どうもみなさん、おつかれさまっス。
自分の名前は松田直進っス。
自分は京一門に入門して今年で7年目を迎え、
一昨年の暮れ辺りに、BC起動役、
通称ゲートキーパー≠フ任を受けた門弟っス。
知っての通り、京一門はサンドリア随一の科学者集団であり、
世界各地から様々な研究者、探求者たちが集ってくる、
言わば科学の梁山泊のようなところっス。
・・・とはいえ、実は自分は、これといって科学に造詣が深いワケではなく、
クリスタル合成の腕も人並み、魔導工学は飛空挺の基本構造を知っている程度、
OTZ(オーバー・テクノロジー・ジラート)に関する知識なんかに至っては、
まったくと言っていいほどちんぷんかんぷんっス。
ただ、なぜか自分は、古代の魔法陣バーニング・サークルに感応する技能が、
生まれつき人の数倍以上あるらしく、その一点に関してのみは、
世界有数の魔導師レベルの、すごく希少な人材であるらしいっス。
サンドリア所属の平凡な冒険者であった自分は、
自分でも知らなかったBC操作の隠れた才能を見抜いて下さった
京一門の人材発掘部門の方に、19歳の頃に入門のスカウトをされたっス。
そのスカウトの際に、一門の提示した給料、各種保険、福利厚生等の条件は、
びっくりするほどの好待遇だったっス。
1も2もなく、ソッコーでそのスカウトの話に乗った自分は、
キョウノスケ宗匠直々に直京≠ニいう門弟名をつけてもらい、
ゲートキーパーの一員として入門したっス。
え? そんなに即決して良かったのか、って?
いや、巷でささやかれている京一門の悪いウワサは、
もちろん自分も何度か耳にしたことがあったっス。
だけど、考えてみて下さい。
四国間学術連盟の博士号を持っていても、
時には入門を断られることがあるという、あの有名な京一門に、
19歳という若さで、しかも驚くほどの高待遇でスカウトされたときたら、
そりゃ誰でも心動かされて、話に飛びついて当然じゃないっスか。
まあ確かに京一門は、なんか墓を荒らしたり、人さらいしたり、
明らかに法的にヤバそうな事を色々やってるみたいっスけど、
それはまあ、会社の方針というか、上の決定だから仕方ないというか・・・
自分はあくまでも、BCを操作できるという生まれつきの才能を、
一番良い形で発揮できる職に就くことが出来るという、
その状況を手に入れたということで、他に何の文句も無いっス。
とどのつまり、一門が世間の人々からどうウワサされていようとも、
しょせんは下っ端の門弟にすぎない自分にとっては、
やはりキョウノスケ宗匠は神のごとき存在であり、
五側近の兄さん、姉さんたちは、実の肉親よりも頼れる存在であり、
その他の先輩たち、後輩たち、総勢4000人もの門弟たちは、
嘘偽り、誇張無く、みんな自分の家族同然なのであるっス。
だから自分は、この先もずっと、
我らが京一門のために、
粉骨砕身、力の限り尽くしていく所存っス!!
・・・と、自分は本当に、心からそう思っていたっス。
ついさっき、二人のタルタルが、
この戦場に姿を現す前までは。
・・・自分は、一門の中でもっとも素直な男、直京≠ニいう名をもらったっス。
・・・だから、今ここでも、素直に本心を言うっス。
自分はこの日、この時、心の中でこう思ってしまったっス・・・
あんなバケモンみたいなタルを、
2人も敵にまわすだなんて、
宗匠、バカじゃねーの!?
・・・もしかしたら自分は、あのタル2人の壮絶な暴れっぷりを見て、
知らず知らずの内に、悲鳴を上げていたかもしれないっス。
・・・そう言えば、あのタル2名の味方であるはずのバス学の学生たちも、
恐ろしさのあまり、何人か絶叫していたような気がするっス。
・・・いや、そりゃあんなもん見たら、悲鳴くらい口から出てしまうっスよ。
タル2名の登場から、ほんの7秒くらいで、
1体約1千万ギルの無京が、
300体くらい蒸発してしまったんスから。
人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人
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T. T. T. T. T!!
Tamanegi TaruTaru Toroublemaker
THE TWINS!!
〜クリスタルに愛された天才〜
人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人人
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第18話
「 FINAL BATTLE
C L I M A X 」
後 編
〜〜〜〜〜 バス学 グラウンド 〜〜〜〜〜
PM 17:33
「ゲートキーパーどもぉぉぉ!!
あの2人に無京を差し向けるなぁぁっ!!」
辺り一面にツバを撒き散らしながら、キョウノスケが絶叫する。
「猛突進してくる水牛相手に、ティッシュで壁を作るようなもんじゃあ!!
あいつらの前に無京を何百体用意したところで、
ぷよぷよみたいに、あっという間に消されるだけじゃぁぁ!!」
キョウノスケのそんな怒号を受けて、
あのタル2人、そこまでパワーインフレしてるのかよ!?≠ニ、
愕然とするゲートキーパーたち。
月下の騎士。
白夜の黒い雨。
戦時中を知らない、若いゲートキーパーたちは、思った。
20年前の大戦にケリをつけたと言われている、謎のタルタル2名。
そんなん普通、ただのおとぎ話やと思うやん。
どうも マジだったようです(笑)
「三京ォォォォォ!! お前は月下の騎士≠止めろォォォ!!
改獣・オクスケぇぇぇ!! お前もはよ立ち上がって、
ちっちゃいおっさん≠フ方を相手せんかいっ!!」
宗匠、必死。
「・・・ちくしょう! わしもこのタイミングで登場すりゃ良かった><;」
コルモル、嫉妬。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!!
クリスタル・テレビジョンの視聴者たち、大興奮!!
バス学の敗北ムードに染まっていた空気が、
2人のタルの登場によって、あっという間に逆転した。
・・・もちろんクリスタル・テレビジョンの視聴者たちの中には、
戦争時代を知らない若い連中も大勢いる。
そんな者たちが、コメントで質問する。
え? なんなの このタルたち?
なにもんだよ このちっさいおっさん!
なんか戦闘員たちを一瞬で倒したぞ!? なにこの2人><
ようわからんけど こいつらヤベェwwww
誰か説明プリーズ!! このタルたちについて詳しく!
・・・そして、知っている者たちが、一斉にコメントで返答する。
黙って見てろ!! 黙って見てろ!!
黙って見てろ!! 黙って見てろ!!
黙って見てろ!! 黙って見てろ!! 黙って見てろ!!
黙って見てろ!! 黙って見てろ!!
黙って見てろ!! 黙って見てろ!!
黙って見てろ!! 黙って見てろ!! 黙って見てろ!!
黙って見てろ!! 黙って見てろ!! 黙って見てろ!!
黙って見てろ!! 黙って見てろ!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
物凄い勢いで懐から黒いリンクパールを引っ張り出し、
鼻水垂らしながら叫ぶキョウノスケ。
「キョーちゃあああああああんっ!!!
最後の改獣、まだかあああああああっ!!?」
「まあだだよ^^」
「はよせええええええええええええぇぇぇぇぇぇっ!!!
もうあいつら、来てもうたぞおおおおぉぉぉっっ!!!」
「わかってるってばぁ、うるさいなぁ。 もうじき完成するから、ちょっと待っててよぉ。
・・・あ、ジョッシュくん、ボクはハーフ&ハーフで、マルゲリータとてりやきチキンね^^」
「ピザ頼んどらんで、はよ造れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
キョウノスケの前回ラストのあの落ち着きっぷりは、
ただのヤセ我慢だったのであろうか。
↓ 前回ラスト
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・来おったな・・・この戦いの最高潮≠ェ・・・」
ゆっくりと腕を組み、静かに目を細めるキョウノスケ。
「我らが悲願、B計画≠ノおける、
最大にして最後の難関ども・・・!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
しかしキョウノスケの錯乱っぷりは、当然といえば当然。
現状における最大の頼みの綱、
一京の手が塞がっているのである。
裏切り者の二京によって足止めされているため、
一京がたる屋夫婦≠フ迎撃に出られないのだ。
宗匠、大ピーンチ!!の巻 である。
「お、落ち着け、落ち着くのだワガハイ・・・!!
大丈夫、大丈夫だ、まだ三京もオクスケもおるし、
あいつらでタルヤとルナナを抑えて、時間稼ぎをするんだ・・・!
時間さえ稼げば、対たる屋夫婦用の最後の改獣≠ェ完成するし、
日没と同時に、夜間のみ使えるアンデッド・バグベア≠投入できる!
まままままままだ、あわわわわあわわわあわてる段階じゃ、なななななない・・・・」
ここまでテンパるラスボスも珍しい。
まあ、キョウノスケをフォローするワケではないが、
無理もないといえば無理もない。
亀平、ヤグオさん、オクスケの3体の改獣を出したら、
コルモル、ボルタ、ハヤカで対処された。
最強の門弟、一京を差し向けたら、三輪車に乗った風水士で対処された。
一京がなんとか風水士を倒したと思ったら、二京が裏切って対処された。
4体目の改獣、アリあげクンが完成したと思ったら、
なんかメイドが急にロボになって、対処された。
やっとこさ三京がネコ侍を倒し、これで均衡が崩れたと思ったら、
今度は年老いたスティーに対処された。
三京がスティーを倒し、オクスケがハヤカを倒し、
これで今度こそ決まった!と思った矢先に、たる屋夫婦の登場である。
倒しても、倒しても、次が出てくる。
そらキョウノスケも、泣きながらテンパる。
物凄い勢いで登場して、
物凄い勢いで朝礼台から落ちて、
舌を出して気絶した竹ぼうきタルだけが、
キョウノスケにとって、唯一の心の拠り所であった。
「もうこの先の敵の増援、全部あいつだったらいいのにィィ!!」
朝礼台に視線を向け、心からの本音を叫ぶキョウノスケ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方、1−Bの生徒たちの周囲にいた無京の群れを、
わずか7秒で全滅させたタル夫婦。
「・・・へへへっ! 一丁あがり、っとくらぁ!」
手首でぐいっ!と鼻を持ち上げるような仕草をしつつ、
笑顔で1−Bの生徒たちを見渡す大将。
「・・・おう、うちの子のクラスの学生さんたちよォ!
あいつらすぐに次のザコを出してくるだろうが、
今の内、ほんのちょいとの間だけでも休憩しておきねぃ!
この先俺っちたちゃ、敵に徹底的にマークされるだろうから、
そうそう何度もおめぇさんたちを助けてやれねぇ!
わりぃがお掃除サービスは、今のでおしめぇだと思ってくんな!」
普通なら、冷酷な謎の美形剣士辺りが言いそうなセリフを、
ねじりはちまきのちっちゃいおっさんが言い放った。
「か、かっこいいアルー><!!」
「なんという戦闘力! じ、自分は最強の軍人を見たであります!」
「・・・かっこ良すぎて・・・呪いたくなったもの・・・」
ちっちゃいおっさんなのに、そのデタラメな強さに、
何人かの女子生徒の心がわし掴みにされた。
「・・・サララ。 その角刈り野郎の言うとおりだ。
恐らくは、次からはお前や級友たちを助けてはやれん。」
ふわり・・・とアゲハ系の盛りヘアを撫でつけながら、ルナナさんも呟く。
「・・・私たちの力が無くても・・・やれるな? サララ。」
「ママ・・・! も、もちろんなのです!」
ぐっ!と握り拳をルナナさんに突き出し、眉を吊り上げるサララちゃん。
「・・・というより、そもそもあたしたちは、ママたちに助けを求めた覚えはないのです!
パパとママが、勝手にあたしたちの獲物を取っただけなのです! ぷんぷん!」
「・・・フッ・・・良い答えだサララ。 それに級友たちも、みな良い目をしている・・・」
微笑を浮かべ、ルナナさんは生徒全員を見渡しつつ、言った。
「・・・諸君らはその若さにして、この私と同じ戦場に立ち、
同志≠ニして、共に戦う資格を持っている。
・・・この月下の騎士=A諸君ら同志たちを、
必ず勝利へと導くことを約束しておこう。」
普通なら、妖艶な謎の美女剣士辺りが言いそうなセリフを、
キャバ嬢みたいな格好の人妻タルが言い放った。
「か、かっこいいケドナー!!」
「わ、わからない! タルタルで、しかも人妻なのに、なぜ僕の動悸が高まるんだっ!?」
「・・・おお・・・め、女神さま・・・? まさか、女神アルタナさまの化身なのでは・・・?(;´ー`)」
キャバ嬢風人妻タルなのに、その異常な凛々しさに、
何人かの男子生徒の心がわし掴みにされた。
「・・・デ、デジャヴだ; 水晶大戦時代とまったく同じだ;
昔からそうだけど、大将とルナナさんが本気で暴れ始めたら、
世界的な天才科学者であるおいらのことなんて、誰も気にしなくなる;
おいらがどんなに画期的ですごい武器を作っても、
あの車田正美的な夫婦タルが、全部持って行っちまうんだよなぁ;」
人知れず、1人でスネる主人公(笑)
スネるゴルトの脳内に、バケツの取っ手に宿る2人のアイマの声が響く。
・・・スネてる場合じゃないぞ兄ちゃん。
あの夫婦のおかげで、流れがバス学側に来つつある。
敵がまたワケのわからない改獣を出してくる前に、
今の勢いに乗じて攻勢に出るんだ・・・!
「ああ、わかってるぜ! たる屋夫婦は、こっちの最後の切り札だ!
切り札を先に切っちまった以上、おいらたちにはもう後がねぇからな!
今の内に、なんとしてでも決定打を与えてやる!」
がちゃがちゃ!とショットガンに新しい弾を詰め込みつつ、
ゴルトは前方へと視線を向け、叫んだ。
「そろそろチェーンソーおばちゃんと決着をつけてやるぜ!
パトリシア、ここまでよく1人で持ちこたえてくれたな!」
だっ!と地面を蹴り、ゴルトはチェーンソーおばちゃん目掛けて駆け出した。
「・・・・・・ようやく・・・・・・」
ぶるぶる・・・と全身を震わせながら・・・
ずっと放置されていたおばちゃんが、
眩いほどの満面の笑みを浮かべた。
「・・・ようやく・・・おばちゃんの出番なんだね・・・!!」
レイドル芸能のスタッフたちが、視聴覚室から操作している、
クリスタル・テレビジョンのカメラが、一斉にウィィィーーンと稼動して、
次なる戦闘中継を開始した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
クリスタル・テレビジョンが全世界に放送する、次なるバトルは・・・
マリ先生 vs 五京。
「おばちゃんの出番やないんかい!?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
昭和の劇画のような挿絵で絶叫するおばちゃんを取り残し、
クリスタル・テレビジョンの映像上に映し出されたのは、
格闘士の装束羅漢作務衣≠ノ身を包むマリ先生と、
サッカーユニフォームのジョッシュ式魔導服≠ノ身を包む五京の戦いであった。
『・・・いや、あんなチートタル夫婦の登場や、
凄まじい顔で絶叫するおばさんの直後に、
急に私の出番を回されても、ちょっとやりにくいんだけど;』
5mほどの距離をとって五京と対峙するマリ先生は、
自分が脳内でシミュレートしている、この先の戦闘展開を思い返しつつ、
軽いため息を吐き出した。
『・・・クリスタルでこのバトルを観戦してる大勢の人たちに、
すご〜く地味で、すご〜くマニアックな戦法を
お見せすることになるでしょうからね・・・』
「くっ! 卑怯だぞバス学っ!
次から次に、悪の仲間を呼び寄せるだなんてっ!
ようやく三京兄さんが、悪の侍ミスラと老婆ミスラを倒し、
更に改獣の力であの悪の探偵タルまでも撃破したというのに、
次は魔神タル夫婦を召喚するだなんてっ!!」
びしっ!とマリ先生を指差し、悲痛な顔で叫ぶ五京。
「だが、おれたちは負けないっ!!
悪の女教師め、おれが正々堂々と倒してやるぞっ!!
オフサイドの笛でも、ラインオーバーの笛でも、
吹けるものなら吹いてみろっ!!」
「・・・・・・」
マリ先生は、もうだいぶ前から、
五京の吐くたわごとをガン無視していた。
まず、彼は終始何を言っているのかわからないので、
まともに取り合えない、というのがひとつ。
もうひとつは、マリ先生は現在、
一瞬たりとも集中力を切ってはいけない状況にあるから。
現在マリ先生は、両手両脚に装着した格闘武器八尺瓊勾玉≠フ、
肉体の強度を上げる特殊能力を、あえて解除している。
これまでのように、鋼鉄の強度と化した両腕と両脚で、
五京のカウンター攻撃を、軽く弾くことが出来ない状況なのである。
『・・・悟られちゃいけない・・・』
ぎゅっ、と両拳を握り締め、マリ先生は考える。
『・・・私が八尺瓊勾玉≠フ能力を解除した理由を、
こいつに気づかれる前に、なんとか終わらせないと・・・!』
・・・いや、違うぜマリー。
マリ先生の脳裏に、緑のジャージを着たムサいおっさんが現れる。
相手がこっちの戦略に気づきませんように≠カゃねえだろ。
こっちの思惑を悟らせないためには、ごまかし、だまし、が必要だ。
『・・・・・・』
さて・・・お前が狙ってる関節技=E・・
防御力を捨ててでも、関節技に必要な柔軟性を得るために、
両腕、両脚の鋼鉄化を解除したワケだが・・・
相手にそれを悟らせないためには、さあどうする?
『・・・どうせその後は、お決まりのセリフでしょ? カッパ先生・・・』
フッ、とマリ先生は唇を緩めた。
・・・答えは自分で考えな、マリー。
『もちろん、もう用意してますよっ・・・!』
しゅばばばばばっ!!
突如、マリ先生は閃光のような速度で、
5、6発の左ジャブを繰り出した。
「な、なにィ!?」
残像すら捉えられないほどの高速ジャブ。
・・・が、それら全てを、五京は瞬時に両手で払い落としつつ、
それとほぼ同時に、ローキックによるカウンター攻撃を放ってきた。
「・・・っ!!」
自分の攻撃から、わずか0コンマ数秒後に返ってくるカウンター攻撃。
事前に左足を持ち上げ、ムエタイ・スタイルで構えていたマリ先生は、
五京のカウンターローキックを、左足のスネで何とかブロックする。
卓越した反射神経のみによる、無意識の反撃(アンコンシャス・カウンター)。
完全なるアドリブだけで、ここまでの精度で反撃してくる五京の身体能力は、
やはり尋常ではない。
自分が攻撃した直後に、すぐさま反撃が返ってくるので、
そのうち攻め手側は攻撃に専念出来なくなり、
防御のことを考え、中途半端な攻撃を繰り返すようになる。
それが一門で最強の防御力を誇る護京≠フ戦法なのである。
・・・だが・・・
今の一連の攻防、マリ先生に収穫あり・・・!!
「そういうことかっ、悪の女教師めっ!
両手両足を鋼鉄化するプロテクターを解除して、
攻撃の速度を上げたんだなっ!」
ギリッ、と歯を噛み締める五京。
「だが! いくら攻撃の速度を上げても、おれには通じないぞっ!
何を仕掛けてこようとも、おれは全てカウンターで返してやるっ!」
「・・・・・・」
『・・・こんなもんでどうでしょう、カッパ先生?
多分、うまくごまかせたんじゃないでしょうか・・・?』
・・・ま、上出来なんじゃねえか?
こいつ相手なら、恐らく俺も同じ戦法をとるだろう。
マリ先生は、表情には出さず、心の中でほくそ笑んだ。
八尺瓊勾玉≠解除した理由は、うまく誤解させることが出来た。
これで最初のステップは通過出来た。
・・・さあて、それじゃお次はどうするよ、マリー?
師・カッツェの声と姿を借りた、マリ先生の自問自答は続く。
こちらのあらゆる攻撃にカウンターを仕掛けてくるこいつを相手に、
どうやって関節技まで持って行くつもりだ?
『・・・ポイントはそこですよ。 こっちの攻撃≠ノ、カウンターを返してくる。
実はそこが突破口じゃないのかな、と考えてまして。
つまり、攻撃≠セと思わせないようにして、体を掴めばいいんじゃないか、と。』
ごく普通に、ゆっくり手を伸ばし、普通にこいつの腕を掴みに行ったら、
案外簡単に腕を取れるんじゃないか・・・なんて考えてんのか?
それはちょっと虫が良すぎるんじゃねえか?
『そうですね、それは無いでしょ。
仮にその方法で、すんなりどっちかの腕を掴めたとしても、
間接を極める前に、もう一方の手で顔面にパンチ入れられると思います。』
だったら・・・どうする?
『・・・思い知らせてやるだけです。』
細めた双眸に闘志を宿し、マリ先生は覚悟を決めた。
『・・・天性の反射神経だけで勝てるほど・・・
・・・モンクの世界は、甘くはないということを・・・!!』
・・・どこかで聞いたことのある気がする、実にいいセリフだ。
いったい誰だ、そんな名言をお前に吹き込んだヤツは?
『あなたです。』
・・・この決戦の前日、マリ先生がジュノまで赴き、
わずか30分ほど面会した、かつての師・・・
あの30分の面会において、
カッツェに助言を授かったからこそ、
一切の迷いを捨て去ることが出来たマリ先生は、
すでに脳内での試行において、
五京を倒すことに成功していた。
・・・なお、対峙するマリ先生と五京の様子を、
クリスタル・テレビジョンで見守っている視聴者たちは・・・
あのすごいタル夫婦を映せよ! あっちが見たいわ!
いや、このエルヴァーンの先生もすごいぞ! わかんねえのかよ お前!
さっきのジャブ、ヤバすぎ!! 速すぎて見えんかった!
おれバス学の卒業生だけど、この先生マジすげえからwww
相手の男、なんでサッカーユニフォームなん?????
オレ今監獄にいるんだけど、このお姉さん知ってる^^ おっぱいちょうだい! おっぱいちょうだい!
↑なんかリアル犯罪者がいるぞ!
さっきのネコの先生も地味にすごかったよな バス学の教師ヤベェwww
ゴルト氏ね(x86) ←お前いつもいるなw
しかしエルヴァーンの先生、このカウンター使いをどうやって倒すんだ?
すでに誰もサッカー野郎の勝ちを期待していない件ww
ぶひいいっ! おっぱいらめぇ おっぱいらめぇ ぶひひぃぃ!
なあ なんかずっとおっぱいおっぱい言ってるヤツが2人ほどいねぇか?
エロコメばっかりしてねぇで、ちゃんとバトル見ろよクズ!!
・・・と、このように、クリスタル・テレビジョンの視聴者たちも、
いかにしてマリ先生が五京のカウンターに対抗するのか、
そこに興味を惹かれている様子であった。
ちなみに、コメントでおっぱいおっぱい言ってる2人は、
まったく見ず知らずの赤の他人でありながらも、
互いのコメントを見て、同好の士≠ナあることを見抜いていた。
生徒たちやマリ先生が、
死をも覚悟して戦っているというのに、
完全におっぱい以外見ていないクズ2名である。
おっぱいしか見てないくせに、ものすごい真剣な顔のクズ2人はさておき、
マリ先生はすでに脳内で打倒完了している五京を、
現実に倒すための行動を開始した。
『・・・相手は格闘技の素人だけど、反射神経だけは常人の数倍のレベル。
そんなヤツを相手に、タックルから寝技に持ち込もうとしても、
恐らくは驚異的な反射神経によって、無意識にがぶり≠してくるはず。』
がぶり状態≠ニは、
前屈みになったり、しゃがんでいたり、うつぶせに寝ている相手(グラウンド状態)の正面から
相手の肩口、または背面に乗りかかるように覆い被さった姿勢のこと。
アマチュアレスリングや総合格闘技においては、主にタックルに来た相手を潰す目的で使用される。
『・・・がぶられたまま、強引に足を取って後ろ向きに転がし、
そのままニーオンザベリーに移行、そこからサイドポジションを取って、
その流れのまま袈裟固めなんかに行ければ最高なんだけど、
恐らくこいつはがぶり状態のまま、無意識に頭に膝蹴りを入れてくるわ。
がぶり状態からの膝なんて、普通なら大して脅威は無いんだけど、
こいつはなんちゃら魔導服ってのを着てステータスを上げてるから、
たとえ腰の入っていない膝であっても、致命打になりかねない。』
ニーオンザベリー≠ニは、
仰向けの相手選手の爪先側の自らの片膝または片脛で相手選手の腹または胸を抑え、
もう一方の膝を床から浮かせた状態。 上の選手が有利な状態。
↓ニーオンザベリー
サイドポジション≠ニは、
アンダーマウント(マウンティド)から横転して逃れたい相手を、片膝を立てて踵で抑えた状態。
バックコントロールへの移行や片羽絞めを狙う過程によく現われる。
↓サイドポジションからの袈裟固め
『格闘の素人だから、恐らくこちらの首を殺したりする技術は無いだろうけど、
多分≠ニか恐らく≠ニか、そういった希望的観測は禁物。
一か八かの危ない橋は通らず、もっと確実な、成功率の高い方法を選ぶ・・・!』
首を殺す≠ニは、がぶり状態で自分が上になっている時、
自分の下にいる相手の首の付け根を上から押さえ付け、
身動きを封じてしまう技術のことである。
『・・・そもそも、こいつの立ち技が基本的に素人レベルだからといって、
寝技も素人レベルだという保証はどこにも無いわ。
仮にうまくタックルで倒せたからといって、すんなりマウントに移行出来るとは限らず、
咄嗟にスパイダーガードやデラヒーバの姿勢を取って、
そこからカウンターで一瞬にしてスィープしてくる恐れだってあるわけだし・・・』
スパイダーガード≠ニは・・・
デラヒーバ≠ニは・・・
スィープ≠ニは・・・
もういちいちグラウンド用語を解説してたらキリがないので、
雰囲気でなんとなく読んで下さい。
『・・・要するに、タックルからのグラウンド移行は、ギャンブル要素が高すぎる。
かといって、ムエタイ・スタイルの定番、首相撲を仕掛けたところで、
こちらが膝を入れたり体勢を崩したりする前に、例の驚異的な反射神経で
先にこっちが膝を入れられる可能性が高い。
ならば・・・どうする?』
マリ先生は、だっ!と地面を蹴り、五京に向かって突進した。
『・・・触れた瞬間、間接を極め、瞬時に破壊する・・・!
こいつ相手に、二手目、三手目は無い! 最初の一瞬が全て!』
「なにィ!? ダッシュしてきた!?
まさか、助走をつけて体当たりでもするつもりかっ!!」
急に走って突っ込んできたマリ先生を警戒し、
巨大ヨーヨー盾を身構え、腰を深く落とす五京。
「・・・あんたの理解が追いつかない内に・・・終わらせてやる!!」
ダッシュしてきたマリ先生は、五京の2mほど手前の地点で、
思いっきり地面を踏みつけ、空中に跳び上がった・・・!!
「なにィ!? ジャンプだってぇ!?
ま、まさかスカイラブ・ハリケーンなんじゃ!?」
意味のわからない言葉を吐き出す五京はガン無視して、
空中に跳び上がったマリ先生は、そのままくるりと前方に回転する。
そして空中で勢いをつけ、前方宙返りを行うとともに、
高速のカカト落としを五京に繰り出してきた!!
「なにィ!? 空中で一回転してのカカト落としだとぉ!?
こ、これが立花商業の空中サッカーか!!」
ワケのわからない事を言いつつも、やはり五京の反射神経は尋常ではなく、
すでにヨーヨー盾を頭上に向け、防御の姿勢を完成させている。
しかも五京は、盾による防御姿勢をとると同時に、
右足を大きく後方に振り、
カウンターの蹴りを繰り出す準備も済ませていた。
「おれの夢を賭けた、このドライブシュートで・・・決着だぁぁ〜〜っ!!」
『・・・よし! 勝った!!』
マリ先生は、五京が罠にかかったことを確信した。
空中で前方宙返りをしつつ、カカト落としを繰り出したマリ先生は、
高速で振り下ろしたカカトを、五京が構えている盾には衝突させず・・・
ただ単に、何もせずに空中で一回転して、
そのまま五京の目の前に、背中で地面に着地した。
「!?」
助走をつけ、空中に跳び、全体重を乗せたカカト落としが来ると想定して五京は、
何もせずに自分の目の前に仰向けに倒れたマリ先生に、
完全に虚≠突かれてしまった。
その瞬間には、すでにマリ先生は攻撃を仕掛けていた。
仰向けに倒れたまま、エルヴァーン特有の長い腕を活かし、
マリ先生は右の手のひらで、五京の左足のカカトを掴み、前へと引っ張り込む。
同時に、右足を五京の左足に絡ませ、ヒザカックン≠フ要領で
五京のヒザの裏を折り曲げ、前へと体勢を崩す。
更にそれと同時に、左足の裏で五京の腹を後ろへと押し込む。
カカトを手繰り寄せられて足を浮かされる、ヒザを前に折られる、腹を後ろに押される、という
三箇所同時の体勢崩し。
立っている相手を寝技へと引きずりこむ、
俗に草刈り≠ニ呼ばれる技術である。
いくら五京の反射神経が優れていても、
前方宙返りカカト落としのフェイクに完全に引っかかった上、
その直後に三箇所同時の体勢崩しを仕掛けられたのでは、
さすがに対処のしようが無かった。
同時に五京は、ここにきてようやく悟った。
この動きのために、両腕両脚の柔軟性が必要だったマリ先生は、
八尺瓊勾玉≠フ鋼鉄化能力を解除したのだ、ということを。
『こいつ相手に、二手目、三手目は無い・・・!!』
草刈り≠ノよって五京を後方に倒しつつ、
今の自分の体勢から一番早く繰り出せる寝技を、
マリ先生は即座に実行した。
『最初の一瞬で極めるっ!! そして破壊するっ!!』
草刈り≠ナ手繰り寄せた五京の左足のカカトを、
マリ先生はそのまま自分の右脇で挟み込み・・・
五京が後方に倒れこみ、その背が地面に付いた時には、
すでにマリ先生のアキレス腱固め≠ェ完成していた。
↓アキレス腱固め
とんでもないグラウンドへの入り方であった。
最初のド派手な前方宙返りカカト落としが、
五京のカウンターをスカすためのフェイクでもあり、
かつ五京の目の前に仰向け状態で接近するという状況を、
自然と作り出すための手段でもあったのだ。
なお、アキレス腱固めに捉えたのが五京の左足というのも、全て計算どおり。
他には目もくれず、マリ先生は最優先で五京の左足の間接を狙っていた。
これまでの攻防で、五京が右利きであるということを、マリ先生は承知済み。
つまり、五京の全ての攻撃の軸足となる左足さえ破壊してしまえば、
この先の五京の利き腕、利き足による攻撃の威力、速度は、著しく弱体化するのだ。
「・・・悪いけど・・・これで私の勝ち・・・!!」
冷酷にそう呟くと、マリ先生は容赦なく腕に力を込め、
五京の左足のアキレス腱を壊しにかかった。
・・・だが!!
この状況でも、
五京の無意識の反撃=iアンコンシャス・カウンター)は、
なおも発動した・・・!!
「うおおおおおおっ!!」
左足をマリ先生にアキレス腱固めに捉えられていながら、
五京はマリ先生の右足首を脇に挟んで固定し、
自らもマリ先生にアキレス腱固めをやり返した!!
そう、寝技(グラウンド)においても、カウンターは存在する。
仰向けに倒れている両名が、互いにアキレス腱固めを仕掛けている、
という状況の出来上がりである。
「ぐううっ・・・!! お、おれたち京一門は・・・絶対に負けないぞおっ・・・!!」
ぐぐぐぐぐ・・・!!と、マリ先生の右足首を、アキレス腱固めで締め上げる五京。
「さあどうだ! こ、このまま根競べだ、悪の女教師め・・・!!
だが、ジョッシュ式魔導服≠着ているおれの方が有利だ・・・!!
おれの体のダメージは、徐々に徐々に自然回復するんだからな!!」
「・・・ありがと^^ そう言ってくれると、気が楽になるわ^^」
マリ先生は、なぜかにっこり微笑んだ。
「・・・こっちだけズルするみたいで、ちょっとだけ気が引けてたんだけど・・・
そっちは最初からズルしてるんだから、こっちも容赦なくズルが出来るってもんだわ^^」
「なにィ!? ど、どういう意味だ!?」
「・・・まだわからないの? いくらあんたが寝技の素人だとしても、
もしアキレス腱固めがちゃんと決まってたら、私がこんな風に笑ってられると思う?」
「なんだってェ!? お、おれのアキレス腱固め、ちゃんと極まっていないのか!?」
「・・・さあ? もしかしたらマグレでちゃんと極まってるのかもしれないけど、わかんないわ。」
にっこり微笑んで、マリ先生は言い放った。
「だっていま私の足、鋼鉄化してるから^^」
五京がカウンターでアキレス腱固めをしてくるであろうことも、
マリ先生は全て読んでいた。
草刈り≠ェ完了し、五京を転倒させた後であれば、もう足の柔軟性は必要ない。
マリ先生は、五京にアキレス腱固めを極めた時、
あえて自分の右足を五京のすぐそばに置いておくことによって、
五京がカウンターでマリ先生の右足にアキレス腱固めを仕掛けるよう、
自ら仕向けていたのである。
草刈り♀ョ了後、足を鋼鉄化させてしまえば、
五京の関節技は極まらないことを見越した上で。
「あっ・・・」
五京がようやくマリ先生の手の平の上で踊らされていたことを悟り、
マヌケな声を吐き出した、その瞬間・・・!!
ブチブチブチブチィッ!!
五京の左足のアキレス腱が断裂する音が、周囲に響き渡った。
「ぐ、ぐわああああああーーーーーーーっ!!!」
左足に鉄の棒を突き刺されたかのごとき激痛を感じ、
脂汗を流しながら絶叫する五京。
「・・・痛そうね。 だけど、全然後ろめたさは感じないわ。」
五京の左足首の破壊を完了し、マリ先生はアキレス腱固めを解く。
「あんたらが私の可愛い教え子のジェニーちゃんを、
道具のように使い捨てにした時、私、ちゃんと言ったわよね?
あんたら一人残らず、全員叩き潰す・・・ってね。」
解放した五京の左足をぽいっとその場に投げ捨て、
マリ先生はあっさりと寝技の攻防をやめて、
静かにその場に立ち上がった。
クリスタル・テレビジョンでヘビメタのファンになった連中が、
あっという間にマリ先生のファンに鞍替えし始めた。
この女の先生、かっけええええええ!!!
もうあの竹ぼうきタルはどうでもよくなったわwwww
竹ぼうきタルはもう自分の役目を果たしたのだ・・・
クソワロタwあいつ朝礼台の上から落ちただけだろw
ぼくは最初からこの女の先生はヤルと思ってました^^
オレもう42歳だけど、まだこの学校に入学できますかね?
おい、今のグラウンドの入り方、マジすげくね!!
あんなかっこいいアキレス腱固め、初めて見た><
↑いや、その前の草刈りの方が芸術的だっての!
ほほう あの変形カニバサミみたいなの、草刈りっていうのか
てかこの場面で、地味な足関節を狙ってたってのが渋いわ!!
サッカーユニフォーム、ざまあwww
ぼ、ぼ、ぼく、南米の人みたいやろ!? シュワルツェネッガーみたいやろ!?
お、おひんひんが、おひんひんが、おひんひんがきぼぢいいい!! ウワアアアーー!!
ぶひいいい>< 今ボク行きつけのスナックにいるけど、もうガマンできないよぉ><
ねこにゃんママでもドロシーちゃんでもいいから、20万ギルあげるから、おっぱ・・・
おい!あの約2名のヘンなヤツら、まだいるみたいだぞ!!
おいコルモル!! コメントのNGユーザー設定できねえのかよ、これ!!
クリスタル・テレビジョンに、一斉にマリ先生を賞賛するコメントが飛び交う。
だが、浮かれている観戦客たちとは裏腹に、マリ先生は油断無く身構えたまま、
倒れこんでいる五京を悠然と見下ろしている。
「・・・何してんの? 早く立ちなさいよ。
いつまでも寝転んでると、また寝技攻めを開始するわよ?」
「ぐううっ・・・! な、なめるなあっ、悪の女教師めっ・・・!!」
左足のアキレス腱が断裂した状態で、ゆっくりと立ち上がる五京。
「あのまま寝技で攻め続ければ、そちらの勝ち目もあったかもしれないのにっ!!
負傷したおれを気遣い、おれが不慣れな寝技を避けてやろうってのか!?
その油断、その傲慢こそが、最大の敗因だと言うことを思い知らせてやるっ!!」
「・・・どうも、何か誤解してるみたいだけど・・・」
ゆっくりと両腕を持ち上げ、マリ先生はムエタイの構えをとる。
「足を壊した今となっては、立ち技の方が確実にあんたを仕留められるのよ。
私、最近あまり寝技や関節技の練習してないから、
この後は立ち技で戦った方が、あんたを壊しやすいってだけよ。」
「それが油断だと言っているんだ! たかが左足一本を奪っただけで、
このおれがカウンターを使えなくなるとでもっ・・・!!」
ばぎいぃぃぃっ!!
五京がまだ喋っている途中で、マリ先生は右のイン・ローを
五京の左足に叩き込んだ。
「ぐ、ぐわあああああっ!!」
アキレス腱が切れている左足を思いっきり蹴られ、
土煙を巻き起こしながら、前のめりに倒れこむ五京。
「・・・ほぅら。 カウンターなんて出来ないじゃないの。
カウンターどころか、あんたはもう普通のジャブですら満足に放てないっての。」
素早く蹴り足を引き、基本構えの位置に戻しつつ、
倒れた五京を冷酷に見下ろすマリ先生。
「左足は利き足じゃないから、使えなくてもまだ何とかなる、とでも思ったんでしょ?
格闘技を知らないド素人の考えそうなことだわ。」
「ぐうっ・・・! ど、どういうことだっ!!」
「あんたの主砲である右腕、右足を使って攻撃を放つためには、
その発射台となる軸足、つまり左足が一番重要に決まってるじゃない。
だからこそ私は、最初で最後の関節技で、左足を最優先で破壊した。
左足を軸に出来ないってことは、腰の回転も利かせられない。
もうあんたは蹴りだけでなく、拳の攻撃も全部手打ちでしか出せないわ。」
「な、なめるなあっ!! たかが左足1本壊されただけで、この五京が・・・!!」
額に汗を浮かべ、歯を食いしばって中腰になり、立ち上がろうとする五京。
その左足の甲を、マリ先生は思いっきり踏みつけた。
ぐわしゃあっ!!
「があああああああっ!!」
左足を起点に、激痛の波紋が五京の全身に伝達されていく。
「・・・なめるな≠ナすって?
はっきり言うけど、今の私、思いっきりあんたをナメて見下してるから。
だって私、もう絶対負けないもん。 負ける要素ないもん。」
五京の左足を踏みつけている自分の右足を、ぐりぐりと左右に動かすマリ先生。
「ぐ、ぐおおおおおおっ!!」
「・・・逆に言ってやるわ。 天性の反射神経と身体能力だけで、格闘に勝つ?
それこそまさに格闘士(モンク)をなめるな≠チてヤツよ。」
クリスタル・テレビジョンでこのバトルを観戦している、
全世界の大勢のドMの変態紳士たちが、
マリ先生のドSっぷりに、完全に心奪われた。
そんなドS攻めを、歯を食いしばって耐える五京。
「ぐううううっ・・・!! く、くそおおっ・・・!!
こ、これしきの苦痛で・・・おれは悪には屈しないぞっ・・・!!」
「あらそう? じゃ、私はまだまだ楽しめるってことね。」
マリ先生は、五京の足を踏みつけていた右足を、素早く持ち上げると・・・
つま先を五京の左のヒザに叩き付け、
トゥー・キックでヒザの皿を容赦なく破壊した。
ばっぎいいいいいっ!!
「ぎ、ぎゃああああああああっ!!」
五京の悲鳴が学園の運動場に木霊する。
「・・・身動き出来ない状態で、じわじわといたぶられる気分はどう?」
恐ろしく冷たい、氷のような視線を五京に向けるマリ先生。
「・・・あんたらが、ジェニーちゃんにやろうとしていたことだものね。
逆に自分がやられても、文句は言えないわよね・・・?」
ヘビメタファンクラブは完全消滅し、
ドS女教師ファンクラブとして生まれ変わった。
・・・なお、物語の進行にあまり関係ないことではあるが、
先ほどのデブと囚人、あの2人のド変態は・・・
実は、クリスタルに映るマリ先生の姿を、
たった一目見たその瞬間から、
このドSっぷりを見抜いていたのである・・・!!
つまりあのデブと囚人は、全世界の他のド変態たちよりも、
判断、査定の能力が、並みの変態よりも5テンポくらい早いのだ!
・・・そう、あの2人は、紛うことなき玄人(プロ)なのである。
「AVに詳しい?」と誰かに問われた時に、
「今ならチェコスロバキアのナンパモノだよ」
と即答するほどの、正真正銘の玄人(プロ)・・・!!
AV(アダルト・ビデオ)ではなく、
AV(オーディオ・ビジュアル)機器のことを
聞かれているのに、である。
・・・こんな全然関係ないことばかり書くから、
「FINAL BATTLE」 が6話目突入なんて羽目になるのである。
脱線どころか、ヘタすればしれっと本線に変化しかねないデブと囚人はさておき、
その2人のプロが認めたドS女王様マリ先生は、
五京のアキレス腱とヒザの皿を破壊した後、
しゃがみ込んで動けない彼を、じっと見下ろしている。
「・・・さて、そろそろ理解できてきた頃かしら?
左足を失ったあんたは、もう私には勝てないってことが。」
「ぐうっ・・・な、何度も言わせるな、悪の女教師・・・!
足の1本程度失ったところで、正義の京一門が、お前たちなんかに・・・!」
ずぅんっ!!
鋼鉄と化した右足を、再び五京の左足の甲の上に打ち下ろすマリ先生。
「ぎゃああああっ!!」
「・・・すぐに降参してくれなくて、助かるわ。
ジェニーちゃんの分だけじゃなくて、まだミケ先輩の分も残ってるし、
あの小さい風水士の子の分も、スティー先生の分も残ってるしね。
とりあえず、それ全部あんたに払ってもらうつもりだから。」
鬼、であった。
ひたすら、ただひたすらに、五京の左足のみを狙って痛みつけるマリ先生。
もはやドSがどうこうという次元ではなく、鬼の所業。
クリスタル・テレビジョンの視聴者たちには、そう見えた。
〜〜〜〜〜 バス学 校門前 〜〜〜〜〜
PM 17:40
バス学の校門前で、大勢の野次馬たちの中に混ざり、
クリスタル・テレビジョンによる中継映像を視聴している、
昨年度のバス学卒業生、レティ、カリタ、パーラの3名。
「あわわわわ; マ、マリ先生が、今までに見たことないくらい怒ってるタル;」
「ガクガク・・・ブルブル・・・><;
ま、まるでクロガネ事件≠フ時のアイマ先生みたい><;
マ、マリ先生、このままこのサッカー服の人、殺しちゃうつもりなんじゃ;」
レティから借りたクリスタルに映っているマリ先生を見て、
その鬼の形相に、思わず身震いしてしまっているカリタとパーラ。
「・・・ううん、違うよ・・・そうじゃない・・・」
ごくり・・・と固唾を呑みつつも、かつての3−Bの委員長、
レティ=ファーブルだけは、マリ先生の真意に気づいていた。
「・・・この五京って人が・・・敗北を認めて、降参したら・・・
今なら、左足の負傷だけで済む・・・」
レティの言葉に、目を見開いて驚愕するカリタとパーラ。
「い、委員長、どういうことなんタルかー!?」
「・・・きっとマリ先生は・・・この人を、降伏させようとしてるんだよ・・・
だってマリ先生、やろうと思えば、首でも頭部でも脊椎でも、
もっと致命的な急所を狙って攻撃できるはずなのに、
それをやらないで、ずっと左足ばかり集中して狙ってるもの・・・」
「あ・・・い、言われてみれば、確かにそうタル;」
「・・・アキレス腱断裂も、ヒザの皿の粉砕も、大きなケガには違いないけど、
時間をかけて治療すれば、いずれは完治する・・・
一見、無抵抗な相手を残酷にいたぶっているように見えるけど、
マリ先生は致命的な損傷は与えないようにして、
この人に降伏するよう勧告してるんだよ、きっと・・・」
「ガクガク・・・ブルブル・・・
ア、アイマ先生なら、たぶん無言で首を斬り落としてるね><;」
「・・・この学園で、唯一アイマ=リョーマを倒したことがある女教師・・・
TTTに勝った教師、マリ先生は、たとえ自分を殺そうとしていた敵ですら、
なんとかして救おうとする人なんだよ・・・」
そのマリ先生本人に、かつての自分にそっくりだ≠ニ言わしめた女生徒、
レティ=ファーブルだからこそ、マリ先生の真意を誰よりも深く理解していた。
つまり、さっきのデブと囚人のプロ2人は、
マリ先生の見せ掛けのドSっぷりに興奮して
ハァハァ言ってるだけの、
とんでもない勘違い野郎なのであった。
〜〜〜〜〜 バス学 グラウンド 〜〜〜〜〜
PM 17:42
「・・・ねえ・・・」
踏みつけた五京の足をぐりぐりといたぶりながら、ぼそりと呟くマリ先生。
「・・・まだ・・・やる・・・?」
足を少しだけ持ち上げ、再び五京の足の甲を踏みつける準備をする。
「・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・!」
額に脂汗をにじませ、マリ先生を睨みつける五京。
「・・・おれたち・・・宗匠五側近≠ヘ・・・いかなる苦痛にも屈さない・・・!」
「あっそ。」
少しだけ眉間にしわを寄せ、マリ先生は再び、五京に更なる苦痛を与えるため、
鋼鉄化した足を振り下ろそうとした。
・・・その瞬間・・・!!
「・・・一京兄さん・・・! 前もっておれに渡してくれていた、
例のアレ≠、今ここで使わせてもらうっ・・・!!」
しゃがみ込んだ姿勢のまま、五京はそんな言葉を吐き出しつつ・・・
短パンのポッケに手を突っ込むと、
やたらと極太の、一本の注射器を取り出した。
「・・・!!」
卓越した動体視力で素早くそれを察知したマリ先生は、
五京が最後の抵抗で、こちらに毒薬でも打ち込もうとしているのかと、
その場から2,3歩ほど後退する。
・・・それが間違いであった。
マリ先生は、すぐにでも鋼鉄化した足で五京の首の骨を蹴り砕き、
絶命させておくべきであったのだ。
ポッケから取り出した太い注射器を、
五京は自らの左足に、ぶすりと突き刺した・・・!!
「!?」
五京の奇妙な行動を受け、マリ先生は怪訝そうに目を細める。
「・・・京・・・一門は・・・世界最大の・・・科学者集団だ・・・!!」
ぐわっ!と目を見開き、自分の太もも辺りに突き刺した注射器の中身の溶液を、
ぎゅうううっ・・・!と一気に注入する五京。
自分が攻撃されるかと思い、反射的に下がってしまったマリ先生は、
早くもそのことを後悔し始めた。
あまり考えたくない嫌な想像が、マリ先生の脳裏に浮かび始める。
「・・・まさか・・・破壊された骨や人体を、一瞬で治療しちゃうような、
超チート薬を打ち込んだ・・・なんていうんじゃないでしょうね・・・?」
「・・・それと・・・似たような・・・ものだ・・・!」
謎の注射を打ち込んだ五京の左足が、
あっという間にドス黒く変色しはじめた。
「・・・・・・!!」
マリ先生の頬を、汗が伝う。
すごい速さで黒く変色していく、五京の左足の筋肉、見覚えがある。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・どうもこいつ、普通のバグベアじゃないっぽいぞー。」
「・・・どういうこと?」
「・・・体のあちこちが腐って、あちこち肉が裂けてるのに、血が一滴も出てないだろー?
どっからどう見ても、完全にアンデッド・モンスター化してやがる。」
(※T5 第6話 より)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・・・マリ先生は、理解した。
先ごろのリージョン合宿≠フ際に、ゼーガムの丘の頂上で戦った、
あのアンデッド・バグベアの全身を覆っていた、腐臭漂うドス黒い筋肉。
・・・恐らく、マリ先生の推測は当たっているであろう。
謎の注射を打った五京の左足は、
あっという間にアンデッド・モンスターのそれと化したのだ。
「・・・おれは護京=E・・一門最強の防御力を誇る男・・・」
中の溶液を注入し終えた注射器を、ぽいっと投げ捨てる五京。
「・・・もし・・・今日の決戦で、おれの防御力を上回る敵がいたとしたら・・・
・・・その時はこれを使えと、一京兄さんに、お守り代わりに持たされていたんだ・・・」
アキレス腱が断裂し、ヒザの皿が砕かれている左足で、
五京は普通にその場に立ち上がった。
「・・・つまり・・・人体を・・・部分的にゾンビ化させる薬・・・?」
「・・・おれには一京兄さんや三京兄さん、四京姉さんのような攻撃力が無い。
おれの戦法は、先に敵に攻撃させ、それをカウンターで返すこと。
もしかしたらバス学には、おれのカウンター能力の壁を打ち破り、
おれを窮地に追い込む敵が存在しているかもしれない。
・・・全てにおいて完璧な一京兄さんは、こんな局面もあろうかと、
キョーマル博士が昔製造した死人薬=iシビトぐすり)を、
前もってこのおれに持たせていたんだ!」
「・・・自分の足を自分で死人化して、ダメージをチャラに・・・ってこと?
あんた・・・いや、あんたら=Aホントに頭おかしいんじゃないの・・・?
親からもらった大事な身体を、よくも平気で・・・!!」
「何度でも言う! おれは一門のためならば、脚1本くらいいつでも捨てる!
宗匠が世界の神となり、京一門が世界を制覇すること・・・
それが・・・おれの夢だああああぁぁーーーーっっ!!」
「くっ・・・!!」
ぎりっ・・・!と、奥歯を噛み締めるマリ先生。
・・・甘かった。
冷徹な鬼と化し、左足のみを徹底的に痛めつけ、
恐怖を激痛を繰り返し与えることによって、降伏させる・・・
京一門の門弟は、そんな手段が通用する相手ではなかったのだ。
ヘタに追い込んだ結果が、肉体のアンデッド化である。
どうしても・・・
どうしても・・・
やはり、どうしても
マリー=フランソワーズ=ビクトワール
=ボーヴァルレ=シャルパンティエは、
戦闘狂(バトルマニア)には成りきれないのだ。
それがこの女教師の最大の短所であり、最大の長所でもある。
「・・・さあ・・・ここまで好き放題にやってくれた借りを、
これからたっぷりと返させてもらうぞ・・・!」
アンデッド化した左足の感触を確かめるように、
その場で軽やかなフットワークを踏み始める五京。
「・・・覚悟しろ!! ここからのおれは、護京≠ナはなく・・・!」
だんっ!と地面を蹴り、五京は物凄い勢いでマリ先生に迫ってきた。
「剛京≠セあああぁぁぁっ!!」
「!!!???」
思わず目を疑うような、とんでもない速度の踏み込み。
もはやその速さは、拳銃の弾丸レベルであった。
「くらえええっ!! スカイ・ウィング・ラッシュだあああっ!!」
どがどがどがどがどがっ!
どがどがどがどがどがっ!
どがどがどがどがどがっ!
どがどがどがどがどがっ!
五京の左右のつま先、ひざ、ひじ、拳が、
まさしく大空を舞う猛禽類が羽ばたかせる翼のごとく、
恐ろしい速度でマリ先生に襲い掛かる。
一発一発の攻撃は、そのどれもが、見るからに稚拙な素人芸にすぎないものだ。
だが、五京の天性の身体能力と、ジョッシュ式魔導服≠フ装備効果、
そして死人薬≠ノよってアンデッド化し始めた全身の筋力が組み合わさり、
とてつもない相乗効果を生み出しているのである。
「うおおおおおおおっ!!」
どがどがどがどがどがっ!
どがどがどがどがどがっ!
どがどがどがどがどがっ!
どがどがどがどがどがっ!
「くううっ・・・!!」
マリ先生は咄嗟に両腕両脚を鋼鉄化し、
カメのように丸まってガードを固めることによって、
五京のスカイ・ウィング・ラッシュ≠ノよる即死を、辛うじて免れた。
「どうだっ! 死人薬≠ノよっておれの左足は死肉となったが、
その代わりにアンデッド・モンスターの制限なき筋力を手に入れたっ!
今のおれは、脳のリミッターを解除して、筋力を100%使用することが出来るぞ!
護京♂め、剛京≠フ力を受けてみろぉぉっ!!」
「くっ・・・!! ぐううっ・・・!!」
ゴルトが造ったマリ先生の専用装備、八尺瓊勾玉≠ニ同じ理屈であった。
人間は普段、潜在能力の内の30%ほどの筋力しか発揮できない。
100%の筋力を解放してしまうと、肉体の耐久力を超えてしまい、
筋力に耐え切れずに肉体の方が破損してしまうからである。
マリ先生は八尺瓊勾玉≠ナ両腕両脚を鋼鉄化することで、
五京は死人薬≠ナ己の肉体をアンデッド化することで、
それぞれ脳のリミッターを解除したのである。
・・・両者の条件は、五分のように思える。
だが、全ステータスを底上げする効果を持つ、
ジョッシュ式魔導服≠フ存在が、
五京の有利を決定付けている。
「・・・これで・・・おれのっ・・・!」
怒涛のラッシュを繰り出しながら、五京は叫んだ。
「京一門の・・・勝ちだあああああっ!!」
どがどがどがどがどがっ!
どがどがどがどがどがっ!
どがどがどがどがどがっ!
どがどがどがどがどがっ!
『・・・こいつ・・・完全にカウンターを捨てて・・・がむしゃらに殴りかかっきた・・・!
・・・おかしいわ、腑に落ちないことがあるわ・・・!』
サンドバッグ状態のまま、まったく身動きができなくなったマリ先生は、
それでもまだ諦めず、この状態からの勝利への道を懸命に模索する。
『この身体能力を活かし、これまでみたいに無意識の反撃≠繰り出せば、
確実に私に勝てるはずなのに、なんでカウンター態勢をとらないの?
興奮のあまり、冷静な判断が出来なくなった? それとも、何か他に理由が・・・?』
鋼鉄の両腕両脚で致命打を防ぎつつ、必死に脳を回転させる。
記憶の引き出しを片っ端から開け放ち、勝利のための材料をかき集める。
『・・・あっ、そうか! そういうことなのね!
あのリージョン学級≠フ時のバグベアと同じなんだわ!
あの時のバグベアは、ゴルト先生が赤白帽子を無理矢理かぶらせたから、
帽子の回復効果によって、アンデッドの肉体が少しずつダメージを受けていた!
アンデッドの肉体を持つ者には、治癒の効果が逆にダメージとなる!
つまり、こいつが着ているサッカーユニフォームの自然治癒効果が、
こいつの左足を少しずつ破壊しつつあるってこと!
アンデッドの左足が崩れてしまう前に私を倒さなくちゃならないから、
こいつはカウンター状態で待ち構えている余裕が無いんだわ・・・!』
時間にして、わずか3秒ほど。
マリ先生は、現在の戦況を正確に把握した。
五京は今、自らが装着しているジョッシュ式魔導服≠フ効果によって、
自身のアンデッドの肉体が崩れ落ちてしまう前に、マリ先生を倒そうとしている。
ジョッシュ式魔導服≠フサッカーユニフォームを脱ぎ捨ててしまえば、
自然治癒効果が無くなって、左足の崩壊は止まるだろうが、
そうすると今度は魔導服のステータス上昇効果の恩恵までも失ってしまう。
これまでの格闘戦を省みるに、魔導服の恩恵無くしては、
五京がマリ先生との格闘に勝つのは難しいであろう。
よって五京は、魔導服の強力なステータス上昇効果を受けつつ、
左足が崩壊する前に、大急ぎでマリ先生を倒し、
その後でユニフォームを脱ぐつもりなのだ。
このとてつもない乱撃スカイ・ウィング・ラッシュ≠ネる大技は、
一刻も早くマリ先生を叩き潰さなくてはならない、という気持ちの表れでもあるのだ。
・・・五京と自分の置かれた状況、心境を推察、整理しつつ、
マリ先生は細い糸、情報の断片を少しずつ手繰り寄せて、
おぼろげながら、勝利への道≠うっすらと見出した。
人間が最も防御≠フ意識が薄れる瞬間、
それが自分が攻撃する時≠ナある。
・・・今しかない。
マリ先生が最も得意とする、
八極拳≠フカウンター攻撃を決めるのは、
今をおいて他に無い。
八極拳≠ニいう名称は、八方に広がる極限の力=A
すなわち大爆発≠意味している。
その拳法が追い求めしものは、究極の一撃必殺=E・・
「八極拳に 二の打いらず」と言われている。
『・・・狙う・・・!』
カメのごとく身を丸め、その瞳を鋭く輝かせるマリ先生。
『・・・もう迷わない! 今こそ狙ってやる・・・!』
ものすごい勢いで乱撃している五京の一挙一動を、しっかりと見据えつつ、
サンドバッグ状態のマリ先生は、ごうごうと闘志を燃やす。
『・・・究極の・・・カウンター攻撃・・・!!』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
おうマリー。 当たれば絶対に勝てる技を、ひとつ教えといてやる。
師、カッツェ=パウロの言葉が、マリ先生の脳に走る。
こいつを実戦で当てるのは、めちゃくちゃ難しい。
成功率で言えば、ヘタすりゃ30%を下回るかもしれねぇ。
3回に1回の成功すら怪しいってこった。
しかもこの技は、自分より極端に背の低い相手には使えねえし、
極端にでかい相手にも使えねぇ。
タルタルやギガス族が相手だと、技の形にすらもっていけねぇ。
五体がある人間型の、しかも自分とあまり背丈の変わらない相手、
それ限定で使うことが出来る技だ。
成功率が低い上に、使う相手が限られるっていう、
ホントに役に立つかどうか眉唾の、
ぶっちゃけかなりビミョーな技なんだが・・・
そん代わり、決まれば確実に相手を殺せる。
俺自身、実戦で試してみたことはねぇんだけど、
この技がちゃんと決まったら、理論上、間違いなく相手を殺せるはずだ。
・・・使う、使わないは別として、いざという時に、
自分には確実に相手を殺せる技があるんだぞっていう、
最後の砦っつうか、心の拠りどころとして、一応覚えておけ。
・・・ま、いわゆる必殺技≠チてヤツだよ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・・・クロガネ事件≠フ際、対カッツェ=パウロとの戦闘においては、
そもそもこの技を伝授された張本人であるがゆえ、
決められるような隙が一切無かった。
昨年度の体育祭、アイマ=リョーマと模擬戦を行った時は、
相手が小さすぎて、やはりこの技は陽の目を見ることがなかった。
リージョン学級≠ナアンデッド・バグベアと戦った時も、
相手の体が大きすぎて、やはり使うことはなかった。
・・・だが、この男、五京が相手ならば、いける・・・!!
格闘技に関する知識に疎く、背丈も申し分なく、
何より彼は現在、完全に防御のことが頭から抜け落ちている。
究極のカウンター攻撃!!
その技の名は心意把=iしんいは)!!
成功すれば、確実に相手を殺せる技・・・
これぞまさしく正真正銘、 必ず・殺す・技!!
自分の敵をも救おうとする、
マリア
聖母の名前を持つ彼女は、
ブラッディ・マリー
同時に血塗れ王妃でもある・・・!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
BGM: 「MARIA」 黒夢
https://www.youtube.com/watch?v=DffJzKOW74o
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全身に、五京のスカイ・ウィング・ラッシュ≠フ猛打を浴びながら、
マリ先生はたまらずに、苦し紛れにその場から大きくバックステップした。
鋼鉄の両腕でがっちりと頭部をガートして、
鋼鉄の両脚であらゆる蹴りを弾き返し、
ひたすら防御に徹していた状態からの、バックステップ・・・
バックステップの一瞬、ほんの一瞬だけ、
腹部のガードが開いた・・・!!
驚異的な反射神経、身体能力を持つ五京は、
その一瞬の隙を見逃さなかった。
「・・・うおおおおおおっ!!」
アンデッド化によって、超筋力を宿している左足で強く大地を蹴り、
バックステップしたマリ先生を逃すまいと、前方へと身を乗り出す五京。
ほんの少し生まれたマリ先生の腹部の隙に、
五京は全身の体重と力を右拳に込め、
とどめの一撃を繰り出そうとする・・・!
マリ先生の仕掛けた罠に、再び獲物が食いついた・・・!
心意把≠仕掛けるためには、五京に腕を出させなければならなかった。
カッツェ=パウロならば、アイマ=リョーマならば、
こんな見え見えの罠には、まず引っかからなかったであろう。
格闘技の機微に疎い五京には、罠を見破ることは出来なかった。
人間が最も防御≠フ意識が薄れる瞬間、
それが自分が攻撃する時≠ナある!!
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1.相手に腕を出させ、それを両手でしっかりと掴み、
自分の方へと思いっきり手繰り寄せる。
2.これによって、相手の体勢を前のめりに崩し、
防御姿勢をとらせないと同時に、
相手を加速させながらこちらへと吸い寄せる。
3.八極拳の基本動作震脚≠ノよって地面を強く踏みつけ、
相手をこちらへと手繰り寄せる動きと同時に、
自身も相手の方へと高速移動する。
4.体勢が崩れている相手の顔面の急所人中=i鼻と上唇の間)を狙い、
人体で最も固い前頭骨(額の骨)による頭突きを繰り出す。
5.相手が加速してこちらに吸い寄せられている勢いと、
こちらが震脚≠ノよって全体重をかけて突進する動作が、
凄まじい威力を生み出し、それが相手の顔面の急所に叩き込まれる。
6.相手は死ぬ。
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八 極 拳 に
二の打 いらず
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「・・・あなたは・・・とても・・・強い・・・な・・・」
大の字に地面の上に倒れた五京が、
消え入りそうな声で、そっと呟いた。
アンデッド化した左足は、ジョッシュ式魔導服の治癒機能によって、
ボロボロとひび割れ、すでに崩壊しつつある。
「・・・・・・」
全身全霊を込めた必殺技、心意把≠放った姿勢のまま、
静かに呼吸を整えているマリ先生。
「・・・宗匠・・・一京兄さん・・・ごめんよ・・・
・・・・・・おれ・・・負けちゃったよ・・・」
倒れたまま、静かにそう呟き、五京は目を伏せる。
ゆっくりと心意把≠フ状態から、直立姿勢に戻るマリ先生。
「・・・フフ・・・」
事切れる直前に、五京はにっこりと微笑んだ。
「・・・くっそー! 次やる時は、負けないぞっ!」
微笑を浮かべ、最後の言葉を吐き出し、五京は逝った。
サッカーであれば、世界一になれたかもしれない男、永眠。
「・・・ごめん・・・ね・・・」
マリ先生の伏せた目の端から、水滴が零れ落ちた。
「・・・あなたを・・・救ってあげられなくて・・・ごめんね・・・」
格闘士の装束、羅漢作務衣≠フ袖で目元を拭い、
マリ先生は五京の亡骸に背を向け、グラウンド全体を見渡すと、
バス学と京一門との総力戦の戦況を確認し始めた。
バス学
マリー=フランソワーズ=ビクトワール
ボーヴァルレ=シャルパンティエ
勝 利
五側近 五京 戦闘不能
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さてここで、今回の
コルモル先生vs亀平のお時間です。
「シャー コノヤロー!
コルモル式古代魔法、今回はトルネドっ!!
やれんのか! やれんのかコノヤロー!
ヘヘッ!! 行くぞぉぉーーーっ!!
いぃち! にぃっ! さぁん!
ダァァァーーーーッ!!」
ちょっとシリアスなシーンを書くと、
必ずその直後に全て台無しにしてしまう、
なぜか猪木顔のコルモル先生であった。
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一方、猪木が祭りの巨大うちわで竜巻を起こしている光景に、
もはや構っていられない状況に追い込まれているキョウノスケ。
「ま・・・まさか・・・あの五京が・・・
五側近ナンバー1の防御力を誇る五京が、
名も無き女教師ごときに敗れ去っただとォ!?」
眼窩にはめ込んだ片メガネがぽろりと外れてしまうほどに、
大きく目を見開いて驚愕するキョウノスケ。
「あ、ありえん・・・こんなこと、ありえるはずがない・・・!!
バス学側で五側近や改獣とまともに勝負が出来そうなのは、
コルモル、タルヤにルナナ、ボルタにハヤカ、風水士ポロロ、
あとはせいぜいスティー=ディランの統率力と、
ゴルト=エイトが作る武具にちょっと注意、という程度だったはず・・・!
生徒や教員たちも、多少の抵抗はするだろうとは思っていたが、
まさか五京を倒すほどのヤツが存在しているとは・・・!!」
タルヤとルナナが増援に来た時点でかなりの脅威であったのに、
五側近の1人が、完全にノーマークだった女教師に倒されてしまって、
宗匠じじぃ、超ピーンチ!!
「計算外! 想定外!! 予想もしてない大・損・害!!
この状況での五京の敗北、超マジめっちゃ、鬼ヤバい!
えっと、今、どんな状況だ!? お、落ち着け、一度戦況を整理しろ!」
地面に落ちた片メガネを拾い上げ、眼窩にはめ込みつつ、
キョウノスケはグラウンド全体を大きく見渡す。
「い、一京は、風水士を戦闘不能にし、保健医を負傷させた後、
生徒たちを全滅しに向かったが、裏切り者の二京が立ちはだかり、戦闘中!
ネコ侍とスティーを倒した三京には、現在タルヤ=クルンヤの足止めをさせている!
ハヤカ=ケンカを倒したオクスケには、ルナナを相手させている!
四京はゴルト=エイトと、あとなんか花嫁ケープみたいなのを纏った女と戦ってて、
改獣・ヤグオはボルタ=ルディタと戦闘中、亀平はなぜか猪木顔のコルモルと戦闘中、
4体目の改獣アリあげクンは、突然出てきたメイド・ロボと戦闘中であって・・・!」
グラウンドを見渡し、自軍、敵軍の戦力を指折り数えながら、
ひとつずつ整理していくキョウノスケ。
・・・で、気づいた。
「・・・ご、五京を倒した女教師がフリーになってしまった分、
ワガハイらの方が不利になっとるやんか!!!」
だるま、ポロロちゃん、スティー理事、ミケ先生、ハヤカを戦闘不能にし、
ルル先生を負傷させて一時的に戦闘離脱状態にしてやったというのに、
気づけば五京1人やられただけの京一門の方が、なぜか不利になっているという状況。
・・・京一門がこの奇妙な戦況に陥った理由は、実に簡単である。
「あ、あいつらが、次々と予定外の応援を出してくるからだ!
おのれぇぇ!! 卑怯だぞ、キサマらぁぁぁぁぁ!!!」
自分たちは2000体以上も無京≠BCで召喚しておいて、
それでもこのセリフである。
自分が卑怯なことをするのはいいけど、
敵の方はズルしちゃらめぇ!というのが、
キョウノスケ=アオイの考え方であった。
「ありのォォ〜〜 ままの〜 じじぃ見せるのよォォォ〜〜♪
ありのォォォ〜〜 ままのォォォ じじぃになァァるのォォォ〜〜♪
なぁぁにもぉぉ 恥ずくない〜〜〜♪」
泣きそうな顔で、急に舞台劇の主題歌のようなものを唄いはじめるキョウノスケ。
敵軍のボスのくせに、もう完全にギャグキャラである。
何かもう、アルフォンス先生を書いているような気さえしてくる。
・・・かと思えば、ふと思い出したかのように、
キョウノスケは真顔になり、渋い悪役じじぃに戻った。
「・・・ふん・・・やむをえんな・・・」
もうなんか色々と手遅れのような気もするが、
登場初期の頃の不敵な威圧感を取り繕いつつ、
キョウノスケは静かに呟いた。
「・・・最悪の場合・・・あのエルヴァーン教師は・・・
・・・このワガハイが、直々に相手せざるを得んのぅ・・・」
お前強いのかよ!? と、誰もが思いそうなセリフを、
キョウノスケは平然と言い放った。
急に野々村議員みたいに泣き叫んだり、松たか子みたいに歌い出したりする、
ただのおもしろ爺さんとしか思えない男、キョウノスケ=アオイ。
なんかすぐテンパるが、この男、実は強い。
「・・・下賎の凡人ではあるまいし、このワガハイが自ら戦うなど、
本来ならば絶対に避けたいところではあるのだが・・・
悲願たるプロジェクトB≠フ達成が、もう目の前まで迫っているのだ。
ここに来て、多少の骨身を惜しんどる場合ではあるまいて・・・」
・・・キョウノスケ=アオイ。
この男の実力は、いかほどのものであろうか。
ただひとつ言えるのは、彼は目標達成のためには、
手段を一切選ばない、ということ。
膨大な資金を注いで無京≠竍改獣≠製造し、
決戦間際の土壇場でジョッシュ式魔導服≠完成させて五側近に配備し、
さらに五京が自身の肉体をアンデッド化する死人薬≠使用したのに、
それに関して何のためらいも動揺も見せぬ男である。
そんな男が、自分自身に
何の手も入れていないはずがないのだ。
「・・・出来れば、バトルなどという浅ましい行為はしとうない。
キョーマルの最後の改獣≠フ完成か、
あるいは紐京=i人工ミミズ)どもの因果律統合球の発見、
どちらかが間に合ってくれればいいんだがのう・・・」
うんざりとした表情で、大きなため息を吐き出しながら、
キョウノスケは再びグラウンド全体を見渡すのであった。
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クリスタル・テレビジョンに映し出される映像が、
マリ先生vs五京の決着を経て、次のバトルへと切り替わる。
・・・さて、これから全世界に中継される、次なる戦いは・・・
ボルタ vs ヤグオさん。
「エェーーーーッ!? そりゃないよぉ!?
今までずっとほったらかしにしてたくせに、
急にボクの番なのかいぃ!?」
・・・これまでの作品中で、幾度と無く繰り返し多用した、
○○は、まるでマスオさんのようなポーズで驚愕した≠ニいう表現・・・
とうとう本当に描いてやった。
「・・・うーむ; 何やら腑に落ちんでござる;
挿絵を入れるのであらば、ここはどう考えても、
主人公側である拙者の絵であるべきだと思うでござるが;」
現在、ボルタの意識と交代≠オて表に出てきている、
サムライボルタこと地味なランスロット氏が、不服そうに表情をゆがめる。
『そんなこたぁどうでもいいから、いい加減に俺と代われよゴラァ!』
『ランさんさぁ、いつまで1人で表に出てるのさ! ボクと代わりなよ!』
『ええい、ヌシらの意見は聞いちょらんわ! ワシと交代せんかい、侍!』
他の三人のメモリーズたちの声が、サムライボルタの脳内に響き渡る。
『こら〜〜〜!! 久しぶりにぼくの出番だっていうのに、
本体であるぼくを誰か気にしろよ〜〜〜!!』
実はチェーンソーおばちゃんよりも、さらに長い間放置されていた男、
ランク10冒険者ボルタ=ルディタ。
ボルタと改獣ヤグオさんのここまでの戦況は、ほぼ互角。
互いに一太刀も浴びせておらず、一太刀も受けていない。
ずっと0−0のまんま、ゲームは動かず、という状況であった。
この両名、果たして何時間斬り合っていたのやら。
『うおおお〜〜〜!! さくせんか〜〜〜〜いぎ!!』
まるで動かぬ試合展開にとうとう業を煮やしたのか、
サムライボルタの脳内で、本体のボルタ=ルディタが叫んだ。
まるで一時停止ボタンを押したかのごとく、周囲の時間の流れがストップした。
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〜〜〜〜〜 脳内の部屋(BRルーム) 常世荘=@〜〜〜〜〜
「こら〜〜〜!! ランさん、いったいいつまでチャンバラしてるつもりだ〜〜!」
常世荘≠フ四畳半の室内に戻ってきたランスロットを、
いきなり叱り付けるボルタ。
「ずっと放置されてた間に、第15話を読み返してみたら、
次々とモードチェンジを繰り返して相手を翻弄する、
ボルタの真骨頂が、数分後に開始される!≠チて書いてたぞ〜〜!
その時の時刻が15:15ってなってたのに、現在時刻は夕方の6時前だ〜!
3時間近くも、なにずっと1人でチャンバラしてるんだよ〜〜〜!!」
「い、いや、拙者を責められても;」
「だから俺が言っただろうが! おめぇの戦法は地味だから、
あんまり盛り上がらねえんじゃねえのかってよ!!」
「・・・てかはっきり言わせてもらうけど、剣術の勝負は
完全にネコ侍の先生に持っていかれちゃったみたいだよ、ランさん。」
「・・・ふん。 そりゃそうじゃ。 同じ剣術なら、誰だって女剣士の方を見たいわのぅ。」
「そ、そんな・・・; 拙者は命がけで、3時間も休憩無しで戦っていたというのに;」
「そうこうしてる間に、ポロロちゃんもハヤカもやられちゃったんだぞ〜〜!
ぼくの恩師でもあるスティー先生まで、危ないところだったんだ〜〜!!
もしバス学が京一門に負けたら、ランさんのせいだからな〜〜〜!!」
「い、いや、ちょっと待たれい! それは筋違いでは御座らんか!?
拙者にしたって、別に好きで3時間もずっとだらだらしてたワケではなく、
むしろ3時間も戦っていたという事実を、今初めて知ったので御座るぞ!?」
「だからさっきから言ってんだろうが! おめぇが地味だからこそ、
今まで全くスポットが当てられなかったんだよ!」
「・・・てかはっきり言わせてもらうけど、技≠フメモリーズとは言うものの、
剣の技術を駆使する展開は、ネコ侍の先生がほとんど全部やっちゃったからね・・・」
「・・・ふん。 そりゃそうじゃ。 同じ剣術なら、誰だって女剣士の方を見たいわのぅ。」
「そ、そんな・・・; 放置されてたのは、拙者のせいだと言うで御座るか!?」
今までボルタの戦いが描かれなかったのは、
ランスロットのせいだ、ということで結論が出た。
「・・・さあ! というワケで、ここからは気を取り直していくぞ〜〜!」
畳の上に置かれたざぶとんに胡坐をかき、手の平でぽん、とひざを叩くボルタ。
「このままランさんにまかせてたら、また4話くらい放置されるに違いないから、
ここらでそろそろぼくの真骨頂を見せとかないとな〜〜〜!!」
「・・・納得いかぬが・・・もう反論はしないで御座る; ; 」
「ガラさん、ガウェさん、マーリンじいちゃん!
ここからはみんなの力を、適材適所で切り替えていくからな〜〜〜!」
「おうよぉ! ようやく俺のパワーの出番なんだな!」
「フッ・・・ボクの自慢のスピード戦法、ようやく発揮できるね。」
「・・・それにしても、出番待ちキャラの多い小説じゃのう。
書かなければならん連中が、まだまだ長蛇の列で待っとる気がするわい。」
「じいちゃん! あんまり言うと、ヘビメタみたいに気絶させられて、
しばらく強制的に口を閉ざされるから、それ以上言っちゃだめだ〜〜〜!
大したことしてないのに、毎回必ず挿絵付きで出てくるコルモル先生は、
例外中の例外なんだぞ〜〜〜!!」
「むむう; 確かにあれは例外としか言えんのう;
こんな過酷な出番争奪戦の中、1人ゆうゆうと猪木顔とかしとるし;」
「主役のゴルトの出番ですら、ばっさりと大幅にカットするような、
行き当たりばったりもいいところの作者なんだから、
ぼくたちもこのチャンスに大暴れして、全力で印象付けておかないとな〜〜!
さあ、まずは3時間も1人で戦ってたランさん!
あのヤグ改獣相手に、どういう風に交代≠オつつ戦うべきか、作戦をたててくれ〜〜〜!」
「・・・そうで御座るな; ; 拙者は指示を出す役をするべきで御座るな; ;
なにせ今までずっと、3時間も1人で戦ってた、ということにされてるから; ;」
「よ〜〜〜し! それじゃここから、いよいよボルタ=ルディタの本気を見せるぞ〜〜!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
脳内部屋での作戦会議を終え、ヤグオさんの前に戻ってくるボルタ。
・・・だが。
その風貌は、今までのサムライボルタとは、全然違っていた。
「あ、あれぇ!? キミぃ、なんか急に感じが変わってないかぁい!?」
さっきまで対峙していたサムライボルタの、突然の容姿の変貌振りに、
例のポーズで驚くヤグオさん。
「・・・そうだね。 さっきまでここに立っていた、
古臭い風体の朴念仁のことは、忘れてもらえると有り難い。
・・・そのお礼と言ってはなんだけど・・・」
・・・ヤグオさんの前に現れたのは・・・
『 SPEED VOLTA !! 』
「・・・お前・・・ネコに引っかかれてみる?」
胴着に袴(はかま)の剣士タルはどこかに消え去り、
代わりにエリート商社マン風のメガネタルがそこにいた。
「う、うーん! す、すごく営業の出来そうなタルタルさんだなぁ!
ぼ、ぼくやアリあげクンとは違って、上司にもすごく期待されていそうだ!」
目の前のメガネタルを、なぜかサラリーマンとして評価しているヤグオさん。
「フフ・・・期待して損は無いよ。 ボクの華麗なツメさばき・・・」
ふわり、と前髪をかきあげつつ、微笑を浮かべるメガネボルタ。
「・・・たる屋夫婦の参戦に加え、マリ先生が五京相手に大金星・・・
流れは完全に、バス学の猛反撃開始!といったところだね。
・・・この素晴らしい流れに、ボクも乗らせてもらうとしようか。」
「な、なにくそー! ぼ、ぼくだってぇ、負けないぞぉう!」
じゃきんっ!と、日本刀刃碌=iじんろく)を構えるヤグオさん。
「・・・さて、と。 それじゃそろそろ始めたいと思うんだけど・・・
まずはどんな感じで攻撃するのがベターなのか、教えてくれるかな?」
己の頭を人差し指でつんつんと突付き、そんな言葉を呟くメガネボルタ。
「えぇーっ!? そ、それをぼくに聞くのかいぃ!?」
「あぁ、失礼。 キミにじゃなく、頭の中にいるさっきの朴念仁さんに訊いてたのさ。」
「な、なにを言ってるのか、ちっともわかんないぞぉ;」
「・・・ふんふん・・・なるほど、そんな感じで攻めるワケね・・・りょーかい、と。」
世界でただ1人の、特殊アビリティ交代≠フ使い手、ボルタ=ルディタ。
そんな彼には、交代≠ニは別の、もうひとつの特殊能力が存在している。
ボルタの脳内には、BRルーム常世荘≠フ他に、
言うなれば操縦席≠ノ該当する部分が存在しており、
4人のメモリーズの内、そこに座った者が肉体の操縦者≠ニなる。
そしてその操縦席≠フ隣には、ひとつだけ助手席≠ェ並列されている。
その助手席≠ノ座った助手≠ヘ、
操縦者≠ェ交代≠ナ表に出ている間、
操縦者とのタイムラグ無しの脳内疎通が可能となる。
つまり、操縦者が戦っている最中、助手席に座っている者は、
横からあーでもないこーでもないと、アレコレと指示を出すことが出来るのだ。
これぞ、ボルタのもうひとつの能力、同調≠ナある。
交代≠ニ同調=A二つの能力の同時解放、
すなわち操縦席≠ニ助手席≠ノ4人のメモリーズを無理矢理押し込んで、
4人の能力を全部同時にボルタの身に宿すの能力が、
最終奥義ボルテックス・ミキサー≠ネのである。
本来は2つしか無い席に、無理矢理4人も乗り込ませてしまうと、
ボルタの脳にも身体にも莫大な負担がかかってしまうがために、
ボルテックス・ミキサーはここぞという時にしか使用できないのである。
「・・・ああ、そうだね。 ボクも同意見だよランさん。
このヤグード改獣さんは、とりあえず同調≠セけで何とかするしかないよね。
ボルテック・ミキサーは、最後の最後、いよいよの時まで温存しとかないと。
大体あの4人のぎゅうぎゅう詰め状態、ボクはホントに大嫌いだし、
アレを使うとボルタの身体に後から大ダメージが来ちゃうからね。」
メガネボルタことガウェインは、助手席≠フランスロットと同調≠オ、
タイムラグ無しの会話を脳内で繰り広げている。
同調≠ノよる脳内会話と、作戦会議≠ニの最大の違いは、
現実世界の時間の流れに外れることなく、リアルタイムで進行できる点である。
スーパーマリオで例えると、スタートボタンでゲームを一時停止して、
1−2から4−1にワープして、次は4−2から8−1に・・・≠ニ、
攻略本片手に大まかな進行コースを決めるのが作戦会議≠ナ、
実際にゲームをプレイしている最中、
そこに1upある! そこだって、そこの端っこ! そこでジャンプ!≠ニ、
隣からうるさく口を挟むんでくる友達が同調≠ナある。
「・・・それじゃ行くよランさん。 ナビ、よろしく・・・!」
左右の手を開き、指先の鋭いツメをキラリと光らせ、
メガネボルタは改獣ヤグオさんに向かって、疾風のごとき速度でダッシュする。
メガネボルタがヤグオさんの目の前に到着した時、
その姿は5人くらいに分身していた。
「えぇぇーーーっ!? そりゃないよぉ?!
キミ、詠唱無しで空蝉の術を使えるのかぁい!?」
「伊達にスピードボルタ≠名乗ってるワケじゃない・・・!
さあ、ここからはスピード地獄≠ノご招待さ・・・!!」
5人のメガネボルタが、次の瞬間さらに5人増え、
10人になってヤグオさんに雪崩れ込んできた。
「自慢のハイスピード戦法、とくと御覧あれ!」
「びゃあ゛あ゛あ゛あああぁぁぁ!! はやいいいいぃぃぃ!!」
10人のメガネボルタが、左右の腕から繰り出してくるネコのツメ≠、
日本刀刃碌≠ナ防御しようと、ヤグオさんは恐ろしい速度で
上下左右に刀身を揺り動かす。
・・・だが、ツメを受け止める刃碌≠ノ、何の手ごたえも無し!
10体のメガネボルタ、全て実体無き幻影!
「どうやらこの速度には、まだついてこれるようだね・・・!
今の10体の攻撃が全部本物だったら、全部弾かれてたところだ・・・!」
ずざざざっ!と地面を靴底で削り、土煙を巻き起こしつつ、
ヤグオさんの背後に現れるメガネボルタ。
「むむむー! そ、そこだなぁ!」
メガネボルタの声がした背後へと、急いで身体を向けるヤグオさん。
ヤグオさんの背後に、今度は12人のメガネボルタがいた。
「びゃあ゛あ゛あ゛あああぁぁぁ!! また増えてるぅ><」
「言ったでしょ! スピード地獄にご招待、って!」
メガネボルタは、6体をそのまま前方にダッシュ、残り6体をジャンプさせて、
地上と空中から、12体同時に襲撃してきた。
「え、えぇーいっ! なにくそぉ!」
ヤグオさんは両手で握っていた刀の柄の、左手だけを手放すと、
大きく左腕を後方に引き、12体のメガネボルタに向かって、
ヤグード族お得意の羽根吹雪≠発射した。
「・・・フフッ・・・面白いように、全てランさんの予想通りだよ・・・!」
12体に分身したメガネボルタが、ヤグオさんが放った羽根の手裏剣に、
次から次に撃ち抜かれ、見る見るうちに消えていく。
・・・結局12体のメガネボルタは、またもや全て幻影であった。
「えぇぇーーーっ!? ま、また全部分身だったのかいぃ!?」
素早く両手で刀を握りなおし、自身の前後左右を慌てて確認するヤグオさん。
「お、おのれぇー! こ、今度はどこから出てくるつもりなんだぁい!!」
「・・・四方から同時に・・・なんてのはどうかな?」
前後左右からそれぞれ4体ずつ、
計16体のメガネボルタが、
一斉にヤグオさんに詰め寄ってきた。
「びゃあ゛あ゛あ゛あああぁぁぁ!! 多いいいぃぃぃ!!」
情けない悲鳴を上げつつも、マシンガンのごとき恐ろしい速度で
小刻みに突きを繰り出しながら横回転し、
ヤグオさんは前後左右から迫り来る無数のメガネボルタを、
1体1体確実に突き刺していく。
「・・・フフ・・・羽根吹雪≠ヘ・・・」
「・・・一方向にしか・・・放てないから・・・」
「・・・囲まれた際は・・・恐らく刀で応戦する・・・」
「・・・これも・・・ランさんの・・・予測どおり・・・」
ヤグオさんの刀に貫かれ、不敵な笑みとともに捨て台詞を残し、
次から次に消滅していくメガネボルタたち。
「お、おのれぇ〜、また全部分身かぁ; ほ、本体は、いったいどこなんだぁい!?;」
四方から襲ってきた16体のメガネボルタを全て突き殺し、
きょろきょろと周囲を見渡すヤグオさん。
「・・・ここだよ・・・!」
「そ、そこかぁぁ〜〜〜!!」
ツメを振りかざし、上空から襲ってきたメガネボルタ!!
超反応でそれに対応し、刀を振り上げるヤグオさん!!
ざしゅうっっっっ!!
メガネボルタの振りおろすツメと、ヤグオさんの振り上げた刀が、
まったく同時に一閃する。
・・・腕を振り下ろした姿勢のまま、ざざっ、と地面の上に着地するメガネボルタ。
下段から斜め上に刀を振り上げた姿勢で静止するヤグオさん。
・・・まるで映画の決闘シーンの決着の瞬間のごとく、
両名はその場に、5秒ほど制止したあと・・・
「・・・ぐ・・・ふぅっ・・・!!」
どさり・・・と、メガネボルタはその場に倒れこんだ。
「・・・むむむっ! だ、だまされないぞぉ;
刀に手ごたえはあったけど、い、今のも分身かもしれない;」
地面の上に倒れたメガネボルタの方へと身体を向けつつ、
刀を下段に下げ、油断無く脇構え≠とるヤグオさん。
「・・・へへへ・・・バケモンのくせに、いい勘してるじゃねえかよ。」
脇構えをとるために、
下段におろしていたヤグオさんの右手首を、
不意に何者かが、がしり!と掴んだ。
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「・・・俺、ようやく交代=E・・!!」
「えぇぇーーーっ!? キ、キミは誰なんだぁい!?」
「・・・へっ。 そこに置いてるバックパックが、すぐに紹介してくれるぜ。」
チンピラ風のタルがそう言った瞬間、
やや離れた場所の地面の上に置いてあるボルタのバックパックが、
電子音声を放った。
『 POWER VOLTA!! 』
「ええぇーーーっ!? テクニック、スピードときて、
今度はパワータイプに変身したって言うのかぁい!?」
「ま、そういうことだ! スピード自慢のチャラ野郎は、
わざとやられたふりをして、おめぇに下段構え≠とらせる役だったのよ!
背の低いボルタの身体で、こうして俺さまがおめぇの腕を掴むためには、
何とかして両腕を下げた構えを取らせる必要があったもんでな・・・!」
掴んでいるヤグオさんの腕を、ぎゅうううっ!!と握り締めるチンピラボルタ。
「びゃあああああ! い、痛いぃぃぃぃ!!」
「ちなみに、おめぇが油断せずに残心≠キる時に、
脇構えをとる癖があるってのは、おめぇと3時間も戦ってた侍ヤローからの情報だ!
感謝すんぜサムライ、おかげでうまく捕まえることができた!!」
チンピラボルタは、掴み上げたヤグオさんの腕に更に力を込めて、
ヤグオさんの身体を、まるでハンマー投げのように豪快に振り回し始めた・・・!
ぶぉん ぶぉん ぶぉん ぶぉん!!
ぶぉん ぶぉん ぶぉん ぶぉん!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
俺は最初から最後まで、TP300%だぜぇぇぇぇぇ!」
「びゃあ゛あ゛あ゛あああぁぁぁ!! 怖いいいぃぃぃ!!」
技も速度もヤグオさんに劣っているチンピラボルタであるが、
その腕力だけは、改獣をも凌駕するほどのレベルであった。
よって、とにかく敵を捕まえさえすれば、
全メモリーズの中で、最強の攻撃力を発揮出来る。
「よっしゃああ、いっくぜぇぇぇぇ!!
俺の必殺技、パート3ィィィ!!」
パート1、パート2は不明である。
「ぬおおおおおおりゃああああぁぁぁぁぁっっっ!!」
ハンマー投げのごとき状態で振り回していたヤグオさんを、
遠心力によって充分に加速のついた勢いを活かし、
チンピラボルタは豪快に、地面の上に叩き付けた。
どっ・・・・がああああああっ!!!
「びゃあ゛あ゛あ゛あああぁぁぁ!! ひどいいいいぃぃぃ!!」
叩き付けた衝撃によって、びきびきびきびきっ!とグラウンドの土がひび割れ、
ヤグオさんの身体はまるでボールのごとく、その場で大きくワンバウンドした。
「まだだあああああっ!! もう一撃ィィィィィ!!」
サムライボルタが地面の上に置いていた番傘を素早く拾い上げ、
野球のバッターのような構えになるチンピラボルタ。
その瞬間、番傘は一瞬にして、鬼の金棒に変化した。
サムライボルタが使っていた時は、日本刀に変化していたこの番傘。
どんな理屈で変化しているのか全然わからないが、もちろんコルモル製である。
よってこの番傘は、ひんがしの国のゆかりの物にしか変化しないという特徴がある。
なぜコルモル先生が異常なほど和風にこだわるのかは不明だが、
ともかく番傘が変化した金棒を構えたチンピラボルタは、
地面に叩きつけられ、ワンバウンドして弾んでいるヤグオさんを、
振り子打法で思いっきりバッティングした。
「おるああぁぁ! これで吹っ飛べえええっ!!
アンドロメダ大星雲打法だあぁぁぁぁーーっ!!」
ばっっっ・・・ぎいぃぃぃぃーーーーん!!
「びゃあ゛あ゛あ゛あああぁぁぁ!! キツいいいいぃぃぃ!!」
圧倒的なパワーで、巨大な金棒で思いっきり強打され、
ヤグオさんは本当にホームランボールのごとく宙を舞う。
「・・・ちっ、まだ全然暴れ足りねぇけど、ボルタと約束したからな!
俺はここまでだ、最後のとどめはおめぇにまかせるぜ、じじぃ!」
肩に担いでいた金棒をぽいっと投げ捨て、チンピラボルタは目を伏せる。
地面の上に転がった金棒が、一瞬にして番傘の形に戻った、その瞬間・・・
『 MAGIC VOLTA !! 』
番傘同様、地面の上に置かれてあるバックパックが、再び電子音声を放った。
「・・・カメラはどこじゃ? ん? あれか?」
じじぃボルタは、チンピラボルタと交代≠キるや否や、
まず最初にクリスタル・テレビジョンのカメラを探した。
「・・・おほん。 クリスタルでこの戦闘の映像を見とる連中よ。
よう見とくように、今から滅多に見れん凄い魔法を見せてやるでな。」
グラウンド全体を取り囲むように並べられた、
棒倒し用の丸太の上部に設置されてあるカメラに向かって、
どや顔でぶつぶつと喋りかけつつ、じじいボルタは懐に手を突っ込むと、
何やらお札のようなものを何枚か取り出した。
「・・・わしゃこれから、空中に吹っ飛んでいるあのヤグ改獣に対して、
あやつが空中にいる間に、強烈な魔法を叩き込んでやろうと思っちょる。
じゃがしかし、ご存知の通り、強烈な魔法というものは、
それに比例して、とても長い魔法詠唱が必要になってくる。
今この時点から、クソ長い古代魔法の詠唱を開始したところで、
詠唱を終える前に、あのヤグ改獣が遠くに吹っ飛びすぎてしまって、
魔法の効果範囲外にまで行ってしまうのは火を見るよりも明らかじゃ。
まったく、ガラのやつは力の加減というものが、ちっとも出来んからのう。」
クリスタル・テレビジョンを意識しまくった物凄いカメラ目線で、
じじいボルタはふふん、と鼻息を漏らす。
「そこで、これからワシが唱えるのは、詠唱の短いファイア1とする。
ファイア1の短い詠唱ならば、あのヤグ改獣が空中にいる間に、
なんとか発動を間に合わせることが出来るからのう。
・・・ああ、わかっとるわかっとる、言いたいことはわかっとるわい。
ファイア1のどこが強烈な魔法なんだ、と言いたいんじゃろ?
そこでこいつの出番というワケじゃ。
ここに取り出だしたる8枚のお札は、ワシが前もって作っておいた、
1枚につきファイア1を1回使える呪符ファイア≠ナある。 作り方は秘密じゃ。
ま、知≠フメモリーズであるワシじゃからこそ作れる
スーパー魔導アイテムである、とだけ言っておこうかのう。」
「・・・びゃあ゛あ゛あ゛あああぁぁぁ!! ・・・高いいいいぃぃぃ!!」
じじいボルタがカメラに向かって喋っている間にも、
どんどん遠くの方に吹っ飛んでいくヤグオさん。
「・・・さて、ここまで言えば、もうヌシらにも答えはわかったじゃろ?
詠唱の短いファイア1を唱えると同時に、この8枚の呪符を発動させ、
唱えたファイア1と8枚分の呪符ファイアの魔力を融合させ、
通常の9倍の魔力を含んだファイアを、あのヤグ改獣に叩き込むんじゃ。
8枚の呪符ファイアを、目標物を定めずに発動すると、
本来であればその場で魔法が暴発してしまうんじゃが、
これから唱えるファイア1の目標設定をあのヤグ改獣にし、
8枚の呪符ファイアの目標設定を、それと同期させることによって・・・
・・・って、いかん、そろそろファイア1でも間に合わなくなってしまう!
まあともかくじゃ、黙って見ておれ!」
そう言ってじじいボルタは、ファイアの詠唱を行いつつ、
それと同時に、8枚の呪符ファイアなるものを発動させ・・・
「・・・ほい、詠唱完了、あとはこのまま放つだけ。
どうじゃ、簡単じゃろ? 簡単でありつつも、この発想そのものが凄いじゃろ?
いったいこの凄い人は何者なんだ、コルモル以上の天才だ!と思ったじゃろ?
ふふふ、わかっちょるわかっちょる、いちいちコメントせんでもええぞ。」
放たれたファイアが、空中のヤグオさんに着弾した瞬間、
じじいボルタはパチッ!と指を鳴らしつつ、静かに呟いた。
「・・・ヌシらの答えは聞いとらん。 黙って感心しとりゃいい。」
ちょっと前までは、現実的な格闘技の理論を駆使して、
関節技とか使って戦うマリ先生を書いていたのに、
気づけばいつの間にか、
常識の通用しない領域に突入してる。
つまりボルタ=ルディタと改獣ヤグオさんは、
常識を遥かに超えた、超次元で戦っているということである。
「・・・ふむ。 並みの獣人であれば、今ので終わっとるか、
少なくとも瀕死に追い込まれとるはずなんじゃが・・・」
腕を組み、片手をアゴに当て、眉根を寄せるじじいボルタ。
「・・・そうがなりたてんでも、ワシにもわかっとるわいランスロット。
ヌシほどの男が数時間かけても倒せんようなバケモノを、
このくらいで倒せるとは思えんわな。」
同調≠フ脳内会話でサムライと会話しつつ、
じじいボルタは大きくため息をついた。
「・・・ううーー; やれやれぇ、ひ、ひどい目にあったなぁ;」
じじいボルタの放ったファイアの大爆発によって、
周囲にもうもうと黒煙が立ちこもる中、
ヤグオさんはけろりとした表情で、
ごく普通に立ち上がった。
「ひ、ひどいじゃないかぁ、ボルタくぅん^^;
何が何だかわからない内に、次々と姿を変えて、
凄い勢いで仕掛けてくるから、驚いちゃったよぉ;
だ、だけど、ぼくだってぇ、やられっぱなしじゃないぞおっ!」
メモリーズ≠スちによる常識はずれの攻撃でさえも、
改獣≠ノ深手を負わせることは出来なかった。
「・・・ランスロットよ。 坊と他の2人に、伝えてくれんかの。」
同調≠ノよる会話で、じじいボルタはサムライボルタに言った。
「・・・こやつを倒すには、圧倒的な攻撃力がいりそうじゃ・・・
場合によっては、攪拌=iボルテックス・ミキサー)を
使う必要があるかもしれん・・・とな・・・」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ボルタ=ルディタを皮切りに、これからしばらくの間、
クリスタル・テレビジョンの映像上に、
常識離れした光景が連続で映し出される。
タルヤ vs オクスケ。
「こいつめぇ^^ さっきはよくも、
このぼくを殴ってくれたなぁ、まったくぅ^^
よぉ〜し見てろぉ、今度はこっちのばn」
「タ、タイコぉぉーーーっ!!」
まだ喋ってる最中なのに、容赦なく思いっきりぶん殴られるオクスケ。
「てやんでぇっ! 俺っちが用があるのは、キョウノスケよぉ!
おめぇみてぇな三下に、いつまでも構っていられるけぇ!」
ぐいっ!と手首で鼻を持ち上げる仕草をしつつ、
転がっていったオクスケを、びしっ!と指差す大将。
「・・・とは言え、どうせおめぇ、バカみてぇにHPが多いんだろ?
何十回でもぶっ飛ばしてやっから、とっとと起き上がってきやがれぇ!」
「・・・ひどいなぁ、喋ってる途中で殴るのはズルいですよぉ^^
せっかくぼくがフレンドリーに話しかけているってのにぃ^^」
土煙がもうもうと立ち込める中、ゆらり、と起き上がるオクスケ。
「・・・しかし、噂に名高い白夜の黒い雨≠フ攻撃も、
思っていたほどじゃありませんねぇ^^
この程度のパンチでぼくを倒すなんて、虫が良すぎますよ^^」
「50ぅぅぅ!! メートルぅぅ! パァァンチ!!」
またもやオクスケが喋っている途中で、
容赦なく殴りかかる大将。
・・・だが!!
がしいいっ!!
大将の放った50mパンチ≠、
オクスケは片手で受け止めた!!
「おぉう!? お、俺っちのパンチを、受け止めただとぉ!?」
「はっはっは^^ 言ったじゃないですかぁ^^
この程度の攻撃は、そう何度もぼくには通じませんよぉ^^」
オークの改獣、オクスケの太い腕は、
タルヤの10倍以上の大きさなので、
ある意味当然と言えば当然である。
「タルヤ=クルンヤの得意技、50mパンチ^^
その原理は、竜騎士の代表的アビリティ、
ジャンプ≠ノよる凄まじい跳躍力を応用したものである^^」
大将のパンチを受け止めた状態のまま、オクスケは笑顔で語り出す。
「およそ50mもの高さを、垂直に飛び上がる竜騎士のジャンプを、
とある手段を用いることによって、突進力を水平方向に変化させる^^
そしてそのジャンプ≠フ勢いと、元来の凄まじいSTR(腕力)にものを言わせ、
相手を思いっきりぶん殴り、しかもパンチが相手に当たる瞬間、
拳だけに物理バリア≠纏わせ、更に威力を上昇させる^^
食らった相手を50mも吹っ飛ばしてしまう、恐ろしい技である^^」
「なにぃ!? て、てめぇ・・・!」
オークの改獣だから、知能はあまり高くないと思われたオクスケが、
ほんのわずかな時間で50mパンチ≠フ仕組みを見抜いていることに、
大将は少なからずの衝撃を受けた。
「・・・・なお、ジャンプの推進方向を水平に変える方法は、
自分の背後に物理バリア≠フ壁を張って、
それを地面に見立て、地面と平行状態になって思いっきり蹴ることにより、
真っ直ぐ水平にジャンプ≠ナ突進することが出来る、ってところですか^^
どうですぅ? 正解ですよねぇ、タルヤ=クルンヤさん^^」
大将の腕を左手で掴んだまま、ぐぐぐ・・・と、大きく右腕を後方に引き絞るオクスケ。
「それじゃあ、謎解きの解説が済んだところで、次はぼくの番ですよぉ^^
波野オクスケの必殺拳、しっかりと受けて下さいねぇ^^」
大将の腕を掴み、逃げられないようにした上で、
オクスケは思いっきり右腕のパンチを繰り出した。
「・・・名づけて! 必殺!
世田谷区編集者パンチ=I!
・・・ってなところで、どうですか、ひとつ^^」
ハヤカ=ケンカを一発KOした、あの物凄い威力の豪腕パンチが、
うなりを上げて大将に襲い掛かった・・・!!
ババババッ!! バヂバヂバヂィィ!!
薄いピンク色の障壁が、
一瞬にして大将の全身を覆い尽くし、
オクスケの世田谷区編集者パンチ≠
いとも容易く弾き返した!!
「・・・あ、あれぇ^^ まったく手ごたえがないなぁ^^」
「・・・当ったりめぇの、こんこんちきよぉ!
俺っち物理バリア≠ヘ、絶対に破ることは出来ねぇ!
バリアを破るには、カミさんのざんてつけん≠ナ斬り裂くか、
もしくは同じ性質のバリア同士をぶつけ合うしかねぇ!
闇の王無き今、それが出来るのは、俺っちの可愛い一人娘だけだぜぇ!」
ばばっ!と、大将は素早くオクスケの腕を振り解いた。
「つまり俺っちを護るバリアは、
家族≠ニの絆ってことだぁぁ!!
おめぇごときに、破られてたまるけぇぇぇぇ!!」
ばっごおおぉぉぉぉん!!
至近距離から放たれた50mパンチが、
オクスケの腹に叩き込まれた!
「・・・はっはっは^^ 面白いじゃないですかぁ^^」
オクスケは笑顔のまま、
腹筋で大将の拳を悠々と受け止めた。
「誰も破ったことのない、タルヤ=クルンヤの無敵の守護障壁^^
ぼくの必殺技世田谷区編集者パンチ≠ェ、
その伝説に終止符を打ってやろうじゃないですか^^」
ぐんっ!と腹筋に力を込め、オクスケは大将の拳を押し戻した。
「・・・そして! 水晶大戦を終わらせた後、
自ら封印したという白夜の黒い雨=Aブラック・レインの真の力を、
このぼくがすぐに引き出して見せましょう^^」
「・・・あの力は使わねぇ・・・!! このねじりはちまきに誓って・・・!」
くわっ!と目を見開き、タルヤ=クルンヤは叫んだ。
「俺っちは、特異点ブラック・レインじゃねえ!
居酒屋の料理人、タルヤ=クルンヤでえええいっ!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ルナナ vs 三京。
「・・・ネコ侍、スティー婆さん、タル探偵ときて、
とうとうサンドリア軍の切り札とまで言われていた、
月下の騎士≠ニ戦わせてもらえるたぁな・・・!」
巨大な刀斬ギガス刀≠肩に担ぎ上げ、ぺろりと舌なめずりする三京。
「・・・生きてて良かったぜ。 こんな日は、もう一生涯訪れねぇかもな!」
「・・・人斬りか。 そう言えばその顔、水晶大戦時代に何度か見たかもしれんな。」
「・・・剣の鬼、轟 来地≠ゥら剣を習ってた時期もある。
その縁で、俺ぁ何度かサンドリア軍の戦争を手伝ってたからなぁ。」
「・・・来地に破門されたんだろう? キサマには、トドロキ流を学ぶ資格無し、と。」
「ほう? あんた、来地と知り合いなのか?」
「大戦時代、来地は軍で私の副官を勤めてくれていた。
あの男は、心技体、どれをとっても素晴らしい侍だった。
だからこそ、お前のように剣を道具としか見ぬ男を破門したんだろうな。」
「・・・ちょいと間違ってるぜ。 俺ぁ来地に破門を言い渡されたんじゃなく、
トドロキ流は学ぶ必要無しと判断し、自分から出て行ったんだ。
剣先だけでちょちょいと斬るのが奥義だってんだから、俺の性に合わなかった。」
「・・・必要以上に敵を斬らぬ、それがトドロキ流の教えだろうが。」
「だからこそ、俺には合わねぇってんだよ!
やっぱ敵は豪快に、ずばーーっと斬らねぇとなぁ!!」
「・・・その思いを具現化したのが、そのいびつな刀か。 醜悪なことだ。」
「おめぇが言うんじゃねえよ!
バカみたいな巨大な剣で獣人を斬りまくってた、
伝説の女タル月下の騎士≠ウんよぉ!!」
「・・・人斬りと同列にはされたくないものだな。」
「・・・御託はもうよそうや。 出しなよ、ざんてつけん≠・・・!
俺の斬ギガス刀≠ニどっちが上か、斬り合おうじゃねえか・・・!」
「・・・出せんよ。」
すっ・・・と、静かに目を伏せるルナナ。
「・・・なんだって?」
「ざんてつけんは、出せん・・・と言った。」
「・・・そらまた、なんでだい?」
「今日は朔日(さくび)だ。 月は見えない。
この学園に突入した際、小さな彫刻刀を呼び寄せ、
守護結界の一部を切り裂くのが精一杯だった。」
朔日とは、月と太陽の視黄経が等しくなること、
また、その時刻のことである。
現代的な定義での新月(しんげつ)と同義である。
地球から見て月と太陽が同じ方向となり、
月から反射した太陽光が地球にほとんど届かないことと、
強い太陽光の影響とで、地上から月が見えなくなる日のことを指す。
「・・・朔日・・・新月の日だから・・・ざんてつけん≠ェ呼べない・・・だと?」
「そうだ。 恐らくそれを見越していたからこそ、
キョウノスケはあえて今日を決戦日に選んだのだろう。」
「・・・どうなってやがんだ、今日は・・・」
ぶるぶるぶる・・・と、巨大刀を握る三京の腕が震える。
「ネコ侍は、最後の最後で攻撃をミスりやがるし!
スティー婆さんは、高齢ですぐに息切れしやがったし!
探偵タルは、赤い魔導服を着る前に、
オークのバケモンに不意打ちされて倒されるし!
月下の騎士≠ヘ、ざんてつけんが使えない、ときた!!」
「・・・お前らにとっては、喜ばしいことなんじゃないのか?」
「戦いてぇんだよ! 生きるか死ぬかの瀬戸際に立ちてぇんだよ!
強ぇやつを、思いっきりぶった斬るのが好きなんだよおおぉぉ!!」
ゴリラ顔のエルヴァーンが、半泣き顔で絶叫した。
「なんでみんながみんな、不完全燃焼状態なんだよ!!
俺だけがジョッシュ式魔導服≠ネんて大層なもんを着てて、
その状態で相手を斬ったところで、すっきりしねぇだろうがよおおぉぉ!!」
「・・・なるほど・・・よくわかった・・・」
ルナナの目が、鋭く光り輝いた。
「要するに・・・ざんてつけん≠持っていない私など、
余裕で倒せると・・・そう言っているんだな・・・?」
ゆっくりと両腕を持ち上げ、両脚のスタンスを軽く開き、
ルナナは近接戦闘の構えをとった。
その瞬間、人斬りの本能が、危険信号として、
三京の全身にぞわぞわと悪寒を走らせた。
「・・・素手でも・・・そこまでの威圧感を出すのかよ・・・」
三京の悪寒が、歓喜の武者震いに変化していく。
「・・・すまねぇ、さっきの言葉は訂正させてもらう・・・!
見られそうじゃねえか! 生きるか死ぬかの瀬戸際!!」
「・・・お前を楽しませるつもりは、さらさらないんだが・・・
これからお前を死の淵にまで追い込むことは、約束しておこうか。」
ク ラ ヴ ・ マ ガ
徒手近接白兵戦法!!
イスラエルで考案された近接格闘術で、
様々なイスラエル保安部隊に採用されることで洗練され、
現在、世界中の軍・警察関係者や一般市民にも広まっている。
クラヴ・マガは、柔道や空手などのように
規則が確立されているスポーツでなはいため、
競技として大会が行われることは一切ない。
むしろ、実生活で起こりうる状況で、いかに効率的に動けるかに重点を置いている。
また一般的に、習得者にとって不利な状況を常に想定しており、
股間への攻撃、頭突きなど、相手に対して効率的なダメージを
的確に与えることを念頭においている。
また、人間が本能的にもっている条件反射を動きに取り入れており、
いざという時に、身体が自然に護身の動きとして反応するという、
首尾一貫した合理的な考え方が特徴である。
サバットやキックボクシング(蹴り、パンチの技術)、
また柔術やレスリング(身のこなしの技術)などから
取り入れた技法を持っているが、訓練法は独特であり、
自分が不利な状況での護身を重要視している。
実戦を徹底的に意識しており、敵は必ずしも素手ではないため、
ナイフや拳銃などの凶器を保持しているケースも想定して訓練し、
更に敵が一人とも限らないため、複数の相手を想定した訓練も実施している。
わかりやすく簡単に言えば、
素手で戦場に出ても生き残れる、
究極の徒手白兵戦格闘技能である。
「・・・そういやあんた、水晶大戦時代には、
月下の騎士≠フ他に、もうひとつ異名があったな・・・」
徒手近接白兵戦法、クラヴ・マガの構えをとったルナナを見て、
三京は心から納得した。
パーフェクト・タルという、その異名に・・・!!
「・・・月下の騎士≠チていうくらいだから、
月の光の下にいる時のみ限定で、デタラメに強いかと思ってたが・・・
・・・なるほどねぇ、そうじゃなくて、いつどんな時でもデタラメに強いから、
それでパーフェクト・タル≠チていう別名が付けられたんだな・・・!」
「・・・いったい誰が最初にそう呼び始めたのか、私は知らん。
・・・そもそも月下の騎士≠ノしろ、パーフェクト・タル≠ノしろ、
私本人は、それほど気に入っている呼び名ではない。」
「ほほう。 ほんじゃ、どんな呼び名なら、あんたのお気に召すのかねぇ?」
「・・・フッ。 恥ずかしくて、ちょっと人前では言えんな・・・」
彼女が一番気に入っている呼び名・・・
もはや、今さら言うまでもなかった。
タルヤ=クルンヤの妻であり、サララの母親であることを同時に示す、
この世でたったひとつの呼び名・・・
たる屋の女将∴ネ外にない。
「むおおおおおおおっ!!」
突然、三京は雄たけびとともに地面を蹴ると、
ルナナに急接近しつつ、斬ギガス刀≠斜め上から振り下ろしてきた。
「・・・っ!!」
物凄い速度でルナナは前方に踏み込み、右腕を頭上に高く伸ばして、
斬ギガス刀が振り下ろされるよりも早く、三京の右手首をがしりと受け止めた!
「ぬううっ!?」
三京が、驚愕して目を見開いた、その瞬間・・・!!
どっごぉぉん!!
ルナナの左ストレートが、三京のみぞおちに突き刺さった!
「うぐおおおおっ!!!!」
ジョッシュ式魔導服≠フ上から打たれたのに、
当たり前のように三京の身体にダメージが通った!!
徒手近接白兵戦法、クラヴ・マガの最大の特徴、
それは反射による防御体勢を、そのまま攻撃に繋げる≠ニいう、
これ以上無いほどに理想的な合理性である。
振り上げられた刀で斬りつけられようとした際、
人間ならば誰しも、咄嗟に腕を持ち上げ、頭部を護ろうとする。
普通ならば、そのまま刀で腕ごと頭部を斬られてしまうのがオチであるが・・・
クラヴ・マガを身に付けると、
先ほどルナナが見せた一連の動きが、
反射的に出来てしまうのである。
三京が振り下ろそうとしていた刀を、
それが振り下ろされる前に瞬時に前方に踏み込み、
腕を受け止めると同時に、空いている方の手で、
腹部へのストレートによる反撃まで行う。
敵の攻撃を認識し、危ない!と考えた瞬間に、
自動的にそこまでの行動をやってしまうのだ。
ルナナさんの頭を叩くふりをして、
「あー、頭がかゆいなあ^^」なんていう冗談なんか、
絶対にしてはいけない。
あー、頭がかゆ・・・ のところくらいで、
恐らくはパンチで腹に穴が開けられるであろう。
余談だが、水晶大戦終結直後の若い頃のタルヤは、
ふざけてそれをやってしまい、三日三晩寝込んだことがあるらしい。
バケモノ夫婦の初々しい新婚時代の話はさておき、
腹部を思いっきり強打され、苦悶の声を吐き出す三京。
「ぐ・・・ぐおおおおっ・・・! バ、バカな・・・!
この魔導服の防御力を、素手で貫通するだとぉ・・・!」
「・・・フッ。 なかなか上手く複製したようだが、
しょせんは紛い物の魔導服≠セな。
オリジナルの魔導服であるボーヤの白衣は、
私の全力のギャラクティカ・マグナムにも耐えたぞ。」
(※第11話 参照)
なお、あの時ゴルトに照れながら放ったギャラクティカ・マグナムも、
実はクラヴ・マガの反射的攻撃だったのである。
「・・・さて・・・約束どおり、お前を死の淵まで追い込むとしようか・・・!」
腹を押さえ、頭部を低く下げている三京に向かって、
ルナナは大きく右手を振りかぶり、全身をひねりつつ跳躍した。
「・・・30回転ビンタで・・・終わりだ・・・!!」
頬を張られた相手が、その場で30回転もしてしまうという、
もはやギャグマンガのような威力の、ルナナ必殺の張り手である。
ごおおおおおっ!!
絶対にビンタを放っているとは誰も思わないであろう、
尋常ではない効果音とともに、ルナナのビンタが繰り出される!!
・・・だが!!
にいっ、と口の端を吊り上げる三京!
「・・・かかったな・・・!!」
ぶおん!と、水平に振るわれた30回転ビンタ≠フ下を潜り抜け、
三京は空中にいるルナナに対し、左のアッパーカットを放った!!
「・・・!!」
腹を押さえて苦しんでいたのは、三京の演技!!
こちらが大きな攻撃を繰り出すのを、誘い出すための罠!!
・・・と、ルナナがそう悟った時には・・・
すでに彼女の肉体は、自動的に次の行動を開始していた。
三京の放ったアッパーカットの、左拳そのものを強く踏みつけ、
それを足場に、ルナナはその場から更に高く空中へと舞い上がった!!
「ぬわにぃ!? 俺のパンチを踏み台にしたぁ!?」
黒い三連星のあいつのごとく、目を丸くして驚愕する三京。
ガイアかオルテガかマッシュか、誰が言ったのかは忘れた。
そんなことはともかく、ひゅーーーん!と、天高く舞い上がったルナナは、
空中でくるくると身体をひねり、月面宙返り(ムーンサルト)を行った後、
流星のごとき速度で、急降下しながらキックを繰り出した!!
「ルナナ・ムーンライト・キーーーック!!」
前の時(第7話)もそうだったが、なぜかこの技を出す時だけは、
大きな声で技名を叫ぶルナナさん。
理由は不明だが、恐らくはそれも、
クラヴ・マガの反射的攻撃の一環なのであろう。
「ちいっ! なんて動きしやがる! デタラメすぎるぜ!!」
慌てて斬ギガス刀を持ち上げ、刀身の横っ腹を盾代わりにし、
ルナナ・ムーンライト・キックを辛うじて防御する三京。
どっがぁぁぁぁん!!
ものすごい衝撃音と共に、三京のゴリラのごとき巨体が、
ずざざざざっ!と地面を削りつつ後方に押されていく。
「く、くそったれぇ! なんとか折れずに頑張ってくれよ、斬ギガス刀=I」
日本刀10枚重ねの斬ギガス刀≠折ってしまいかねないほどの、
とんでもない威力のルナナ・ムーンライト・キック=E・・!
これを咄嗟の防衛本能だけで繰り出してしまうという、
ルナナさんのヤバさがおわかりいただけるだろうか。
・・・ここまでの、ほんの数分足らずのルナナとの戦闘で、
三京は気づいてしまった。
防衛本能を、そのまま攻撃に転化させる、この脅威の戦法・・・
これはまさしく、
五京が得意とする無意識の反撃≠フ、
完全上位互換バージョンではないか。
五京の場合は、あくまでも天性の反射神経と身体のバネを活かし、
その時の状況によって、アドリブで反撃を繰り出すというものであるが、
ルナナの場合は、クラヴ・マガの鍛錬によって、
咄嗟に繰り出す反撃の精度、威力を、格段に上昇させているのである。
「・・・ほう、良くぞルナナ・ムーンライト・キックを防御できたものだ。
さすが来地に師事していただけのことはある、と言うべきか・・・
それともジョッシュ式魔導服≠ニやらの性能に助けられただけか・・・」
ルナナ・ムーンライト・キックを放っていた態勢から、
斬ギガス刀≠軽く蹴り、くるりと後方に宙返りして、
三京から少し距離を取った位置に着地するルナナ。
「伊達に五側近≠ネどと名乗っているワケではなさそうだな。
キョウノスケなどに出会わなければ、あるいは名のある武人になれたものを・・・」
「・・・つ・・・」
三京のゴリラ顔が、歓喜一色に染まった。
「・・・つえぇ・・・!! マジ、つえぇ!!」
自分だけジョッシュ式魔導服≠着ていることが、
こちらだけに有利なハンデになるどころか、
それがあるからこそ、何とか倒れずに済んでいる、というレベルの強さである。
徒手近接白兵戦法(クラヴ・マガ)だけでもこれほどの強さなのに、
この上に、もしルナナがOTZ(オーバー・テクノロジー・ジラート)の剣、
ざんてつけん≠装備してしまったとしたら、
一体どれほどの戦闘力になってしまうというのか。
「・・・今日は・・・」
斬ギガス刀≠ずしりと肩に担ぎ上げ、
三京は押し寄せる歓喜に身を震わせつつ、言った。
「・・・今日は・・・死んだっていい・・・!!
あんたを斬れるなら、俺ぁ相打ちで同時に死んだって構わねぇ・・・!!」
「断る。 お前などと、命運を共にはせん。」
当たり前のように、ルナナは即答した。
「私が命運を共にすると誓った男は、
この世にたった1人だけだ。」
今度は照れることなく、ルナナははっきりと言い切った。
・・・やや離れた場所で、オクスケと戦っている最中のちっちゃいおっさんが、
へっきし!と大きなくしゃみをした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・・・クリスタル・テレビジョンの視聴者たちは、確信した。
現在、総力戦の主導権を握っているのは、
間違いなくバス学の方である、と。
たる屋夫婦の参戦をきっかけに、流れは完全に変わった。
ヤグオさんを翻弄する、ボルタのスピード、パワー、魔法の猛攻。
オクスケを殴りまくる、車田正美風バトルのタルヤ。
三京を手玉に取る、リアルなのかファンタジーなのかわからないルナナさん。
ずっと亀平と遊んでいる、猪木顔のコルモル。
アリあげクンと一進一退の攻防を繰り広げているメイドリアン。
ひたすら遅延行為に徹し、一京を足止めし続けているジェニー。
泣き叫び合うおばちゃんとパトリシアに、ただただ圧倒されているゴルト。
疲労困憊になりつつも、歯を食いしばって無京を倒し続ける1−Bの生徒たち。
ずーーーーーーーーーっと舌を出して気絶しているヘビメタ。
・・・なんかふざけてるようにしか見えないヤツもちらほらいるが・・・
何よりも、五側近の1人、五京を撃破し、
フリーとなったマリ先生の存在が一番大きい。
「・・・さて・・・と・・・」
グラウンドを大きく見渡し、戦況を把握するマリ先生。
「・・・この状況・・・まず最初にやるべきことは・・・」
マリ先生は、自分のクラスである1−Bの生徒たちの様子を、
しばらくの間、黙って観察した後・・・
「・・・あなたたち・・・もう少しだけ、自分たちだけでがんばってちょうだい・・・!」
てっきり生徒たちを助太刀しに行くと思われたマリ先生は、
彼らが戦っている朝礼台の付近とは、まったく違う方へと歩き出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・ふん・・・来るか、女教師。」
苦虫を噛み潰したような表情で、キョウノスケは舌打ちした。
「・・・よかろう。 ガラではないが、五京の仇討ちでもしてやるか・・・」
ばさっ! とマントを翻し・・・
キョウノスケ=アオイは、
その場から大きく一歩、前に出た。
「・・・女教師よ。 このワガハイの手を煩わせる代償、高くつくぞ・・・!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
だっ! と地面を蹴り、マリ先生は走り出す。
100mを10秒台で駆け抜けるほどの、
なんで学校の先生をやってるかわからない身体能力を持つ彼女は、
あっという間に目的の場所に到達する。
・・・現状において、マリ先生が最優先した行動とは・・・
敵の頭、キョウノスケを倒し、
一気に勝利を目指すこと!!
・・・ではなかった!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ばぎっ! どがっ! ぼごっ! どががががっ!
その場所の周辺にいた、およそ10体ほどの無京たちを、
2〜3秒であっという間に殲滅するマリ先生。
「・・・ずっとしゃがんでるけど、いったいどうしたのよ?」
無京の残骸が、ばらばらと散らばるのを眺めながら、
マリ先生はそこにいた人物に問いかけた。
「常に微笑を浮かべ、なんでもそつなくこなしていく、
あんたらしくないわよルル^^」
「・・・私だって、たまにはヘマくらいするわ^^」
しゃがんでいるルル先生に、手の平を差し出すマリ先生。
その手を掴み、ゆっくりと立ち上がるルル先生。
「・・・その足、なんで治療しないのよ?」
「一京さんの反則技よ。 ブラッド・ウェポンの弾丸が、
足の中でずっと回転し続けて、治療魔法が効かないのよ。」
「なるほど。 それでずっとこの場所から動けなかったのね。
・・・だけど、悪いけどルル、今からちょっと無理してもらうわよ。」
「わかってるわ。 あなたが来てくれたなら、多分大丈夫よ。」
「・・・その言い方だと、ひょっとして同じこと考えてた?」
「当たり前じゃないの^^ マリが思いつくことなんて、
私は1時間くらい前に、とっくに思いついてるっての^^」
「・・・足撃ちぬかれてるってのに、相変わらず口の減らない子だわ。」
ルル先生の手を握り、立ち上がらせたマリ先生は、
もう一度戦場全体を大きく見渡し、位置関係を確認する。
「・・・ミケ先輩、探偵タルさん、風水士タルちゃん。
ルル、レイズ3回よ。 いけるわね?」
「ここでやらなきゃ、保健医がすたる!ってものよ。」
・・・この状況における、マリ先生の最優先行動。
バス学側に傾いている流れを、完全に固定し、
もう二度と相手に渡さないこと!
少しでも気を抜くと、無京が大量に襲い掛かってくるこの状況。
襲い掛かってくる無京たちから、自身の身を護りつつ、
詠唱時間が極端に長い蘇生魔法レイズを唱えることが出来るのは、
自動魔法砲台八咫鏡≠持つルル先生以外にいない・・・!
「レイズ3回分、MPは大丈夫?」
「問題ないわ。 レメゲトン≠ェ常に私のMPを補充してくれてる。
魔法力補充魔法リフレシュの、およそ5倍の効果ってところかしら。」
「その魔導書も、結構チートなのね。」
さっそく、次々と襲い掛かってきた無京たちを片付けながら、
マリ先生はルル先生を、まずは一番近くのポロロちゃんの元へと
護送し始めるのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あ・・・・・・」
てっきりマリ先生が自分を狙ってくるものとばかり思っていたキョウノスケは、
ルル先生と共に移動し始めたマリ先生を見て、
彼女たちが何をやろうとしているのか、すぐに気づいた。
彼女らの最優先目標は、倒れた仲間の戦線復帰・・・!!
せっかく宗匠自ら戦おうと決意して、
かっこよくマントを翻して一歩前進したのに、
マリ先生、張り切るじじいを華麗にスルー!
・・・そのこと自体も、キョウノスケにとってはすごく恥ずかしいのであるが・・・
そんなことよりも、せっかく苦労して倒した
ポロロちゃん、ミケ先生、ハヤカ=ケンカが、
ルル先生のレイズで戦線復帰してしまうと、
京一門は致命的な窮地に立たされる!
「・・・ら・・・」
・・・キョウノスケは、静かに呟いた。
「・・・らめぇ・・・」
プロジェクトB=A失敗っっ!!
京一門、バス学に敗北し、全員GMに逮捕!!
狂気の集団、学園での凶行、未遂に終わる!!
神(笑)になろうとした老人、獄中へ!!
さまざまな翌朝の新聞の見出しが、キョウノスケの脳裏を駆け巡る!
逮捕され、GMに連行されていく門弟たちが、
キョウノスケを口々に責め立ててくる様子が、
なんかもう、いとも容易く想像できる!!
「違うんだ! 聞いてくれ! 私はあのじじいに利用されていただけなんだ!」
民衆の同情を惹き、情状酌量を狙う一京。
「てめぇ! SS(写真)撮るんじゃねえ! 写すなっつってんだろ、ゴラァ!」
いかにも凶悪犯罪者っぽく連行されていく三京。
「あらやだ! おばちゃんは何も悪くないよ! あのじいさんが全部悪いんだよ!」
ツバを吐き散らしながらキョウノスケを指差す四京。
「自分は何も聞かされてなかったっス! 自分は何も知らないっス!」
とにかく知らぬ存ぜぬ≠ナ切り抜けようとする直京。
「あんちゃん^^ お待たせ^^ 完成したよ^^」
懐に入れたリンクパールから響く、キョーマルの声。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
えっ? 今、誰か何か言わなかった?
泣きながら、自分が逮捕される妄想を繰り広げていたキョウノスケは、
その妄想の途中、確かに誰かの声を聞いたような気がした。
「・・・あんちゃん! あんちゃんてば! どうしたのさ!
ひょっとして、会話ができないほど敗北寸前なの?」
懐の中に入れているリンクパールから、キョーマルが呼びかけていた。
「んもー、返答できないなら勝手に喋るからね、あんちゃん!
とりあえず完成したよ、最後の改獣^^」
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
完成したよ、最後の改獣^^
「よくやったキョーマルぃjんfkす
くぁw背drftgyふじこlp;@:
:@;pぉきじゅhygtgtfrsvsぁq
亜zsxdcfvgbhんjmk、l。ふdr
るああああああああああああああ
あああああああああああああああ
あああああああああああああああ
あああああああああああああ!!」
ヘビメタをも凌駕するほどの、
天才的な顔芸を持つ逸材が、
今ここに存在していた。
作者の中のキョウノスケお気に入り度が、
ヘビメタと並んだ瞬間である。
「キョーマルぅぅぅぅぅああああああああっ!!!!!!
出っ来たんだな!? 出っ来たんだな!? はてはて ほほーん!!」
「お、あんちゃん^^ ようやく返事が来た^^
でも、本当にあんちゃんか? 本物のあんちゃんなら、ボクの質問に・・・」
「そげなことしよる場合じゃないんたい!!
完成したんかどうか、はよ言わんね!!」
「な、なんか、よっぽど危ないところだったみたいだね、あんちゃん;
ボク、作業に没頭してたから、クリスタルの放送は見てないんだよね^^
だからそっちの状況、全然把握してないんだよ^^」
「たいがいにしとけよキサン!!
完成したんかどうか、聞きよろうもん!!」
「んもう、九州弁でどならないでよね;
はいはい、ついさっき完成しましたよぉ、いつでも送れるよ、宗匠さま。」
「送んない! あんたそれ、今すぐ送んない!」
「なんでそんなに九州弁がうまいんだよ、あんちゃん;
まあいいや、ボクもぶっ通しの徹夜作業で疲れてるし、
すぐにでも寝たいから、とっととBC転送するね^^」
「ありがとね! キョーちゃん、ホントにありがとね!」
「・・・ただ、ひとつだけ忠告しとくよ、あんちゃん。」
「むむ? な、なんだキョーマル、珍しく真剣な声を出して・・・」
「・・・この最後の改獣≠ヘね、一度呼び出したが最後、
敵を皆殺しにするまで、ただひたすら暴れ続けるから、
途中で攻撃をストップさせるなんてことは出来ないよ。
何せ対ブラック・レイン用≠ニして開発したヤツだから、
今までの改獣みたいに、従順には作ってないからね。
起動したら、ただただシンプルに、敵勢力の全滅のみを目指すよ。」
「・・・ふん、なるほど。 余計なプログラミングを捨て、破壊活動のみに徹底。
そうでなければ、対ブラック・レイン用とは言えまいな。」
「・・・ま、そういうワケだから、歴史に残る青少年殺害犯になる覚悟はしててね^^
起動した後であの生徒カワイイから殺したくないな≠ニか思っても、
もう手遅れだからね^^ 覚悟して使ってよ、あんちゃん^^」
「・・・承知した。 最後の改獣=Aただちに送れ、キョーマル。
すでに総力戦状態、今さら温存を考える必要はない。」
「あいよ^^ ほんじゃ転送完了したら、ボクは寝るからね^^
あ、そうそう、最後の改獣≠フ名前とか戦法とかの基本データは、
事前に送っておいた完成予想設計図のまんま、変更してないからね^^
んじゃ、おやすみー^^」
キョーマルとのリンクパール通信を終えたキョウノスケは、
パールを懐の内ポッケにねじ込むと、静かに目を伏せた。
「・・・あの設計図通りの改獣≠、本当に完成させるとはな・・・
やはりキョーマルは、ゴルト=エイトやコル=モルよりも、
遥かに上を行っている、完全な狂人だわい・・・!」
キョウノスケは、くわっ!と両目を見開き、叫んだ。
「・・・だが・・・これで決まった・・・!!
今度こそ、ワガハイらの勝ちだ・・・!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
突如グラウンドの中央付近に、
巨大なバーニング・サークルが出現し、
まるで燃え盛る炎のごとき、
真っ赤な閃光を放った!!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォ!!
巨大BCの発動が、周囲の空気をも振動させる!!
「うおおおっ!? な、なんだぁ!?」
久々に喋る気がする、主人公ゴルト=エイト!!
「や、やたらでかいBCが起動してるぞ!?
まさかあいつら、残った無京を全部一気に出すつもりか!?
それとも、裏返し空間≠ナも作って何かやるつもりか!?」
・・・くっ! き、気をつけろ、兄ちゃん!
いつもクールなバケツの取っ手の融合アイマの声が、
珍しくうわずっている。
・・・あのBCから、すごいのが出てくる!
間違いなく、あれは敵の切り札だ・・・!
「切り札だぁ!? あ、新手の改獣を出すつもりなのかっ!?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方、ポロロちゃんを復帰させるために、
ポロロちゃんのすぐそばまでやってきていたマリ先生とルル先生。
ポロロちゃんが倒れている状態のまま、
立体魔法陣コルア≠フ風水の力が暴走し続けているので、
ルル先生は魔法陣にあまり近づかないようにしつつ、
レイズが届くギリギリの位置から唱える準備をしていた。
今まさに詠唱を終え、レイズを唱えようとしていたところに、
グラウンド中央の超巨大BCの発動、である。
「ちょ・・・!? な、なによ、あのでっかいBCは!?
あいつら、何をやるつもりなの!?」
「・・・マリ! 今はそれよりも、無京にレイズを邪魔されないように注意して!
とにかく風水先生にレイズをかけることが最優先よ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
キョウノスケがいる場所の、反対側のグラウンドの端っこ、バス学の本陣。
三京の足止めによって体力を消耗したスティー理事を抱きかかえ、
フェルツマン学園長が、ようやく本陣≠ノ戻ってきた矢先であった。
「お、おおお・・・あ、あの巨大なBCは・・・!」
「・・・バス学側に傾いた流れを、何が何でも取り戻すつもりのようですね・・・
フェルツマン先生、サトウ先生、何が出てくるかわかりませんので、ご注意を・・・」
「な、何が出てこようとも、スティー理事の身は我々が護りますぞ!
サトウ教頭! 覚悟は出来ていますな!?」
「は、はいぃ! ワタクシの細い身体、なんとか盾にしてみますぅ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・ほう・・・ありゃまたでかいBCだのう。
・・・さて、今度は何を見せてくれるんじゃろうな?」
真ん丸いアゴに手をあて、ニヤリと笑うコルモル先生。
「・・・おお・・・な、なんだ、この感覚は・・・」
ぶるぶるぶる・・・と、改獣・亀平が全身を震わせる。
「・・・この感覚は・・・いったいなんなんだ・・・?
・・・心が・・・わしの心が、震えるぞ・・・ばかもん・・・!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
巨大BCの転送機能が発動し、
最後の改獣≠、その場に出現させた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・・・そこに現れたのは、地獄絵図・・・
・・・バス学側の誰もが、自分の目を疑った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・バス学の諸君。 ・・・最後の改獣を紹介しよう。」
キョウノスケが、静かに呟く。
「・・・5体目の改獣≠ナはなく、最後の改獣=E・・
その意味がわかるか?
簡単だ! こやつを出した以上、その先の改獣は、もう必要無いからである!!」
ばさっ!とマントを翻し、キョウノスケは絶叫した。
サ ウ ザ ン ド A
「千体にして、一つの固体・・・!
最後の怪獣、その名も、
サウザンド・A(エー)である!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
全身に無数の目を持つ、
スライム系モンスター、ヘクトアイズ族。
最後の改獣≠ヘ、そのヘクトアイズをベースにしたものであった。
超巨大ヘクトアイズ!!
その名も・・・!!
「サウザンド・A(エー)で
ございまーーーーす!!」
ごぷっ・・・ ごぷっ・・・
どぽっ・・・ どぽっ・・・
不気味な音を立て、スライム状の表面が、
まるで煮込まれているかのごとく泡立っている
死体ひとつと、獣人一体を組み合わせて生み出すのが改獣≠ナある
だが、スライム系モンスターヘクトアイズ≠利用することにより、
複数の死体を、同一固体に取り込むことに成功した改獣=E・・
これがキョーマルの導き出した、
最後の改獣≠フ答えであった!!
思わず、ゴルトは呟いた。
「・・・気が・・・狂っとる・・・!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「サウザンド・Aは、表面上の無数の人間の口から、
それぞれ別の魔法属性の光線を発射することが出来る!!」
ヒーローのようなポーズを取りながら、キョウノスケは叫び続ける。
「それに加え! それぞれの人間の両目から、
一斉に銃弾を発射することも出来る!」
ぶぉん!と拳を天高く突き上げ、決め≠フポーズをとるキョウノスケ。
「魔法攻撃と、物理攻撃を、それぞれの人間の顔が、
目と口から一斉に放つことが出来るのである!!
タルヤ=クルンヤのバリアは、物理か魔法、
そのどちらか一方しか防ぐことはできない!
このサウザンド・Aならば、白夜の黒い雨に勝てるのだぁぁ!!」
キョウノスケの絶叫に連動し、サウザンド・A≠フ表面上の顔たちが、
それぞれ一斉に、何か喋り出した。
「サウザンド・Aでございまーす!」
「お父さん、サラダもありますよ。」
「そりゃないよ、ぼくが何したってのさ、ねえさん!」
「ママー! 絵本読んでくださーい^^」
「い゛〜そ〜の゛〜くぅ〜ん!!」
「な、波野くん、締め切りはまだじゃ・・・」
「いけません、イクラ!」
「お兄ちゃんのいじわる! きらい!」
「ニャー?」
「いそのー、野球しようぜ!」
・・・地獄絵図である。
そして次の瞬間!!
サウザンド・A≠フ無数の人間たちの顔は、
それぞれの口と両目から、
魔法と銃弾の雨あられを、一斉に発射し始めた!
「サウザンド・Aさんは、京一門と、
御覧のスポンサーの提供でお送り致しまーす!」
ズダダダダダダダダ!! ばばばばばばばば!!
ドドドドドドドドドド!! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
ビビビビビーーーー!! ビビビビビビーーー!!
だぁん! だぁん! だぁん! だぁん!
ゴガアアァァァァァ!! ズゴゴゴゴゴォォォ!!
ビキューン! ビキューン! ビキューン!
絶望的≠ニ言う以外に、
表現のしようのない光景だった。
どう倒せばいいのか∞どう戦えばいいのか≠ニいう以前に、
いったい何が起きているんだ≠ニいう状態なのである。
「ワガハイの勝ちじゃああああああああああ!!!」
感動にむせび泣くキョウノスケ!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・どうやら・・・私の足止めは、無駄な行為だったようだな・・・似京・・・」
目の前にいる実の妹に対し、無情に吐き捨てる一京。
「お前たちはこの先、もう何も出来ん。
生徒も教師も、そしてお前も、このまま皆殺しだ。
京一門の底力、知らぬワケではなかったろうに。」
「・・・さぁて・・・どうですやろなあ・・・」
額に汗を浮かべつつも、必死に言い返すジェニー。
「勝負は水物・・・まだまだこの先、どう転ぶかわかりまへんえ・・・」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・おお・・・女神よ・・・」
がくがくと全身を震わせるセージ。
「・・・あんなの・・・もう・・・無理アルよ・・・」
がくりと両肩を落とすイーリン。
「ど・・・どうしろって言うんだよ・・・あんなの;」
額に汗を浮かべるシーツ委員長。
「・・・お・・・おれは・・・勇者! おれ、怯えない!」
ぐっ!とGEトマホークを強く握り締めるオウルアイ。
「・・・突然の台風で・・・畑も田んぼも、全部ダメにされた気分だっぺ;」
固く目を閉じるノーミ。
「・・・シシシ・・・あの改獣・・・最高のデザイン・・・」
ニヤリと笑うネクロ。
「・・・敵、最大級戦術兵器・・・攻略、不可能であります・・・!」
力なくライフルの銃口を降ろすミリィ。
「あれはいくらなんでも、ヤマトダマシイでどうこうできる相手じゃナイデース!」
ぎりっ!と歯軋りするサム。
「わしゃやったるどおお! 絶対負けんどぉぉぉ!!」
本気でドスとチャカだけでサウザンド・Aと戦おうとしているバクト。
「・・・シュコー・・・シュコー・・・」
呼吸音を放ちつつ、静かに目を伏せるマミーラ。
「・・・だ、大丈夫なのです! パパもママもいるから、だ、大丈夫なのです!」
必死に虚勢を張るサララちゃん。
「・・・こりゃまさしく、クライマックスってやつだわ。 こっちの負けパターンだけど。」
苦笑しつつ、肩をすくめるライアスタット。
「・・・オレは・・・言ったんだ・・・!」
ぎりっ!と歯を食いしばるリア。
「たませんに・・・この朝礼台を護るって・・・
オレは約束したんだ!!」
恐怖に震える両腕で、リアはアクスを握り締める。
さすがのリアも、もはやカラ元気を出すのが精一杯であった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「自軍 勝率予測 99%」
メイドリアンに矢を放ちつつ、アリあげクンが無機質な声で言った。
「自軍 勝率予測・・・」
直後に、メイドリアンも言った。
「・・・自軍 勝利に 1%の 可能性あり 」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・ひい・・・ふう・・・みい・・・
顔がたくさんありすぎて、どれから殴ってやるべきか迷うわね。」
ごきっ、ごきっ、と拳を鳴らしつつ、マリ先生は遠巻きに、
魔法や銃弾を放ちまくっているサウザンド・Aを眺める。
「・・・だめか・・・! やはり今の状態の風水先生には、
レイズは適用されない・・・!」
固く目をつむり、下唇を噛み締めるルル先生。
「・・・このままあのバケモノを放置していたら、
生徒たちはみんな、その風水タルちゃんみたいに地面に転がされるわ。
・・・ルル、やるわよ。 あのバケモンと戦う。
今フリーな状態なのは、私たちだけよ。」
「・・・そうね。 無抵抗で殺されてやるワケにはいかないわ。」
「違うでしょ。 あいつをぶっ倒すのよ! みんなを守るために・・・!」
「・・・了解。 付き合うわ、マリ・・・!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ずずっ・・・ ずずっ・・・
巨大ヘクトアイズ改獣、サウザンド・Aが、
魔法と銃弾をバラ撒きながら、
標的を射程範囲に捉えるために、
ゆっくりとその場から移動を開始した。
ずずっ・・・ ずずっ・・・
地面に置いた巨大な砂袋を引きずっているかのような音が、周囲に響く。
その光景をクリスタル・テレビジョンで見ている視聴者たちは、
ほぼ全員、同じ感想を抱いた。
これはもう、京一門の勝ち確定だ、と。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・・・だが、終わらない。
視聴者の誰もが、すでに勝敗が決したことを確信しており、
当事者であるバス学勢の、その大半の心が折れていたとしても・・・
それでもバス学は、まだ終わらない!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
遠く海を隔てた地、ひんがしの国こと大東方帝国=E・・
その異国の、とある山奥の地方にて、
現在まで言い伝えられる、ひとつの古い伝説・・・
・・・墓を荒らし・・・
・・・死者の眠りを妨げて・・・
・・・尊き魂を冒涜する者よ・・・
くまがみ
汝に 熊神の 天罰あろう
to be continued.....!!