民主党「障がい者権利擁護条例(案)」
策定に向けた基本的な考え方
【起案】
北海道議会 民主党・道民連合議員会 「障がい児・者権利擁護条例(仮称)検討PT」
【引用/参考】
- 障害者政策研究全国実行委員会内作業チーム「障害者差別禁止法案」
- 札幌市「子どもの最善の利益を実現するための権利条例」
- DPI日本会議「障害者市民案」
- 民主党障がい者政策作業チーム「障がい者制度改革推進法案骨子」
一.はじめに
北海道議会・民主党道民連合議員会では、すべての障がい者(障がいを有する者及び障がいを有する児童を言う)が社会において生き生きと暮らし、自立と社会参加をしていくために欠かすことのできない「障がい者の権利擁護」を定める「(仮称)障がい者権利擁護条例」の策定に向けての検討を進めています。
このたび、策定に向けた基本的な考え方と、条例に盛り込む「権利擁護に関する調整機関の設置と問題事例に係る是正措置の整備」の項目案をまとめましたので、このことに対する皆様のご意見を募集し、お寄せいただいたご意見等を考慮してさらに検討を深め、他の会派と連携して北海道議会に条例案を提出する予定です。
二.策定に向けた背景とこれまでの経緯
平成18年(2006年)12月、国連において「障害者権利条約」が採択され、日本も署名しましたが、条約の批准や国内法の整備が行われていない状況にあっては、障がい者にとって暮らしやすい社会には、まだまだ不十分な環境となっています。
障がい者にとって暮らしやすい社会づくりを推進するためには、障がい者の権利擁護は欠くことのできない要素であり、いわゆる「三丁目食堂事件」の例を挙げるまでもなく、虐待、差別の防止をはじめとした、権利擁護のための制度・システムづくりは今や、喫緊の課題となっています。
こうした観点から、北海道議会民主党・道民連合議員会は、平成20年(2008年)6月12日に「障がい児・者の権利擁護条例」検討プロジェクトを設置し、障がいを理由とした差別や権利侵害などの事例を収集するために、障がい当事者へのアンケートや関係団体から意見聴取をするなど、障がい当事者参加による取り組みを実施してきました。
これらの結果を踏まえ障がい者の権利を守るため、国に障がい者差別禁止法の制定を働きかけるとともに、道民や障がい当事者が参画し、障がい者の権利擁護を推進するための北海道独自の「障がい者権利擁護条例」の制定に向け、他会派との協議を行ってきました。
三.条例の目的とめざす姿
- 1.目的
- (1)障がいを理由とする差別や虐待の根絶をはかります。
- (2)被害を受けた人を適正に、迅速に救済します。
- (3)すべての人の意思が尊重される社会をつくります。
- 2.めざす姿
- 障がいのあるなしにかかわらず、すべての人が生き生きと暮らすことのできるユニバーサル社会の実現をめざします。
四.条例の骨格
- 1.共生の地域づくり
- 障がいのあるなしにかかわらず、共に支え合う「やさしい地域」づくりを推進します。
- 2.対話のプロセスの保障
- 対立でなく融和を旨とし、権利侵害を強調するのではなく、障がいのある人もない人も、ともに暮らしやすい地域づくりを、対話を通じて 実現するプロセスを制度化します。(北海道版ADR=裁判外紛争解決手続の実現)
- 3.権利擁護のシステム化
- 権利侵害や差別を未然に防止するため、より身近な地域において相談支援システムを整備します。また、重大な権利侵害や差別事案については、当事者に対し、是正措置をはかることのできるシステムを導入します。
- 4.道の責務の明確化
-
- 道は、障がい者の権利を擁護する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
- 道は、障がい者の権利擁護が広く保障されるよう、他の公共団体等に対し協力を要請し、働きかけを行う。
- 道は、家庭、施設、地域等において、全ての道民がお互いの権利を正しく理解し、お互いに尊重し合うことができるよう必要な支援に努める。
五.障がい及び障がい者の定義
- 1.障がいとは、
- 傷害や病気を原因とする個人の特性にかかわらず、その個人に対して、ある程度以上の能力や機能を要求する社会的環境との関係で生じる障壁をいう。・・引用/障害者政策研究全国実行委員会
- 2.障がい者とは、
-
- 長期的または一時的、あるいは将来に予想される障がいにより、生活上の困難さを持つ、あるいは持ちうる状況にある人をいう。また、環境整備なしには、障害をもたない人にくらべて不利益を被るか、被りうる状況にある人をいう。・・引用/障害者政策研究全国実行委員会
- 前記 T の障がいの過去の記録あるいは、そのような障がいを持つとみなされる人のことをいう。・・引用/障害者政策研究全国実行委員会
六.差別の定義・・引用/障害者政策研究全国実行委員会
- 人として誕生してから、その生涯を終えるまでの間において、政治的、経済的、社会的、文化的またはその他の全ての生活分野において、身体的・精神的な特徴と理由により、他の人々と平等な立場で社会生活に参加する機会が奪われ、または制限され、その自由が束縛されている状態にあることをいう。
ここでいう自由が束縛されている状態とは、虐待、放置、経済的搾取によって、障がい者の生命、身体、財産または精神に対して危害が加えられる恐れのある状態をいう。
七.条例において制度化すべき事項
- 1.権利擁護に関する調整機関の設置について
-
- 障がい者の権利に対する不当な差別が原因となり、その権利に支障を及ぼす事例が起きた場合、当事者や支援者からの申し出を受け、関係当事者から事実関係を聴取の上、違法または不当な事実の確認及び改善方針の調整を行う中立的な機関を設置します。
- なお、この機関においては、問題事例を審議するのみではなく、障がい者にやさしい地域づくりを推進する観点から、関係者がどのような取り組みを講じるべきかといった、積極的な審議を行う機能を持たせます。
- 機関には、障がい者の権利擁護者として、公正かつ適正に職務を遂行するとともに、関係機関等と相互に協力・連携を図る責務を負うこととします。
- 2.問題事例に係る是正措置の整備について
- (1)立入調査権限について
- 障がい者に対する不当な差別が原因となり、その権利に支障を及ぼす事例に関する情報を把握した場合または上記1の調整の過程で、調査の必要が生じた場合等において、道(その受託者を含む。)が関係者に対して調査をすることができる権限を有することとします。
- (2)改善命令について
- 障がい者に対する不当な差別が原因となり、その権利に支障を及ぼす事例について、重大な支障を回避するために必要がある場合、道が関係者に対して改善を求めることができる権限を有することとします。
- (3)勧告・名称の公表について
- 道は、障がい者に対する不当な差別が原因となり、その権利に支障を及ぼす事例について、改善命令を出したにもかかわらず改善がみられない場合、当該関係者の名称を公表することとします。
- (4)公的かつ無償の財産管理制度の創設について
- 財産管理を適切に実施するため、財産管理に関する能力に支障のある障がい者に対する公的かつ無償の財産管理制度(後見制度)を設けます。
八.障がい者が「当たり前」に社会の中で暮らすことができるための基本事項
- 1.地域生活について
-
- 地域生活においては、その種別、程度にかかわらず、障がいを持たない他の人と同等に、いかなる差別を受けることなく、地域で一市民として生活ができることを基本とする。
- また、自立した生活の享有にあたっては、あらゆる生活形態が選択できる機会が保障されるものとする。
- なお、本人の意に反した施設生活の強制や、地域において自立した生活を営み、様々な社会的活動に参加できる機会を奪うことを行ってはならないものとする。
- 2.移動について
-
- 移動においては、その種別、程度にかかわらず、障がいを持たない他の人と同等に、いかなる差別も受けることなく、自由に移動することができることを基本とする。
- そのためには、公共交通機関の利用の機会が保障されるとともに、利便性を高めるための利用環境の整備と、安全でゆとりのある移動空間が確保されるものとする。
- 道路及び歩道、公共交通機関、公共施設等においては、円滑な移動と利用を制限してはならず、障がい者に対して、障がいを持たない人と異なる扱いを行ってはならないものとする。
- 3.情報の利用・伝達について
-
- 情報の利用・伝達においては、自らが選択する方法により、あらゆる種類の情報を利用し、享受し、また表現することができ、その利用及び享受に際しては、必要に応じて、情報の提供形態を変換することを妨げられないことを基本とする。
- なお、情報に係る役務の提供等を行う事業者は、その責任と能力に応じて、円滑な情報の入手、利用等のための便宜を図ることに努力する。
- 災害情報の伝達は、的確に行わなければならないこととする。
- 4.円滑に利用できる製品、施設等の普及等について
-
- 円滑な製品利用と施設等への普及においては、その種別、程度にかかわらず、あらゆる商品・施設・便益・販売・接客等のサービスや取り扱い説明書等の利用において、障がいを理由とするいかなる差別も受けることなく、障がいを持たない人と同等に利用できることを基本とする。
- なお、利用に関して地方公共団体は、サービス提供事業者が障がい者のニーズに応じた適切な配慮を行うよう、サービス提供事業者に対する指導・監督を行わなければならないこととする。
- 地方公共団体及び事業者は、ユニバーサルデザインによる製品、役務等で、障がい者が円滑に利用できるものの研究開発の推進と、その成果の普及、また、円滑に利用できるような施設(私有・公有)の構造及び設備の整備等の支援及び、円滑に利用できる構造と整備を備えた住宅の建築、当該構造及び設備を備えた住宅への改築等の普及に努力する。
- 5.不動産や建物の取得等について
-
- 不動産や住宅の取得や賃貸においては、その種別、程度にかかわらず、不動産や建物の取得・利用・居住において、障がいを持たない人と同等の機会が保障され、障がいを理由とした、不動産の取得、居住、利用に関しての拒否や制限を行ってはならないことを基本とする。
- また、建物の売買や賃借、改修等の契約に際し、障がい者が第三者の同席、助言を求めた場合、これに応じなければならないこととする。
- 公営住宅等への入居について、障がいの程度や介護(援助、支援)の必要性などからの理由によって、不利益な扱いを行ってはならないこととする。
- 6.教育について
-
- 教育においては、生涯のどの段階においても同世代の障がいを持たない人と統合された教育を受けることができ、また、個々人に応じた個別的支援教育を受けることもできることを基本とする。
- また、個別的支援教育の策定にあたっては代理人を立てることができ、その策定過程に参加して意見を述べ、また、策定された個別支援の内容に関して説明を受け、意見や異議を述べることができることとする。
- 義務教育制度において、障がい者が障がい者以外の者と共に教育を受ける機会を確保することを基本とし、障がい者またはその保護者が希望するときは、特別支援教育を受けることができることとする。
- 教育関連機関は、義務教育について、障がい者の意思疎通の仲介に関する援助を提供する体制の充実、障がい者に係る教育に関する専門知識を有する教員の充実等の人的体制の整備、障がい者が円滑に利用できる学校施設の整備、障がい者が利用するための教材の普及の推進等の物的条件の整備、その他の障がい者が教育を受けるための環境整備に配慮しなければならないこととする。
- 教育関連機関は、高等教育その他の義務教育以外の教育について、障がい者が障がい者以外の者と平等に当該教育を受ける機会を確保するよう、上記に相当する施策に配慮しなければならないこととする。
- 7.雇用・就労について
-
- 雇用・就労においては、いかなる差別的な処遇を受けることなく、社会のあらゆる分野において働くことができ、あわせて、職場環境や人的援助・支援など、職業に就き、就労を維持するために必要な支援を受けることができることを基本とする。
- 障がいを理由に、採用の拒否、解雇及び、賃金、昇進等の労働条件や労働環境において、不利益や不当な扱いを行ってはならないこととする。
- 地方公共団体及び民間事業者は、法定雇用率の確保はもとより、なお一層の雇用に努力する。
- 自営等、雇用以外の就業について、その選択が可能となるよう施策を講じることとする。
- 公契約の落札者を決定するにあたっては、その入札者が障害者雇用率を達成していること、障がい者施設の製品を相当程度購入していること等を総合的に評価する方式の導入について検討することとする。
- 地方公共団体等は優先的に調達することなどにより、障がい者が就労する施設の受注の機会の増大を図ることとする。
- 障がい者の配偶者、障がいのある子どもの保護者の就労にあたっては、安心して介護等ができるよう、事業者は配慮に努めなければならないこととする。
- 8.医療、リハビリテーションについて
-
- 医療、リハビリテーションにおいては、心身の体調を自らの意思で良好に保ち、自らの望む日常生活と社会参加を果たすために、自らが求めるまたは障がいを持たない人にも提供される同一の範囲、質、水準の医療及びリハビリテーションを受けられることを基本とする。
- 自立した日常生活または社会生活を営むために、必要な医療を受けたときに要する費用に係る自己負担の額を、障がい者の負担能力に応じたものにすることにより、障がい者の経済的負担を軽減することとする。
- 障がい者の存在を否定したり、その個人としての尊厳を傷つけるような不当な医療行為を行うこと及び、医療の名の下に強制的に隔離的な環境に閉じ込めることを行ってはならないこととする。
- 自らが望まない医療等の提供を拒否することができ、またインフォームドコンセント(「正しい情報を得た(伝えられた)上での合意」)を意味する概念を受けることができることとする。
- 9.性・生殖について
-
- 性・生殖においては、障がいの種別、程度にかかわらず、性を有する個人として尊重され、障がいを理由に、恋愛・婚姻・子育てが制限されることがあってはならないことを基本とする。
- 10.地方公共団体、事業者について
-
- 地方公共団体及び事業者は、障がい者へのあらゆる差別を撤廃し、市民への理解を促す包括的方策を、適切な手段により速やかに実行しなければならないこととする。
- 障がい者は、平等にあらゆる行政の手続きやサービスを利用することができるとともに、地方公共団体は提供する情報を、あらゆるコミュニケーション手段を用いて提供しなければならない。
- 11.政治について
-
- 様々な政治参加においては、障がいを持たない人と同等の権利を有することを基本とする。
- 様々な政治参加とは、国政または地方自治に関する選挙(被選挙権含む)、裁判官の審査、憲法改正の国民投票、住民投票、住民監査請求、請願、公の議会における傍聴の他、公職に就くことなどである。
- 12.司法について
-
- 司法においては、裁判所において裁判を求め、また裁判を受け、裁判外紛争解決手続を利用、または司法関係手続に参加(裁判員制度)もしくは傍聴することができることとする。
- 裁判の内容を理解することを容易にするために、適切なコミュニケーション手段を使用することができることとする。
- 13.道民・保護者について
-
- 道民は、障がい者が尊厳をもって生活し、社会に参加することができるため、あらゆる差別を排し、地域において障がい者を、支えていくよう努めることとする。
- 保護者は、子どもの養育や発達に関する第一義的な責任者であり、子どもの権利の保障に努めなければならず、いかなる理由をもってしても、子どもに対する虐待や差別を行ってはならない。
- 障がいを持つことを理由に、子どもに対する親としての権利が制限されたり、剥奪されることがあってはならない。
- 14.プライバシー
-
- 個人として情報や私生活におけるプライバシーは、侵害されてはならない。
先頭へ