街中の公園を歩いていると暗い顔をした人を見つけた。
ベンチに座りどんよりした目をしている。
あまりにも落ち込んだ様子で心配になるほどだ。
放って置く気にもなれず声をかけた。
What happened to you?


これから先何をしたらいい?


開口一番男性からは思い悩んだ言葉が漏れ出る。その答えはソニックにとっては一つだけ。

「好きな事をすればいいさ。」

事も無げに言うソニック。
対し男性は困惑した。


わからない。何が好きなのかわからない。
そんなことないだろ。


首を振る男性に対して傾ぐソニック。
どうして?


ずっと会社の為、家族の為わき目も振らず頑張ってきたんだ。それが出来なくなった今、好きなことと言われてもわからない。


ソニックにはオトナの事情はよくわからないが、
この人が今までどれほど懸命だったのかは伝わってきた。
一番がんばったことを取り上げられては、戸惑うのも無理はない。

ソニックは公園の隅に咲いていたたんぽぽを見つけるとそれを摘んでやってくる。

「俺はきれいな花を見たりそのかおりを楽しんだり、そういう事が好きだ。」

わざとらしく鼻から息を吸い、満足そうに唸って見せる。

きれいなものを認める。
心地いいものを受け入れる。
好きとはたったそれだけのこと。

「好きなものを好きだと言えるようになったら、もう大丈夫。」

差し出されたたんぽぽを何の気もなく受け取る男性。
その目に薄く光が宿ったのを見てソニックはこの場を後にした。








都市が持つ活気や整然とした眺めもそう悪いものではない。でも手付かずの自然というのもまた雄大で美しいのである。
それを求めて山深くまで来た。胸一杯に新鮮な空気を吸い込みその清らかな味を楽しむ。

山腹にして人の声が聞こえる。


これはヤマツツジで、春に来れば朱から紅紫の花を一斉に咲かせますよ。


ここのガイドだろうか。はきはき元気のいい声が山間にこだました。
さてここは観光地だったかな。きれいな自然だが本当にワイルド、手付かずで整備などされていないのだ。
でもこのガイドは楽しそうで、つられて声のする方に向かっていた。
ついでに一緒に案内してもらおうかな。その人の元にたどり着く。

雑木林からいきなり姿を現したので男性ガイドは驚いた。
まぁ獣が突然出てきたと思ったことだろう。そう考えたが違かった。


ソニック、会いたかったよ!
ほら、公園で声を掛けてもらった。


ああ、あの時の悩んでいた男性だ。

彼は今ここの自然を巡る観光業をしている。
あのあと好きなものを考えて、そして出た結論が生まれ育った故郷が好きだったこと。
この自然が大好きで、大好きなものだったら人に伝えたいと思い至ったと。


まだまだ客足は少ないけど、来てくれた人達はみな喜んでくれたよ。
やはりここの自然は素晴らしいんだ。これからも沢山の人に魅力を伝えたい。


ここの自然が美しいのは紛れもない事実。
でも観光客が喜んでくれたのはもっと別の要因。

彼は好きなものを好きだと言えている、もう大丈夫だ。
木漏れ日のようにきらめき、太陽より熱い目を持つ彼。

彼はまだ気づいていないけど、彼が照らし出すから自然が輝き魅力を放てるのだ。
彼の熱弁にしばし耳を傾けつつ共に野山を巡った。








































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たったこれだけで元気になれるのなら儲け物ですよね。
まったく小憎らしいヤツですよあの青いアンチクショウは。

ヤマツツジ:花言葉は「燃える思い」