【エベレスト街道:その5 帰途】
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10月30日、タンボチェの朝。 テントから顔を出すと、小坊主が二人、寺の方へ歩いていく。 朝の読経が始まるのだろう。 クンビラ(5761m)に朝日が当たっているが、テントサイトはまだ日が射さず、零下5度。 あたり一面霜が下りている。 今日は帰途につく日。
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今回は全員仕事の都合で長い休暇が取れず、カラパタールまで行けない。 せめてもう少し高いところまで登ろうと、ラクパに連れられて背後の尾根をひたすら登る。 高度計が4500mを指すところまで登り記念撮影。 エベレストの方向、ペリチェからロブチェに到るドウドゥ・コシの谷筋が延びている。 ここまで来るとルートも平坦になって歩きやすそうな印象を受ける。 後ろ髪を引かれる思いで引き返す。
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タウツェ・ピーク(6542m)。 なかなか立派な山である。 地図で見ると、ロブチェまでのルートは終始この山の裾野を巻いているので、ずっと見上げながら歩くことになるのだろう。
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タンボチェの寺院全景。 この地域で最大の寺だという。 周りの家々は集落ではなく、修行僧が生活する寺社であろう。 ここより先、登山用のロッジを除き、人が住む集落はない。 こんな山奥の僻地にこのような大規模な宗教施設があるのは驚きだ。 まだ年端もいかない子供のような修行僧も含め、人跡を絶ったこんな山奥で大勢がひたすら修行に励む。 人家もなければ娯楽施設もない。
文明があるところまでは歩いて何日もかかる。 チベット教とは実に大したものだ。
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テントサイトに戻り、身支度を整えて帰途につく。 我々のゾッキョとポーター達はテントを撤収してとっくに出発している。
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10月31日。 ナムチェからルクラまで。 往路2日かけた道を帰りは1日で歩く。 下り道なので足は軽い。 ルクラの手前の畑で、一家総出で畑仕事をしている。 牛に鋤を付けて畑を耕している。 実にのどかな風景である。
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11月1日。 飛行機便待ちのため、昨夜は飛行場の上でテントを張り1泊した。 カトマンズ−ルクラ便は天候に影響されるので不確実である。 たびたび欠航する。 そのため必ずここでの予備日が1日取ってある。 今日の便が欠航すればもう1泊しなければならない。 幸いにも好天で予定通りの便に乗ることが出来た。 ラクパがお別れのレイを掛けてくれ、一緒に記念撮影。 英語もうまく、とてもしっかりしたサーダーであった。 次に来るときもあなたをサーダーに指名したいと言ったら、空いていたら是非にと言ってくれた。 決してお世辞ではなく、次回も頼むつもりだ。
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カトマンズへ向けてテイクオフ。 全長500mのジェットコースター。 かなりの傾斜で、離陸と言うよりスキーのジャンプ台から飛び降りる感じ。 滑走路の先は谷底まで真っ逆様である。 滑走路の端まで行ってふわりと浮き上がる様子は、航空母艦からの発艦に似ている。 舗装されたのはつい最近で、それまでは土ぼこりを巻き上げての離着陸だったという。 なおさらスリリングだったろう。 乗っていたらこの写真が撮れるわけもなく、これは一つ前の便。 どの便も乗っているのはほとんどトレッカーである。
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