「ふふん、おかしなことになったもんじゃ。
元はといえば、コケ子が強すぎたせいで、
6年ファイア組に代わって5年ファイア組が
ダンジョン実習に行ったというのに、
話は急展開、今度は当の本人のコケ子1人を
ダンジョンに向かわせることになるとはのう。」
「・・・単なる私の予感にすぎませんが、例のダンジョンの内部にいる、謎の人物・・・」
ムーンシャドー教頭は、静かな口調で校長に返答する。
「あるいは・・・私がずっと追い続けている、あの男≠ゥもしれません。
万が一そうであった場合の事を考えた上で、
ここは牙乱堂さんに助っ人≠お願いしようと判断いたしました。」
「あんたほどの魔導士が放つ魔法が、何一つ通用しなかったという男・・・じゃな。
そんなのがいるかもしれんダンジョンに、生徒を誰か1人向かわせるとするなら、
そらまあ誰が考えても、コケ子しかおらんわな。」
「・・・奇妙なことですが・・・
あの男≠ヘ、将来強くなって自分に立ち向かってきそうな素質を持つ者、
そういう者こそ、決して殺そうとはせず、その成長を静観する・・・
そんな性質があるように思われるのです。」
「ふん・・・わからんのう。 その男、いったい何が目的なのやら・・・」
単身でダンジョンに向かうため、現在その用意をしている牙乱堂コケ子。
そのコケ子の出発準備が完了するのを、
校長室で待っている、コルモル校長とムーンシャドー教頭。
「・・・ところで、コケ子には何と説明したんじゃ? やけに遅いが・・・」
「フフ・・・遠慮せず、思いっきり楽しんできなさい≠ニだけ伝えたのですが・・・」
「・・・おい。 なんでまた、そんな伝え方をしたんじゃ・・・」
どや顔のムーンシャドー教頭をじろりとにらみ、
コルモル校長はため息をついて頭を抱える。
「・・・あいつにそんな事を言って、ちゃんと伝わるはずがなかろう!」
その瞬間、校長室の扉が、おもむろにがちゃっ!と開かれた。
「・・・はい、コケ子。
そうじゃないから、もっかい着替えてこい。
今度は戦闘の準備≠してこいよ。」
コルモル校長は、校長室に入ってきたコケ子が、
どんな格好をしているか確認もせずに、
きっぱりとそう言い切った。
「・・・もう10月だから、おかしいと思った。」
コケ子は残念そうな顔で、てくてくと校長室から出ていった。
「・・・も、申し訳ありません; 今日はダンジョン実習の決行日ですから、
当然その事だと、普通に通じると思ったのですが;」
「・・・なにせ、夏休みに神社の賽銭箱の金を拾い集めていたようなヤツじゃからな・・・
普通の人間とは思考回路がまったく違うんじゃ、あいつは・・・」
校長と教頭は、まったく同時に、 はぁ・・・ と大きくため息をついた。
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大長編 みったんと魔法のてっぽう
「みったんのダンジョン実習」
後 編
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「ダンジョン内部の敵の殲滅(せんめつ)と、
5年ファイア組の生徒たちの救助!!
あなたにやってもらいたいのは、その2つです!
ダンジョンの場所は、地図のここ!
ほんで、このアイテムは呪符エスケプ=I
使い方は、握り締めてもうダメぽ≠ニ言うだけ!」
反省したムーンシャドー教頭は、普段着に着替えてきたコケ子に対し、
コケ子を呼び出した理由を、ていねいに、5回くらい繰り返し説明した。
「・・・なるほど。 コケ子は理解した。」
「では、任務の内容を復唱しなさい、牙乱堂さん。」
「つまりコケ子は、洞窟に行って、天空の剣とかを探してくればいいんだな?」
「・・・も、もうそれでいいから、その洞窟にいる敵を全部倒して、
この学校で見たことある生徒がいたら、その子たちを全員連れて帰ってきなさい!」
「わかった。」
「・・・ところで、あなた武器を持ってませんが、なぜ用意していないのですか?」
「中庭に置いてある、スコップとかを持っていくから、いい。」
「武器は私が用意するから、それを持っていきなさい!!」
ムーンシャドー教頭は、
類人猿並みの知性≠フ恐ろしさを、
自らの身をもって痛感した。
「・・・ところで、まだ学校終わってないが、コケ子は校門の外に出てもいいのか?」
「ええ、これも授業の一部ですので、欠席や早退扱いにはなりません。」
「そうか。 では、さっそく行くとしよう。」
「いいえ、少し待ちなさい、牙乱堂さん。
ダンジョンに向かう前に、あなたには食事≠とってもらいます。」
「ん? まだ11時なのに、もう給食を食べていいのか?」
「学校の給食ではありません。 本職の冒険者が、強敵との戦闘の前に食べる、
様々なステータスを大幅に上昇させる効果を持つ、極めて高価な食事≠ナす。」
「ほう、高いごはんを食べられるのか。 コケ子、うれしい。」
「単身でダンジョンに挑んでもらうあなたへの、ちょっとした配慮です。
依頼した料理人≠ェ、そろそろここに到着するはずです。」
「・・・と、ウワサをすれば、ナイスタイミングで来たようじゃぞ^^」
窓から外を見ていたコルモル校長が、
校門の方からゆっくりと歩いてきた男を指差して、にっこり微笑んだ。
ザ・シェフ
「ほれ、人呼んで幻の料理人≠フお出ましじゃ^^」
ざっ ざっ ざっ・・・
周囲に足音を響かせ、まっすぐに運動場を歩く黒ずくめの男は、
校長室の窓から顔を出しているコルモル校長を見つけると、
ペコリと一礼し、足早に窓のそばまでやってきた。
「いよう、味沢^^ 急に出張料理の依頼をしてすまんな^^ ご苦労さん^^」
「・・・校長先生も教頭先生も、私の店の常連さんですからな。
あなた方のご要望とあれば、参上せざるを得ませんよ。」
「幻の料理人、味沢匠(あじさわたくみ)さん。 さっそく依頼の内容を。
本日あなたをお呼びしたのは、他でもありません。
これから1人の女生徒に、単独でダンジョンへと向かってもらい、
現在そのダンジョンにいる下級生たちを救助してもらおうと・・・」
「誰が何をするかは、私には関係の無い話ですな。」
ムーンシャドー教頭の言葉を途中でさえぎり、
きょろきょろと周囲を見渡す、ザ・シェフこと味沢匠。
「私が聞きたいことは、ただひとつ。 調理場はどこですかな?」
「カッカッカ^^ 相変わらず無愛想な男じゃ^^
ま、こっちにしても、あまりのんびりしとる余裕もないしな。
ムーンシャドー教頭よ、すぐに味沢を家庭科室に案内せい^^
コケ子もついて行って、味沢の料理を食べたらすぐに出発せい。」
「では味沢さん、調理場に案内いたします。 牙乱堂さんもおいでなさい。」
「その人がおいしい料理をつくってくれるのか?」
「・・・それが私の仕事だから、作れと言われれば作るがね。
・・・ただ、私の報酬は高いが、子どもに払えるのかね?」
「コケ子は今月のお小遣い、24ギルしか残ってない。」
「なあに、心配いらんぞ味沢、料金は学校の経費で落とすわい^^」
「・・・では校長先生、300万ギルご用意しておいてもらえますかな。
調理が済んだ後、校長室に取りにうかがいますよ。」
「たっけ!!!! まあ、教材費として落とすからいいけども!」
ムーンシャドー教頭に案内され、幻の料理人味沢匠は、
黒いコートをなびかせて、家庭科室へと向かっていった。
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・・・と、学校でコケ子の出撃準備を、入念に整えている一方・・・
ダンジョン内部で、謎のゾンビ集団に取り囲まれている、
みったんたちファイア組の面々は・・・
全員、背中合わせの状態で輪となって、
じりじりと迫ってくるゾンビ集団を、
それぞれの武器でけん制していた。
「わーー! くるな、くるなー!」
「そ、それ以上、この綾小路あやめに近づくことは許しませんわ!」
「そこから一歩でも前に出たら、ナイフで刺すニャ!!」
当然ゾンビたちにそんな言葉が通用するはずもなく、
じわじわ、じわじわと、ゆっくり近づいてくる。
「ウォォォォーーーーン・・・」
「オオオォォォォォ・・・・」
「ウゴオオオオォォォォォ・・・・」
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「・・・コウモリやスケルトン、スライムとは違って、
彼らゾンビは人間≠フ外見をしていますからね。
今までのように、刀で斬ったりナイフで刺したりするのは、
子どもにはやはり抵抗があることでしょうねぇ。」
ダンジョンの最深部、顔からはみだすほどの巨大なメガネの男は、
楽しそうにくすりと笑う。
「ですが・・・最低限、まずはそこをクリアしてもらわないと、
この私を倒せる戦士に成長するなんて、とてもとても・・・」
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ぶんぶんと両手剣を振り回し、ゾンビを近づけないようにしながら、
ユカコが大きな声をあげる。
「ま、まゆみちゃん! これ、どうしよう!? 何か作戦はないの!?」
「い、いや、この状況で作戦って言われても;」
と、ゾンビに向けて弓を構えてはいるが、
やはり人間の姿≠しているモノが相手なので、
どうしても矢を放てず、ためらっているまゆみちゃん。
みなと同じように、杖を振り回してゾンビをけん制しつつ、
自分の背後にいるタンポポちゃんをかばっているみったん。
「ね、ねえ、タンポポちゃん;
ゾンビに噛まれたら、その人もゾンビになっちゃうんだっけ?」
「たしか そうだよー」
こんな状況でも、普段どおりにクリスタル・ビデオ・カメラで
撮影中継を続けているタンポポちゃん。
「あ、あんな見た目のゾンビに、もし噛まれちゃったら、
みったんたち、どんなゾンビになっちゃうのかな!?」
「あれに噛まれたら、みんな いその になっちゃうかもしれないねー」
「ええっ!?」
タンポポちゃんの一言に、目を見開いて驚くみったん。
「う、うそでしょ!? い、いその になっちゃうの!?」
「なるかもしれないよー」
みったんだけでなく、ファイア組全員の背筋が凍りついた。
それは子どもにとって、およそ「最悪」といえる状態・・・
現代に生きる子どもたちは、
いその にだけは、
絶対になりたくないのだ!!
家には一台もパソコン無し!!
それ以前に、恐らくネット回線というものが存在していない!
当然wi-fiなんてあるはずもない!
家族の誰もが、スマホどころか、携帯すら所持していない!
黒電話が一個置いてあるだけ、外部との通信手段はそれのみ!
車も無い! 自転車すらない!
テレビはあるが、いまや映るかどうかもわからない、ブラウン管の旧型!
ブルーレイなんかもってのほか、DVDプレイヤーも無い!
プレステやwii、Xbox等のゲーム機なんか、あるわけない!
3DSやPSvitaはもちろんのこと、エアコンやヒーターも無いのだ!
子ども部屋に置いてあるのは、完全に勉強机のみ!!
冷蔵庫を開けてジュースを飲んだだけで、めちゃくちゃ叱られる!
今日は出前をとる≠ニ言っただけで、子どもたちはバンザイして大喜び!
こんなもん、もはやただの囚人!
地獄!!
子どもにとって、いその≠ヘ地獄そのもの!
「いそのになるくらいなら、いっそ死んだ方がましですわ><」
いその化≠オた自分を想像して、涙を流しながら、
刀をデタラメに振り回すあやめちゃん。
「あやめちゃんの言うとおり、噛まれたら最後だニャ!」
「ネット無しで、部屋に勉強机しかない家なんてアリエナイしィ!」
「一応あの部屋には本棚もあるけど、多分あの本棚には、
昔の偉い人の本≠ンたいなのしか置いてないと思う!
キュリー夫人とか、野口英世とかのやつ!!」
「ウソ!? へ、部屋の中で、ずっとそれ読んでないといけないのかニャ!?」
「あと、なんか天体望遠鏡みたいなのも置いてるけど、
それ使ってるの見たことないよ>< 多分壊れてるんだよ、あれ!」
「いその、ガチでゼッテーアリエネーしィィィ!!」
アカネコもユキちゃんもユカコも、いその化を恐れ、顔を青ざめさせている。
「リ、リウちゃん! シヴァは!? シヴァは出せないの!?」
じわじわと迫り来る、いそのゾンビの群れにおびえながら、
震える声でリウに問いかけるみったん。
だが、リウからの返答は、現状の打開案とはならなかった。
「さ、さっきのホネサムライとのバトルでMPがだいぶ減ってるから、
もうちょっとMPが回復しないと、まだ呼べないよー!」
「そ、そんな; エーテル(MP回復ドリンク)をみんなで飲まずに、
リウちゃんだけに全部飲ませるべきだった><」
頼みの綱である召喚獣、氷の女王シヴァならば、
いそのゾンビの群れを次から次に殺しまくってくれるだろうが、
それが呼べない、となると・・・
さて、このいそのゾンビ≠フ群れを、
何のためらいも無く攻撃し、
普通に殺害できる仲間と言えば・・・
問1
普通の人間の姿をしている敵を、
普通にぶち殺せる仲間を答えよ。
答え( サクラダ ルミコ )
みったんが答えを出した瞬間、ゾンビの群れの先頭にいた、
背広姿のおっさんのゾンビが、ものすごい勢いで飛び掛ってきた!!
「グオオオオオォォォォォォ!!!」
「き、きゃあああああああーーーー><」
思わず頭を抱え込み、その場にへたり込んでしまうみったん。
「オオオオォォォ!! くやしいよォォォォォォ!!!
コルモルにィィィィ!! クビにされたアァァァァァァ!!
腹いせにィィィィィ!! 生徒をいじめてやるゥゥゥゥ!!」
どうも生前は先生だったらしいゾンビが、
そらお前クビになるわ、というようなセリフとともに、
みったんに襲い掛かる!
本来であれば、最後尾にいるはずの白魔導士のみったんが、
真っ先に攻撃されるのは、ファイア組の隊列が崩れている証拠!!
「ル、ルミコぉぉーーー!! みったんを守ってええぇぇ!!」
隊列の先頭に立ち、みったんやタンポポちゃんを自分が守らなければいけないことを、
ようやく思い出したユカコが、後悔の念とともに、大声で叫ぶ!!
ルミコならば、このゾンビたちを平気で殺してくれるはず!!
先ほどみったんが出した答えに、ファイア組の他のメンバーもたどり着いていた!!
だが、しかし!!
「・・・・・・」
ルミコは何もせずに、ぼけーっと突っ立ったまま、
先生ゾンビに襲われるみったんを、
ただぼんやりとながめていた!!
「ルミコぉぉ!! 何してるの、みったんを守ってよぉぉーーっ!!」
「・・・・・・」
ルミコは動かない!!
その理由は、3つ!!
理由1、ルミコもリウと同様に、
ホネサムライとの戦闘でMPを使いすぎていたため、
ゾンビを一撃で倒せる強力な魔法を、すぐには撃てなかった!!
理由2、威力の弱い魔法ならばすぐに撃つことは出来たが、
それを撃ったところで、先生ゾンビを一撃で倒すことは出来ないので、
標的がみったんからルミコに代わるだけで、MPの無駄!
そして、一番重要なのは、理由3!!
ルミコだけは、その人物に気付いていたから!!
ざくざくざくざくざくっ!!
何か、袋をかぶったヘンなのが急に現れて、
先生ゾンビの顔面めがけて手裏剣を投げまくり、
間一髪のところで、みったんを救出した!!
「あっ!!?」
「あ、あれはっ!?」
何か袋をかぶったヘンなの登場に、思わず目を見張るユカコとアカネコ!!
「けっ。 ファッキンな学校が用意した、
ファッキンな実習のクリア寸前に、
ファッキンなゾンビが出てくるとは、
まさにファッキンとしか言いようのない気分だぜ。」
それは、牙乱堂ピヨのすけ、
ドラえもんみたいなヤツに続く、
5年ファイア組の、3人目の男子生徒!!
「・・・俺はファッキンな忍者≠セから、表に出るつもりは無かったんだがな・・・
あんまりファッキンな状況だったもんだから、思わず体が動いて、
ついついファッキンに登場しちまったぜ。」
みったんを始め、ファイア組の女子たちは、笑顔で叫んだ!!
「「「 ま、○野くん! ○野×夫くん!! 」」」
見た目だけでなく、名前もワケわからんヤツであった。
ファイア組の男子に、まともな名前のヤツはいないのである。
なぜなら、男子生徒など、別にどうでもいいから。
だが、見た目も名前もまともではないが、
○野×夫は、何かえらく頼もしく、カッコよかった!!
「・・・よう、ファッキンみったんよ、噛まれてないかい?
他のファッキンクラスメートたちも、ケガはねえかい?
ファッキンゾンビに噛まれたヤツは、誰もいねえな?」
「ま、○野くん、助けてくれてありがとー!!
○野くんも、ダンジョン実習に参加してたんだねー!!」
「へっ、このファッキンダンジョンのファッキンな岩の影に隠れて、
ファッキンコウモリやファッキンホネを、俺も何匹か殺(や)ってたんだぜ。
もちろんあのファッキンなホネサムライにも、俺の手裏剣が何個か刺さってたはずさ。
なんせ俺はファッキンに目立つのが嫌いな、ファッキン忍者だからよ。
影でこっそり仲間に協力するのが、忍者のファッキンなやり方ってヤツさ。」
・・・と言いつつ、頭にかぶった袋の中から、
じゃらじゃらと新たな手裏剣を取り出す○野×夫。
「・・・だがこの状況は、もう影に隠れてこそこそやってる場合じゃねえ。
俺も表に飛び出して、ファッキン仲間とファッキンに協力し合うしかなさそうだ。
・・・見なよ、あのファッキン先生ゾンビをよ。」
「オオオォォォ・・・!! よくもやったなアァァァァァァ!!
9時間かかるくらいの宿題を出してやるゥゥゥゥ!!」
先生ゾンビは、顔面に手裏剣が突き刺さった状態のまま、
普通に歩いて再び近づいてきた!!
「ああっ!? あの先生ゾンビ、まだ死んでないよ!?」
「そういうこと、だぜ。 俺のファッキン手裏剣をちょこっと刺したくらいじゃ、
このファッキンゾンビどもにとどめを刺すにはほど遠い、ってことらしい。」
「ま、○野くんの手裏剣があんなに刺さってるのに、効いてはいませんの!?」
「へっ、ゾンビのお約束・・・ってヤツかねぇ?
やはり脳みそを完全に、ファッキン破壊しねえとダメなようだ。」
「いそのォォォォォ・・・野球ゥゥゥゥゥ・・・しようぜエエェェェェェェェ・・・・!!」
「オオォォォ・・・波野くゥゥゥゥゥん・・・締め切り、一日延ばしてェェェェ・・・」
「いィィィィィィィィィぞォォォォォォのォォォォぐゥゥゥゥゥゥんんんん!!」
「ちわあアアァァァァァァァァァァァァ三河屋アァァァァァァっすゥゥゥゥゥゥ!」
先生ゾンビの後に続き、他のゾンビたちも、
ぞろぞろとファイア組に迫ってくる!!
「・・・ってなワケで、そろそろ決めてくれるとありがてぇんだがな。
俺1人がファッキンにハッスルしても、どうにもならねぇ状況だからよ。」
袋の中でフッ、と笑い、○野×夫は肩をすくめる。
「ファッキンな選択肢は、3つあるぜ!
全員で呪符を握ってもうダメぽ≠ゥ、
全員で噛まれていその化≠キるか、
みんなで力を合わせてこいつらをブチ殺し、
最深部のファッキン宝箱を開けるか!!」
○野×夫にそう言われ、ようやくファイア組は思い出した。
ダンジョンでモンスターと戦う冒険者には、
殺るか殺られるか≠オかないということを!!
「・・・脳を破壊すれば、倒せる・・・か。」
まゆみちゃんの頭のカミナリマークが、キラリと輝く!!
「まずは・・・それが確実かどうか、調べる!!」
まゆみちゃんは、カッ!と目を見開くと、
覚悟を決め、ためらいを捨て、矢を放った!!
標的は、ゾンビの群れの端っこの方にいたので、
他のに比べて狙いやすかった、橋本!!
ちなみに橋本とは、こいつである。
どすっ!!
まゆみちゃんの放った矢は、
橋本の額のド真ん中に、見事に突き刺さった!!
「・・・どうなってんだよォォォ、ひどいよォォ、いそのォォォォ!!」
断末魔の叫び声とともに、
橋本はその場に崩れ落ちた!!
「・・・確認終了。」
頭のカミナリマークが、ジャキーン!と鋭い閃光を放った!!
「脳の破壊で、完全に倒せる!!
○野くんの推測どおりだよ、みんな!」
「・・・クールだぜ・・・ファッキン・パーフェクト・スナイパー!!」
親指を立てた拳を、ぐっ!とまゆみちゃんに突き出す○野!!
「・・・さあみんな! 次に私が言うこと、もう大体わかるよね!!」
「隊列の組みなおし、だよね!!」
「いつもどおり、あたしらが前に出るニャ!!」
まゆみちゃんの号令を受け、ユカコとアカネコが先頭に立つ!!
「・・・ここさえ突破すれば、宝箱にたどり着くはずですわ!」
「キモいから素手で殴りたくないけどォ、ギブアップはもっとイヤだしィ!!」
あやめちゃんとユキちゃんも、覚悟を決める!!
「み、みんな! わたしたちのMPが回復するまで、何とか持ちこたえて!」
「・・・・・・」
リウとルミコがその場にしゃがみこみ、
MPを回復させるヒーリング≠フ体勢をとる!!
「みんなー、がんばれー、アイテムはまだ残ってるよー。」
片手でビデオカメラを回しながら、タンポポちゃんがもう一方の手で、
ポーションなどの回復アイテムをカバンから取り出し、地面に並べていく。
ゾンビの群れと戦う覚悟を決めた、5年ファイア組であるが・・・
その数は膨大であり、ざっと見ただけでも、300体くらいいた。
「・・・ここで・・・使え・・・たら・・・!」
ぎりっ!と歯を食いしばるみったん。
「・・・今ここで・・・まほうのてっぽうさえ・・・使えたら・・・!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方、学校の会議室。
クリスタル・ビデオ・カメラの映像で、
ファイア組を見守っている先生たち。
「・・・○野くんのおかげで、みんな何とかパニック状態から立ち直ったけど、
それでもこれだけの数のゾンビを相手にするのは・・・!」
ぐっ!と拳を握り、ぶるぶると震わせるマリ先生。
「・・・ふむ・・・正念場・・・ですな。」
床の上に寝そべったまま、ぼそりと呟く第二形態先生。
「今ここで求められるのは、ホネサムライを倒した時のような爆発力≠ナはなく、
途切れることなくなだれ込んでくる敵を、ただひたすら耐えしのぐ持久力≠ナす。
ペース配分を間違えてしまえば、隊列が一気に崩れてしまいますな。」
「・・・ちょっと前に学校を出たコケ子が、
ダンジョンに到着するまでの間、
さて、耐えられるかどうか・・・だのう。」
ニイッ、と唇の端を吊り上げるコルモル校長。
「・・・最悪の場合、コケ子さんがダンジョンに到着する前に、
ファイア組は呪符を使ってみんな脱出するかもしれませんが・・・
もしそうなってしまった場合は、トミー山内先生に連絡して、
コケ子さんのダンジョン突入は事前に止めてもらいます。」
口では言いつつも、きっとそうはならないはず、という目つきで、
クリスタルの映像を見守るムーンシャドー教頭。
「がんばって・・・がんばって、みんな・・・!!」
握った右拳を、開いた左手で覆って、祈りのポーズとなるマリ先生。
「隊列を崩さずに、タンポポちゃんに持たせたアイテムや、
みったんのケアルで回復しながら地道に戦えば、
きっとその状況は打破できるはずだから・・・!!」
「・・・うううぅ〜〜〜・・・!!」
握っているのかどうかはわからないが、白くて真ん丸い拳を、
先ほどのマリ先生と同様に、ぶるぶると震わせる者が1人。
「・・・ぼくがぁ・・・ぼくがぁ、あそこにいればぁ・・・!!」
腹の奥底から、のぶ代ボイスを搾り出すかのように、
大きな口から低い声を放つ、ドラえもんみたいなヤツ。
「お前はこの会議室から出たらいかんぞ。」
ジロリ、とドラえもんみたいなヤツをにらむコルモル校長。
「お前にとって、今回の実習の合格、不合格は、
この会議室を出るか、出ないか、じゃからな。」
「ううぅぅ〜〜〜;」
イスに腰掛けたまま、しょぼん、と肩を落とすドラえもんみたいなヤツ。
「ぼ、ぼくはぁ・・・みったんたちにぃ、な、なにもしてやれないよぉ〜〜・・・」
「だ、大丈夫よ! 信じるのよ、みったんたちを!
ファイア組のみんなを信じて、映像を見守るのよ!」
がしっ!とドラえもんみたいなヤツの肩に手を置き、
マリ先生は、まるで自分にも言い聞かせるかのように、そう言った。
「う、うん・・・わ、わかったよぉ・・・ぼく、みったんたちを・・・
ファイア組のみんなが、無事にここに戻ってくると信じて、見守るよぉ・・・
今のぼくに出来ることは、それだけだから・・・!!」
ぐっ、と奥歯を噛み締めて、ドラえもんみたいなヤツは、
マリ先生と共に、クリスタルの映像へと視線を向けた。
・・・・・・そんな時、であった。
「・・・本当に・・・今のキミに出来ることは・・・
・・・みんなを信じて見守る・・・それだけ、なのかね?」
床の上に寝そべったまま、第二形態先生がぼそりと呟いた。
「・・・!!」
そんな第二形態先生の呟きに、はっ!と目を見開く、ドラえもんみたいなヤツ。
「だ、第二形態先生、ど、どういうことなのぉ〜〜?;
い、今のぼくにぃ、何か他に出来ることがあるのぉ〜〜〜?」
「・・・さあてね。 ・・・私に聞かずとも、自分の心の中には・・・
もうすでに、答えはあるんじゃないのかね・・・?」
ゲッゲッゲ、と笑う第二形態先生。
「・・・キミは・・・ただの・・・
まほうのてっぽうのエンジン≠ネのかね・・・?」
「・・・・・・!!」
「キミは部品≠ネのかね? それとも・・・?」
・・・第二形態先生の言葉を受け・・・
ドラえもんみたいなヤツは、
ガタッ!とイスから立ち上がった!!
「・・・ぼくにとっての、今回の実習≠ェ・・・たとえ不合格になっても・・・!!」
ドラえもんみたいなヤツは、熱く≠ネった!!
「たとえダンジョン実習≠ェ不合格でも、
ファイア組の一員≠ニして・・・
みんなの仲間として合格であれば、
ぼくはそれでいいよぉ!!」
「・・・ならば、迷わず行きなさいっ!!
ダンジョンに行って、もっともっと、熱くなれ!」
「うおおおおおおおおおおっ!!!」
第二形態先生が叫ぶと同時に、ドラえもんみたいなヤツは、
ものすごい勢いで、会議室の外へと駆け出して行った!!
「・・・禁止したのに、出て行きました・・・ね。」
ムーンシャドー教頭が、静かに目を伏せる。
「・・・あやつにとって、今回の実習の合格、不合格は、
この会議室を出るか、出ないかで決まる。
・・・確かにわしゃ、そう言ったが・・・」
ニヤリ、とコルモル校長は笑った。
「会議室を出たら不合格≠ニは、一言も言うとらんからな^^」
「先生にダメだと言われたから、仲間を助けに行かない。
それこそが、不合格。 我らの制止を振り切ってこそ、合格。」
「・・・うむ。 あやつはただの部品≠ナはない。 そういうことじゃ^^」
にっこりと微笑み、第二形態先生へと視線を向けるコルモル校長。
「・・・まあ、第二形態が、さりげなく助け舟を出しとったけどな^^」
「ゲッゲッゲ。 教師として、あのくらいの助言は許して頂きたいものですな。
悔しさに打ちのめされる生徒の顔を見るのは、心苦しいものです。」
「・・・み、みなさん・・・あの子を・・・試してたんですか・・・?;」
校長、教頭、第二形態先生のやり取りを見て、きょとん、と目を丸くするマリ先生。
「最初から、あの子をみったんたちのもとに行かせるつもりで!?」
「いんや? 面白くなればそれでいいや、と思っとっただけじゃよ^^」
「まあ、強いて言うならば、我々の制止を振り切り、彼が動くかどうか・・・
それも含めて、ファイア組の試練だということですよ。」
「・・・こ、この校長と教頭、どこまで本気なのか全然わからないわ;」
はあ・・・とため息をつき、マリ先生は頭を抱えるのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
昇降口から飛び出し、校門の外へ飛び出し、
ドラえもんみたいなヤツは街を突っ走る!!
「みんなぁ、待っててぇ〜〜! 今行くからねぇぇぇ〜〜〜!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ウィンダス市街。
病院へと続く道路を、1人の男子中学生が、とぼとぼと歩いていた。
「ごほっ・・・ごほっ・・・最近、急に寒くなってきたからなぁ・・・
風邪でもひいたのか、どうも体調が良くないよ・・・
病院に行って、診てもらわないと・・・」
中学生、鬼形礼は、どうも熱っぽかったので保健室に行ったところ、
保健の先生から、学校を早退して病院に行った方がいいと言われたので、
言われたとおり、病院に向かっている最中であった。
もともと鬼形は、悲惨な目にばかりあっているせいか、
大体いつも顔色が悪いのであるが、
保健の先生はそれを、何か深刻な病気だと勘違いしたのかもしれない。
そういった流れから、鬼形は今現在、病院に向かっているのである。
「・・・ぼくが街を歩くと、必ずと言っていいほど不幸な目に会うから、
そうなる前に、さっさと病院に行って、さっさと家に帰らなくては・・・
とくに今日は体調もよくないことだし・・・
まあ、この時間、ユカちゃんたちはまだ学校のはずだから、
いつもみたいに急に殴りかかって来られたりはしないはずだけど・・・」
・・・と、そんな事を言いながら病院を目指す、鬼形の背後から・・・
「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
ドラえもんみたいなヤツが、鬼形の方へと向かって、
ものすごい勢いで、叫びながら猛突進してきた!!
「う、うわああああああああああああああああああぁぁぁっ!?」
鬼形礼にとって、それは今までで一番の恐怖であった!!
あいつだけは大丈夫≠ニ思っていたヤツが、
何をしてくるかわからないような形相で、
恐ろしいスピードで向かってくるのである!
「とうとうあいつまで!?」と、
鬼形は顔を真っ青にして震え上がった!!
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!
このぼくが、このぼくがぁぁ〜〜〜!!
ゾンビを全部ぅ、倒してやるぞぉぉぉ〜〜〜〜!!」
「ひ、ひいいいいいっ!! や、やめてくれえええっ!!
ぼくはゾンビじゃない、ただの中学生だよおおぉぉぉぉっ!!」
ドラえもんみたいなヤツは、ただハイテンションになっているだけであり、
別に鬼形に危害を加える気は一切無いのだが、
いつもいつも悲惨な目にあっている鬼形には、
ドラえもんみたいなヤツが自分を殺しに来ているようにしか見えなかった。
鬼形はドラえもんみたいなヤツの突進を避けるために、
一か八か、道沿いの田んぼ目掛けて、頭からダイブした!!
「た、たすけてええええっ!!!」
ずじゃああああ!!と、全身泥まみれになりながら、
まだ稲刈りの終わっていない田んぼの中に、頭から突っ込む鬼形!!
そんな鬼形を、視界に入れることすら無く、
ドラえもんみたいなヤツは鬼形をスルーして、
だだだだだーーっ!!と道路を駆けて行った。
・・・鬼形 礼。
牙乱堂ピヨのすけ以上に、
この物語に何の関係も無い男であった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方、ドラえもんみたいなヤツよりも先に学校を出たコケ子は、
ウィンダスの城門(ゲート)を通過し、単身で国外フィールドに出た後・・・
地図でダンジョンの方角だけを確認すると、
道とか立て札とかは全部無視して、
ただまっすぐに、一直線にダンジョンへと向かった。
歩きにくい岩山になっているとか、モンスターが通路をふさいでいるとか、
そんなもの一切関係なし!!
本当にただまっすぐ、最短距離でダンジョンを目指す!!
・・・その手には、ムーンシャドー先生が用意してくれた、
コケ子にもっとも適している武器・・・
皆殺しのコケ子∞首斬りコケ子≠ネどという異名を持つ、
最強の生徒にふさわしい、不吉極まりない武器・・・
デ ス サ イ ズ
死 神 の 鎌 !!
「・・・こっちの方向か。 任務達成のために、コケ子は急ぐ。」
みったんたちのパーティが2時間くらいかかった道のりを、
コケ子はたった1人で、30分くらいで走破しつつあった!!
出発前に、幻の料理人*。沢匠の最高級の料理を食べ、
各種ステータスが大幅に上昇しているとはいえ、
常人の、実に4倍もの移動速度である!!
しかも、息ひとつ切らさず、汗一滴も流していない!!
知性も身体能力も類人猿並み
という言葉は、ウソではない!!
たまに寝ぼけて、カバンと間違えて、
学校にヤカンを持ってきたりするけどな!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ともあれ牙乱堂コケ子は、
バカだからダンジョンまで到着できないんじゃないの?
という、誰もが思うであろう不安を見事に裏切って、
学校を出てからわずか30分ちょっとで
ダンジョンの入り口にたどり着いたのである。
むしろコケ子は、毎日いつも、
半分、いや、ほぼ完全に寝ている状態で、
いびきをかきながら歩いて学校にやってくるほどの
動物的な方向感覚を持っているから、
そのおかげで道には迷わないのだ。
「ダンジョン、入り口、見つけた。 コケ子、ダンジョン、急ぐ。」
なんかだんだんインディアンみたいな口調になって来てる気がするが、
そんな言葉を吐き出しながら、コケ子はそそくさと入り口の遺跡に向かって行く。
そんなコケ子の姿に、ダンジョンの入り口で待機していた、
トミー山内とピヨのすけが、すぐさま気付いた。
「あっ! ね、ねえちゃん!! なんでここに!?」
「ふひひひ、デュフフフ、コポォwww
実習を終えたはずのファイア組が、
なかなか戻ってこないので心配していたけど、
どうやら中で何か事件が発生して、
そして学校側がすぐに手を打ったようだねぇ。」
なぜコケ子がここにいるのかわからず不思議がっているピヨのすけと、
コケ子の登場ですぐに現在の状況を察した、見かけに似合わず鋭いトミー山内。
「ピヨのすけがいるということは、ファイア組がいるというダンジョンは、
やはりここで間違いないようだな。 こんにちわ、用務員のおじさん。」
てくてくと歩いてきて、トミー山内にペコリと頭を下げるコケ子。
「フヒ、フヒヒ、ぼくは用務員じゃなくて、保健室の先生だよ、はひっ、ふひっ!」
「そうか。 保健室、行ったことないから知らん。 コケ子は風邪をひかない。」
そんなことを言いつつ、コケ子は遺跡の中の階段へと視線をやる。
「・・・あの階段を降りて、奥に進んだところに、5年ファイア組のみんながいるんだな?」
「フヒッ、ウププ、そのとおりだよ牙乱堂さん。
キミは学校の誰かに、ファイア組を救助するように言われて、
それでここにやって来たんだね?」
「そうだ。 黒い服を着てる髪が長いおばちゃんに、5年生を助けて来いと言われた。」
「いや、保健の先生はまだしも、教頭先生くらい覚えろよ、ねえちゃん><」
「いやいや、6年も学校に通ってるんだから、保健室のぼくのことも覚えてほしいな、デュフフフw」
そう言ってトミー山内は、すっ、と脇の方に移動して、
いつもどおり股間をがっしりと両手で握り締めたまま、
アゴでくいっとダンジョンの入り口の階段を指した。
「・・・中で何が起きているかは知らないが、どうやらよくない状況のようだ。
ぼくがダンジョンの中に入ると、ファイア組の実習は、全員不合格となるからね。
牙乱堂コケ子さん、5年ファイア組の救助は、キミにまかせるよ。」
「わかった。 後はコケ子にまかせろ、ヘンなおじさん。」
「志村みたいに言わないでおくれ、デュフフフフwww」
トミー山内とピヨのすけの前を横切って、ダンジョンの階段へと向かうコケ子。
・・・そして、階段を降りる手前で、コケ子は一度立ち止まった。
「・・・5年ファイア組は、まだ中で戦っているんだな・・・?」
「デュフフフ、そうだよ。」
「・・・それで、お前はここで何をしてるんだ? ピヨのすけ。」
「えっ・・・? い、いや、その・・・オレは・・・;」
「・・・ピヨのすけ。 お前もコケ子と一緒に来るか?」
ちらり、と横目でピヨのすけを見やるコケ子。
「・・・そ、その・・・ねえちゃん、オ、オレは・・・;」
「デュフフフ、コケ子さん、残念ながらピヨのすけくんは、
すでに呪符で脱出した後だから、もうダンジョンの中には入れないんだよ。」
「・・・そうか。」
コケ子は失望したかのように、ピヨのすけを見るのをやめて、
再びダンジョンに降りる階段へと視線を向けなおした。
「みんなまだ戦っているのに、
お前はもう戦うのをやめたのか。」
ピヨのすけの心に、姉の言葉が突き刺さった。
呆然とするピヨのすけをその場に残し、
学校最強の生徒は、まったく恐れを見せる様子もなく、
1人ですたすたと、ダンジョンへの階段を降りていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ダンジョン内部!!
5年ファイア組は、隊列を崩さないまま、
必死にゾンビたちとの死闘を繰り広げていた!
「うおおおおおっ!! くらええっ、暴力の一撃ぃぃ!!!」
ぐわっしゃあああ!!
ユカコの振るった両手剣が、西原の頭を、
まるでスイカのように粉々に破壊した!!
ちなみに西原とはこいつである。
ユカコが西原の頭を粉々にした次の瞬間、
アカネコが高速で前方に躍り出て、
二刀流ナイフを凄まじいスピードで振りかざす!!
「うーーーーニャニャニャニャニャニャ!!」
ぐさぐさぐさぐさっ!! ざくざくざくざくっ!!
アカネコの繰り出すナイフで、
カマボコのように切り刻まれるホリカワくん!
ちなみにホリカワくんとはこいつである。
ファイア組の隊列の先頭に立つ二人、
暴力(バイオレンス)ユカコ≠ニ
速度(ハイスピード)アカネコ≠ヘ、
迫ってくるゾンビたちを、ためらいなく殺しまくる!
そんな先頭の二人に続き・・・!!
「殺(や)らなきゃ殺(や)られるっ!!
だったら、殺(や)る側にまわるだけだしィ!!」
「殺す女、と書いて殺女(あやめ)ですわ!!
汚らわしいいその≠スちよ、よく聞きなさい!
お前たちのような下等で醜く卑しい生物は、
このわたくしに指一本触れてはなりませんわ!」
攻撃力特化型の二人、ユキちゃんとあやめちゃんが、
先頭の二人が取りこぼしたゾンビに、さっそうと襲い掛かる!
どごおっ!! ぼこぼこぼごおっ!!
ユキちゃんの蹴りが、鯛造の頭部を後方に吹き飛ばした!
スパーーーン!! ジャキーーーーン!!
あやめちゃんの刀が、おこぜの頭を真っ二つにした!
ちなみに鯛造、おこぜとは、こいつらである。
大暴れする前衛たちに負けてはいられないとばかりに、
まゆみちゃんと○野×夫が、弓と手裏剣で後方からゾンビを狙う!!
「狙った標的は外さない・・・!! だからこそわたしは、
パーフェクト・スナイパー≠ニ呼ばれてる・・・!」
「ぶっちゃけ俺の手裏剣は結構外れるから、
命中率の低さは手数でフォローするぜ!
だからこそ、自称ファッキン忍者≠チてな!!」
背後からこっそりと前衛たちに近づき、
噛み付こうとしていた湯水金造を、
○野の手裏剣で動きを止め、
まゆみちゃんの弓で頭を射抜く!!
ちなみに湯水金造とは、こいつである。
倒されたゾンビに、いちいち画像を付けなくてもいいような気もするが、
鯛造とかおこぜとか湯水金造とか言われても、
普通は知らないと思われるので、念のためである。
とまあ、5年ファイア組の物理アタッカーたちが
それぞれゾンビを倒しまくっているところに・・・
「・・・よし! みんな、わたしとルミコちゃんのMPが溜まったよ!!
まとめて倒すから、いったん下がって!!」
突然そう叫んだリウの言葉に従って、素早く後方に離脱する前衛たち!!
「さあやるぞー! いけー、シヴァ!!」
何回噛まれても、何回殴られても、リウのMPが減るだけなので、
やられる心配をしなくてもいい召喚獣シヴァを、
ゾンビの群れの中に突っ込ませるリウ!!
下がった前衛たちと交代し、一体だけで前に出てきたシヴァを、
ゾンビの群れがすぐさま、わらわらと取り囲む!!
あとはルミコが、シヴァごと巻き込むファイガを放ち、
一気に大量のゾンビをブチ殺すだけ!!
「・・・・・・」
これぞ、名付けて使い捨てシヴァ爆弾=I!
どっ・・・・があああぁぁーーーーーーん!!
ルミコの放ったファイガが、
うきえさんとかじん六とか、
うらのおじいさんとかおばあさんとか、
その他大勢、30体くらいをまとめて吹き飛ばした!!
なお、リウが召喚しなおせば、またすぐ出てくるとはいえ、
使い捨てにされたシヴァは、ちょっと悲しそうな顔をしていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「はあはあはあ・・・よーし、今のファイガで、だいぶ倒せたニャ!!」
「リウさん、ルミコさん、すぐに下がってMPを回復して下さいませ!
それまでの間、またわたくしたちが時間を稼ぎますわ!!」
「ぜぇぜぇ・・・まゆみちゃんが思いついた使い捨てシヴァ作戦≠フおかげで、
だいぶ効率よく倒せてるけど、まだまだゾンビだらけだよー!」
「ふぅふぅふぅ・・・ユキ、そろそろチョー疲れてきたんですけどォ!!」
倒しても、倒しても、すぐにまた次のゾンビが向かってくるという、
ファイア組はとてつもなく苦しい状況にあった。
ここまでで、確実に150体くらいは倒しているはずなのに、
それでもまだ周囲には、200体くらいゾンビがいる!!
こうなってくると、一番心配なのは、みんなの疲労の蓄積である。
ファイア組の面々は、みなそれぞれ、すぐにゾンビを倒すコツを掴んだので、
割と簡単に倒すことは出来るのであるが・・・
いつ終わるのかわからない戦闘を、
果てしなくずっと続けなければならない
という、持久力の面において苦しかった!!
みったんのケアルと、回復薬ポーションの効果で、
なんとか疲労感をごまかして持ちこたえている状態であるが、
みったんのMPも、ポーションの在庫も、当然ながら無限ではない!
しかもこの持久戦は、あと何時間も、
ヘタすれば何十時間も続くかもしれないのだ!!
・・・みなの頭の中に、そろそろひとつの言葉がよぎり始めていた。
もうダメぽ≠ニいう、ギブアップの言葉が!!
そもそも、このダンジョン実習≠ノ合格したからといって、
何か特典でもあるのだろうか?
逆に、不合格になった者に、何かペナルティでもあるのだろうか?
担任のマリ先生は、その点に関して、特に何も言及しなかった。
・・・と、いうことは、である。
要するに、このダンジョン実習≠ヘ、
運動会みたいなものなのである。
勝ったからといって、何かもらえるワケではない。
負けたからといって、何か罰があるワケでもない。
だったら、何もこんなに苦しい思いをしてまで、
ひたすらゾンビを倒し続ける必要はないのでは・・・
ファイア組の面々は、1人、また1人と、
ギブアップの言い訳≠考え始めていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・・・同時刻。
場面は打って変わり、
ウィンダス連邦の国境の城門(ゲート)。
大きな馬鳥車(ばちょうしゃ:馬車のチョコボ版)の荷台に、
大量に武器が入った木箱を積み込み、ゲートの出国手続きを行っている男が1人。
スキンヘッドにサングラス、
綺麗に整えられたファッショナブルなヒゲに、
高級そうなガウンジャケット、という出で立ち。
その男の本名は、不明。
その通称は、ミスターBIG=E・・!
ウィンダス連邦で製造された、魔法系に特化した武器やアイテムを、
他国に輸出して利益を得ている、いわゆる貿易商≠ナある。
ミスターBIGは今、馬鳥車の荷台に積み込んだ大量の武器を、
他国に輸送するため、ゲートの出国手続きを行っている最中であった。
「大変お待たせしております、ミスターBIGさん。
もうあと30分ほどもすれば、出国許可が下りると思われますので、
今しばらくお待ちいただけますでしょうか?」
ワタアメみたいなモコモコの髪型の、いつもの市役所の人が、
ミスターBIGにペコペコと頭を下げ、愛想笑いをふりまく。
「ヘーイ、いちいち積荷のチェックなんてしなくても、
別に危ないクスリなんか積んでいねえぜ。
いつもどおり、魔法の杖やら魔力が上がる帽子やら、
そんなのを他国に持って行って売るだけさ。」
「ええ、もちろんわかっておりますよ。
ミスターBIGさんは、ちゃんと役所に貿易商の許可もとってますし、
税金なんかも毎年きちっと納めて下さってますし、
今さら麻薬の輸出なんかを疑っているワケではありませんよ^^;」
「だったら早いとこ出国手続きをすませてくれ、頼むぜ。」
「ははっ、今しばらくお待ちを^^」
名前も顔も服装も、マフィアのボスみたいなのに、
ミスターBIGは、実はごく普通の商売人なのであった。
「・・・ふう。 今回の輸出品が全部売れてくれれば、結構な利益になるな。
うまく儲かったら、また味沢の店で高級ディナーとシャレこむか。
あいつの店は異常に高いが、高いだけあって味は最高だからな。」
そんな言葉を吐き出しながら、ジャケットの内ポッケから
高級な葉巻と高級なライター、そして携帯灰皿を取り出すミスターBIG。
・・・と、そんな時、であった。
「お、おねがいだよぉ、おじさぁん><
ぼく、外のダンジョンに行かなきゃならないんだよぉ!
だから、ここを通して下さいぃ〜〜!!」
ドラえもんみたいなヤツが、必死な表情で、
モコモコ頭の市役所の人の足元にしがみついていた。
「い、いや、だからね、何度も言うけどね、
子どもを1人でゲートの外に出すワケにはいかないんだよ;
ウィンダス魔法学校の正式な手続きがあれば別だけど、
本日学校側が出国の手続きをしているのは、
5年ファイア組の11人と、ちょっと前に追加で申請された1名、
計12名だけだから、キミは通せないんだよ;」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないんだよぉ〜〜〜!
ぼくが行かなくちゃ、みんなが危ないんだよぉ〜〜〜><」
「だったら、学校に戻って、ちゃんと正式に先生にお願いしてきなさい。」
「そんなことしてる時間はないんだよぉ〜! こうしている間にも、
みんながゾンビたちに倒されちゃうかもしれないんだよぉ〜〜〜!」
「いや、キミの事情はわからないけど、私も仕事だからね;」
「・・・ヘーイ、市役所の職員さん。 何かトラブルかい?
俺の出国手続きがこれ以上遅れるのは、カンベン願いてぇんだがな。」
肩をすくめ、苦笑しながら市役所の人に近づいてくるミスターBIG。
「いえ、大丈夫ですミスターBIGさん、すぐに言い聞かせますから^^;
ほら、キミが駄々をこねると、こうして他の人たちにも迷惑がかかるんだよ?」
「そ、それでもぼくは、行かなくちゃならないんだよぉ〜〜><」
「まいったなぁ; 学校に連絡して、先生に来てもらうしかないかな、こりゃ;」
「・・・おい、何かよく見かけるけど、何者だかわからん坊主。
お前さん、いったいなんでまた、そんなに外に出たがってるんだい?」
すっ・・・と、ドラえもんみたいなヤツの前にしゃがみこむミスターBIG.
「坊主。 お前、何が何でも外に出なきゃならん理由があるのか?」
「そうだよぉ、何が何でも、ぼくは行かなきゃいけないんだよぉ〜〜!」
「・・・ほう・・・お前はこれから、何をしに行くんだ?」
「・・・と、友だちを・・・!」
ドラえもんみたいなヤツは、くわっ!と目を見開いた!!
「ぼくは・・・友だちを・・・助けに行くんだ!!」
「・・・そうか・・・」
ざっ!!と、突然立ち上がったミスターBIGは、
市役所の人の方へと振り返ったかと思えば、
笑顔できっぱりと言った。
「よう。 実はさっきの馬鳥車の積荷の底の方によ、
大麻とかヘロインとかコカインとかLSDとか、
めっちゃいっぱい隠してるんだわ。」
「・・・・・・は?」
突然とんでもない事を言い出したミスターBIGに、目が点になる市役所の人。
「あと30分で出国許可が出るそうだが、もう待ち切れねえ!!
俺は今から、国境を力ずくで突破する!!」
腰のベルトに挿していた、2本の片手棍を取り出すと、
それを握り締め、ミスターBIGは城門に突撃した!!
「ハイホー!! ハイホー!! んデリィィィシャス!!!」
「な、な、な、何をバカなことを!? ちょっと、冗談はやめて下さい、ミスターBIGさん!!」
「うるさい! 俺はすごいんだ!!
こんな国境なんか、突破してやるぞう!!」
2本の棒をめちゃくちゃに振り回し、城門に突っ込んでいくミスターBIG!!
「き、きが くるっとる!
も、門番たち、その男を止めろぉぉぉ!!
その積荷を外に出すな、ヤバい薬が入ってるっぽいぞ!」
市役所の人の命令を受け、一斉にゲートの門番たちが動き、
ミスターBIGを取り囲む!!
国境警備の門番たちに、一瞬にして取り囲まれたミスターBIGは、
ちらり、と一瞬だけ、ドラえもんみたいなヤツに視線を向けた。
『何してる、さっさと行きな。 ダチが待ってんだろ?』
ニヤリ、と笑うミスターBIGが、ドラえもんみたいなヤツに対して、
そう呟いたような気がした。
「あ、ありがとう・・・ありがとう、おじさん><」
ミスターBIGが巻き起こした大騒動のどさくさにまぎれ、
ドラえもんみたいなヤツは、こっそりとゲートを通過した!!
「・・・フッ・・・カッコいい≠チてのは、こういうことだぜ・・・坊主。」
門番に取り囲まれたミスターBIGは、
ドラえもんみたいなヤツがゲートを駆け抜けたのを確認すると、
あっさりと2本の棒を捨て、両手を挙げてその場に座り込んだ。
名前も顔も服装も、マフィアのボスみたいなのに、
ミスターBIGは、実はめちゃくちゃいい人だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ドラえもんみたいなヤツが、国境の城門(ゲート)を通過して、
ダンジョンに向かっていることなど露知らず・・・
倒しても倒しても、倒しても倒しても、
どんどん迫ってくるゾンビの群れに、
体力の限界が近い5年ファイア組は、
もはや崩壊寸前であった。
ポーションはもう無い!!
エーテルももう無い!!
みったんのMPも、もうほとんど残ってないし、
しゃがんでヒーリングをする余裕も無い!!
いよいよもうダメぽ≠フ瞬間が近づいてきたことを、
ファイア組の面々は実感していた。
たとどんなに苦しくても、ゾンビは待ってくれないのである!
「オオオオォォォ!! くやしいよォォォォォォ!!!
コルモルにィィィィ!! クビにされたアァァァァァァ!!」
一番最初におった先生ゾンビが、しぶとくまだ生きとる(笑)
○野×夫に投げられた手裏剣が、顔面にたくさん刺さったままの状態で、
しぶとい先生ゾンビが、他のゾンビを引き連れて迫ってくる!
先生ゾンビの背後にいるのは、
カオリちゃんに早川さん、みゆきちゃんにスズ子ちゃんである!
カオリちゃん、早川さんは、わざわざ画像を貼らなくても
多分わかると思うが、一応・・・
みゆきちゃん、スズ子ちゃんは、
ヘタすれば聞いたことすら無いかと思われる。
というワケで、普通はまず知らないであろう2人は、以下である。
左がみゆきちゃんで、右がスズ子ちゃんだが、
別に覚える必要はまったく無い。
まあともかく、先生ゾンビはその他4体のゾンビを引き連れて、
じりじりとファイア組の隊列に迫ってきた。
「はあはあ・・・ぜぇぜぇ・・・け、剣が重い・・・!」
ぶるぶると震える腕で、両手剣を握り締めるユカコ。
「はぁはぁはぁ・・・ユ、ユカちゃん、しっかりするニャ!
先頭のあたしたちが攻撃しないといけないニャ!」
スピード自慢のアカネコも、ずっとノンストップで動き続けていたせいで、
両足ががくがくと震えており、もうトップスピードでは動けそうにない。
「ぐぬぬー! 余裕たっぷりに近づいてきてくれましたわね!
この綾小路あやめが、叩き斬ってくれますわ!」
「ふぅふぅふぅ・・・ユキ、もう殴りすぎて、手の感覚がなくなってきてるしィ!
ゾンビ多すぎ、もうマジ無理なんですけどォ!」
強気な言葉を吐き出すが、あやめちゃんもユキちゃんも、
もう心が折れかかっている。
「・・・どうにもファッキンだぜ、こいつぁ。 そろそろ潮時かもな。」
袋をかぶってる○野が、ちらりとまゆみちゃんの方へ顔を向ける。
「・・・わたしのパーフェクトな成績に、キズがついてしまうけど・・・
もうそんなこと言ってる場合じゃないかもしれない。
誰かがやられてしまう前に、呪符で離脱するべきかも・・・」
ピコン、ピコン、と赤く点滅している、まゆみちゃんの頭のカミナリマーク。
「はぁはぁはぁ・・・も、もう、無理だよ;」
MPが底を突いたみったんが、弱々しい声をあげる。
「・・・み、みんな・・・悔しいけど・・・ここは・・・」
『みんな、もうギブアップしよう・・・』
みったんは、そう言うところであった。
この光景が見えるのが、
あと2秒遅ければ、
言ってしまうところであった!
「・・・5年生。 諦めるのは、まだ早い。」
巨大な鎌の一振りで、4体ものゾンビの首をまとめてぶった斬るという、
凄まじい登場シーンを見せ付けた特別助っ人≠ヘ、
ファイア組全員を見渡しながら、力強く言い放った!!
「コケ子が助けに来たから、お前たちは諦めなくていい。」
・・・5年ファイア組の一同は、誰一人として、声を出せなかった。
その人物が、学校最強の生徒≠ニ呼ばれているのは、知っていた。
実際に戦っている姿を見たことは無かったが、
色んな人たちが、声をそろえて間違いなくあいつは最強≠ニ言うので、
まあ、多分強いんだろうな、と思っていた。
「・・・みんな、しばらく休んでいろ。
動けるようになったら、コケ子を手伝え。
とりあえず、コケ子が倒せるだけ倒しておく。」
そう言って特別助っ人≠ヘ、周囲のゾンビを、手当たりしだいに攻撃し始めた。
・・・実際に、彼女の戦闘シーンを自らの目で見て・・・
巨大な鎌を振り回し、暴れ始めた牙乱堂コケ子≠見て・・・
5年ファイア組一同は、
まったく同じ言葉を頭に思い浮かべた!!
強 す ぎ ワ ロ タ !!
いそのの群れが、次から次に肉片と化していく!!
人の形をしているゾンビを攻撃するのに、
かなりの時間と覚悟が必要であった5年ファイア組とは違い、
コケ子は最初から、ためらいも手加減も、まったくなし!!
岡島さんとか、
なぎえとか、
三平とか、
タケオくんとか、
ハマさんとか、
ジミーとか、棟梁(とうりょう)とかが、
ざくざくと、切り刻まれていく!!
味沢の料理の効果で全ステータスがアップしており、
ムーンシャドー教頭が用意した武器、
デスサイズ≠装備しているとはいえ・・・
それでも、次元が違う強さであった!!
「そら6年の実習も中止になるわ」
クリスタル・ビデオ・カメラを回しながら、思わず突っ込むタンポポちゃん。
そんなタンポポちゃんの言葉で、5年ファイア組はようやく我に返り、
何が起きているのか、それぞれ理解し始めた。
「コ、コケ子さん!? ど、どうしてここにいるのー!?」
「黒い服のおばちゃんに、みんなを助けてこいと言われた。 だからコケ子は来た。」
「ええーっ!? せ、教頭先生がー!?」
「そ、それって、わたくしたちの実習は、
不合格だと判断されてしまったということですの!?」
「いや、先生が助け行ったらルール違反になるから、
コケ子がみんなを助けに行け、と黒いおばちゃんは言っていたぞ。」
「え? ということは、あたしたちはまだ不合格じゃないってことかニャ?」
「知らん。 コケ子はよくわからん。」
そんなファイア組とコケ子の会話を聞いて、
頭のカミナリマークをキラリと輝かせるまゆみちゃん。
「・・・つまり、このゾンビたちの出現は、学校の想定外・・・!
本来であれば、ホネサムライを倒した時点で実習は終了のはずだったけど、
何らかの要因で、床に描かれたあの赤い魔法陣が発動して、こいつらが出てきた!
しかし、クリスタル・ビデオ・カメラでそれを見ていた学校側は、
そこで実習を中止にせず、あえて続行することにした!
わたしたちファイア組が、助っ人のコケ子さんの到着まで、
このゾンビたちの猛攻に耐えられるかどうか!
テスト内容を、急遽変更した・・・ということだね・・・!」
現在の状況から、つじつまの合う解答を、瞬時にして導き出すまゆみちゃん。
「わたしたちは、コケ子さんが到着するまで、持ちこたえることが出来た!
つまり、この想定外ダンジョン実習≠焉E・・!!」
そんなまゆみちゃんの言葉を、
途中で受け継ぎ、みったんが叫ぶ!!
「あとはコケ子さんと一緒に、このゾンビたちを全滅させれば、
今度こそ実習はクリアってことでいいんだねー!!」
「・・・ふむ・・・そうなのか?」
当の本人のコケ子だけは、あんまりわかってない様子だが、
他の全員は、想定外ダンジョン実習≠理解した!!
「よーし! デタラメな強さの、コケ子さんが味方につけば!!」
「・・・いける! 今度こそクリア出来るニャ!!」
ユカコとアカネコが、気力を振り絞って立ち上がる!!
「ってことはァ、ユキたちィ、もーちょいがんばれば、クリアって感じィ!?」
「ぐぬぬー! コケ子さんばかりに、いいカッコさせるワケにはいきませんわ!」
ユキちゃんとあやめちゃんも、歯を食いしばって立ち上がる!!
「コケ子さんが来てくれたから、MPを回復する余裕が出来たよ!
ルミコちゃん、ヒーリングして、もうひと踏ん張りがんばろう!」
「・・・・・・」
すっ、としゃがみこみ、MP回復の姿勢をとるリウとルミコ。
「○野くん、手裏剣はまだある・・・?」
「へっ、そっちこそ矢はまだあるかい? ファッキン・パーフェクトさん!」
「あまり無駄弾は撃てないから・・・うまく節約して、みんなを支援しよう!」
「オーケー! 貧乏ったらしく、ファッキンに立ち回るとしましょうかね!!」
残弾を気にしつつ、援護射撃の2人も気合を入れる!
「みったん、もう一息だよー! ケアルがんばれー!」
カメラを持ったまま、ぴょん、と飛び跳ねるタンポポちゃん。
「うん! もう少し、もう少しで終わる!!」
ぐっ!と拳を握り締め、みったんは叫ぶ!
「さあみんな! あとちょっと、がんばろう!!」
ほんのついさっきまで、みなの頭の中によぎっていた、
もうダメぽ≠ニいう言葉は、きれいさっぱりと消え去っていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・そう、牙乱堂コケ子。
私は、誰よりもまず、あなたを見ておきたかった。」
顔からはみだすほどの大きなメガネをかけた男は、
ダンジョン最深部に置かれた宝箱の上に腰掛け、
ぼそりと独り言を呟いた。
「・・・他の子たちが非凡≠ナあるならば・・・
・・・学校最強の生徒と名高いあなたこそは、異端≠ナすよ・・・」
男は不敵に、ニヤリと笑った。
「・・・このダンジョンに、私がいると気付いたようですね。
だからこそ、すぐさま牙乱堂コケ子を送り込み、
実習を続行することを決断した、と・・・
私が見たがっていた最強の生徒を、あえて見せつけ、
私の出方を見るつもりですね、チグサ=ムーンシャドー・・・」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・フッ・・・あなたの仕掛けてきた挑発に、あえて乗っかりますよ・・・
かつての借りを返すまで、どこまでも追い詰めてやりましょう・・・」
会議室内で、クリスタル・ビデオ・カメラの映像を見ながら、
ムーンシャドー教頭は、一人静かに呟いた。
「・・・謎の男・・・通称ごはんですよ=E・・
・・・本名・・・ノリーヘイア=ミキシュナイダー=E・・」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方、ミスターBIGのおかげでゲートを通過して、
5年ファイア組がいるダンジョンへと急ぐ、ドラえもんみたいなヤツ・・・
彼は無謀にも、コケ子と同じように、
最短距離で一直線にダンジョンに向かっていた!!
「い、急がなくちゃぁ〜! 急がなくちゃぁ〜!」
・・・確かにこのルートならば、わずか30分ほどでダンジョンに到着するが・・・
それは、コケ子の異常な戦闘力があればこそ、の話!!
ウィンダスからダンジョンまでの道のり、
その途中の川の周辺には、
カニやら魚やらのモンスターが、多数生息している!!
無理に川を突っ切ろうとせずに、遠回りしたところにある橋を渡れば、
モンスターにからまれずに安全に通過できるのであるが、
もちろんそれをやると、かなり時間のロスとなる。
コケ子の場合は、近寄ってくる魚やカニを、
ワンパンで殺しながら一直線に進んだのであるが、
知ってのとおり、ドラえもんみたいなヤツにそんな戦闘力は無い。
・・・ならば、どうするか?
「う、うおおおおおおおおおおおっ!!!」
目を閉じ、全力でダッシュして、
川を強引に突破するしかない!!
「こ、この川さえ通過すれば、
ダンジョンはもう目と鼻の先だぁぁぁぁ〜〜〜!!」
のぶ代ボイスで叫びながら、ドラえもんみたいなヤツは川に突入する!!
川の中にいた、5〜6匹のカニと魚は、
突然の侵入者に対し、容赦なく襲い掛かってきた!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・助けるか?」
小高い丘の上、マントの老人が、静かに口を開く。
「・・・命を賭けて友を救わんとする、一人の男≠フ行動となれば・・・」
サングラスの師匠は、ゆっくりと腕組みした。
「・・・手出し出来ぬ。 ただ見届けるのみ。」
あっという間にカニと魚に囲まれたドラえもんみたいなヤツを見て、
師匠は腕組みしたまま、ぐっ!と唇を噛み締めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方、ダンジョン内部!!
コケ子の助力を得て、ゾンビたちに反撃を開始した5年ファイア組は・・・
ゾンビの群れを、残り5体まで追い詰めていた!!
だが、残った5体が厄介!!
もうわざわざ説明しなくても、
みんな知ってるであろう、
有名なヤツが5体残っていた!!
特に先生、まだ生きとった!!!!
どうやってコケ子の猛攻撃をやり過ごしたのかわからないが、
とにかくしぶとく生きていた先生の背後には、
花沢さん、サブちゃん、中島、いささか先生という、
毎週の放送で必ず1回は出てくるであろう、
もうほぼメインキャラと言っても差し支えのないくらいの
メジャーな連中が残っていた!!
「はぁはぁ・・・あ、あの5体で、最後・・・!!」
ぐっ!と両手剣を握り締めるユカコ。
「ぜぇぜぇ・・・や、やっと終わりが見えたニャ!」
ジャキン!と2本のナイフを構えるアカネコ。
「ふぅふぅ・・・け、けど、残ったあの5体、他のゾンビよりだいぶ強いよ!」
もう何度目かわからない、シヴァの再召喚をして、リウが呼吸を整える。
「あいつら一体一体が、ホネサムライくらい強いしィ! ムカつくゥ!!」
ギリッ、と奥歯を噛み締め、空手の構えをとるユキちゃん。
「でも、ここまで来たからには、こちらも引き下がれませんわ!!
何が何でも倒して、ダンジョン実習をクリアしてやりますわよ!」
残った5体をにらみつけ、鋭い眼光を放つあやめ様。
「・・・・・・」
最初からずっと無言で、まったく同じ表情のルミコ。
「へっ、このファッキン実習も、いよいよクライマックスってやつだな。
残ったファッキンな5体を倒せば終わりだ、テンション上げて行こうぜ。」
袋かぶってるくせに、やはり頼もしいセリフを吐き出す○野×夫。
「・・・コケ子はまだまだ疲れてない。 あと8時間はやれるぞ。」
びゅん!と鎌を振り、5体のゾンビを静かに見据えるコケ子。
「・・・みんな。 最後の力を振り絞って、あの5体、分散して叩こう・・・!」
キラリ、と頭のカミナリマークを輝かせ、まゆみちゃんが作戦を伝える!
パワータイプの花沢さんを、ユキちゃんとユカコで迎え撃つ!
スピードタイプのサブちゃんを、アカネコとあやめちゃんで迎え撃つ!
魔法タイプの中島を、ルミコとリウで迎え撃つ!
暗殺者タイプのいささか先生を、○野とまゆみちゃんで迎え撃つ!
そして不死身の先生を、コケ子で迎え撃つ!
みったんは全員の回復!
タンポポちゃんは、撮影とアイテム配り、そして応援!
まゆみちゃんが、素早く手短に作戦を伝えると、
ファイア組の面々&コケ子は、みな同時に力強くうなずいた!
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一方、ダンジョンの入り口!!
地面の上に砂山を作り、
てっぺんにその辺で拾った棒を挿し、
棒倒しをやっている、ピヨのすけとトミー山内!
「・・・トミー先生、片手でやるから弱いよ; すぐ棒が倒れるじゃないか;」
「フヒヒ・・・デュフフ・・・ごめんよぉ、ぼくは左右どちらかの一方の腕で、
常に股間を握ってないと不安だから・・・イヒヒ、コポォw」
お前らふざけんな!というくらい、
ダンジョンの中と外では、温度差がひどかった。
・・・だが、その時・・・!
「・・・むっ!!」
不意に真剣な表情となったトミー山内が、その視線を右へと向ける!
「ん? どうしたの、トミー先生?」
アホみたいな顔で、ピヨのすけもトミーが見た方向へと視線をやる。
「・・・はあ・・・はあ・・・はあ・・・! ぜえ・・・ぜえ・・・ぜえ・・・!」
体のあちこちが破壊され、
その部分からバチバチと火花を散らしながら、
ドラえもんみたいなヤツが、よろよろと歩いてきた!!
「ああっ!? ド、ドラえもんみたいなヤツ! どうしたんだ!?
キミは学校にいたんじゃなかったのか!?」
よろよろと歩いてくるドラえもんみたいなヤツに、だっ!と駆け寄るピヨのすけ。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・い、行かなくちゃ・・・
・・・は、はやく、みんなのところに、行かなくちゃ・・・」
ピヨのすけのすぐそばで、ばたっ、と倒れるドラえもんみたいなヤツ。
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「・・・命がけの男の行動は、手出しせず、ただ見届けるのみ・・・ではなかったのか?
結局ガマン出来ずに、カニと魚を全滅させてしまったではないか。」
「・・・う、うるさい。 合成の材料として、カニの甲羅と魚のウロコが欲しかっただけだ。」
顔を赤らめる師匠を見て、マントの老人は、目を伏せてフッ・・・と微笑んだ。
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「ト、トミー先生! ドラえもんみたいなヤツ、大ケガしてるよ!
は、はやく治療してあげて!!」
倒れこんだドラえもんみたいなヤツを抱きかかえ、ピヨのすけが叫ぶ。
「・・・残念ながら、ぼくの魔法や薬品では、彼を治療できない。
彼を治せるのは、コルモル校長だけだよ。」
ピヨのすけたちのそばまで歩いてきて、すっ、としゃがむトミー山内。
「・・・なぜ、ここに来たんだい? きみは学校で待機してないといけないはずだよ。」
トミー山内の問いに、弱々しく返答するドラえもんみたいなヤツ。
「はぁはぁ・・・ぼ、ぼくも・・・ぼくも、5年ファイア組≠フ一員だから・・・!」
「・・・その一念だけで、ここまでたどり着いたのか・・・」
「い、いや・・・まだだ・・・まだ、ぼくはたどり着いてないよぉ・・・」
カッ!と目を見開くドラえもんみたいなヤツ。
「ダンジョンの中にいるみったんに、知らせなきゃ・・・!
ぼくが半径4km以内にいる今だったら、
まほうのてっぽう≠使えるって、知らせなきゃ!」
「・・・ダメだ。 そのダメージで、これ以上無理に体を動かせば、
キミは本当に爆発してしまうかもしれない。
保健の養護教員として、キミのダンジョン突入は許可できない。」
「で、でも・・・みんなが・・・5年ファイア組のみんなが、あぶないんだよぉ!
行かなきゃ、ぼくが行かなきゃ、みんなが・・・!!」
「・・・ダメだ。 キミが何と言おうと、ぼくは許可しない。」
「うううぅぅ・・・そ、そんなぁ・・・」
がくり、と肩を落とすドラえもんみたいなヤツ。
「ここまで・・・来たのが・・・無駄になる・・・よぉ・・・」
・・・無駄ではなかった。
全身ボロボロになってしまった、ドラえもんみたいなヤツの、その必死な姿は・・・
すぐ近くに立っている少年の脳裏に、
少し前に姉から言われた言葉を、
鮮明に思い出させていた・・・!
『みんなまだ戦っているのに、
お前はもう戦うのをやめたのか。』
ギリッ!と、少年は強く奥歯を噛み締めた。
ドラえもんみたいなヤツは、もう歩けない。
だが、彼がみったんの半径4km以内にさえいれば、
みったんはまほうのてっぽう≠使用出来る。
ダンジョン内部にいるみったんは、ドラえもんみたいなヤツが、
ダンジョンの入り口に来ていることを知らない。
誰かが、そのことをみったんに知らせに行かなければならない。
しかし、保健の養護教師であるトミー山内がダンジョンに入ると、
その時点でファイア組は全員不合格となる。
・・・となると・・・どうすればいいか?
そう、答えはひとつしかない・・・!!
「・・・オレが・・・行く・・・!!」
ピヨのすけは、がしっ!と力強く、
ドラえもんみたいなヤツの、
ドラえもんみたいな丸い手を握り締めた!!
「オレが・・・みったんに、知らせに行く!!
オレだって、まだ戦うのをやめてはいない!!」
ざっ!とその場に立ち上がったピヨのすけは、
ダンジョンの入り口の階段の方へ、さっそうと体を向けた!!
ただし、半泣きで、汗だくで、
めっちゃ嫌そうで、めっちゃビビっていて、
めっちゃ家に帰りたそうな顔であった。
「・・・待ちなさい。 きみはすでにもうダメぽ≠ニ言って、
呪符を使ってダンジョン実習をリタイアしたはずだよ。」
トミー山内が、ダンジョンの方へと体を向けたピヨのすけを、ジロリとにらむ。
「一度リタイアした者は、ダンジョンへの再突入は禁止・・・
それを忘れたわけじゃないだろう? 牙乱堂ピヨのすけくん?」
「・・・フッ・・・牙乱堂ピヨのすけ?
いったい誰のことだ? それは?」
半泣きで、汗だくで、
めっちゃ嫌そうで、めっちゃビビっていて、
めっちゃ家に帰りたそうな顔ではあるが、
それでも少年は、きっぱりと言った!!
「オレは、この少年に封印されし破壊の化身、
暗黒不死鳥=iダーク・フェニックス)だ!
もうダメぽ、などと言った覚えはない!!」
「・・・なるほど、そうか。
それだったら仕方ないね。
ぼくにキミを止める権限は無いな。」
トミー山内は、にっこりと微笑んだ。
「ピ、ピヨのすけくぅん! ぼ、ぼくの代わりに行ってくれるのぉ〜!?」
バチバチと火花を散らしながら、地面に倒れこんでいるドラえもんみたいなヤツが、
笑顔でピヨのすけを見上げる!
「ピ、ピヨのすけではない! オレは暗黒不死鳥(ダーク・フェニックス)だ!!」
だっ!と地面を蹴り、ピヨのすけはものすごい勢いで、
ダンジョンの入り口の階段へと向かって駆け出した!!
ファイア組の中で、一番最後!!
学級委員が、最後にようやく熱く≠ネった!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ダンジョン内部!!
残った5体のゾンビと、ファイア組との、最後のバトル!!
パワータイプの花沢さんを、
ユカコとユキちゃんが迎え撃つ!!
「ユキちゃん! あいつの攻撃は、あたしが剣で受け止める!
だから、攻撃の方はユキちゃんにまかせるよ!!」
「うィーッス!! ユキ、ワンチャン待ちィ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
いぃぃぃいぃぞぉぉぉのぉぉぉぐうううぅぅぅぅん!!」
ものすごい声をあげながら、花沢さんがデタラメに腕を振り回して突進してくる!
「くっ・・・! ユキちゃん、下がって!!」
両手剣を横に寝せ、側面を盾にしながらユカコが前に出る!
「はなざわああああああぁぁぁぁぁぁ!!
ふどうさあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
どっがーーーーーっ!!
爆弾でも投げつけられたんじゃないか、というほどの衝撃を感じながら、
ユカコは辛うじて、花沢さんのパンチを剣の側面で受け止める!!
「うわあああ>< な、なんてパワー・・・!!」
ちゃんと防御したのに、ユカコはくつの裏で地面を削りながら、
ずざざざーーーーっ!!と5mくらい押し戻される!
「てええええーーーーーーいっ!!」
花沢さんがユカコを弾き飛ばした隙を見逃さず、
顔面を狙って、高速のハイキックを見舞うユキちゃん!!
ばぎいっ!!
「ぢょっどおおおおぉぉぉぉ!!!
いぞのぐぅん、ぞれどういう意味ぃぃぃぃぃぃぃ!!」
顔面に完璧にハイキックが炸裂したのに、ちっとも効いていない様子で、
アニメでよく聞くセリフを吐き出しながら、今度はユキちゃんに殴りかかる花沢さん!
「ちいっ!!」
だっ!と横に飛んで、花沢さんのパンチを避けるユキちゃん!
ユキちゃんのわき腹スレスレをかすめ、
ギリギリで回避した花沢さんのパンチが、
凄まじい勢いで地面にめりこむ!!
ばぎばぎばぎばぎいっ!!
地面の中に、花沢さんの右腕が、
ヒジの辺りまで埋め込まれた!!
あんなパンチをまともに受けたら、体を貫通してしまいかねない!
「つ、つええし! こいつ、めっちゃつええしィ!」
ユキちゃんの頬に、冷や汗が流れ落ちる!
「殴り方とかはァ、完全にズブの素人なんだけどォ、
パワーが尋常じゃないからァ、ヤバくてマトモに受けられないしィ!!」
「・・・パワーだけの、ズブの素人の殴り方・・・
・・・つまりこいつの戦闘スタイルは、ただの暴力≠チてことだよね・・・!」
ぐっ!と両手剣を握り締め、ユカコは花沢さんをにらみつけた!!
「だったら・・・上には上がいるってことを・・・!!
暴力≠ノはそれ以上の暴力≠ェあるってことを、
このサクラダユカコが教えてあげるよ!!」
「てゆーかァ、なんか策があんのォ、ユカちゃん!?」
「・・・一か八かだけど、ちょっと思いついたから、試してみるよ!
うまく決まれば、たぶんあいつにでっかい隙が生まれるから、
そのチャンスにユキちゃん、全力で攻撃しまくって!」
「ワンチャン、来る? だったら、チョーフルボッコにしてやるしィ!!」
「頼んだよユキちゃん! じゃ、行ってくるっ!!」
だっ!と地面を蹴り、ユカコは両手剣を思いっきり振りかぶり、
花沢さんに向かって突撃した!!
「うおおおおおおおおおーーーーっ!!」
負けじと花沢さんも、ものすごい雄たけびをあげて向かってくる!!
「だぁいじょうぶよぉぉ、いぞのぐうぅぅぅぅん!!
あだじにまがぜどぎなざいっでえええええぇぇぇ!!」
花沢さんに突撃しながら、ユカコは授業中に、
よくマリ先生に注意されている事を、頭の中に思い浮かべる!
『いい、ユカコちゃん。 覚えておいて。
自己流の攻撃スタイル、いわゆる我流≠チていうものはね、
攻撃面においては、無類の強さを発揮することが多いけど、
その反面、防御の面においては、とてももろいものなのよ。
ちゃんとした武術なら、敵の攻撃を防御した時の型≠ェ、
そのまま次の自分の攻撃につながるような姿勢になっているんだけど、
我流の場合は、ただ単に来た攻撃を本能的にガードする≠セけだからね。
相手にそれを先読みされて、あえてガードさせられて≠オまったら、
そのまま相手のいいようにやられちゃうわよ。 気をつけてね。』
「そう・・・マリ先生が言ってた!!
こいつが、攻撃の事しか考えてない我流≠ネら!」
ぶうん!と、花沢さんの脳天目掛けて、
思いっきり両手剣を振り下ろすユカコ!!
「いいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぞぉぉぉぉのぉぉぉぐぅぅん!!」
花沢さんは、素早く両手を交差させ、
振り下ろされたユカコの両手剣を、がしっ!と受け止めた!!
授業中に、マリ先生が言っていた通りであった!
我流は、来た攻撃を、ただ単に本能的にガードする!!
「狙いどおおおぉぉりぃぃぃぃぃ!!!」
なんとユカコは、両手剣をあっさりと手放して、
素手のままで、花沢さんの懐の中へもぐりこんだ!!
「その両手剣は、あえてガードさせたんだよぉぉぉ!!!
本命はその後の、素手のボディブローだあああああっ!!」
どっ・・・・ごおおおおおおおっ!!!
ユカコの全力のパンチが、花沢さんの腹に突き刺さった!!
「んまああああ!! いぞのぐんっだらああああ!!
てれちゃってえええええええぇぇぇぇぇぇ!!」
ユカコに思いっきり腹を強打され、よろよろと後退する花沢さん!!
間髪射れず、ユカコは叫ぶ!!
「ユキちゃあああんっ!! ここだよぉぉーーーっ!!」
「はい、ワンチャン来たしィィ!!」
残った体力を、ここで全部使い切る勢いで、
ユキちゃんは怒涛の勢いで花沢さんに襲い掛かった!!
「うざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざ
うざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざ
うざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざ
うざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざ
うざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざ!!!」
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ!!!!
「うざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざ
うざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざ
うざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざ
うざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざ
うざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざうざ
うざうざうざうざうざうざうざうざああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ
ドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガドガ!!!!
「うっ・・・・ざあぁぁぁぁぁーーーーーーーーーいしィィィィ!!」
どっ・・・・があああーーーーーーーーっ!!!
「いぃぃぃぞぉぉぉぉのぉぉぉぐうううううううううんんんんんん!!
ひぃぃどぉぉぉいぃぃぃじゃぁぁぁないのおおおおおおおぉぉぉぉ!!!」
ユキちゃんにフルボッコにされ、
ボロギレのようにぐしゃぐしゃになった花沢さんは、
最後の雄たけびとともに、地面の上に崩れ落ちた!!
ゾンビ、残り4体!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
スピードタイプのサブちゃんを、
アカネコとあやめちゃんが迎え撃つ!!
「ちわああああぁぁぁぁぁ!! 三河屋っすううぅぅぅぅぅぅぅ!!」
何もそこまで急いで配達せんでも!というくらいに、
めちゃくちゃ素早いサブちゃん!!
「うニャニャーーー!! ま、負けないニャーーーー!!」
そんなサブちゃんのとんでもない速度に、
必死に食らいつくアカネコ!!
まるで戦闘機同士の空中戦のごとく、両者は互いに背後を取り合う!
もしどちらかが、相手の背後を完全にとったとしたら、
その0.5秒後には勝負が決まると言っていいほどの、
とてつもないハイスピード・バトル!!
アカネコが頭にナイフを突き刺すのが先か、
あるいはサブちゃんが噛み付くのが先か!!
『・・・わかってるニャ! あたしには、これまでの戦闘の疲労があるし、
たとえ体力が万全だったとしても、この酒屋の配達員ゾンビの方が、
あたしよりもはるかにスピードが速いニャ!』
額に汗を浮かべつつ、サブちゃんを振り切ろうと、必死に動き続けるアカネコ。
ちなみに、なんかもうアカネコが本名みたいになってるが、
正しくは アカリ=スターノ である。
『だけど・・・たとえそっちの方が、はるかに動きが速いとしても!!
こっちは2人いるんだニャ! あたしには、あやめちゃんという味方がいるニャ!』
「ちわああぁぁぁ!! 毎度どうもぉぉぉぉぉぉっスぅぅぅぅ!!」
とんでもないスピードで背後を取りにくるサブちゃんを、
1秒たりとも立ち止まらず、ダッシュし続けて振り切るアカネコ!
『・・・勝負は一瞬!! 最初の一撃で決める!!
このままこの配達員ゾンビの意識を、あたしだけに集中させて、
少しずつ少しずつ、あやめちゃんの近くに誘導していく!!
そしてあたしとこいつが、あやめちゃんの居合斬りの射程に入った瞬間!』
ちらり、と遠くにいるあやめちゃんの位置を確認するアカネコ。
『あたしとこいつ、二人一緒に射程に入った瞬間!!
あやめちゃんが、このゾンビだけを斬るニャ!!』
とどのつまり、それはごく単純なおとり作戦≠ナあった。
ただし、おとりと標的、両者ともに、
目視も困難なほどに素早く動いている!
その状況で、あやめちゃんはアカネコを斬らず、
サブちゃんだけを斬らなければならない!!
『お、落ち着くのですわ・・・落ち着きなさい、綾小路あやめ!』
ホネサムライを斬った時と同様に、刀を鞘に収めてしゃがみ込み、
一撃必殺の抜刀術≠フ構えを取ったまま、
アカネコがサブちゃんを誘導してくるのを待つあやめちゃん。
『迷ったら失敗する! あせったら失敗する!
自信を持ちなさい、わたくしは綾小路あやめなのですわ!
大丈夫ですわ、きっとうまくゾンビだけを斬ることができましてよ!
たとえ失敗しても、アカネコさんが死ぬだけだからいいや、
くらいの気持ちでいけばいいのですわ!』
いや、それはあかんやろ。
・・・と、タンポポちゃんが聞いてたら突っ込んでいたであろう、
極めて自分勝手な言葉を心の中で呟きながら、
あやめちゃんは抜刀術の構えで、静かに精神集中する。
『そう、そうですわ、わたくしはあの偉大な、綾小路あやめなのですわ!
こんな居合斬りごとき、失敗するはずがありませんわ!
総資産40兆ギルと言われている、綾小路財閥のご令嬢でしてよ!
財閥総帥のお父様は、道ですれ違っただけの全然関係ない人に、
無意味にポンと2千万ギルくらいあげるほどの、超セレブなのですわ!
お正月には親戚みんなで集まって、本物のお金で人生ゲームをやってるほどの、
もう庶民にはよくわからないであろうレベルの、超お金持ちでしてよ!
風邪ひいたときも、間違ってお札で鼻をかんだこともあるくらいリッチですわ!
4歳の時に悪者に誘拐されて、犯人がお父様に5000万払えと連絡しようとした際、
たまたまわたくしのポッケに5000万の札束が入っていたので、
その場で自分で身代金を払って、普通に家に帰ったこともありましてよ!』
だんだんゾンビとか居合斬りとかと
全然関係ないことを考え始めているが、
もちろん本人は気付いていない。
『・・・ああ、そういえば、あんなこともありましたわね。
わたくしがゲーセンのUFOキャッチャーで、どうしても欲しかった、
きいろいくまのぬいぐるみがあって、
でもそれがどうしても取れなくて、
あんまり悔しかったので、そのことをお父様に言ったら、
お父様は翌日、そのゲームセンター自体を、丸ごと買い上げて・・・』
「あ、あ、あ、あんた、ホントにバカじゃないのかニャ!?」
あやめちゃんが目を閉じて、
全然関係ないことを色々と思い出している内に、
アカネコが必死にサブちゃんを誘導して、
すでにあやめちゃんの目の前まで連れてきていた!!
「あっ!?」
「あっ!?じゃないニャ、バカ!
何でちゃんと見てなかったんだニャ!?」
疲れ果てた体を、歯を食いしばり、限界を越えて無理やり動かして、
まさに死ぬ思いでアカネコがサブちゃんを誘導してきたのに、
それをろくに見てすらいなかったあやめちゃん!
テスト用紙の、自分の名前を書く欄に、
時々本気で神≠ニ書き間違えてしまうほどの、
超ド級わがままセレブちょいバカ良家お嬢様は、
やはり格が違った!!
「う、うわああーーーー>< も、もう知らん、ですわーーーー!!
適当に斬れば、たぶん何とかなるに違いないですわーー!!」
抜刀術の構えとか、精神統一とか、まったく意味なし!!
あやめちゃんは目をつぶったまま、適当に刀を振った!!
「ぎゃ、ぎゃニャーーーーーー!!」
完全に頭がおかしいとしか思えない、お嬢様のあり得ない行動に、
アカネコはがく然としながら、とにかく大急ぎで地面の上に前のめりに倒れ、
ヘッドスライディングの姿勢で、ずざあーーーーっ!とすべり込んだ!!
「毎度ぉぉぉぉありいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
地面に倒れたアカネコの、その背中しか見ていなかったサブちゃんは、
口を大きく開き、ものすごい勢いで噛み付きにきた!!
うつ伏せに倒れたアカネコの、その後頭部スレスレをかすめて、
あやめちゃんが適当に振った刀が通過して・・・
スッッッ・・・パーーーーン!!
アカネコの背中を噛もうとしていたサブちゃんの頭を、
あやめちゃんの刀が、見事に輪切りにした!!
「・・・フ・・・これぞ・・・」
びゅっ!と刀を振り、付着したサブちゃんの血を払い飛ばして、
パチン・・・と刀を鞘に収めつつ、あやめちゃんは呟いた。
ゆいがどくそん あやめぎ
「必殺奥義・・・唯我独尊 殺女斬り=E・・ですわ!」
「う、うそつけニャ!!
もう知らん、適当に斬れば多分何とかなる、
とか言ってたじゃないかニャ!!」
ヘッドスライディング状態から起き上がり、
目に涙まで浮かべて、あやめちゃんを怒鳴りつけるアカネコ。
「なんでちゃんと作戦どおりにやらないニャ!!
多分なんとかなる、とはなにごとだニャ!!」
「ま、まあ、ですけども、ほら、ごらんの通り、
現に何とかなったじゃありませんの^^;」
「あたしがギリでよけたからだニャ!!
おわびとして、街に戻ったら、
めざしとかサシミとか、いっぱい買ってよこすニャ!!」
「わ、わかりましたから、そう怒らないで下さいまし><」
ゾンビ、残り3体!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
魔法タイプの中島を、
ルミコとリウが迎え撃つ!!
「いぞのおおぉぉぉぉああああああああ!!
野球しようぜえええええあああああああああああ!!」
中島の背後に、突然無数の野球ボールが出現したかと思えば、
それが高速で発射され、まるでミサイルのごとくリウに襲い掛かる!!
「くっ!! シヴァ!! 防御するのよ!!」
中島の放った野球ボールを、召喚獣シヴァを操作し、両腕でガードさせるリウ。
「ほらほら、まだだ、まだだよいそのぉぉぉああああああ!!
もっと、もっと野球しようぜえええあああああああ!!」
ズギューン! ズギューン!と、次々に飛んでくる中島の野球ボール!!
「く、くそー! このボール、一体なんなの!? これ、魔法なの!?
さっきから全然間をおかずに、途切れることなく次々と撃ってくるよ!」
何とかシヴァを中島に接近させ、近接戦闘に持ち込みたいリウだが、
中島が射出してくる野球ボールがまったく途切れないため、
シヴァを防御に専念させざるを得ず、接近させる余裕が無い!!
「野球だよ、野球だよいそのおおぉぉぉああああああ!!
空き地で野球しようぜえええぁぁあああああ!!」
この野球ボールが魔法の一種だとするならば、
中島のMP切れを待つという手もあるのだが、
その前にリウのMPがもう残り少ないので、
中島のMP切れよりも、シヴァが消えてしまう方が先かもしれない。
いや、そもそも、あの野球ボールが魔法なのかどうかが、まず不明!
それよりも何よりも、今さらだけども、
なんで敵がサザエさんなのか、
それが一番、ちょっとよくわからない!!
だが、今はそんなことを考えている場合ではない。
リウのMPは、もうあまり残ってない!!
シヴァの召喚を持続できなくなれば、負け確定!!
とにかく急いで中島を倒さねばならない!
「ル、ルミちゃん! どうしよう、シヴァに接近戦をさせたいけど、
野球ボールを次々に撃ってくるから、近づけないよ!
ルミちゃん、そこから魔法を撃って、あいつを倒せないの!?」
「・・・・・・」
ルミコは何も言わず、静かに首を横に振った。
ファイア、ブリザド、エアロ、サンダー、ストーン、ウォータ・・・
ファイガ、ブリザガ、エアロガ、サンダガ、ストンガ、ウォタガ・・・
ルミコの持つどの魔法を撃ったとしても、
魔法力の高そうな中島には、通用しそうにない。
そりゃ連続で2000発くらい撃てば倒せるかもしれないが、
そんなにたくさん撃てるほど、ルミコのMPは多くない。
「・・・・・・」
ならば、どうするか?
シヴァは近づけない、ルミコの魔法は通じない、
この状況で、果たしてどうやって中島を倒せばいいのか?
「・・・・・・」
この時ルミコは、頭の中のシミュレーションで、
すでに中島を倒していた。
「・・・・・・」
あとは、そのシミュレーション通りに動けばいいだけ。
ルミコは無言のまま、おもむろに上着のポッケに手を突っ込むと・・・
脱出魔法エスケプが込められた呪符≠取り出した!!
「ちょ、ちょっとルミちゃん!? 何やってるの!?」
予想もしていなかったルミコの行動に、目を見開いて驚くリウ!!
まさか、ルミコはギブアップするつもりなのであろうか!?
しかし、呪符を発動させるにはもうダメぽ≠ニいう言葉を言わなくてはならない。
そもそもルミコは、しゃべらないのではないのか!?
・・・と、リウが困惑していると・・・
ルミコは突然、呪符を半分くらいの大きさに、
びりりっ!とやぶって、2枚に分けた!!
ルミコが何をやっているのか、まったくわからないリウ!
「・・・・・・」
ルミコはポッケの中から、今度は一本のペンを取り出した!!
そして、やぶって2枚に分けた呪符の裏側に、それぞれ何か書き始めた!!
まったく意味不明で、ぽかんと口を開くリウ!!
だが、この謎の行動の全ては、
ルミコのシミュレーション通り!!
ルミコは頭の中のシミュレーションで、
すでに中島を倒している!!
「・・・・・・」
やぶいた呪符の裏に、何かメモをしたルミコは、
無言のままてくてくとリウに近づいていき、
手に持っていた呪符の一枚を、すっ・・・とリウに手渡した。
「え・・・?」
右手を上げて 合図したら
ダイヤモンドダストを 撃って
ルミコがリウに渡した呪符の裏のメモには、そう書かれてあった。
ダイヤモンドダストとは、シヴァの最終奥義!!
リウのMPを全て消費し、シヴァの真の能力を発動させ、
有無を言わさず敵を氷付けにする必殺技!!
一度使えば、召喚士が極度に体力を消耗するため、
2日くらい時間を置かないと再使用できない、
まさに一発限りの、最後の切り札である!!
「ル、ルミちゃん・・・! な、何か作戦があるの!?」
「・・・・・・」
ルミコの目は、勝ちたいなら従え≠ニ、リウに言っていた。
「・・・わ、わかったよ、ルミちゃん! MPももう残り少ないし、
残ってるMPを全部、ダイヤモンドダストに注ぎ込むよ!!」
「・・・・・・」
こくり、と無言でうなずいたルミコは・・・
先ほどやぶいた、もう一方の呪符のメモを手に、
中島の方へと体を向けた。
「いぞのおおぉぉぉぉああああああああ!!
野球しようぜえええええあああああああああああ!!」
相変わらず、シヴァを狙って野球ボールを連続で射出し続けている中島。
「・・・・・・」
不意にルミコは、手に持っていた呪符のメモ紙を、ぽいっ、と頭上に放り投げた。
そしてすかさず、威力を弱めた風属性魔法エアロ≠、
宙を舞うメモ紙に向けて放出した!
びゅううううっ!!
ルミコが放ったエアロの風圧で、メモ紙がひらひらと飛ばされていく!
「・・・・・・」
びゅううううっ!!
びゅううううっ!!
びゅううううっ!!
何度も何度もエアロを放ち、宙に舞うメモ紙を、風圧で運んでいくルミコ!!
ルミコの謎の行動、その目的は・・・
呪符の裏に書いたメモを、中島に読ませることだった!!
「野球だよ、野球だよいそのおおぉぉぉああああああ!!
空き地で野球しようぜえええぁぁあああああ!!」
別に自分に向けて放たれているワケではないので、
ルミコのエアロなどまったく気にしておらず、
中島はひたすらシヴァに野球ボールをぶつけまくっている!
「・・・・・・」
びゅううううっ!!
びゅううううっ!!
ルミコは何度も、何度もエアロを放ち、風圧でメモ紙を運び・・・
エアロの回数が、15回目くらいになった時・・・!!
ついに中島のすぐ目の前まで、メモ紙を到着させた!!
「・・・・・・」
ニヤリ、とルミコは笑った!!
「・・・んああ?」
中島は、自分の目の前で、
ひらひらと空中に舞っているメモ紙に気付いた。
そして、大きな字で書かれてあるメモの内容を、
中島は無意識に目で追った。
お前 いつも いつも
野球しよう 野球しようと言うけど
友だち3人くらいしかいないのに
どうやって野球をするんだ?
ルミコは 人を 精神的に攻撃する!!
「う、うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!
ぐぎがああああああああああああああああああああ
うぇあああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああおおおおおあああ!!
中島は、頭を両手で抱えて絶叫し始めた!!
野球ボールの連続発射が、中断された!!
「・・・・・・」
すかさずルミコは右手を上げ、リウに合図を出す!!
「うおおおおおおおおおおっ!!
正義委員、ファイナルモードォォォ!!!」
残ったMPを、全てシヴァに注ぎ込むリウ!!
「さあ、悪のメガネよ!! 凍てつく氷の棺の中で眠るがよい!!」
いくら他に特徴が無いとはいえ、悪のメガネはいかがなものか。
「くらえええええええええええええええっ!!!
必殺、ダイヤモンド・ダストォォォォ!!!!」
シヴァの真の能力が発動し、巨大な氷塊が中島の頭上に落ちてくる!!
・・・それと、同時に!!
ルミコは素早くポッケの中から、
物を凍らせる効果を持つ氷のクリスタル≠取り出した!
そしてさらに自分自身も、氷の黒魔法
ブリザガ≠放つ準備を完了させていた!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
学校の会議室で、
クリスタル・ビデオ・カメラの映像を見ていたマリ先生は、
ルミコがやろうとしていることに気付き、
大きく目を見開いて驚愕した!!
「ま、まさか!? ウソでしょ!? これは、まさか!?」
叫びながら、マリ先生は自分の背後へと視線を移す!!
そこにいたムーンシャドー教頭も、マリ先生と同じく、
これ以上ないほどの驚愕の表情をしていた!!
「サ、サクラダルミコ!! この子はわずか10歳にして、
この私と同じことを思いついたと言うのですか!?」
「召喚獣の力、クリスタルの力、そして自分自身の黒魔法!
それら全てを融合し、一気に相手にぶつける!!
ムーンシャドー先生、こ、これはやはり・・・!?」
「・・・そう、同じです! 私の発想と同じです!
これはまさに、私が編み出した、究極の魔法・・・!!」
「む・・・紫天女(むらさきてんにょ)!!!」
「いいえ、属性が違います!!
雷の召喚獣ラムウの象徴、紫≠ナはありません!
この場合、氷の女王シヴァが象徴する色ですので・・・!!」
クリスタルに映し出される映像を見ながら、ムーンシャドー先生は叫んだ!!
しろがねてんにょ
「言うなれば・・・白銀天女=E・・!!」
クリスタル・ビデオ・カメラの映像で、
凍りついた中島が粉々になるのを確認し、
ムーンシャドー先生は、額に汗を浮かべながらも、
興奮を隠し切れない様子で、ニイッ、と唇の端を吊り上げた。
「・・・サクラダルミコ・・・恐ろしい子・・・!!」
ゾンビ、残り2体!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
暗殺者タイプのいささか先生を、
まゆみちゃんと○野×夫が迎え撃つ!!
「ヘイ、ファッキンじじい! ひとつ提案だ!
しぶとくこの世に残ってねえで、
いさぎよくあの世に行ってくれねえかな!?」
「なみのくぅぅぅぅん!! し、し、しめ、しめきりぃぃィィィ!!
しめ、し、しめきり、二日待ってぇぇぇぇああああああ!!」
○野は手裏剣やクナイを、いささか先生は万年筆を、
それぞれ高速で走りながら、シュババババ!と投げ合う!!
「と、と、と、となりのクソ家族がうるさくてぇぇぇぇぇ!!
げ、げ、げ、原稿、書けないィィィィィィ!!!」
手が6本あるんじゃないか、というほどの勢いで、
とんでもない本数の万年筆を、一気に投げてくるいささか先生!!
「ぎ、ぎゃあああああああ!!」
どすどすどすどすっ!と、○野の全身に突き刺さる万年筆!!
・・・だがその瞬間、全身を串刺しにされた○野の姿が、
じわじわと薄れて消えてゆき、その場に一枚の紙切れだけが残る!!
「残念! そいつぁ俺のファッキン分身だぜ!」
忍者の持つ代表的な能力、空蝉(うつせみ)の術=I!
紙兵(しへい)という忍者道具を消費して、
紙人形を自分そっくりに見せかける忍術である!
「うおおおおおおおっ!! じんろくぅぅぅぅぅぅぅ!!
いつになったら大学に合格するううぅぅぅぅう!!」
○野の声が聞こえた方に素早く向き直り、
再び万年筆を投げつけるいささか先生!!
どすっ!と万年筆が○野の心臓部に突き刺さるが、
またしても紙切れだけを残し、○野の姿は消え失せる!
「ファッキンじいさん、ボケてんのかい?
そいつも分身だぜ! もっとよく狙わねえと!」
「おおおおぉぉぉぉああああああ!!
しめきり、近いいいいぃぃぃぃぃぃ!!」
「そいつぁ災難だな! 原稿取りに来た担当編集者に、
中指立ててファッキン!って言ってやんなよ!」
ばばばばっ!と、手裏剣を素早く5枚ほど投げつける○野。
どすどすと音を立て、手裏剣はいささか先生の肩や胸や首に刺さるが、
ほとんど何のダメージも負ってないようで、いささか先生の動きは止まらない。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!
わたしはあああああああああぁぁぁぁぁっぁぁぁ!!
なんのジャンルの小説書いてるのかあああああ!!
自分でもぉぉぉ、よくわからないいいぞおおお!!!」
「ちっ、やっぱ俺のファッキン手裏剣じゃダメだな!
まゆみちゃんの弓じゃねえと倒せねえか!」
顔にかぶった袋の中に、ずぼっ、と下から手を突っ込んで、
○野は空蝉の術の忍具紙兵≠、新たに何枚か取り出した。
「・・・ファッキン!! 手裏剣に続き、紙兵の残りも少ねえと来たぜ!
これだから俺ぁ表に出るのが嫌いなんだ、ずっと影に隠れてりゃ良かったぜ!」
「おおおおおおおおお! 小説家なのにぃぃぃぃぃ!!
部屋にパソコンもファックスも無いぞおぉぉぉぉぉ!!
今時、原稿用紙に万年筆で手書きだぞおおお!!
原稿を取りにきた編集者がああ、原稿をぉぉぉ、
たまに電車の中に置き忘れたりするぞおおぉぉぉ!!」
「まゆみちゃん、早いとこ、このファッキンじじいを倒してやってくれ!
手裏剣、紙兵の残り数がどうこう言う前に、だんだんかわいそうになってきた!」
・・・と、○野がいささか先生の攻撃を、何とかやり過ごしている最中・・・
まゆみちゃんは、○野がいささか先生の注意をひいている内に、
だいぶ離れた場所に移動し、一人こっそりと岩陰に隠れていた!!
もちろん、○野を見捨てて自分だけ助かろうとしているワケではない。
狙撃手(スナイパー)というものは、
敵に自分のいる位置を絶対に掴ませないこと、
それが第一なのだ!
「・・・○野くんの手裏剣じゃ、倒せない。 それはわかっていた。
私の弓で、あの小説家ゾンビにとどめを刺さなきゃならない。」
すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ、と大きく深呼吸するまゆみちゃん。
「・・・空き地に生えてる木に設置した、動かない的と違って・・・
・・・実戦では、敵はじっとしていない・・・」
夏休みのとある日、空き地で弓の練習をしながら、
まゆみちゃんは考えていた。
動かない的ならば、ほぼ100%、矢を命中させることが出来る。
しかし、片時も止まらずに動き回っている相手に、
矢を確実に命中させることは、非常に困難である。
では、どうすればいいか?
一時は、ドラえもんみたいなヤツを的にして練習しよう≠ネどとも考えたが、
冷静に考えると、さすがにそんなこと出来るはずはない。
あやめちゃんならホントにやるかもしれないが、
まゆみちゃんはいい子なので、そんなことはしないのだ。
「・・・結局・・・私が・・・出した答えは・・・」
まゆみちゃんは、もう残り5本くらいしか入っていない、
腰にぶら下げている矢筒の中から・・・
矢を2本取り出して、2本の矢を同時に弓に番(つが)えた!!
「・・・リンゴをヒモで吊るして、振り子のように動かす・・・!
そのリンゴの的で試した時は、うまくいった・・・!
2本同時撃ち、今回もきっと、うまくいくはず・・・!!」
いつものように、弓を立てて射るのではなく、
まゆみちゃんは、弓を横に寝せて構えた!!
「・・・あとは・・・いつものように・・・慎重に・・・狙うのみ・・・!!」
ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・ピッ・・・
頭のカミナリマークが、ゆっくりと点滅し始める!!
ピッピッピッピッ・・・ ピッピッピッピッ・・・
点滅の速度が、だんだん早くなる!!
ピピピピピッ! ピピピピピッ!
ていうか、このカミナリマークはいったい何なのであろうか?
書いてるおれがわからないのに、
他の人がわかるはずない。
ピピピピピピピピピピピピピピピピピピッ!!
まるでまゆみちゃんのテンションと同期しているかのごとく、
ものすごく高速で点滅するカミナリマーク!!
「○野くんには当てない! ゾンビだけを討つ!!」
さっき似たようなことをやろうとして、大失敗していたあやめちゃんとは違う!
まゆみちゃんは、カッ!と目を見開き!
弓に番(つが)えた2本の矢を、同時に発射した!!
ばしゅっ!
2本の矢は、弓を寝せて放たれたため、
横に2本、左右平行に並ぶ形で、
いささか先生の顔面に向かって飛んでいくが・・・
だが、どちらの矢も、いささか先生の頭には命中しなかった!
2本の矢は、まるで敵の駒を奪うはさみ将棋のような形で、
それぞれいささか先生の左耳、右耳をかすめて通過した!
「・・・狙い通り!!」
ぐっ!と拳を握り締め、まゆみちゃんは勝利を確信した!
シュパーーーーン!!
2本の矢と矢の間に結ばれていたピアノ線が、
いささか先生の頭を切断した!!
「おおおおおおおおっ! しめきりいいいぃぃぃぃぃぃ!!」
「・・・あの世に行った後も、小説を書くつもりなら・・・」
ギラリ!とカミナリマークを輝かせ、まゆみちゃんは言い放った!
パーフェクト スナイパー
「タイトルは・・・PERFECT SNIPER ってのはどう?」
「ついでに FUCKIN' NINJA ってのもオススメしとくぜ。」
ピアノ線で頭を切断され、その場に崩れ落ちるいささか先生を見ながら、
○野はヒューー!と口笛を吹いた。
ゾンビ、残り1体!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そして、とうとう最後まで残ったゾンビ、不死身の先生を、
学校最強の生徒、牙乱堂コケ子が迎え撃つ!!
「うおおおおおおっ!! 先生にぃぃぃぃぃ!
ちゃんとおおぉぉ!! あいさつしろおおぉぉ!!」
「先生、さようなら。」
ざぐんっ!!
あっという間に先生を倒すコケ子!!
先生が最後まで生き延びていたのは、
本当にただの偶然であった!!
大して強くないのに、ただ何となく、
誰にも攻撃されなかっただけだったのだ!
・・・だが、しかし!!
この先生は、本当にしぶとかった!!
「うおおおおおっ!!」
デスサイズで首をハネ飛ばされた先生の頭部が、
くるくるくるっ!!と空中で高速回転して・・・
がぶり!!
何と、先生の頭部は地面に落下することなく、
コケ子の右腕に噛み付いた!!
「・・・!」
感染っ!!
コケ子、いそのウィルスに感染!!
とうとう、いそのゾンビによる犠牲者が出てしまった!!
コケ子ほどの戦闘力を持っている人間が、
ここでゾンビ化して、ファイア組の敵に回ったとしたら、
果たしてどうなってしまうのか・・・?
・・・考えるまでもない!
今度こそ、もうファイア組に打つ手なし!!
「コルモルにィィィィ!! クビにされたアァァァァァァ!!
腹いせにィィィィィ!! 生徒をゾンビにしてやるゥゥ!!
まずはお前からだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
お前もゾンビと化して、わしの仲間となれええ!」
コケ子の腕に噛み付いたまんま、先生ゾンビが頭だけで絶叫する!!
「・・・・・・」
コケ子は先生ゾンビの髪の毛を、むんず、と鷲づかみにすると・・・
強引に腕から引き剥がし、
地面の上に思いっきり、
ぐしゃああ!!と叩き付けた!!
「ふぐぬおおおっ!?」
「・・・コケ子は先生に、さようなら≠ニあいさつしたぞ。」
地面の上に転がった先生ゾンビを睨み、ゆっくりと足を持ち上げるコケ子!!
「・・・お前は先生のくせに、なぜコケ子にあいさつを返さない・・・?」
怒るポイント、そこかい!と、
タンポポちゃんが近くにいたら突っ込んでいたであろう。
「ばがなああああ!? なぜだああああああぁぁぁぁ!?
間違いなく噛み付いたのに、なぜゾンビ化しないいぃぃ!?」
「・・・もう一度だけ、言ってやる。」
キラリ、と冷酷な眼光を放ちつつ、コケ子は言った。
「先生、さようなら。」
「はい、さようなら。」
コケ子がゆっくりと持ち上げた足に、踏み潰される直前に、
先生ゾンビはそんな最後のセリフを口から吐き出した。
ぶしゅあああああーーーーーっ!!
まるでトマトのように、いともたやすく踏み潰される先生ゾンビの頭部!!
抗体!!
抗体とは、リンパ球のうちB細胞の産生する糖タンパク分子で、
特定のタンパク質などの分子(抗原)を認識して結合する働きをもつ。
抗体は主に血液中や体液中に存在し、
例えば、体内に侵入してきた細菌やウイルス、
微生物に感染した細胞を抗原として認識して結合する。
抗体が抗原へ結合すると、
その抗原と抗体の複合体を白血球やマクロファージといった
食細胞が認識・貪食して体内から除去するように働いたり、
リンパ球などの免疫細胞が結合して免疫反応を引き起こしたりする。
簡単に言うと、ようするに悪い病原体を体内から排除する、
人体を病気から守る警備員のような役割の分子のことであるのだが・・・
身体能力が類人猿並みのコケ子は、
その体内に宿している抗体も、異常なほどに強力であり、
いそのゾンビのウィルスですらも、
感染する前に、瞬時に排除してしまうほどであった!!
さらにもっとわかりやすく、一言で言えば、
バカは風邪ひかない≠ナある!!
「・・・そう言えば、こんな先生、学校にいたかな?」
もう踏み潰して殺した後なのに、
コケ子は首をかしげ、
今さらそんなことを考え始めた。
ゾンビ、残り0!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
全滅!!
赤い魔法陣から排出された、
無数のいそのゾンビ=Aついに全滅!!
「はぁはぁはぁ・・・つ、つかれたぁぁぁ・・・・;」
特に何もしてなかったように見えて、
実は分散して戦っていたファイア組全員に、
何度も何度も回復魔法を唱えていたみったんは、
極度の疲労感から、その場にへたり込んでしまった!
「はぁはぁ・・・も、もう・・・残っておりませんわね・・・?」
「首をハネ飛ばされて、頭だけになって地面で動いてるのが何匹かいるけど、
立って動いてるのは一匹もいないニャ!」
「も、もう無理; もう疲れ果てて、両手剣を持ち上げることも出来ないよぉ;」
「ユキ、もうこれ以上ォ、動けないしィ><」
「きょ、今日だけで、2か月分くらいシヴァを召喚したよぉ;」
「ヘッ、ファッキンに大変な仕事だったが、ようやく終わって一安心だぜ。」
「矢、3本しか残ってないや; ま、まあ、一応、パーフェクトということで;」
「・・・・・・」(げんなり)
「みんなー、おつかれー。 ポーションとかは無くなったけど、
水ならまだ残ってるから、みんなにくばるよー」
みったんに続き、次々とその場にへたり込んでいくファイア組の面々。
前編でホネサムライを倒した時とは違い、
もはやみな、大はしゃぎする余裕も残っていなかった。
だが、今度こそ・・・
今度こそ、ファイア組一同は、
ダンジョン実習をクリア出来た!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
体力的にも精神的にも、
極限まで疲れ果てたファイア組一同が、
その場にへたり込んでいるところに・・・
パチ・・・パチ・・・パチ・・・
パチ・・・パチ・・・パチ・・・
そんな風な、軽い拍手とともに・・・
顔からはみ出すほどの
巨大なメガネをかけた男が、
ゆっくりとダンジョンの奥から歩いてきた!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
BGM: ボス登場 【真女神転生3】
https://www.youtube.com/watch?v=rVEV8FUZxzA
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「さあ・・・終盤ですよ・・・」
ダンジョンの奥から、拍手しながら歩いてきた男は、
ファイア組の面々を見渡しながら、そう言った。
「い、いそのゾンビが・・・まだ残ってた!!」
疲れ果てた体に力を込め、よろよろと起き上がるみったん!
「いや、まあ、中島とかに似てるかもしれませんが、私は違いますよ。」
巨大メガネの男は、肩をすくめて苦笑する。
「こうして普通に話していることでもわかるでしょうが、私ではゾンビではありません。
そもそもあのゾンビの群れは、私がBC(バーニング・サークル)で呼び出したのです。
あなたたちに、経験値を稼いで成長してもらうために・・・ね。」
「な、なんですって!? あ、あなた、一体何者なんですの!?」
しゃきん、と刀を抜き、弱々しくふらふらと構えるあやめちゃん。
「私を倒せるほどの強き者を、ずっと捜し求めている男ですよ。」
謎の男のワケのわからぬ言動に、唖然とする一同。
そんな中、コケ子だけが、
額に汗を浮かべて全身を震わせていた!!
「・・・強い・・・!」
ごくり、と固唾を呑むコケ子。
「こいつ・・・ケタ外れに強いぞ・・・!」
コケ子のそんな言葉に、がく然とするファイア組!!
最強の生徒、コケ子の目から見てケタ外れに強い≠ニは、
いったいどんな強さなのであろうか!?
「・・・あなたたちの求める宝箱は、この先にありますよ。
その中のバッヂを入手すれば、ダンジョン実習クリア・・・ですよね?」
巨大メガネ男は、親指で自分の背後をくいっ、と指して、ニヤリと笑う。
「・・・ですが・・・ファイア組のみなさん・・・
最後にちょっとだけ、この私と遊んでみませんか?」
ファイア組全員の背筋に、ぞくり!と悪寒が走った!
「・・・そのカメラで、学校の先生方が見ておられるのですね?」
巨大メガネ男は、タンポポちゃんが持っているカメラに気付くと、
そのレンズに向かって、にっこりと微笑みかける。
「・・・コルモル校長、ムーンシャドー教頭・・・
ならびに、魔法学校の教員の皆様方、どうかご心配なさらず。
ほんの少しだけ、自分の身で、この子たちの強さを体感したいだけですよ。
決して命を奪ったり、大きなケガを負わせたりしないことを約束いたします。
入り口で待機しておられる保健の先生を、慌てて突入させたりしないように願います。
せっかくここまできたのに、この子たちが失格になるのは・・・不憫(ふびん)ですよ。」
「・・・っ!!」
突然、コケ子が無言でダッシュしたかと思えば、
カメラに向かって喋っている巨大メガネ男に、
背後から鎌で斬りかかった!!
「・・・気が早いですね、牙乱堂コケ子さん。」
巨大メガネ男は、斬りかかってきたコケ子の方に振り返りもせず、
ピースサインの形にした右手を頭上に持ち上げると、
なんと人差し指と中指でコケ子の鎌をはさみ込み、
当たり前のように、ピタリと受け止めた!!
「・・・!!」
「・・・人が会話している最中に、背後から斬りかかるのは・・・」
すっ・・・と2本の指で受け止めた鎌を解放し、メガネ男は呟いた。
「・・・少々・・・野蛮ですよ。」
びゅおん!!
ものすごい速度で、メガネ男の右足が持ち上がったかと思えば、
凄まじい勢いの蹴りが、コケ子の腹部目掛けて飛んできた!!
「くっ!!!」
瞬時に鎌を横に寝せ、メガネ男のくつの裏を受け止めるコケ子!!
どっがあああああーーーーっ!!
まるで野球の外野フライのように、
人間が丸ごと一人、宙を舞った!!
とっさにコケ子が鎌で防御していなければ、
果たしてどうなっていたのか、想像に難くない!
「くっ・・・! コケ子以外に・・・こんなヤツがいるのか・・・!!」
宙に蹴り飛ばされたコケ子は、空中で態勢を整え、すたっ!と地面に着地する。
「・・・5年後・・・いや、3年後・・・くらいでしょうかね。
あなたがこの私と、1対1でまともにやりあえるようになるのは・・・」
巨大なメガネをキラリと輝かせ、男はゆっくりと腕組みする。
ファイア組の他の面々は、もはや口をぽかーんと開いたまま、
ただ呆然と見ていることしか出来ない!!
コケ子ですらこの扱いなら、もうこんなのと、戦いようがない!!
「・・・さて・・・と。 こんな状況なのですから、そろそろ動いてはいかがですかね?」
不意にメガネ男は、その視線を、コケ子から別の者へと移した。
「・・・ファイア組の最終兵器・・・
・・・私が最後に見ておきたいのは、あなたですよ。」
「・・・・・・」
「もう、もったいぶっている場合ではありませんよ?」
「・・・・・・」
「さあ・・・あなたの力を、この私に見せて下さい・・・」
「・・・・・・」
「・・・ファイア組の最終兵器・・・風水士タンポポ・・・」
絵だけを見れば、完全にただの悪ふざけである。
だが、ファイア組の面々は、謎の男が言っている言葉の意味が、
何となくではあるが、うっすらと理解出来ていた!!
確かにタンポポちゃんには、
何か不思議な力がある気がするのだ!!
普段の体育の授業中にせよ、今回のダンジョン実習にせよ、
大体いつも後ろの方で、みんなを応援しているだけなのであるが・・・
タンポポちゃんがただ後ろで応援しているだけで、
なんかHPとか攻撃力とか防御力とかが、
少しずつアップしてる気がするのだ!!
それに、みったんだけは、知っている!!
タンポポちゃんがまほうのてっぽう≠撃つと、
なんかわからんけどすごいビームが出たりすることを!!
「フフフ・・・さあ、見せて下さい、風水士タンポポ・・・!
あなたがその小さな身体に秘めている、
人間の限界を超越=iビヨンド)するという力をね!!」
両手を大きく広げ、高らかに叫ぶ巨大メガネ男!!
「タ、タンポポちゃん・・・!」
ごくり、と固唾を呑むみったん。
「タ、タンポポちゃん、あいつを倒せる力があるの!?
コケ子さんを余裕であしらうほど強いあいつを、倒せるの!?」
・・・みったんが、小さな頃からいつも一緒に遊んでいた、
近所に住んでいる、小さな身体のタルタル少女・・・
その少女には、みったんですら知らない、何か特別な力があるのであろうか?
「・・・タンポポちゃんには、そんな力はないよー」
タンポポちゃんは、いつもと同じのんきな顔で、あっさりと言った。
「でも、あのメガネの人を追い返せるかもしれない、
すごい技なら、ひとつだけ知ってるよー。」
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
タンポポちゃんの言葉に、ファイア組一同が、
大きく目を見開いて驚愕する!!
「ほ、本当かニャ!? あいつに通じる技が、あるのかニャ!?」
「タンポポちゃん! そ、それは一体、なんですの!?」
「何かあるなら、もう一か八か、やってみるしかないよー!」
「あのキモいメガネ男、さっさと追い返したいしィ!!」
「コケ子は、何でもいいから、あいつに攻撃を食らわせたい!」
だっ!とタンポポちゃんの近くに駆け寄ってくるファイア組一同。
そんなみんなを見渡しながら、タンポポちゃんは言った。
「タンポポちゃんは、みんなの力を受け取って、
それをひとつに合体させて、
すごいエネルギーを生み出すことができるよー」
「み、みんなの力を・・・!?」
「ひとつに合わせて・・・!?」
「すごいエネルギーにする!?」
みんなの力をひとつに合わせるという、
タンポポちゃんのすごい能力・・・!!
何かようわからんけど、
それでいて、何となくわかるような気もする!!
「でも、それだけじゃダメなんだよー」
勇ましい言葉を言ったかと思えば、
今度は急にショボーン、とするタンポポちゃん。
「みんなの力をタンポポちゃんが合体させて、
すごいエネルギーを生み出した後で、
誰かがそれを発射しないといけないんだよー」
「が、合体させたエネルギーの・・・発射!?」
「そうだよー。」
「そ、それって・・・私の弓で撃ったりできる?;」
「弓じゃ無理だよー。」
「じゃあ、コケ子がそれを投げる。」
「無理だよー。 タンポポちゃんが生み出した合体エネルギー≠扱えるのは、
生まれつき無属性≠フ人だけなんだよー。
ちなみにコケ子ちゃんは地属性=Aまゆみちゃんは雷属性≠セよー。」
「で、では、その、よくわかりませんが、
ともかくその生まれつき無属性≠フ人がいないと、
結局その技は使えないってことですの!?」
「そうだよー。 でも、大丈夫だよー。」
そう言って、不意にタンポポちゃんは、
びしっ!とみったんを指差した!!
「みったんは、生まれつき無属性≠セよー。」
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
みなの視線が、一斉にみったんに集中する!!
「みったんは無属性≠セから、タンポポちゃんが作った合体エネルギー≠
扱うことができるよー。」
「つ、つまり、わたくしたちの力をタンポポちゃんが集めて、
それで生み出されたすごいエネルギーを、
みったんが発射すれば、あのメガネ男を倒せるということですわね!?」
「うん、そうだよー。」
「だったら、すぐにそれをやるニャ!!」
「そうだね! 正義委員の力、みったんにたくすよ!」
「いや、ちょっと待ってよみんな><
きゅ、急にそんなこと言われても、
みったんはどうすればいいかわからないよー><」
「普段だったら、簡単なんだけどなー」
再びショボーン、となるタンポポちゃん。
「みんなから集めた合体エネルギー≠、
まほうのてっぽう≠ナ撃てばいいんだよー。」
「ええっ!? ま、まほうのてっぽうで撃てるの!?」
「うん、そうだよー。 みったんはいつもどおりに、
まほうのてっぽうを撃てばいいだけだよー。」
「そ、そうなんだ・・・それなら、まあ、普通に出来ると思うけど・・・」
「で、ですけど、みったんのまほうのてっぽう≠ヘ・・・」
「そうだニャ! ドラえもんみたいなヤツがいないと撃てないって、
出発前に教室でマリ先生が言ってたニャ><」
「ファッキン! あのメガネに通用しそうな攻撃が判明したのに、
最後の最後に人員不足で撃てない、ときたか!!」
せっかくうっすらと希望が見えてきたのに、結局は実行出来ないので、
がっくりと意気消沈するファイア組一同。
「・・・ふむ。 私もみなさんの話を聞いていましたが・・・
・・・どうやら今回は、風水士タンポポの力を見ることは出来なさそうですね。」
ふう・・・と、残念そうにため息をつく巨大メガネ男。
「・・・仕方ありませんね。 では、こうしましょう。
申し訳ありませんが、これから私は、みなさんを少々痛めつけてみます。
そうしたら、友だちが傷つけられてしまった怒りによって、
ひょっとしたらタンポポさんが覚醒するかもしれませんので・・・」
そう言ってメガネ男は、ざっ・・・と地面を踏みつけ、
ファイア組の方へと、大きく一歩近寄った。
「く、くそー! あいつ、あたしたちに攻撃してくるみたいだよ!」
重い両手剣を、何とか持ち上げて、ギリギリと歯軋りするユカコ。
「も、もう大して抵抗できないけど、いつもどおり先頭に立つニャ!!」
しっぽをふにゃふにゃと動かしながら、ふらふらと先頭に移動するアカネコ。
「ぐ、ぐぬぬー! この綾小路あやめ、ただではやられませんわ!
せめて一太刀だけでも、食らわせてやりましてよ!」
「ユキもォ、せめて一発殴ってやるしィ!!」
「残った矢はあと3本・・・せめて3本とも、パーフェクトに命中させてやる!」
「やっぱ忍者は表に出ちゃいけねぇな・・・今日はマジにファッキンな日だぜ。」
「もうMPが無いからシヴァを呼べない・・・だったら、正義のパンチで攻撃してやる!」
「・・・・・・」
思い思いに言葉を吐き出し、何とか自分を奮い立たせようとするが、
体力、気力、ともに底を突いているファイア組一同にとって、
もはやどう転んでも、絶望的という他なかった。
「・・・フフ・・・では・・・行きますよ。」
巨大メガネ男は、
ファイア組の方へとダッシュするために、
姿勢を低くして構えた。
・・・その瞬間!!
誰かが、声高らかに、叫んだ!!
「待てええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーいっ!!!」
それはまさに、ほぼ完璧と言っていいほどの、
正義のヒーロー登場のタイミングであった!!
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
ファイア組一同も、巨大メガネ男も、
みな一斉に、声の方へと視線を向けた!!
ダーク・フェニックス
「破壊の化身、暗黒不死鳥、見参っ!!」
謎のヒーローの登場に、
一斉に視線を向けた、
全員の目が点になった!!
コウモリに頭をかじられている、
ただのピヨのすけであった!!
「み、みんな! 正義の味方暗黒不死鳥≠ェ、
コケ子たちを助けにきてくれたぞ!!」
「よく見ろ、あんたのバカ弟やがな」
一人だけ、本当に正義のヒーローが助けに来たと思っているコケ子と、
それに瞬時に突っ込むタンポポちゃん。
「ひいいいい>< い、痛いぃぃぃ、かじらないでぇ><」
コウモリに頭をかじられながら、
ばたばたと暴れているピヨのすけを見て、
あのバカ、いったい何しに来たんだ!?≠ニ、
ファイア組一同はがく然とした!!
「・・・な、なんですかね、あれは;」
巨大メガネ男も、がく然とした!!
「ひいいい!! あ、頭をかじられて痛いけど、
今はそんなことを気にしてる場合じゃない!!」
ぎりっ!と歯を食いしばり、コウモリの噛み付きに耐えながら、
ピヨのすけは大声で叫んだ!!
「み、みったん! まほうのてっぽう、使えるぞ!!
ダンジョンの入り口に、ドラえもんみたいなヤツが来てる!」
「え、ええええええっ!?」
ピヨのすけの言葉を聞き、口を大きく開いて驚くみったん!!
「ドラえもんみたいなヤツは、
ダンジョンの入り口に来るまでの間にダメージを受けてたから、
代わりにオレが知らせに来たんだっ!!
まほうのてっぽうは、問題なく使えるぞーーっ!」
破壊の化身ダーク・フェニックスの役目、
たったこれだけで終了!!
だが、しかし!!
この状況では、ある意味、
値千金の大活躍!!
「タ、タンポポちゃん!! まほうのてっぽうが使えるなら・・・!!」
「うん! 合体エネルギー≠ナ、メガネの人を倒せるよー!」
そう言ってタンポポちゃんは、陸上の100m走のスタート時のように、
ばっ!とその場にしゃがみ込み、両手を地面にぴったりとつけた!
「みんなー! 心の中で、
メガネの人を倒す≠チて、強く念じてー!
タンポポちゃんが、みんなの闘志をひとつに合わせて、
合体エネルギー≠みったんに送るよー!」
タンポポちゃんが両手をつけた地面の一部分から、青い光があふれ出す!!
そして、メガネ男がゾンビを呼び出した際の赤い魔法陣とは対照的な、
青い閃光を放つ魔法陣が、地面の上に浮かび上がる!!
「面白い! 風水士の力、今こそ見せてもらいましょう!」
タンポポちゃんが発動させた青い魔法陣を見て、
巨大メガネの男は、心から嬉しそうに、ニヤリと笑った!!
「さあ、全てをぶつけて来なさい!! ウィンダス魔法学校ファイア組!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
最終決戦 BGM 「熱くなれ」 大黒摩季
https://www.youtube.com/watch?v=tJXnOGTI-bQ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うわああああーーっ!! ヘンなメガネのやつめ!!
ぶっ倒してやりますわああああああ!!!」
火属性 綾小路あやめ!!
「倒してやる! コケ子が倒してやる!!」
土属性 牙乱堂コケ子!!
「キモいメガネェ! うざいしィ! 死ねしぃ!」
水属性 散原ユキナ!!
「子どもをいじめるなんて、最低なメガネ男だニャあ!!」
風属性 アカリ=スターノ!!
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!!
悪を倒せと、わたしを呼ぶ!
聞け! 悪のでかメガネ男!!
わたしはファイア組の正義委員、リウ!」
氷属性 森野優菜!!
「合体エネルギー≠ニやらの形成も・・・!!
私の力を得ることで、よりパーフェクトに・・・!!」
雷属性 大崎まゆみ!!
「とにかく、暴力≠ナぶちのめしてやるゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
光属性 サクラダ ユカコ!!
「・・・・・・!!」
闇属性 サクラダ ルミコ!!
「ファッキンなこの俺の力も、ちったぁ役に立つかい!」
冥属性 ○野×夫!!
「だ、だ、だ、だれか頭のコウモリ、取ってぇぇぇぇ!!><」
(笑)属性
・・・ではなく
夢属性 牙乱堂ピヨのすけ!!
「みんなの力を! タンポポちゃんが、ひとつにするよー!!」
火、土、水、風、氷、雷、光、闇、冥、夢!!
地面に浮かび上がった青い魔法陣が、
10人の10種の属性の力をひとつに結集させて、
その合体エネルギー≠ェ魔法陣の中心点に流れ込む!!
魔法陣の中心点に立つのは・・・!!
太極=@タンポポちゃん!!
「炎の魔神イフリート! 土の神獣タイタン!
海竜リヴァイアサン! 翼の女王ガルーダ!
氷の女王シヴァ! 雷の隠者ラムウ!
光の守護神アレキサンダー! 月の狼フェンリル!
冥界の王オーディン! 夢の霊獣ディアボロス!」
10の属性の力が、魔法陣の中で、
それぞれの属性の召喚獣のビジョンと化す!
「さあ、みったん、行くよーーーーー!!
みんなの合体エネルギー=Aうけとってー!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!
来ぉぉぉぉぉぉぉい、まほうのてっぽおおぉぉぉ=I!」
「まぁ〜〜ほぉ〜〜おぉ〜〜のぉ〜〜
て〜〜〜〜っぽぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
(cv 大山のぶ代)
「・・・フフ・・・フハハ・・・フハハハハハ!!
・・・素晴らしい・・・!! 素晴らしいですよ!!
そうです、それが見たかったんですよ!!」
巨大メガネ男は、両腕を大きく広げ、高らかに笑う!!
「各個人の持つ10の属性を、ひとつに結合して敵に叩き込む!!
様々な属性を、ぐちゃぐちゃにかき混ぜ、ミックスして撃ち放つ!!」
さあ撃ってこい!とばかりのポーズをとったまま、男はさらに叫んだ!!
ボルテックス・ミキサー
「すなわち、10属性の 攪拌!!」
「みったん! 撃てぇーーーーーー!!」
魔法陣の中心のタンポポちゃんが、
そう叫んだ次の瞬間、
他の全員も、一斉に叫んだ!!
「いっけええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええーーーっ!!」
「うわああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああっ!!!!
く・ら・えええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええ
ええええええええええええええええええええ
えええええええええええええええええっ!!」
ドガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガ!!!!
「ぐ、ぐおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおぉぉぉーーーーーーーっ!?」
まほうのてっぽう≠フ直撃をどてっぱらに受け、
巨大メガネの男は、ド派手に後方にぶっ飛ばされた!!
「まさか!? まさか!? まさか!?
こ、これほどの・・・子どもが、これほどの力を!?」
メガネ男の額に、大粒の汗が浮かび上がる!!
「この私に、苦痛の声をあげさせるとは・・・!!
このようなダメージを受けるのは、はたしていつ以来でしょうか!!」
メガネ男が何か言ってるが、みったんは無視して、
とにかくまほうのてっぽう≠撃ち続ける!!
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
ドガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガガガガガ
ガガガガガガガ!!!!
「ハハハハハハハ!! 素晴らしい! 素晴らしいですよ!!」
まほうのてっぽうの銃弾を全身に浴びながら、
メガネ男はズボンのポッケに手を突っ込み、
そこから呪符≠取り出した!!
「いいでしょう! 今日のところは、退きましょう!
あなたたちの、その熱さ≠ノ敬意を評して、
ギブアップの言葉を、私の口から言わせてもらいますよ!」
メガネ男は、ポッケから取り出した呪符を、強く握り締める!
「それにしても、ほんのちょっと、
言わばおやつをつまみ食いするような気分で、
あなたたちの前に姿を見せたんですが・・・
おやつのつまみ食いだなんて、とんでもない過小評価でした!
あなたたちは、おやつではない! ごはんですよ!!」
まほうのてっぽうの雨あられを受けながら、
握り締めた呪符を、頭上高く掲げるメガネ男!
「ハハハハハ! さあ! 心して聞きなさい!
この私の、極めて希少な降参の言葉です!!」
銃弾の雨あられの中、高らかに笑いながら、
メガネ男はオペラのような身振り手振りをしつつ、
大きな声で叫んだ!!
「もう・・・ダメ・・・ぽーーーっ!!」
メガネ男の手の中の呪符が、激しい閃光を放った!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
・・・数分間。
呪符の効果によって、どこかに転移して行ったメガネ男・・・
その彼が、ついさっきまで立っていた場所を、
ファイア組の面々は、ただ無言で、じっと見つめ続けた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
本当に、あいつは去っていったのであろうか?
油断したところに、また突然出てくるのではなかろうか?
そんな疑念が、ファイア組一同の頭の中から、ぬぐい切れない。
全員の属性の力を合わせた合体エネルギー=E・・
その合体エネルギー≠込めたまほうのてっぽう≠、
あれだけめちゃくちゃに、全身にくまなく撃ち込んでやったにも関わらず、
その銃弾の中で平然と笑いながら、ごく普通に呪符を使用したほどの男・・・
あの男を、今の攻撃で倒せたとは、とても思えない。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
もしもう一回あいつが出てきたら、
今度こそ、もうどうしようもない。
そんな考えに支配され、全身が硬直し、
ずっと身動き出来ないでいるファイア組一同。
・・・そんな張り詰めた空気の中の沈黙を、
緊張感のない、極めてのんきな声がうちやぶった。
「みんなー。 あそこに宝箱が置いてあるよー。」
タンポポちゃんの、そんなのんきな声で、
はっ!と我に返ったファイア組の面々は、
タンポポちゃんが指差している方へと、一斉に視線を向けた。
「また何かヘンなのが出てくる前に、
あの宝箱あけて、中のバッヂをつけて、
さっさと帰った方がいいと思うよー。」
「「「た、た、た、た、確かに!!」」」
ファイア組一同は、先を争うようにして、
ものすごい勢いで宝箱へとダッシュした!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
宝箱の中に何百個も入っていた、
ダンジョン実習クリアの証のバッヂを見て、
ファイア組一同は、本気でブチキレそうになった。
ふざけた顔のコルモル校長の写真が、
中央にどーんと埋め込まれている、
絶対に欲しくないデザインのバッヂであった。
こんなもんを手に入れるために、全員でこんなにボロボロになって、
命からがらダンジョン最深部にたどり着いたのかと思うと、
あまりにも悔しくて、涙まであふれてきそうであった。
「あ、あの校長、殺してやりますわ!!」
現にあやめちゃんは、すでに目じりに涙を浮かべていた。
「・・・でも、これつけて帰らないと、クリアにはならないルールだから・・・」
泣きそうな顔で、しぶしぶ上着にバッヂを付けるまゆみちゃん。
まゆみちゃんがバッヂを付けたのを見て、
他のみんなも、ものすごく嫌そうな顔で、
それぞれ上着にバッヂを付けていく。
「まあ、校長の顔は邪魔だけど、形だけで言えば、
保安官のバッヂみたいでカッコイイかもな^^」
ちょっと前にコケ子に頭のコウモリを退治してもらったピヨのすけが、
笑顔でバッヂを胸に取り付ける。
「お前は一回呪符で脱出したから、付けたらあかんやろ」
タンポポちゃんに言われて思い出し、がく然とするピヨのすけ。
「みんな、バッヂは付けた? なら、さっさと外に出ようよ!
こんなところに長居は無用だよー!」
と、みんなを見渡しながら言うユカコ。
「・・・このバッヂ、たくさんあるから、2つ持って行ってもいいかなあ?」
ふとみったんが、そんなことを言い出した。
「え!? みったん、こんなバッヂ、2つも欲しいのかニャ!?」
「いや、みったんは全然いらないんだけど・・・」
と、2つ目のバッヂをポッケに入れて、みったんは笑顔で言った。
「・・・ドラえもんみたいなヤツの分、だよ^^」
みったんの言葉に、ファイア組一同は、
みんな笑顔で、元気良くうなずいた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
エンディングBGM 「LIKE A HARD RAIN」 相川七瀬
https://www.youtube.com/watch?v=v2cfnDAhpDo
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ダンジョンの帰り道!!
ゾンビの群れや、謎のメガネ男との、
壮絶な戦いを経たファイア組にとって、
もはやコウモリやホネなど、まったく相手ではない!!
5年ファイア組は、今日のダンジョン実習で稼いだ経験値によって、
凄まじいレベルアップを遂げていた!!
よって、ダンジョンの入り口の階段まで、
わずか10分程度で、あっという間に到達した!!
入り口の階段のところで、ドラえもんみたいなヤツとトミー山内が、
ファイア組の面々を笑顔で迎えてくれる!!
「ああぁぁ〜〜〜! み、みんなぁ〜〜〜〜!!
無事だったんだねぇ〜〜、よ、よかったよぉ〜〜〜!」
「うん! ドラえもんみたいなヤツのおかげで、
ダンジョンの最後にいたとんでもない敵を、
なんとか追い返すことが出来たよー!!」
そう言ってみったんは、ポッケの中からバッヂを取り出して、
ドラえもんみたいなヤツに手渡した!!
「はい、これ!! ドラえもんみたいなヤツの分だよ^^」
「えぇ〜〜!? で、でも、ぼく、もらっていいの〜〜?
だってぼくは、本当は学校にいないといけないのに・・・」
・・・と、不安そうな顔で、隣にいるトミー山内を見上げるドラえもんみたいなヤツ。
「デュフフフ・・・ぼくの仕事は、みんなのケガを治す保健医だからね。
そのバッヂに関しては、何とも言えないけど・・・」
もじゃもじゃ頭をぼりぼりとかきながら、トミー山内は笑った。
「まあ、個人的な意見を言わせてもらえるなら・・・
胸を張って、そのバッヂを受け取ればいいと思う。」
見た目は完全に変態なのに、やけにカッコイイ言葉を吐くトミー山内。
「トミー先生もああ言ってるし、ドラえもんみたいなヤツも、
バッヂを付けて、みんなで一緒に学校に帰ろう!」
「う、うん! わかったよ〜〜〜!」
「デュフフフ、キミは歩けない状態だから、ぼくがおんぶしてあげるよ。」
ダンジョン入り口の遺跡から、ファイア組一同が外に出ると、
いつの間にか、外はすっかり夕焼け空になっていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一方、学校の会議室。
「おめでとう! みんな、おめでとう!!
キャー、やったわ、ダンジョン実習クリアよーー!^^」
子どもみたいに、飛び跳ねて喜んでいる担任のマリ先生。
「・・・ノリーヘイア=ミキシュナイダー・・・
あの男の動向は、気になりますが・・・」
フッ、と微笑み、静かに目を伏せるムーンシャドー教頭。
「あの男が、たとえどれほどの強さを持っていようとも・・・
こちらにも、対抗手段がある。
そのことが、本日証明されましたね、校長。」
「別にそんなん、どうでもいいわい^^」
ニヤリ、と笑うコルモル校長。
「あいつらが、冒険の苦しさと、楽しさを、自分の身で体感する。
それこそが、ダンジョン実習の最大の目的だからな^^」
「ゲッゲッゲ・・・冒険とは、宝箱の中身を手に入れることが楽しいのではない。
宝箱を開けること、それ自体が楽しいのであり、中身はどうでもいい。
あの子たちも、今日の経験で、少しだけそれを理解したことでしょう。」
床に寝そべっている、なんかよくわからない生き物、第二形態先生も、
どことなく笑顔になっているような気がする。
「ゲッゲッゲ・・・とはいえ、あのバッヂはあんまりじゃないですかね、校長?」
「なあに、あれくらいインパクトのあるバッヂの方が、あいつらの思い出に残るわい。」
「こ、校長先生! も、もう私、ガマンできないので、
城門(ゲート)のところまで、あの子たちを迎えに行ってきます!!」
不意にそう叫ぶと、校長の許可を得る前に、
マリ先生は夕日に染まる会議室を、だっ!と飛び出して行った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
こうして、ウィンダス魔法学校の伝統行事、
ダンジョン実習≠ヘ幕を閉じた。
だが、今日この日の出来事は、
後に繰り広げられることとなる、
ウィンダス魔法学校と、ごはんですよの壮絶な戦いの、
ほんの序章にすぎないのであった。
・・・だが!!
ごはんですよの魔手が、
たとえ何度、魔法学校にせまろうとも!
炎のクラスファイア組≠諱I
何度でも、何度でも!!
もっと もっと 熱 く な れ !!
大長編 みったんと魔法のてっぽう
「みったんのダンジョン実習」
後 編
完
※これ以降は、本編に全然関係ありません。
※しかし、ある意味、ここからが本番とも言えます。
ダンジョン実習が行われた、その日の深夜!!
ダンジョンの入り口に、2人の男の影!!
「例のガキどもが、今日このダンジョンの中で、
コウモリとかホネとか、たくさん倒したそうだぜ!」
「なら、コウモリの羽とか、骨くずとかの素材が、
たくさん落ちてるに違いないよなぁ?」
「ああ、ガキどもは多分、拾ってねえと思う!」
「バカなやつらだぜ! 店で売ったら、
ひとつ9ギルとかで売れるのにな!」
「ヒャヒャヒャヒャ・・・ほんじゃ行こうか・・・!
ガキどもの後片付けによぉ・・・!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
BGM 「寄生虫(パラサイト)」 THE Mad capsule markets
https://www.youtube.com/watch?v=6hT8ksfIwrg
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「イヒヒヒヒヒ!! 見ろよ、思ったとおりだぜぇぇ!!
ガキども、モンスターが落としたアイテムを、
全部そのまま放置して帰ってやがる!」
「げひゃひゃひゃひゃひゃ!!
骨くずに、コウモリの羽に、スライムオイル!!」
「この一帯だけで、150ギルくらいにはなるぜぇぇ!!」
「拾え拾え! 拾って袋に入れろ、ヒャッハーーー!!」
「なんぼでもあるわ! 骨くず、なんぼでもあるわ!!」
「袋足りんwww 袋足りんwww 袋足りんわ、コレwww」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「12袋になったwww 全部で12袋になったwww」
「リアカー持ってきて良かったわwwww
外に置いてるリアカーで、これ全部運べるわww」
「なんぼよ!? なんぼくらいになるよ、これ!?」
「わからんけど、2500ギルくらい行くんじゃねえかwwww」
「腹いたいwww 腹いたいwww
ありがとうガキども、全部ちょうだいしますwww」
「まだ何か落ちてるかもしれんww
もっと奥行こう、もっと奥行こうwww」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「たwwかwwらwwばwwこww
あ、あ、あ、あそこ、宝箱があるwwww」
「ガキどもwwwみんな目隠しでもしてたのかよwww」
「なんであれ置いたまま帰ってるのwww
なんでアレ見過ごしたのwwww
なんであれ置いたまま帰ってるのwww
なんでアレ見過ごしたのwwww」
「ツボったwwwガキどもアホすぎてツボったwwww」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「めっちゃ重いwww 宝箱、めっちゃ重いwwww」
「なんかジャラジャラ言ってるしwww
宝石か金貨か知らんけど、ジャラジャラ言ってるしww」
「持っていくわwww そらこんな箱、持っていくわwww」
「さっきも言うたけどwwww
ガキどもwwwみんな目隠しでもしてたのかよwww」
「なんでこの箱置いたまま帰ってるのwww
なんでこの箱見過ごしたのwwww
なんでこの箱置いたまま帰ってるのwww
なんでこの箱見過ごしたのwwww」
「ツボったwwwガキどもアホすぎてツボったwwww」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「なんかこの辺、墓がたくさんあって、歩きにくいわwwww」
「ほんまやwww なにこれ、ガキどもの肝試し用?ww」
ボコッ、ボコッ!!
「ちょwww なんか墓から、白っぽいのがたくさん出てきたww」
「そういうのいらないww そういうのいらないからww」
「墓に名前書いてるww えっと、なになにwww」
アサイラム=ガーデン の墓
キャップ=サップ の墓
ボコッ、ボコッ!!
ボコッ、ボコッ!!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「は、は、は、箱だけ持って逃げろォォォォ!!!!
骨くずとかの袋は捨てろ、運んでる余裕ねえ!!」
「こ、この箱だけは! この宝箱だけは!!
死んでも持ち出してやるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「ひいいいい!! ホ、ホネどもが、
どんどん墓穴から出てくるぞおおおお!!!」
「お、おい、なんかちょっと赤い、刀持ってるのがいるぞ!!
あいつは絶対やべぇ! あいつ絶対ボス!!」
「バカ、振り返るんじゃねえ! とにかく逃げろぉぉぉ!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「な、な、な、なんか人の首とかがいっぱい落ちてるぞぉぉぉ!!」
「しかも全部サザエさんやないか!! なんやこれ!?」
「わからんけど、もういい、考えるな!!
とにかくこの宝箱持って、ダンジョンの外に出るぞぉぉぉ!!」
「ひいい、そうこうしてる内に、
刀持った赤いホネが追いついてきたぁぁ!!」
「てかこれ、道間違ってねえか!?
入って来た時は、こんなサザエさんの死体とか無かったぞ!?」
「しゃ、しゃべるな、とにかく逃げろぉぉぉ!!!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うおっしゃああああああーーーーーっ!!!
に、逃げ切ったああぁぁぁぁぁぁぁ!!
ホネどもから、無事に逃げ切れたぁぁぁぁ!!」
「っしゃ、オラァァーーーーー!!
2時間くらいダンジョンの中をさまよったけど、
なんとか宝箱持って、外に帰還したぞぉぉぉ!!!」
「はあはあはあ・・・お、おい、箱開けろ!! その箱開けろ!!」
「き、金銀財宝! はあはあはあ、き、金銀財宝!」
「何買おうか!? この財宝で、何買おうか!?」
「おれはヤリの兄ちゃんのDVDを、全部買い占める!!」
「いひひひひひ! さあ、それではいよいよ!!
宝箱の中の財宝と、ご対〜〜〜〜面〜〜〜!!!」
がちゃっ・・・!!
THE END