ヴーヴーと無機質な音と共に枕元が振動する。独りだった頃は音も
鳴らしていたが、今はマナーモードにするようになった。
そっとベッドを抜け出し整える。用意していた着替えを「彼」が寝ている間に済まし、 キッチンへ向かう。

これが日課になって、どれ位になったろうか。

イッキと両想いになって、同棲を始めて。
この生活スタイルに少しは慣れ、家族とも義兄と過ごした時とも違う感覚を楽しめる様になってきた。

もともと朝ご飯はしっかり作っていたので、もう1人分作るのは
造作無いし、「美味しい」と反応が返ってくるのが幸せである



が、

一緒の部屋に寝て、ひたすら甘く囁かれ、キスをする。


恋人同士ならあたりまえかもしれない行為なのに、一向に慣れる気配はない。思い出すだけでも心臓が壊れてしまいそうになる。

なのに、本当に手を出してはこないのだ。
他の子にはしてきたであろう、'それ以上'を求めてこないのだ。

「物足りなく感じてる。なんて欲深かなぁ・・・」
"それ以上"を出来る自信もないのに。ぽそっと呟きつつ、部屋へ戻る。寝起きが少しばかり悪い
イッキを起こす為だ。

「イッキさーん、起きてください」
「ん。起きてる・・・起きてるよ・・・」

誰が想像したろうか、寝ぼけているイッキを。普段とは違う締まりのない喋り方。
自分に見せる甘えを愛しく思いつつ、セーブが効いてない分キスも抱きしめ方も必要以上に甘い。
「待って」がイッキには聞こえていない、それが少し悩み所である。

「起きてないです!朝ですよ、お仕事の時間ですよ」
「朝一番に聞くのが"お仕事"ってのは嫌だなぁ」

ぐいっと腕を引かれ布団に倒れ込む。額に軽くイッキの唇が触れる。
すっかり目も覚めた様子だ。
「おっっおはよう・・・ございますイッキさん」
「ん、おはよう」

目覚めてからはいつものイッキで、イッキがコーヒーを淹れて、一緒に朝食を摂る。後片付けも済ませ、イッキを玄関まで見送る。いつもの風景が流れた。

「今日、サワちゃん達が家に来るんだっけ?」
「はい。イッキさんのお家なのにスミマセン」
「あのね、君は「居候」じゃなくて一緒に住んでるの!此処は君の家でもあるんだよ?」
だから自由に使っていいんだよ。と髪をなでる。

「それに今日は遅くなるから、先に寝てていいよ」
「・・・はい。分かりました」

***********


「えー!!そこで聞かなかったの?」
「うん。だって、残業なんだとは思うし」
「でも、いつもと違うって思ったんでしょ?」
「それは・・・まぁ」
「イッキさんですし、浮気かもですよぉ〜?」

昼過ぎにサワとミネが訪ねて来て、談義に花が咲く。けして男性陣には話せない事も相談出来る、気の置けない友人達だ。
今日も、イッキについて話している。これまでも遅くなる事はあった。遅くなると報告もあった。
しかし、「先に寝てていい」とは言った事がなかった。待ってろと言われた事もないが遅くても待っていて、寝る前に少し話す。それを嬉しそうにするので毎回そうしてきていた。
それなのに、と幾分気にかかっている。

待っていた事がかえって気を使わせてしまって、優しいから言ってくれたのだろうか

「だから、浮気ですって!変に勘づかれたくなくて避けたんで・・・」
「こら、ミネ!!いい加減にしなさい!」
サワが軽くミネを叩く。頭をさすりながら、あーハタいたぁと喚き返している。浮気発言は冗談なのだろうけど、気になりだすとモヤモヤが払拭され
ない。気にしすぎだろうか?何の気なしに言った言葉だったのか。

「疑うなんて・・・私嫌な子だな」
「何言ってるの!普通だよ」
「そーですよぉ。私なんてもっと酷いですよ?」
「確かにねぇ」
「ひどぉい!サワ先輩」
どうして、この2人の遣り取りは面白いのか。ふっと笑みが浮かぶ。それを見た2人も安心した顔をした。

「ま、浮気はないんじゃないですか?イッキさん変わりましたもん。本当に」
「だよね!とにかく帰りを待ってみて、様子を見たら?怪しければケントさんにでも聞いてみようよ」
「うん。ありがとう」
遠慮ばかりしていられない。つきあっているのだから。


日付が変わった頃、ようやく待っていた主の足音が聞こえてきた。音を響かせないようにそっと歩いている。

「お帰りなさい」
一瞬の間。寝て居るであろう私を起こさないようにそっと入ったのに、出迎えたからだろうか、少し驚かせたようだ。
「タダイマ。いったいどうしたの?寝て良かったのに」
「待っていたかったんです」
可愛い事言うね、とポンっと頭を撫でて荷物を置きに部屋へ向かう。
「いっ一緒に寝ませんか
殆ど声になっていないような声でイッキの背に向かって言葉を投げた。

足りない。壊れないようにそっと触れられるだけじゃ。
キスだけじゃ。

受け止めるだけで精一杯なんじゃダメなの。私も、こんなにも好きですって伝えたい。

記憶を無くしても、もう一度好きになった人。
大事にしたい

「ビックリ・・・した」
「う、変な事言ってます・・か?」
「いや、予想外。少し寂しがらせようって位で「先に寝てて」って言ったのに」

・・・
「つまり・・・イッキさんの策に落ちたって事ですか・・・?」
「言ったじゃない。自分から言わせるよって」
おいでって抱き寄せて。キスをした。悪戯っ子の様な、悪びれもせずに可愛く戯けてみせるイッキに脱力しつつ、不安が解消され安堵した。


あぁ、もう本当に敵わない

ねぇ、不安だった気持ちも、大好きって気持ちも話すから聞いてね?
それから一杯愛して。私もたくさん愛してるって返すから




同棲中の甘ったるい期間を書きたかったんですよ。
書けているかは別でね。ただ、同棲故に裏になりそうで悩みました。
止めておいたので中途半端な気もしますが。
そしてケントとリカも出そうか思ったのですが長くなりそうなので切りました。
また次の機会にでも出したいなぁ
2011/12/04