その眼に移るのは、私には解らないだろう
その胸に宿すものは、きっと理解できないだろう
だけど、これだけは伝えられる
貴女の事は、祝えるということ

『祝』


「そういえば、今日あの子の誕生日だったわね」
「は?」
褐色の肌に手をあて、シッティはそう言った。頭に生えた耳がピコピコ動いている。
変わった光景だな、とコスタスは思いながら手にしている帽子を頭にのせる。
「あの子、とは?」
「ヴィクトリアの事よ」
「あぁ、あの…」
あの少女か。
そう言おうとして、言葉をとめる。彼女の瞳は、果たして少女と呼べるにふさわしい目をしているだろうか。
あんな小さな、狼の少女に、あの眼ができるのだろうか。
そこまで考えて、思考をやめる。見つからない答えを探すのは不毛な行為だ。
それに、そこまでして答えが欲しいとは思わない、とコスタスは思う。
「それで、その子がどうしたのか」
「言ったでしょう?誕生日だって。だから、何か送ろうと思ってね」
「送ろうと言ったって、彼女は別次元に生きる存在だ」
送れるはず無い、と言葉を続ける。そこまでして、人であり人でない彼女は、あぁ、と首を捻った。
「それは困ったわね……けど、」

まぁ、なんとかなるでしょう

それは、イヴァリースと呼ばれる世界での、とある日の出来事だった。


「…で、来たと」
「意外と来れるものなのね」
「帰れ」
「つれない子。折角会えたのだからゆっくりお話しましょうよ」
今にも射殺さんばかりの視線を向ける小さな少女に、彼女は、別にそんな視線にも臆する事無く言葉を向ける。
そんな二人の背後で、
「師匠、目立ってるぞ…」
頭を抱えている青年が居た。
ふと背後に視線を向ければ、通行人がちらちらとこちらを見ていた。
そこまで目立つことはしてないのに、シッティはそう考える。
その考えを読み取ったのか、ヴィクトリアは不機嫌そうな声で言った。
「そんな服を着ているからだ。その服だと、誰だろうが目を向ける」
「あら」
そこで、シッティは己の身体を、服を見た。露出度の高いその緑の衣装は、確かにこの世界では目立ちそうだ。
3秒の間を空けて。
「私に支障が無いから良いわ」
「僕達にも視線が向けられる事を考えてくれないか」
「嫌よ面倒くさい」
そんなやりとりが高速で行われた。ヴィクトリアも、思わず呆れ顔になる。
「毎度思うのだが…貴様は本当に苦労人だな」
「自覚しているからほっといてくれ」
コスタスは頭を抱えてそう言う。シッティはそれに無関心かのように、
「で、会えたのだから、少しくらいお話したって構わないわよね?」
「私は御免だ」
「あそこなんてどうかしら。カフェテラスもあるし、ゆっくりできると思うわよ」
「シッティ、私はそこまで暇ではない」

「暇でしょ?」

「……」
「すまないが、諦めてくれ」


カフェテラスは、静かとはいかなかったが何処からか聞こえる心地よい音楽が耳に入って心を落ち着かせる。
それは神秘的な歌だった。誰にも解らないであろう、歌った本人にしかわからない歌。
神様がその歌を愛し、彼女が愛した神の歌。
だから彼女は『帰還』した。その歌と共に。人知れず病と闘った、『再起』の名を持つ彼女は『歌』と共に。
そんな中で一服と洒落込むのは、とても素晴らしい事なのだろう。
「さて、此処に来たのは他でもないわ。貴女、昨日誕生日だったでしょう」
「…何故、それを知っている」
「さぁ、何故でしょう?もしかしたら気まぐれな風が教えてくれたのかもしれないわ」
「なんとなく、解った気がした」
「冗談よ。本当は精霊が教えてくれたの。貴女の誕生日だって」
「…何故昨日来なかった」
確かに、誕生日を解っていながら何故昨日来なかったのだろうか。
彼女の力なら、そんな事くらいたやすい筈なのに。
そこまでして、コスタスが口を開く。
「伝えられたのは、昨日だったからな。流石に唐突すぎたものだから、此方に来るまでに時間がかかった」
「…時空を、移動することにか」
「悪いが僕達の世界には…カオスエメラルドと言ったか、そんな物は存在しなくてな。
すぐに移動できると言うわけではない。説明すると長くなるが、聞くか?」
「いや、いい」
目の前で手を横に振って拒絶。コスタスは、それはそうだろうな、と頷き注文したコーヒーを飲んだ。
コーヒーを飲んで、ヴィクトリアに再度目線を向けて、言葉を口にした。

「…と、まぁそんなのは所詮言い訳だ。遅れたのは遅れた。それははっきりしている」
シッティがそれに続く。
「だから、お詫びと言っては何だけど、誕生日プレゼントと一緒にちょっとした事もしようかと思ってね」
「ちょっとした?」
「えぇ」
そう言って、シッティは立ち上がる。
それと同時に、流れていた音楽が止んだ。
一瞬、耳が痛くなるほどの沈黙がその場に走る。
ヴィクトリアは、思わず警戒した。
此処で、そんな空気が起こること事態、異常だと思えたから。
その一瞬の間に、シッティは、言葉を紡ぐ。

『空輝き大地の欠片、揺れる灯火消えゆく彼方
風そよぎし銀の意思、消える事なき心の誓い
祈れ祝えや我らが思い
届け伝えしこの心』

それはまるで、歌のようだった。詠唱か何かなのだろうと思ったけれど、歌に聞こえた。
そう思った矢先

『彼女の為に、贈りたまえや我らが友よ』

言葉では表せない光景が、そのカフェテラス全体を、いや、

この街を覆った

「な…!?」
思わず、声を上げる。それは驚愕と、ほんの少しの感嘆の声が入り混じったそんな声。
光景は、言葉で表せない程だった。似合う言葉があるとすれば、神秘的、と言った、そんなものだろう。
さまざまな色が重なり合い、その色は宙に浮き舞い踊る。
先ほど流れていた歌声は街に響き、それでいて神が遣わせた歌のように感じさせられる。
ふと、手に何かが触れた。
反射的にそれを見る。
そんな様子を見て、コスタスは微笑んだ。
「こんな時に限って、師匠は奥手だな」

それは、アルカナと呼ばれる偉大な魔法の源で作られた

「誕生日おめでとう、ヴィクトリア」

僅かに紫を帯びた、腕輪だった。

ヴィクトリアはそれを目にして、今の光景に目を向けて。
そして、最後に別世界から来た住人に目を向けて。

「相変わらず、訳の解らない人達ね」

僅かに口元に笑みを浮かべて、そう言った。





貴女の心が汲み取れない
貴女の意志がわからない
それでも、それだとしても
祝われる事は、悪くは無い



ーfinー








































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明原  奏 様より頂きました!
ヴィクトリアの誕生日祝いに奏さまのキャラクターが駆けつけてくれました!
お祝い、とっても嬉しいです><

奏さん、本当にありがとうございます<(_ _)>