MS-1310  PCL86 push-pull stereo power amplifier

職場の大先輩から6V6アンプの残骸をいただいたのは20年以上前。その後、古い出力トランスやケースの使い道が決まらないまま過ぎていました。ケースと電源トランスはCollins KWM-2Aの電源に流用したものの、正規の電源が手に入って用ずみに。
たまたま、職場で音楽再生装置の話が持ち上がり、置いてくれるなら提供しましょうとなって、手持ち部品の活用を主眼に設計を始めたのが2010年の初め。以来、なかなか優先順位が上がらないまま推移し、通称"穴だらけproject"の進展は、まさに遅々としていました。2013年半ばに話が再燃したのを機に、一気に組み上げて搬入したのがこのampです。簡単な再生系を構築し、会議室の熱源として活躍しています。

 6GW8系統の球はこれまであまり縁がなく、上杉佳郎氏の全段直結のpush-pull ampを"無線と実験"で見て(1968年9月号、"管球式ステレオアンプ製作80選〈上巻〉"にも収録)、いつか追試したいと思っていた程度です。秋葉原で14V管(PCL86)が安価に出回るようになり、上記の記事を思い出して買っていました。結局、手持ち部品の都合から違う回路で組上げることになって、夢は先送りです。
 参考にしたのは、黒川達夫"現代真空管アンプ25選"の記事で、回路も実装も必要以上にゴテゴテした氏の作品の中では例外的にすっきりしたものだと追試する気になりました。出力トランスは大変に古いもので、今風の性能とはかけ離れているでしょうが、細かな性能を気にしない用途(自分で使うわけではない?!)なので、活用することにしました。
 上の写真は、紆余曲折を経て完成した状態のもので、着手時点とは電源トランスをはじめとして、かなりの部品が変更になっています。新規のケースで始めた方が、はるかに効率よく組上がったと思いますが、これはこれで一つのモニュメントです。回路図はこちら
"穴だらけproject"と自称した証拠がこの写真です。原型の6V6 push-pull ampから二代目KWM-2A用電源を経てのご奉公。出力トランスの場所を変更する都合から、左上部に大穴が開いています。右は、その穴を塞いで、真空管socketなどを実装した状態。この時点では山水PT-120を使うことにしていて、これは二代目からの継続でした。
 信号系は平ラグに各channel分の部品を乗せています。不幸中の幸いとも言える選択で、真空管ソケットの不良が見つかったり、一部回路の手直しが必要になったりしても比較的大騒ぎになりませんでした。ソケットがラグで隠れてしまっていますが、実害のない実装形態でした。
+B電源回路の変遷を示します。左上が最初に組んだ回路。電源トランスが不良だったのに気づくのが遅れ、この回路の動作が不安定だと錯覚して回り道をしました。基板上に実装したFETの放熱板が小さすぎたことが後から判明。右上が放熱板を上部に乗せる構造に組み直したもの。ここまではMOS-FETとLM317で構成した定電圧電源です。これも動作が不安定で、あれこれ調べるうちに電源トランスに問題があるのに気づきました片方のchannelにだけ給電しているときは正常なのに、両channelを負荷するととたんに電圧が落ちてしまいます。これを回路の問題だと思い込んで、数カ月無駄に過ごしました。

 左下は、最終的に組込んだ基板で、リップルフィルタに改装しています。電源トランスがTS-520からの取り外し品に交代し、安定動作になりました。二番目の基板を使わなかったのは、この放熱板でもFETの温度上昇が予想以上になったため。回路の動作には問題がなかったので、もったいないことをしました。
 こちらはC電源。ACアダプタを解体してとりだした電源トランスを基板に接着、固定しています。この回路は初期の試作段階から使っていて、安定動作をしていました。最終形も、バイアス電圧の微調のために、回路定数を少しいじっただけです。
 この基板は、出力段のバイアス電圧を供給するとともに、初段の差動部にある定電流ダイオードをminusに引く仕事もしています。電圧を安定化しているので、相互の干渉もない安定な回路です。

 後知恵ですが、似たような電圧のPCL86のheater点火とC電源をまとまればよかったのです。
 Heaterは、当初設計では6.3V巻線の組合せによる交流点火でした。 TS-520のトランスに変更した時点で、CTのついた12V巻線からショットキダイオードで整流することでDC14.5Vを作り、直流点火する形に改めました。
 前面を眺めています。既存の穴を極力活用したため、電源スイッチがとんでもない位置にあります。
入力端子の右にある余分な穴は埋めました。右端はSpeakerにいく出力端子で、一括接続することで接続ミスを防止しています。左右のspeakerを置き間違える可能性は残るものの、気づけばすぐに直せる間違いです。

 MS-1386と表示していたのに、今気づきました。どちらを直すか思案中です。
完成品のtop viewです。

問題を見つけて解決する能力を試されているようで、あれこれと回り道の多い工作でした。
 Audio analyzer VP-7723Aによる健康診断の結果です。出力トランスの性能限界があらわになっています。
下は8Ω負荷に1.15Wを出力しているときの周波数特性です。
次は歪率特性です。実測では、カソード帰還が9dB, ループ帰還が5.3dBでした。
 あまり真剣に試聴しないうちに搬入してしまいました。今は会合のBGM用に活躍しています。
topに戻る。             Copyright(C) 2014/2023  CPU.BACH. All rights reserved.