+あなたの願い事?+



魔界は正月ムード一色だった。

なぜ魔界に正月?と思われるかもしれないが
これもそれもすべて魔界大統領である煙鬼の定めたこと。
理由など知る由もないが、人間界の風習を取り入れることで
少しでも相互理解を深めよう、とか恐らくそんな意図なのだろう。


どっちみちオレはそんな風習などに従うつもりなど毛頭ない。

そもそもなんでも大統領府の言いなりってのも気に食わないしな。


雷禅・・・いや、幽助の国や、黄泉の国は随分派手にやらかすらしいが、
オレのところでは皆勝手にやってくれ、と言い放っておいたから、
奇淋は時雨などはどこか飲める場所にでも繰り出しに行ったのだろう。
百足の中は珍しくしんと静まり返っていた。



「その方が好都合だよな、飛影vv」

「躯、誰にしゃべってるんだ誰に?!」

「大体なんでもかんでも人間界に合わせることないよな。
オレは昔の魔界が好きだってのに、ヤツらおかしいったら・・・」

「その割には、その着物は何なんだ?」

真っ先に晴れ着に気づき、声をかけてくれたのが嬉しくて
オレは飛影の前で一回優雅にターンしてみた。


「なんだよ。ツレないな。折角二人きりでまったり正月を過ごそうとおもったのに。
どう飛影?赤い着物似合ってるだろ?」

この着物より、お前の顔のほうがよっぽど赤くなってるぞ、って
言ってやりたいぐらいなんだけど、まあ黙っててやるか。



「まぁ、似合わんでもないが・・・。」

「着物、好きだろうと思ってさ。」

「??」

「お前の大事な妹も、しおらしくいつも着物だし♪」


「貴様っ!!」

そういうと飛影は、オレにエルボードロップを仕掛けてきた。
だから顔が赤いっつーの!!

オレはそれを簡単に組み返してやり、飛影の上にのしかかってやった。


「躯、もしかして百足で正月を祝わない理由は・・・。」

「なんだよ、オレに言わせんの?二人きりになりたかったのとー」


飛影の顔を両手で挟んでやり、極上の笑みを向けてやった。
これでヤツもいちころのハズ☆


「あとは、ひとつお願いがあってさ。こう初詣ってのに行ってみたくてさ。
一緒に願い事するんだよ。願い事。」

「人間界の風習には従わないんじゃなかったのか。」

飛影は心底理解できない、と言った顔をする。
でもそんな困った顔みせるとますます困らせたくなるんだけどな。

「それはそれ、これはこれ、だ。
さっ、人間界まで繰り出すぞーーー!」

「このままここで過ごすのも悪くないと思うが。」

「お前、意外に出不精なんだな。
ここでこのままのこのこ居座ってると、そのうち酔っ払ったヤツラが・・・。」




どこどこどこっ!!
どうやら抜けるのが一足遅かったようだ。




「躯、たのもーーーーーーーー!!!
今から二次会やるんだ。一緒に飲もうぜーー!!」


どうやら大統領府で開かれていた、新年会が終わってしまったため
あいていると思われるココに大量に人が流れ込んできているらしい。

こうならないように、アイツに釘を刺しておいたはずなんだが・・・。

どこどこと先陣切って土足で上がりこんできたのは、雷禅と雷禅の息子。
ん?雷禅?!!




「躯ぉーー。しばらくぶりだなぁ。
おまけに、お?!若いツバメ捕まえて、よろしくやってるみてえじゃねーか。」

ぷはぁ、と酒臭い息を吹きかけられ、危うく倒そうになる。

「そもそも、なんでお前がここにいるんだ!?」

「そんなカタい事言うなって。俺とお前の仲だろっつーの。」

「気安く肩に手を回すなっ!!」

「痛っ!気の強いところは相変らずだな。ん?」

「だから顔を近づけるな!!」


バシイッ!!!


はあはあ。

なんでこんな酔っ払いジジイに絡まれなきゃならないんだ。
こんなはずではなかったのに。

飛影に視線を向けると、飛影も酔っ払った幽助に無理やり酒を
飲まされそうになっている。ああ、このままではじきに飛影も潰れてしまうだろう。



「ねぇパパー。これってここに飾ればいいのー?
この字なかなか達筆だよね。殺風景な部屋にはぴったりだよ。」

「修羅、そこじゃ見えないだろう。もうちょっと上だ。」

「パパ、届かないってば。肩車してよ。」

「よーし、じゃあちゃんとつかまってるんだぞ。」



「・・・殺風景で悪かったな・・・。」

「おお、躯。なぜ大統領府に挨拶に来なかったんだ。
新年の挨拶を欠かすとは、非常識にも程があるぞ。」

「ほぉ。貴様に常識について説教されるとは。
何様のつもりだか知らないがな、勝手に土足で人の要塞に踏み込むほうが
どうかしてるんじゃないのか?」

はぁ。黄泉。こいつとしゃべってるとどうもイライラしていけない。

「許可なら取ったぞ。部下にな。」

「部下?」

「そこに転がっている奴、躯の部下だろう?」


黄泉の指差す先には、すでに酒で出来上がってしまった時雨の姿。




「飛影、貴様ーーーーーーーーー!!!
躯様と二人きりで過ごそうだなんて一千万年早いわ!
拙者にはすべてお見通しだぞ。出し抜けなくて残念だったな!
はっはっ!!」


「時雨、もうこの辺で止めておいたほうがいいですよ。
さっきからかなり飲んでますし。」

「蔵馬、お前はどっちの味方なんだ?
このまま躯様を奪われるのを指をくわえてむざむざと見てろとのたまわるつもりか?
ういーーーーっく。」


「だから、この辺で止めてくださいよ。これ以上暴言を吐くと・・・。」



「しーーーーーぐーーーーーれーーーー!!!!」


「む、躯様?!な、何故こちらに?」

酔っ払っていても時雨は敏感に主の声に反応し、直立不動の姿勢をとった。


「百足にオレがいるのがおかしいっていうのか?
言ったよな、宴会をするなら百足以外のところでやれって。
ここが汚くなったら掃除するのも面倒だから他所でやれってさ。」



くっそー。コイツのせいで折角の飛影との二人きりの時間が。

正月が終わったら、またパトロールづくめの日々がやってくるんだ。
その前に少しでもゆっくりしたいというオレの計画がすべて台無しじゃないか!



「覚悟はできてるんだろうな?」

「やはりまたあのオチなんでしょうか・・・。」

「そうだよ。せーーーーーーーーのぉ!!!」




どごぉーーーーーーーーーーーーーーん!!!!


また闇の彼方へ消されてしまった。哀れ時雨。
パチパチパチ。
宴会客から、ささやかな拍手が沸き起こる。

こうなったら自棄酒だ。
躯が本気になったらどうなるか、宴会客たちは知る由もなかった。

今夜の宴は長くなりそうだ。



〜END〜