見れば彼岸花の群生地。シャドウは秋風は嫌いだなと思った。
紅の絨毯は緋色の瞳の中でさえも煌きを放つ。揺れる花々に対して憎悪を覚える。来た道はもう引き返せない。
倒した茎を直そうか、全て踏み付けてしまおうかとも考えた。動かないからだが正解を選んだようで、背中押す風が余計苛立たしい。
ただ一輪の白い曼殊沙華を見つけると涙が溢れた。膝を折り、手で触れて愛でる。木枯らしでは涙は渇かない。
地面についた片膝の皮膚だけに痺れを感じる。周りの花はそれだけ毒々しかった。
弱った花弁は見る間に散った。彼女は花の役目を終えたのだ。
シャドウの手には一粒の種子が残った。それを強く握り締め、この場所に二度と戻らないと決心し走り出した。
彼岸の時期に咲くこの花は実に多種多様な呼び名を持つ。かつて飢饉を乗り切る為に地下茎が食される事もあったが、若干の毒がある。
通常赤の花弁だが稀に白が存在。それは別の花との雑種で、彼岸花自体が実を付けることが珍しく白は更に希少。
日本では負のイメージが強い。その燃えるような見た目から家に持ち込むと火事をもたらすという迷信がある。
花言葉は「悲しい思い出」「想うはあなた一人」「また会う日を楽しみに」。
シャドウのイメージにこの上なくぴったりだと思います。