく。案ずるより産むが易しと言う言葉もありますし。…して見て下さい、彼に。キス」
「はぁ?!」
「ん?」
「それで彼が犬に戻れば信じます。はい、どうぞ」
「いやいやいや!!はい、どうぞって!!」
「だって言葉で説明されてもピンと来ませんし。それなら目の前でヤって下さった方が偽りありませんし」
「そうだけど!そうなんだけど!!つか、何か嫌な響きが聞こえたんだけど…!!」
「あ、無理なら構いませんよ。君が裸の男に押し倒されてたって事で。ボク、偏見ありませんから」
「脅しに掛かりやがった、コイツ……!!!」
イライラとした様子の火神っちと、冷静な黒子っち。
この2人、正反対っスねー。
それなのに家に来るくらい仲が良いとか、ちょっと不思議な感じっスね。
そんな事を考えながら、のんびり2人の様子を見てたら。
「…黄瀬」
「ん?何、火神っち」
「……戻れよ」
「は??」
グリンっとこっちを見た火神っちが。
何だか形容し難い、とにかくすンげー顔してて。
迫って来た、と思ったら、…チュっってキスされた。
またっスか。もー、今日何回戻れば良いんスか。
そんな事考えてたら、ポンって小気味良い音がして。
「ワン?」
どっスか?と言おうと思ったら、…どうやら犬になったらしい。
しゃべれねーのが難点っスね、この姿。
「どーよ?!」
「…本当だったんですね」
「ワン!!」
どや顔の火神っちが黒子っちに言う。
嫌々。何でアンタがどや顔するんスか。
黒子っちは微かに目を見開いて、オレを見てる。
驚いてはいるらしいけど。…何かあんま驚いてる感じしないっスねー。
「先程彼が着てた服も散らばってますし。…君、本当にさっきの男の人、ですか?」
「ワン!」
散らばった服を持ち上げ、そしてオレの頭を撫でながら黒子っちが言う。
オレはそれに返事のように鳴いて、返す。
「信じられません…」
「オレだって信じらんねーよ。けど、実際そうなんだ。信じるしかねーだろ」
「はい…目の前で今の現象を見なければ、とてもじゃないですけど、信じられませんでした」
茫然としてるらしい黒子っちが、火神っちを見ながら。
「この現象は、火神君と黄瀬君にしか起こらない現象なんですかね?」
「あー、どうなんだろ?試した事ねーし。つーか、バレたのも初めてだし」
「そうですか。……あの、ボクもしてみて良いですか?」
「あ?何を?」
「黄瀬君に。キス」
「は?!」
「ワフ?!」
「試してみたいじゃないですか。さっきは舐められただけでしたし。他の人間でもなるか否か」
「や、それはそうだけど…お前良いのか?」
「まぁ、人間の男にするのは御免被りますが。犬なら、まぁ…」
「…おい。ついさっきさせた本人がよく言うな」
何だか実験みたいになってるんスけど。
まぁ、別に良いっスけど。
けど、どうせなら女の子としたかったなー。オレ、一応オスっスから。
まぁ、でも黒子っち可愛い顔してるし。まっ、いっか。
そう思いながら、大人しくキスを待ってると。
チュっと柔らかい感触がして。
でもさっきみたいな小気味良い音はしなくて。
「…人間に、なりませんね」
「あぁ。何でだ?」
「さぁ?火神君、シてくれますか?」
「あ、あぁ」
「…ワフ」
オレが小さく鳴くと。
火神っちは解り易いくらいビクゥゥゥとして。
それが面白くて。
ウズウズと働く悪戯心を抑えきれなくて。
「ワン!!」
「どわっ!ば、馬鹿!!大人しくしてろ!!!」
「ワンワン!!」
「ぃや、はっ…!追い掛けて来るなー!!!!」
バタバタっと追い掛けっこを始める。
やー、やっぱ火神っち“で”遊ぶのは楽しいっスね!
止めらんないっスわ!!
すると。
ガシ
「?」
「!?」
「さっさとしろ」
ガン!!!!
「ぅわっぷ!」
「キャイン!!」
ポンっ
痛い!と思った時には、柔らかくも固い感触が唇に触れて。
小気味良い音がした。
「い、たたた…歯…!歯、痛いっス!!!」
「あ、人間になりました」
「黒子!!テメ、何しやがんだ!!!」
「遊んでるからです」
「遊んでねーよ!!コイツだけだよ、遊んでんのは!!!」
ジンジンとする前歯を抑えてたら、バサっと服を渡されて。
「良く解りました。黄瀬君は取り敢えず、服を着て下さい」
「りょーかいっス」
…この人、見掛けに寄らず怖いっス。
オレは言われた通り、いそいそと服を着る。
しかし脱いだり着たり、人間ってメンドクサイっスねー。
「どうしてだか、火神君のキスでだけ、黄瀬君は人間になるみたいですね」
「あ、あぁ、そうみたいだな…」
「…君、彼とどう言う関係なんですか?」
「怖い聞き方すんなっ!!コイツはただの捨て犬で、オレはただの拾った人間で、それ以外の関係なんてねーよ!!」
「捨て犬じゃないっス!野良っスよ!!」
「うっせーよ!お前は黙ってろ!!」
「ヒドいっス!!」
2人共、オレの事蔑ろにし過ぎっスよ!!
「もー、オレも構ってっス!!」
「どわっ?!重っ…重い!!黄瀬、退け!!!」
「ヤっスー!!オレも構って構って―――!!!」
「………どうやらボクは邪魔みたいなので、今度こそ帰りますね」
「ちょっ、黒子!!助けて行けよ!!!」
「ボクに黄瀬君が退かせられる訳ないじゃないですか。健闘を祈ります」
「黒子っち、まったねー!あ、絶対絶対バスケやろうねー!!!」
「はい。君がどんなバスケをするか、楽しみにしてますね」
「~~~~っっ、オレの上で呑気に会話をするな―――――っっ!!!!!!!!!!」
・END・
2012/11/013UP