+CLUB百足+



このSSは、「躯★ザ・リクルート!2005」で3位になった「ホストクラブのオーナー」イラストの設定を元に書いています。

オーナー(躯):オーナーだか、たまにホストとしても活躍。謎に包まれた右半身と、中性的な魅力で絶大な人気と存在感を誇る。
代表取締役(蔵馬):端正な容姿とたくみなトークでナンバーワン。かつて大手ホストクラブで働いていたが、躯の手によって引き抜かれる。お客が熱狂的、プレゼントの額も半端じゃないことでも有名。
幹部補佐(幽助):挌闘家を目指すが、収入がないため生活費をてっとり早く稼ぐために入店。あけっぴろげなトークと接客で、誰からも好かれている。
幹部補佐(雷禅):幽助の父親。楽しそうだったので息子にくっついてたまに働いている。神出鬼没で手も早い。お客とのトラブルも絶えないが、オーナーにはなぜか頭が上がらないらしい。
スタッフ(飛影):クラブ近くの歓楽街でふらついてたところを躯に拾われる。無愛想すぎて接客ができないため、雑用係。実は密かにファンが多く、彼目当てに来ているお客もいるとかいないとか。



「おーーーーいっ!!大変だぞっ!」

ばたばたばたっと駆ける音。いつもは明かりを落としているので、こんなに店内を動き回ることは出来ないが、まだ開店前の”CLUB百足”は、明るいので隅々まで見渡すことが出来る。

シンプルだが座り心地満点のふかふかしたソファ。
インテリアは必要以上に華美ではないが、そこかしこにふんだんに飾ってある花の数々は、眺めているだけでゴージャスな気分に浸れる。
ちょうど活け終わった花を眺めて、出来映えを確認していた、この店のナンバーワンホスト・蔵馬は、補佐役の幽助に貴重な時間を邪魔されて、迷惑そうだった。もちろんそのポーカーフェイスを崩すことはないのだが・・・。

「もう開店30分前ですよ。頼んでおいた招待状の発送は終わりました?」
「うっ・・・(忘れてた)。」
「タダでさえ人手が足りないんですから、ちゃんと頼んだことはやってくださいよ。」
「ちぇ、仕事仕事って。元はといえばオーナーがさぁ。」
「あーー、気に入らないとすぐ首切っちゃうからね。」
と、蔵馬はくくっと笑う。幽助は笑い事じゃないぞとでも言いたげに口をへの字に結ぶ。

「切り過ぎだっちゅーの。限度があるだろ。」
「もともと一人でも切り盛りしていける人ですからね。俺達だっていつ切られるか。」


「いつ切られる・・・・・・って、そうだ思い出した!!それを言いに来たんだって!」
急に声を大にして耳元で叫ばれた蔵馬は、さすがに顔をしかめる。

「ちょっ、なんですかっ!」
「オーナー、今月末に店たたむんだってよ!!!」
「えっ、なんでですか!俺、いまかなり昇り調子なのに。まさかオーナーの俺への嫉妬・・・。」

ぶつぶつといつものように口元で繰り返す蔵馬。蔵馬は、この界隈では最大手の「CLUB癌陀羅」のナンバーツーを勤めていたが、躯の引き抜きぬかれ、今は百足のナンバーワンとして働いている。
実はナンバーワンと言いつつも、かつて自らもホストを務めていた、オーナーの躯目当てに通う客は未だに多く、下手すると蔵馬をも凌ぐとも言われている。
そんな躯と蔵馬の関係は、一言で言うと「微妙」だった。

「い、いや、それはねぇと思うぞ。なんか結婚すんだってよ。」
「ふうん。誰と?常連?」
「飛影。」
「・・・は?」

飛影もクラブのスタッフだ。躯がどこからともなくつかまえてきて、いつの間にか店に居付いていたのだが、協調性はないわ、無愛想すぎてお客の席にもつけないわ・・・で、結局雑用係として使われていた。
一見無駄な人材、と思われがちだが、蔵馬は気づいていた。お客の何割かは、ホストの傍らにぶすっと佇んだままの飛影を目で追っているということを。
そう、彼は立っているだけでも充分売り上げに貢献しているのだ。

「躯って、いまいち素性がわかんねーと思ってたけど、モーホーだったからかな。」
「わかってねぇなぁ、ガキは。」

急にぬっと後ろから上がった声の主に、幽助ははぁ、とため息をつく。
「また来てんのかよ、オヤジっ!」
「このソファーは昼寝にちょうどいい堅さなんだよな。」
「下手に家に帰るとストーカー紛いの客に付狙われるから、帰れないってところじゃないですか。」
「おっ、さすが蔵馬ちゃんはナンバーワンだけあって察しがいいじゃねぇか。」
「いえ、それほどでも。」

悪びれずにさらっと流す蔵馬。だが、それにフフンと余裕の笑みを返す雷禅は、そんな表情をすると精悍な顔立ちが一瞬で人懐っこそうに崩れるから不思議だ。とても大きな息子がいる父親の顔には見えない。

「んだよ、なにがわかってねぇって?!」
「あんないいオンナ捕まえやがって、飛影の奴も隅におけねぇってことだよ。」


・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「「お・・・?!んなぁ〜〜〜!!!?」」


幽助、蔵馬の二人の絶叫が店中いっぱいに響きわたった。

「ぶっ(笑)、やっぱり知らなかったんだな。」
「それ、本当なのかよ?」
「ああ、まちがいねぇ。あの二つのふくらみと感触は・・・」
「見たんですか?触ったんですか??」
「あーーーーなんっつうか、うっかりっつーの?事故だよ、事故。」
「オヤジーーーーー!!なに手だしてんだよぉ!!」



「事故?思いっきり鷲掴みにしてたじゃねーか。」
「む、躯(汗)。」

店の奥から渦中の人、躯その人がやってきた。
短めにカットされた髪。少しつりがった目尻。細い鼻梁。黒のスーツを着こなした姿は、あまり身長がないせいか、また発育途上の少年のような印象を受け、よく「ベビーフェイス」などと言われていた。

が。
確かに、男性にしては背が足りなさ過ぎるし、線も細い。
白い肌は透き通って木目細やかで、よく見ると愛らしい唇をしている。
「女性」だと思って見てみると、その姿は紛れもなく・・・・。

(なんでわからなかったんだろう、女性の要素がここかしこにあるのに。)
(・・・すげえ美人かも。)
(ちっ、先に頂いておけば。)

「おいおい、こんなところで三人固まってないで、さっさと店を開けるぞ。」


「「「くっそー!飛影の奴!!!!!」」」

今度は三人の怒号がフロア中にこだました。

きっとその後、あまたのお客からも羨望と恨み?のまなざしが。
哀れ飛影。

---了---