極彩色も朽ち果てる刻、映える青ですら色を落とす今。
だからこそ良い。いっそ見えなくても良いのだ。
酷い話をしよう。辛い話をしよう。今日は最適の日和。

「またエッグマンが悪さを始めたんだよな。先に手を打っておこうと、エメラルドを一つ手に入れたところだ」

いつもの敵を口実に。
あなたは虚勢を鳴らし、見せつけるは儚い背。
無言が真実を伝えると期待した。一番残酷な手段だ。

仰ぎ見た月も陰り、闇は動揺を誘う。
それを隠す動作はあの浮雲と似ない。
見えないのに見え透いているからだ。

奇跡を手にし弾むような口調は、
まるで闇中を駆けるたどたどしさ。
ならばしっかり照らし出そう。目を逸らさせはしない。

「ううん、今日は別なことで来たんだ」

風が凪ぐ。だが留まることは許されない。
小さな鉢を前に震え、認められないでいる。
この種子の意味をずっと残酷にしてきた。

「見て。コスモ、こんなにまで大きくなったんだよ」

複葉機を操りここまで来た理由。
全てを終えて、まるで何もなかったみたいになって、
その中で唯一の名残である小さな芽。

「ソニックが懸命に採ってきてくれた種、ここまで育ったから見て欲しくて」

信じてた。ソニックなら救ってくれるって。
だからこれはそのお礼だよ。
あれ以来工房に来てくれないから、伝えたくて探し出したんだ。

「ありがとうソニック。おかげで僕たちは……」
「止めてくれ!俺は何もできなかったんだ!」

言葉を遮り、飛びかかるか突き飛ばすかも決めず、蹴り出した勢いで圧し掛かられる。
その動きは窮鼠そのもの。押し倒され彼の体重がかかる。
でもコスモだけは離さなかった。
一つも、救うことも、応えられず、信頼も。口の動きより早く言葉が溢れる。
しかし小さく枝を伸ばす彼女を見て、彼は感情を吸い取られたかのように勢いを失った。

「だから、あてつけるような真似は、もう……」

そこで言葉は絶えた。動かない。まるでそこに根を下ろしたみたいに。
暗く暗く、月影に潜む彼の表情は見れない。


でも何も言わず彼の手を取り、二本の尾を駆使し浮上する。
心を枯らしてしまったように、抵抗も了承の動きもない。
そのまま上を目指し、木々の背丈を超え視界が開けた。

「こうやって一緒に飛ぶの、久しぶりだね」

手に伝わる感触は温かい。
だけど握り返す力はほとんどない、気を抜くと落っことしてしまいそうだ。
下を向いても木々が暗闇に落ちているだけ。彼の顔を覗くことはできない。

一番、人に見せたくない顔をしている。
顔を背ける理由はたったそれだけ。

「いつからだろうね、僕らが一緒にいて、でもバラバラになっていたの」

僅かに手に握り返す感触。掌を通じて、そのまま心に触れているようだった。
傍に居て、信頼し合って、でも動き方がまるで違くて、ちぐはぐになった心だ。
だからこの思い、直に伝わって欲しい。

「全部わかってたよ。あの時のこと全部」

コスモをどうすることも出来なかったこと。
自分の言葉がどれほど響くだろうこと。
自覚した上で心ない言葉を吐いたこと。
感情が先立ったばかりに。

「だから誰よりも懸命になって、ほんの小さいことでも形を掴んで来てくれたソニックに、僕はすごく感謝しているんだよ」

ごめんなさいとありがとうを混在させる。
どっちかが勝ってもダメだ、自分は本当に悪いことをした。
でも僕は、ソニックの一番の相棒だ!
そして彼から零れた一滴が、手に持つエメラルドを濡らした。

そのとき彼の手からまばゆい輝きが放たれた。
同時に放射状に広がったのは、温かな薄桃色。


木々が一斉に咲いたのだ。


眼下は、光り及ぶ限りの桜花の絨毯。一方で空は闇色だ。
まさしく、宇宙に浮かぶ花咲く星。風が駆け花弁が宙に浮かぶ様は無数の星々。
この光景は以前に見たことがある。

「ねぇソニック、見てよ」

彼は顔を隠すのも忘れて、呼びかけに応じコスモを見た。
彼女は同じ花弁を十数枚、同様に咲かせ誇っている。

息を飲んだ。小さく健気に「大丈夫」と主張する姿に。
気持ちが溢れた。優しい色に「ありがとう」を見たから。
視界なんかぼやけているくせに。でも心の動きはがっちり掴んでいた。

「僕らはちゃんと救われたんだよ」

それから辺りに光が行き渡るよう空中遊泳を続けた。
寄り添う手応えが掌に、心にあった。

ここには光も水も心もある。

これでもう植物も動物も大丈夫だ。












































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ソニックX第二期ではテイルスが泣くシーンが印象的。
そのとき彼は本当はどんなことを思っていただろうか。