道端の花売りからヒエンソウを編んだブレスレットを買い、ストリートミュージシャンの演奏をひとしきり聴き、小腹が空いたのでコーヒーショップに入っ た。


室内に立ち込める深い香りの出処は、今まさに店員が淹れているサイフォンだろう。
火が消されると、のぼせ上がった湯が色づきつつ、下に構えるボウルへと 帰っていく。


店員に、それを、とだけ言って注文を入れる。昼前の店内はまだ客が少ない。
どこに座ってもいいだろうと、四人がけであったが窓辺の席に決めた。外を行き 交う人々の姿を眺めていられるのが、なんとなく良いと思ったからだ。


店員は新しい上下のボウルを用意して、もう一杯入れる段取りを付ける。その間に食べるものを選ぼう。
サンドイッチが良いだろうか、スコーンは今日は気分 じゃないな。甘いものはよそう、チョコレートもご遠慮願おうか。


結局、サンドイッチにした。ベーコンが主体のものと、トマトの赤が鮮やかなものを一つずつ。それぞれレタスやきゅうりが入り彩りも悪くない。
悩んでいる 時間が長かったのか、程なくしてコーヒーが運ばれてきた。香りを楽しんでから、口をつける。


コクと苦味と、少しの酸味。豊かだ、と思う。生き物の本能が欲する、甘味や塩味とは全然違う。
本当は不要なのに、体にはそれを受け入れる余裕がある。豊 かな味わいが、簡素であるサンドイッチの味を引き立てる。
大人が食す物、などという言い方は少し背伸びし過ぎだろうか。


チリン、ベルがなった。ドアにくくりつけられた真鍮製のそれが、来客を知らせる。母子連れ。フリルの多い服は綺麗で可愛らしいと思う。

「あ、ブレイズさま!?」

女の子と目が合うや否や、指さされながら店に響き渡る声を上げられる。母親があわてて女の子を諌める。

「ちょっと、いきなり失礼でしょう。はしたない真似はやめなさい。それに……ブレイズさまがお一人で、こんなところにいらっしゃる訳がないでしょう」

穏やかな口調で叱る母親が、こちらと目を合わせた途端、顔をひきつらせた。子どもの戯言ではなかった、とでも思ったのだろうか。
ドギマギして視線を泳 がせたあと、おずおずとこちらに訪ねてきた。

「あの……失礼ですが、本当に、ブレイズさまでしょうか?」

コーヒーカップに手をかけていたところだったので、一口飲み下すまで待ってもらった。そして答える。

「いいえ」
「そうでしたか。いえその、皇女さまとお姿がとても似ていらして、つい」

女の子が、テーブルの傍らにある青に目を取られていた。それを手に取り、女の子に渡しながら、もう一言だけ言を交わす。

「ええ――よく言われます」

女の子はブレスレットを得て無邪気に喜び、母とは会話の妙を笑いあった。そして二人は店の奥に席を取ると、それぞれケーキを注文していた。

残りの少なくなったコーヒーを飲み干す。少し冷めた口当たりは、淹れたてより苦味が増していた。
































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エリザベス女王の逸話を「誰かブレイズで書かねぇかな ~~(チラ)」とつぶやいてみたんですが
結局自分で書くという。勢いだけで特に意味はないです。