「お前さぁ、何か芸とか出来ねェのか?」
「芸っスか?」
TVを見てたら火神っちにそう声を掛けられた。
振り向いたら、火神っちは何やら食事の支度をしてるらしく。
忙しなく動いてた。
「それって『お手』とか『おかわり』が出来るかって事っスか?」
「ん?あー…まぁ、そんなトコか?」
「出来るっスよー。オレ、優秀なワンちゃんっスから」
「へ〜。誰に教わったんだよ」
「え、誰だろ?気がついたら出来るようになってたっスねぇ」
「ふーん、そう言うのって教えないと出来ねェのかと思ってた」
「どうなんスかねぇ…オレの場合、餌貰う一環みたいなもんスから」
「…っと、飯出来た。テーブルに運ぶの手伝え、黄瀬」
「っス!」
言われて、オレはパっと立ち上がり、出された食事をテーブルに並べる。
火神っちが来るのを待って、向かいっ側に座るのを確認して。
「いただきまっす!」
「黄瀬」
「へ?」
パンっといつものように手を合わせて、ご飯を食べようとしたら。
呼び掛けられて。
顔をテーブルに並べられたおかずから、火神っちの方に向ければ。
「『お手』」
「?」
いきなりそんな事を言われ、出された火神っちの手に。
オレは反射的にその差し出された手に、オレの手を乗せる。
「おぉ…」
「おぉじゃないっスよ!出来るつったじゃないっスか!!」
「まぁ、そうなんだけど」
「も〜、食べるっスよ?オレ」
「黄瀬」
「だから、何スかぁ?!」
「『待て』」
「………バクっっ!!」
「あ!テメ、『待て』つったろ!!」
「ふはひひ、ほへ『はへ』はへひはいふはは」
「は?何言ってるのか解んねー。つうか、口にものが入ってる状態でしゃべんな」
「んん………因みに。オレ『待て』は出来ねっスから」
「へ?そうなのか?」
「っス。だって意味解んなくないっスか?」
「…オレはお前の言ってる意味が解んねー」
「だーかーら。『待て』をする意味が解んないつってんスよ」
「意味って…『待て』に意味なんかあんのか?」
「それが解んないから、やらないんス。『待て』なんかしても、別に良い事なんかないし」
「…芸ってそう言う意味でするもんなのか?」
「んー…オレはそう言う意味でするっスかね。所詮野良なんで。餌貰う為の手段って奴っス」
オレの言葉に火神っちはひどく脱落したように。
「…あぁ、そっ」
「ちょっ、火神っち!『出来ない』んじゃなくて、『やらない』んスからね?!そこんトコ勘違いしないで欲しいっス!!」
「はいはい。…いただきまーす」
「ぜんっぜん聞いてねーし…!!」
「『出来ない』と『やらない』の違いがよく解んねーし」
「全然違うじゃないっスか!出来るけどやらない…何故なら『待て』の意味を見出せないから!!」
「…は?」
「『待て』の意味が解んねーんスよ。何で『待つ』の?何を『待つ』んスか?」
「オレに聞かれても知んねーよ」
「さっき言ったじゃないっスか!」
「や、出来んのかなーと思って」
「出来るけど、やんないっス!!やらせたいなら意味を教えてほしーっス!!」
「別にお前に芸仕込もうなんて思ってねーよ。良いから、早く飯食え」
「話振ったの火神っちっしょー?」
「うっせー早く食えつってんだろ、食わねーなら食っちまうぞ」
「食うっス!!」
伸びて来た火神っちの手から、自分のおかずを死守して。
オレはフと思い出す。
「あぁ、そだ。芸かどうか解んないっスけど、スポーツなら出来るっスよ、多分」
「あ?んだよ、フリスビーキャッチとかか?つか、多分て何だよ、多分」
「フリスビーキャッチは解んないっスけど。多分ってのはやった事ないっスから」
「はぁ?!それで何で出来ると思うんだよ!」
「火神っちが学校行ってる間にTVでスポーツやってんの見てて。あ、これ出来るなーって思うのあって」
「思うのと、実際すんのは全然違ェっての」
「まぁそうなんスけどー。オレ走んのも早いし、絶対出来ると思うんスよね。ね、今度何かやり行こうよ、スポーツ」
「スポーツつってもなぁ…オレ、バスケくれェしかスポーツやらねェぞ」
「バスケ?」
「あぁ」
「じゃ、それやろ!見せてもらえば出来ると思うっスから。教えて」
「解った解った。今度な」
「絶対っスよ?!」
「へいへい。…ごちそーさん」
「火神っち早!!」
「オメーが遅ェんだよ」
「ちょっと待ってちょっと待って、オレも今食うから…」
「慌てて咽喉に詰まらせんなよ」
「わーってるっス!!」
懸命に食べ物を口に詰めて。
「ねね、火神っち!この後、そのバスケってのやり行こ!!」
「片づけたらなー。お前が上手くなったら、相手になって良いかもな」
食器をシンクに運びながら言う火神っちに、オレも大きく頷いて。
ワクワクしながら、ご飯を片づける。
そして食器の片付けも終わって、ボールを片手に火神っちがストバスってトコに連れてってくれて。
火神っちが楽しそうにバスケするのを見て。
オレの胸にワクワクが広がる。
「よっ、っと!!」
「おぉ!!」
ガコンっと強引にボールを捻じ込む姿に目を見張る。
楽しそう。すンげー楽しそう!
「火神っち、オレもオレも!!」
「ほらよ」
投げ渡されたボールを受け取って。
さっき火神っちがした姿を思い浮かべて。
「…フっ」
「おっ」
見よう見真似でゴールに放る。
パスっと入ったボールに、パっと喜びが胸に広がった。
「火神っち、火神っち!見た見たぁ?!」
「へー、センスあんじゃね?」
「でしょでしょ?!ぅっわ、これ超楽しい!!」
「そうかよ」
転がったボールを拾って。
ワクワクする気持ちが抑えられない。
「もっと教えて、火神っち!」
「あぁ。この調子なら、オレの相手も出来そうだな」
「へっへ〜、すぐ負かしてやるっスよ!」
「抜かせ」
家からこのストバス?も近いし。
もっと他の人の見て、もっともっと上手くなりたい。
楽しい。すンげー面白い!
「色々教えてやっから。早く覚えろよ」
「っス」
昼間。
火神っちが学校行ってる間暇だったけど。
やる事出来た。
すっげー楽しくて、面白い。
オレは胸に広がるワクワクを感じながら。
人間、ってのも良いなって思った。
・END・
2012/11/07UP