「ソニックさん、歌を用意していてください!」
「突然に、だな。でもそうすぐに準備できるかな。」
「歌が必要なんです。絶対に用意してください!」
「OK、OK。必ず間に合わせるから心配は要らないぜ、クリーム。」

強い眼差しに圧されながらも、彼は内心乗り気であった。


「エミーさん、お洋服を作っていただけませんか?」
「いいわよ。とびっきり可愛く仕上げてあげるからね。」
「私のだけでなく、もう一着大きいものもおねがいします。」
「え、それってどのぐらい?て言うかどういうこと?」

おおよそのサイズとイメージだけ聞き了承するも、彼女は怪訝なままであった。


「スフィアさんのママさんは、お料理をたくさん作ってください!」
「わかったわよクリームちゃん!私、腕によりを掛けて頑張っちゃうんだから!」
「とびっきりおいしいのをおねがいします。」
「期待してていいわよ~私が本気を出したら、スゴイんだからっ!!」

注文を受け彼女は張り切り、とても楽しそうであった。


「ナックルズさんは、かがり火を作ることはできますか?」
「うん?急にどうした?」
「今とっても必要なので、おねがいできませんか?」
「よしっ、それなら俺に任せておけ!」

ワイルドな彼は得意分野に対して、意気揚々であった。


「テイルスさん、『ヨリシロ』になるためにはどうしたらいいでしょうか?」
「えぇ何、なんの話?!」
「私がヨリシロになるために、調べ物を手伝ってほしいのです。」
「まぁ手伝うのなら別にいいけど。よりしろ、ヨリシロ、と。」

二人は揃って、コンピューターの画面を食い入るように見るのであった。


「スフィアさん、秘密基地の場所を貸して下さい!」
「おっけぃい↑さてさて今度は一体誰を落とすんだい?!」
「いえ、使いません。秘密基地の上の方だけでいいです。」
「そ?なんだついにイタズラに目覚めたのかと思ったのに・・・」

イタズラばかりしていてはダメです、と小言を言われる彼であった。


「最近、クリームは何かしようとしているみたいだね。」
「テイルス、お前も頼まれ事をされたのか?」
「理由は話してくれないくれないわよね。」
「でも一生懸命になっているんだし、協力しようぜ。」

頑張っている様を見て、一同は惜しまず助成するのであった。


「ヴィクトリアさん、こっちです!」
「クリーム、そんなに焦らなくてもいいだろう、転んでしまうぞ」

夜の暗い森の中、クリームはヴィクトリアの手を引き勇み歩んでいた。
木漏れ日ならぬ月光のみが道を照らし、青白い光線の筋が風に合わせて妖しく美しく揺れる。
その環境下に育ったのならいざ知らず、幼い子供が立ち入るには容易な場所ではない。
しかし彼女は迷わず前へ前へ進むのであった。

「一体どこへ行く?」
「まだ教えられません、着くまでヒミツなんです!」

そうか、とだけ返答し引かれるがまま静かに森の奥へ向かう。
子ども相手に警戒することもないだろうが、しかし意図不明の不安感だけは少しあった。
それでも付き従うのは考えを持って行っていることと、必死になる様子から全て彼女に委ねようと決めていたからだ。

ついに歩みが止まった。目的地に着いたのだろうが、いささか暗闇では周囲を把握し辛い。
木々とは違う何かが設置されているのと、ヒトの気配を複数感じたのだけは確か。
いよいよと思うと緊張が強まる。彼女の考えに沿って「何か」が起こるのだ。
それは連れてきた彼女もだ、繋ぐ手に一層力がこもるのを直に感じた。

「みなさん、おねがいします!」

その掛け声の直後、橙の明かりが囲むように点灯した。炎だ。
前後左右、炎は用意されていたかがり火に灯され辺りを照らした。

舞台の中央に居る。三六〇度の円形舞台。観客は火の傍にそれぞれ居り、こちらの挙動を観ている。
突如望まず立たされステージから直ちに降りようと思うも、固く結ばれた手がそれを拒んでいた。

「これは?」
「帰霊祭です!」

柔らかな歌声が、突然に、響き始めた。
やがて香ばしい香りと共に料理が運び込まれた。
そして手渡しされた布は舞踏の衣装、炎の赤さと月の白光を同時に瞬かせていた。
火に照らし出された彼女の両腕には柔らかい曲線の紋様が描かれている。


9月15日――こちらの暦でだが――夜間にかがり火で舞台をこしらえる。
それは先祖の霊を迎えるため。それ以外にも色々と持て成しを用意して。
踊りに食べ物、歌をそろえ、地上までの長旅を労う。
そして留まる為の依り代を構えておくのだ。


ああそうか、以前に話していたことを覚えてくれていたのだな。
目を見開いたのを合図に、彼女は目いっぱいの笑顔を向けてくれた。

「皆さんに協力していただいて準備しました!」

先祖の霊を迎える祭典の為。
遠くから来る霊の目印となるかがり火はナックルズに。
呼び戻すために響かせる高らかな歌声はソニックに。
依り代役は彼女自身、目印となる紋様はテイルスが調べ上げた。
その人たちが纏う装いはできるだけ雅に、エミーが仕立てた。
長旅を労う馳走の数々。
再会の喜びを分かつ舞台。母と子の領分が遺憾なく発揮された。

「ヨリシロは私です。」
「そうか。ならば私と共に舞ってくれるな、クリーム」

紅銀の衣装に身を包み、跳ねるステップと柔らかい足運びが同じリズムで進む。
最初は少女らしい、最初は洗練された踊りを見せた。
楽しい美しい踊り子二人に観客は魅了され目を離せない。

次第に次第に少女は大人な振る舞いを見せるようになり、
いつしか可憐な舞いには幼さが混じるようになった。
変化は甚だしくなり、ついに雰囲気が逆転するほどになって観客達は気が付いた。


舞い戻って来たのだ。


踊りの間だけ彼女に甘えが許された。手を引かれるまま踊らされ、単純な喜びと楽しさを表現していた。
少女のダンスパートナーたちは、彼女を優しくリードしていったのであった。

先にいったテンポを少女がなぞる。上手く出来たら、二人は喜ぶ。
それは言葉を覚えていくかのよう、そうやって彼女は二人から教わったのだ。

だがこの日二人が伝えた思いは誰にでも読み取れた。
この場に居る者全員の気持ちが一致していたから。


誕生日おめでとう。








































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   2010年9月19日にブログ修正アップしたもの。
   ヴィクトリア誕生日かつ、帰霊祭。しかしいつまでたっても20歳なんだゼ。