+女王様的遊戯+
運動会に修学・社員旅行、新年会に忘年会などなど。
それぞれの集団で出行われる行事は、半命令的な全員参加の元、仲間同士の親睦を深め、
思い出をつくるという目的で行われる。
が、しかし、そんな目的はなんのその、魔界の女王は、自らの楽しみだけにその行事を催した。
事の起こりは、昨日。
蔵馬に頼んでおいたものを取りに行くと言って、人間界に行っていた飛影が戻ってきた。
「よお。飛影。戻ってたのか。」
数日間留守にしただけなのに、何年も飛影の帰りをまっていたように感じていた躯は、うれしそうにそういった。
「ああ。」
そっけない返事をした飛影は、躯の座っている寝台の上に腰を下ろすと、コートの中から、白い紙袋を差し出した。
「なんだ?」
躯は、飛影の顔をみながら、問うた。
飛影は、躯と目をあわせずそっぽをむいたまま、
「開けてみろ。」
とぶっきらぼうにそういった。
躯は、飛影が物を渡すなんて珍しい事もあるものだと思いながら、紙袋をあけた。
中には、リボンのかかった淡いブルーのケースと、ピンクの袋にラッピングされている人形が2体入っている。
「・・・?なんだ?」
躯はピンクの袋からあけた。その袋の中の人形は、ちょうど手に乗るくらいのぬいぐるみで、一体は飛影、もう一体は躯の形をしていた。
躯は、それを手にとり、人形の頭についている紐に指をかけて揺らした。
「それは、雪菜からだ。」
「・・・お前の妹から?一体なんで?」
「本当は、蔵馬にその青い箱だけ受け取って帰ろうとしたんだが、雪菜がどうしてもというから、受け取ってきた。」
「手作りか?器用だな・・・。」
感心した表情で、躯はそういうと、飛影が蔵馬に頼んでおいたものが入っていると思われ
るブルーのケースを開いた。
中には、いい木の香りのする木目の美しい櫛が入っていた。
「櫛・・・?これは、お前からか・・・。」
そういって、躯は飛影を見た。
飛影は、相変わらずそっぽをむいたままだったが、頬が少し紅潮しているのが分かった。
飛影が、自分のために何かをくれるのは嬉しい。
素直に「ありがとう。」といった躯だったが、ふと、疑問に思った。
「・・・だが、飛影。なぜ、オレにプレゼントをよこしたんだ?」
躯のその発言を聞いて、今まで躯に視線を合わせなかった飛影が、驚いたように躯の顔を見た。
「躯・・・、お前・・・気づかなかったのか?」
「だから、何が?」
「・・・そろそろ、お前の誕生日だろう。」
「誕生日・・・。そういえば・・・。」
そろそろ陰の気に入っていてもいい時期。
だが、躯は飛影と恋人になってからというもの、精神的に安定していて、陰の気に入るような事はなくなっていた。
「そうか・・・、誕生日か・・・・。」
以前と比べて、こんなにも安定した自分に驚いた躯は、ぽつりと言った。
「・・・年の取りすぎで、自分の誕生日すら忘れたのか。」
あきれたようにそう言うと、飛影は「ハッピーバースデー」と言う変わりに、躯に軽く口付けて、寝台から降りた。
「ん!?またどこかに行くのか?」
「ああ。パトロールだ。何日もサボったからな。百足に戻ってきた瞬間、奇淋がうるさく『サボった分のパトロールをしろ』といってきた。」
「・・・そうか。今夜はこれるのか?」
「わからん。多分、3、4日は忙しいだろう。」
飛影は、面倒臭そうにそういうと、躯の部屋から出ていった。
躯は、遠ざかる飛影の足音を聞きながら、
「つまらん。」
といって、寝台に身を倒した。
仕事だから仕方がないとはいえ、奇淋の奴、余計なことをいいやがるな。
そんなことを思いながら、舌打ちすると、躯は、横に転がっていた雪菜作の飛影人形を胸の上にのせ、ぎゅうっと抱き締めた。
・・・こんな人形じゃ、ぜんぜん足りない。
飛影は抱きつけばだきかえしてくれる。
唇から、その手から、炎の妖気が伝わってくる。
女々しい考えかもしれないが、傍にいて欲しいのは飛影、お前なのに・・・。
躯は、飛影人形を腕に抱いたまま、ため息をついた。
なんとか、飛影をはやく呼び戻す方法はないものか・・・。
寝返りを打ちながら、考えること数時間。
躯は、自分の脇に転がっている、躯人形に目を向け、それを手に取った。
「オレの形の人形・・・・。・・・そうだ!!」
躯人形を見つめた躯はナイスアイディアを思いついた。
勢いよく体を起こすと、躯は、自分を模した躯人形を片手に持って、不敵な笑みをこぼした。
いつもは冷静な躯も、恋人の事となれば即行動。
躯は、元側近の77人の部下とパトロールに出かける前の飛影を広い会議室に集めてこういった。
「よく集まったな。」
感心したように躯がいうと、実質上、側近を束ねている奇淋が先をせかすように、言った。
「躯様。一体、我々に何のご命令を?」
「奇淋、そう急くな。今から言う。」
飛影にきっちりパトロールを命じた恨み混じりの目で、奇淋をぎろりと睨むと、躯は、一息おいて、提案した。
「よく聞け。これから、お楽しみ行事を行う。」
『お楽しみ行事?』
躯の言葉を聞いた元側近たちは、声をはもらせてそういった。
「そうだ。お楽しみ行事。お前たち、日ごろ、パトロールばかりで体がなまっているだろう。ちょうどいい運動になるぜ。」
「その行事の内容とはどのような??」
さきほど、睨まれて、びくびくしながら奇淋が尋ねると、躯は、こういった。
「題して、百足内宝探しゲームだ!!」
『宝探しゲーム!?』
「ルールは簡単。オレが、この躯人形を百足内のどこかに隠す。それを見つけてオレに届けたものが勝者だ。もちろん、見つけた物を相手から奪い取っても構わない。タイムリミットは、今日の終りまで。全員参加だから心しておよ!」
国を解散してもなお、威厳のあるその声に、元側近達は「ははっ。」と頭を下げて同意した。もともとやる気のない飛影を除いて。
「そうだ。勝者には、オレが直々にそいつの願い事を聞いてやろう。景品はそれだ。」
側近たちのやる気を俄然とわかせるその言葉を残して、躯は人形を隠しに、会議室を出て言った。
そして、30分が経過し・・・・
『うおお〜〜〜〜。』
会議室から、バッファローの如く、側近達が宝(躯人形)を探しに飛び出していった。
躯が直々に叶えてくれるという、願い事を叶えるために(笑)
最後に、会議室に一人残った飛影は、ため息をつくと、躯の部屋に向かった。
躯の提案のおかげで、今日1日のパトロールがないのだ。
躯の部屋に入ると、宝を隠し終えた躯が、寝台に寝そべっていた。
「・・・飛影。宝は探さないのか?」
「ふん。興味ない。」
そういうと、飛影はいつも寝床代わりにしている部屋の隅のソファーに横になった。
「・・・つまらんやつだな。」
そういった言葉とは裏腹に、躯の声は、嬉しそうだった。
飛影が、また自分の部屋にやってきて、自分のそばにいる。
そんなことが、うれしくて、躯はほころぶ口元を隠すように、顔をクッションにうずめた。
さて、躯の提案から数時間が経過し・・・。
「み、見つからん・・・。」
「百足の中を隅々まで探したのに・・・。」
「一体、躯様はどこに宝をお隠しになったのか・・・。」
あてのない宝探しを、躯の側近たちは黙々と続けていた。
その頃、躯の部屋では、飛影が目をさましていた。
「・・・・・。」
無言で部屋を見渡すと、寝台の上で躯が細い肩を上下させて、眠っているのがみえた。
ソファーから、起き上がって、躯の寝台の方に歩いていくと、飛影は寝台の上に上がった。
眠る躯をまたいだ体勢になると、飛影は躯の頬と耳に口付けた。
「?」
いつもこの体勢になると、躯の胸が体にあたるのだが、飛影はいつもと違う感触がすることを体幹の皮膚から感じた。
いつもは、むにっという肉感を感じるのに、今日は、やたらとふかふかしている。
不審に思って、躯のかけているケットをはがす。
そうして飛影の目に入ってきたのは、躯の上着の襟元にはさまれて顔を出す、躯人形だった。
「・・・これは、宝探しの・・・。」
百足内のどこかに隠してあると思われた躯人形を、手にとって呆然としていると、躯が「ううん。」とうめいて目をあけた。
「・・・飛影?なんだ?」
躯をまたいだ姿勢の飛影に声をかけると、飛影は、躯に視線をむけてこういった。
「躯人形がなぜお前の襟元にあるんだ?」
不審そうに聞く飛影をみながら、躯はくすくすと笑い出した。
「オレは、ルールを破っちゃいないぜ。ちゃんと、百足の中にあるじゃないか。」
「確かに、百足の中のお前の部屋にはあるが・・・。」
そう、言いかけた飛影の唇を、躯は人差し指で押さえて、
「まあ、いいじゃないか。宝を見つけたのはお前だろ。」
といった。
「・・・・。」
飛影は、躯の指の体温を感じる唇から、言葉をつむげずに黙ったままだった。
躯は、飛影の唇から指をはずすと、その唇を自分の唇で軽く吸った。
「飛影。景品の願い事は何がいい?」
そんな躯を目の当たりにして飛影は、躯の宝探しの提案が躯自身の目的のために発案したものだと悟った。
でも、もうそんなことどうでもよかった。
小悪魔のような悪戯心と、大人の女性の艶を含んだ女王の瞳に捕えられた飛影は、「ふっ」と苦笑すると、躯の質問にこう応えた。
「躯がいい。」
満足そうな顔をした躯に飛影が口付けると、躯もそれに応えた。
二人は、シーツの上の熱い世界にとけていった。
余談ではあるが、宝探しに参加した77人の元側近たちは、いまだ躯人形を探していた。
飛影が、躯人形を発見した事も知らされずに・・・(合掌)
fin.