ガチ。
ガチガチ、ガチチ。
苛立ちに従う指が、何度も何度もトリガーを引く。
放たれるのは撃鉄の動作音のみ。銃弾は弾倉には残っていなかった。


エッグマン基地の特定の為に派遣されてきたが、どうやら当たりらしい。
橙色と黄色ばかりのふざけた顔のロボが止め処なく湧いて出て来る。
シャドウはそのエッグポーンが使う銃を奪い使用していたが、これも弾切れだ。

体一つで対抗する、それが通じるのは小数を相手する時のみだ。
団体で来られ銃の数も相当。期せず彼らは弾幕を張り、シャドウの接近を拒んだ。

「チッ」

舌打ちと共に左手にあった銃を投げ捨てる。相対する連中と同じ色遣い、玩具のようなものだった。
弾をかわす分には己が身体能力、まず当たらない。
しかし接近戦に持ち込めずこのままでは埒が明かない。攻撃する手立てがない。
苛立ちに眉根がきつく結ばれる。顎にも知らず力が入り歯を食いしばっていた。
しかし頭だけは冷静に、打開策を講じていた。
眼を光らせ、耳を澄ませ、突破の糸口を探っていた。
その時だ。

「伏せて!」

咄嗟に回避できたのは言葉に従ったのではなく、突如背後から飛び出た声に防衛本能が反応したから。
結果言われたように伏せてしまったが、声の後間髪入れずけたたましいマシンガンの銃声。
切れ間ない連射で右から順にロボを薙ぎ払い、水平な照準移動で辺りの敵を一掃した。


「……テイルスか」

後ろに立っていたのは二足歩行のメカ。
彼がサイクロンを操り、装備されているバルカン砲でエッグポーンの大群全てを吹き飛ばしたのだ。

「カオスエメラルドの反応があるから来てみたら、そういうことだったんだね」

ドクターの施設がこの近くにある。
偶然居合わせたテイルスはシャドウが手こずる様子を見かね、加勢した。
シャドウにはそれが任務達成への手間が一つ省けた程度にしか感じられず、感謝しようという考えに思い至らないのは彼にとっては自然なことだった。
テイルスも特別お礼をされようと拘らなかった。「余計な事を」と言われないだけ彼の反応は最良だ。

「僕も基地捜索を手伝うよ。今の様子だと相当警戒しているみたいだし」
「誰も依頼していないと言うのに、よく自ら動こうとする……」

キミは何故戦うのだ。思いがけず問われたテイルスの目はキョトンとしていた。
それほどのマシンを開発して、キミもドクターも何を求めている。

質問の意図が読めない。彼の中には常に目的と迷いが混在している。
今回はエッグマンがエメラルドを手にしているという事だから、早いうちに手を打とうと思って。
思いつく理由はその位だよ。いつも彼の悪事には手を焼かされているからね。

「エッグマンの悪巧みは止めたい。今はそれかな」
「それが、それだけの兵器を生み出す理由か」

サイクロンの事を言っているのだろうか。
確かに戦う為の道具と言う点では兵器だ。武力により相手を制圧する。
だがテイルスにはマシン開発における明確な方針の違いがある。
彼が言っている事は客観的には正しいかもしれないが、逆に単なるギャラリーの野次とも取れる。

「僕は止める力が欲しいんだよ、シャドウ」

困ったことが起きた時、誰かが悪いことを始めた時。
自分にはそれが良くない事だと解っていても、頭で理解しても、対抗する力がなければ止められない。
かつては自分が弱かったばかりに、我が身に降りかかる事すら止められなかったから。

「じゃあシャドウは、何のために銃を握るの?」

反対に、同じ質問を投げかける。他人に問うものとは得てして、自問であることが多い。
彼もそのようだった。問われると思案しているのか、緩やかに視線が落ちていくのが見えた。
たぶん答えは出て来ないだろう。彼は戦う力を有しているのに、用途を見付けられないでいる。

それは自分と正反対だなって。
テイルスはコックピットの中にある、操縦に際するパネル部の下に取り付けた小さい収納扉に手を掛けた。

「さっき、エメラルドの反応があったって僕言ったよね」

サイクロンから降りたテイルスがシャドウに見せたのは、無色透明のカオスエメラルド。
曇り一つ無く、持ち手も光の屈曲越しにはっきり映る。
反応を示したというのはこの宝石。しかし今まで見知ったエメラルドは必ず鮮やかな色彩を浮かべていた。

「このレプリカは、特別強く僕らの心に反応するようにできてる」

彼が研究過程で作りだしたものだった。何にもまだ染められていない純粋な存在。
それを、今度はサイクロンの中から一緒に取り出したエネルギー銃の中に、組み込む。
ガチャガチャ、しかし小気味良く淀みなくパーツが開閉される音を経て、エメラルドはその中へ収まった。
レプリカエメラルド・ガンを組み立てるとおもむろにシャドウへグリップを向けた。

「純粋なこのエメラルドは僕たちの心をありのまま反映するんだ。だからそれを原動力とするこの銃から放たれるのは、君の心の欠片」

どういった気持で銃を握るのか。それが弾丸として如実に表れる。
より強い気持ちが高いエネルギーを生み、威力が増す。
その時の感情でエメラルドは光り方を変え、様々な色を放つ。

迷いでは定まった形も取れないだろう。
芯の通った心があれば、弾切れも知らない無限の力を得られる。
ただし邪な思いは、破壊に長けその分だけ荒んだ心模様を現実へ具現化させる。
エネルギーの色も、赤か青か、それとも何色も織り交ぜた色彩を放つのか。
それは持つものの心次第。

銃だけ見詰めて、訝る。
単純に力を引き出すだけなら簡単な事だ。他のエメラルドとて相違ない。
ここで逡巡するのはきっと、この不確定な心模様がどう反映されるかに戸惑うからだ。
それだけに試す価値はある。意を決し、一歩踏み出し、いいだろう、エメラルド・ガンを受け取った。

シャドウの左手に銃が収まったのを確認すると、テイルスはすぐさま残った右手を捕え、得意の尻尾飛行で空中高くへ連れ出した。

「見えたよ、あれがエッグマン基地」

さぁ見せてよ、君の心を。
突如引き連れられた右手だったが、一度エメラルド・ガンを見つめ直すと、左右共に握る力を強めた。
左の片目で見て、照準を付ける。狙うは基地外装にあしらわれた丸メガネ二つの間。

ガチ。
弾丸は放たれた。狙い通りサングラスの眉間部分へエネルギー弾が伸びていく。
その軌跡にテイルスが見た色は。



































































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蛍舟さんから頂いたリクエスト・テイルスとシャドウ話。
絶対テイルスフライでシャドウを飛ばそう決めておりました。


リクエストありがとうございました!思いつかない組み合わせで楽しかったです。