【北アルプス、表銀座コース】

大学1年生のとき歩いた北アルプス表銀座コースを44年ぶりに歩きました。山の景色自体は何も変わっていませんでしたが、アプローチや山小屋など周囲の環境や登山者の年齢層は様変わりです。
アプローチはタクシー、山小屋には金さえ出せばビールでもワインでも何でもある。頼めばフランス料理を出すところさえある。稜線の山小屋から電話でタクシーが呼べる。歩いているのは中高年と老人ばかり。まるで老人会の慰安旅行の体。若者などまず見かけない。確実に言えることは、あと20年もして今の中高年、老人が消え去ると、北アルプスなど誰も行かなくなると言うこと。

■日程:2004年7月26〜29日
■行程:中房温泉→燕岳→大天井岳→常念岳→蝶が岳→三俣
■メンバー:松木、及川、後藤

前日、中房温泉に入り一泊。日本の秘湯を守る会の温泉を楽しむ。
44年前は人気のない山奥の一軒宿だったが、今では結構な温泉旅館。登山客向けの部屋は8800円だが、一般客は15000円も取る。
朝5時起床。前夜頼んでおいた作り置きの朝食弁当を食して出発。合戦尾根を登る。このコースは最近では中高生の学童登山のメッカになっているらしく、中学生や女子高生の団体としょっちゅう行き会う。実に可愛い。

コースタイム通り4時間で稜線に出る。高瀬川の谷越しにおなじみの北アルプス主稜線が一望に広がる。この山岳景観は何と言っても日本一。表銀座コースたる所以。少し山の経験を積むと銀座コースなど面白くないと馬鹿にして来なくなるが、もったいない話だ。

ご存じ燕岳。その奧に北燕、餓鬼岳の稜線が見える。
燕岳の花崗岩の斜面は昔から有名なコマクサ群生地。一面に咲いていて、荒らされた形跡がない。44年前に来たときは盗掘されてほとんど見かけなかった。昔より登山者マナーが良くなったと言うことだろうか。


燕山荘着が昼前だったので、大天井岳まで足を延ばす。今回の山行は10月のカラパタール行きのトレーニングを兼ねているので、1日の行程をやや頑張ることにした。それでも大天井岳の最後の登りはいささかうんざりする。頂上直下で積乱雲が広がり、雷が鳴り出す。一昨日この近くで死者が出ているので、慌てて小屋へ駆け込む。
夕刻雲が晴れ、槍、穂高のシルエットが夕日に浮かぶ。

大天荘の朝。後方のピークは大天井岳頂上。2922m。後78mで3000m。表銀座の最高峰である。
大天荘は小さな山小屋だが、設備やサービスはなかなか良い。宿泊客は水道の蛇口から自由に水が使える。近くに水場があって、ポンプで汲み上げているらしい。トイレも清潔。宿泊客が少ないのでほぼ全パーティ個室が使える。食堂には常時温かいお茶とコーヒーが用意されていて自由に飲める。食事もうまい。学生の頃、北アルプスの山小屋はあらかた泊まったが、昔はこんな結構な小屋は一つも無かった。

大天荘から朝の槍穂高稜線。異常気象で昨日まで天候はいまいちであったが、本日は久しぶりの好天。ここから蝶が岳まで、一日中この山岳風景が右手に見えている。日本一景色の良い稜線である。

常念岳の登り。常念岳は初めてであるが、稜線からの上り下りが各々標高差400mあってなかなかしんどい。64歳にはこたえる。ここまで来ると大キレットがほぼ真横の位置に来る。

常念岳を過ぎると、涸沢のカール谷が覗けるようになる。
この後蝶が岳ヒュッテに到り宿泊。前夜とうって変わり汚く騒々しい小屋。水が不自由で小屋の中ままでトイレの悪臭がする。畳半畳ほどに鰯の缶詰状態で寝かされ、隣のふとっちょの猛烈ないびきに一晩中悩まされた。もう来たくないとは及川君の言。
翌朝三俣に下り、山小屋から電話で呼んでおいたタクシーで豊科まで出る。迎えに来たタクシーの運転手によれば、最近このあたりの山麓に、熊、猿、鹿、カモシカ、狐などが頻繁に出没するとのこと。一昔前は山で獣に会うことなどまず無かった。自然が回復したのだろうか。

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