短冊に願いを書き記し星へ託す。
笹の枝葉へ括り付け終えてから空を仰ぐ。果たして彼らは私の願いを聞き入れてくれるだろうか。

空は厚く雲が覆い雨を降らす。その様があまりに悲しくて涙を誘われる。
雨のせいで水嵩を増した川は、二人の年に一度の機会さえ奪ってしまうのだ。

ただの一度も、無理なのか。

隔たりがただの川であるのなら、それほど幸運なことはないと思う。
比べ私たち超えるべき困難のなんと切なさよ。

向こうで過ごしていた頃、小さな女の子に教わった物語に縋ってみた。
自分たちと同じ境遇ならもしやご利益が、と思ってしまったのだ。
そうして露になったのは二人に対する嫉妬にも似た感情。
私の方が彼らよりも、そんな思いが負の流れを更に加速させる。


私は自己の立場を弁え、守護の任も皇女の役割もこなしてきた。
それでも駄目なのは私が織姫ですらないからなのか。


唯の夢物語だったのならこんな、ここでは他に誰もやらないこと、するのではなかった。
虚しさに空を見上げる理由もここに佇む理由も失くし、自室へ戻ろうとした。
しかしある音を耳にし引きとめられた。


さらさらと流れるような、葉が擦れ合う音。
風が笹を揺らした。

「へぇ、これがブレイズの願い?」

笹の枝葉に括られた唯一の短冊を覗き見て言う。
催涙雨すらものともしない彦星がそこにいたのだ。

どうして。驚きから口は勝手に言葉を吐きだしていた。
どうして、どうやって来てくれたのだ。


「どんなに天の川が荒れていようとも、この足で超えて見せるさ!」


自信に満ちた笑顔。苦境をも楽しんでしまう彼を前に曇天ですら輝きを奪うことは出来なかった。
私の願いを叶えてくれる星。嬉しいほど近くて、そのお陰で眩んでしまいそうな程まぶしい。

「なんてね、カササギたちに助けられたんだよ。」

彼の背後から顔を出した二人。
テイルスが発明により世界を超える手段を用意してくれた。
クリームが七夕話をしたことを彼にも知らせてくれた。

二人が築いてくれた架け橋のお陰で再会を果たすことができた。
風が駆けたお陰か、雨雲も砕け空から乳白色の流れが姿を覗かせた。

「今年も織姫と彦星、会えたかなぁ。」
「何を言っている、既に会っているではないか。」

ミルキーウェイを挟んだ二つの恒星。他にもまして強く輝いている。
しかしきっと彼らよりも私たちの笑顔の方が眩しかったはずだ。












































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2010年7月7日MEMO掲載。
相手への思いが隔たりを越える一番の力。