レインボーシティの北には増改築を繰り返した、見栄えがとてもヘンテコな家がある。
住んでいるのはとある夫婦にその息子の三人。だが息子はもっぱら外に出払っていて、幾多もある部屋は夫婦には手に余るものだった。

その息子がようやく帰ってきたのはつい最近のこと。それも友達を連れて来てだ。
一人二人どころではなくたくさんで、このヘンテコな家は彼らに寝泊まりの場所を提供するにはもってこいだった。

それ以来スフィアの家はソニックたち仲間が集まりにぎわっていた。
皆それぞれ目的があって集まったのだ。なので時にバラバラ、時に協力して行動する。
とはいえここ最近は大きな変化を迎えることも少なくて、皆がこの家での生活に慣れたころのある日。

「ヴィクトリアの誕生日がわかったよ!」

急き切ってリビングに登場したテイルスは開口一番叫んだ。
居たのはお茶を飲んでいたエミーとクリーム、そしてソファでだらだらしていたスフィアの三人。

「クリームが聞き出してくれたおかげだよ。ようやくわかったんだ!」
「ワタシ、くわしいことまでは聞いていませんよ?」

いつもそっけないヴィクトリアだがクリームだけはよく相手してくれる。
散歩に誘えばついてきてくれたり他愛のない話にもしっかりと耳を傾けるのだ。
なのでクリームとはよくお話をし、他のみんなより仲が良い。
ついはばかってしまうようなことも、彼女の純粋さも相まっていろんな事を尋ね、それに丁寧に答えてくれる。

「『帰霊祭の日』というのがこちらの暦で何日なのか突き止めたんだ。もうすぐなんだよ!
 ねぇスフィア、ソニックたちを呼んできてよ。」
「だるぃめんど、ぱす。」
「しゃんとしなさい!」

エミーの一声で渋々外へ向かう。男連中は各々外で好きなように過ごしている。
特にソニックとシャドウの行動範囲は手に負えないので、呼び寄せる場合彼に頼るしかないのだ。

ある日クリームが誕生日を尋ねてみたところ、彼女の種族:ウルフドッグ族で言う「帰霊祭の日」に相当すると答えてくれただけ。
それも本人はこちらの暦でいつなのかは知らないとしていた。
つまり誕生日を失くしたということだ。
一族独自の暦とこっちのカレンダーの照らし合わせができないままで、それを忍びなく思ったテイルスが調べ上げ特定したのだ。

しばらくしてスフィアが全員を連れて帰った。早速テイルスが興奮気味に彼女の誕生日のことを話す。

「9月15日!もうすぐだよ、ねぇみんなでパーティ開こうよ!」
「賛成デス!」
「Nice Idea!」
「じゃあすぐにでも準備に取り掛かりましょ!」
「プレゼントに飾り、バースディケーキ。プリズムに行けばなんだってある。行くか!」

心やさしい仲間たちが身内の誕生日を見過ごすハズはない。すぐに段取りを整えにかかる。

「でもよアイツ、呼んだところで来ると思うか?」

ナックルズの一言でお祝いムードがやや消沈した。
たしかに今は一緒にいるが彼女は、心を開いてくれないのだ。必要以外一人で居たがるし会話など二、三交わすうちに終えてしまう。
その言葉は一同が懸念していたこと。この不安をぬぐい去らなければ祝うことができなくなるかもしれない。
皆で対策を練る。

捕まえる。無理。アイツの得意技は避けることだ。
寝込みを襲う。ダメだ。一週間とか普通に起きているヤツだぞ。
テイルス、捕獲ネットとか作れないか。今からじゃ間に合わないよ。
じゃあ睡眠薬でも。それってアブナくない?

「ヴィクトリアでも避けられないもの、それこそ大きな落とし穴とかないかな。」

用意さえできれば何とか、そこにおびき寄せることはできるんだけど。でも準備はとても時間が足りないだろうし。
アイディアも尽きてきたころ、ずっと上を見上げていたスフィアが不敵に笑いだし言った。

「テイルス、良い場所があるぜ~。」
「本当!?」

更に声をそばだててスフィアが話す。場所はスフィアが昔作った秘密基地。今回の作戦にはとても都合がいいようだ。

「いいね、そこを使おう。あとは罠まで誘導するヒトを決めなきゃ。」
「じゃあその役割はナックルズな。」
「え、俺?!」
「ちょうど呼び出す理由があるじゃない。」
「俺がサポートすっから安心しろな。」
「プレゼントも用意しなくちゃデス。」
「でも全員でぞろぞろ買いに行くと怪しまれない?」
「なら全部エミーに買って来てもらうか。俺たちはその中から選べばいい。」
「わかったわ。じゃあソニックとシャドウを連れていくわ。」
「What?!?」
「僕は関係ないだろう!」
「たくさん用意するんだから荷物ぐらい持ちなさい!」
「クリーム、僕らは部屋をパーティ用に飾ってようね。」
「わかりました!」


かくして役割分担が決まったのだった。


「ほら、シャドウもテキパキ働く!」
「なぜ僕が、こんなことを・・・」

プレゼント準備班はプリズムに赴き彼女が喜びそうなものを(エミーが好き放題)買い漁っている。
荷物持ちに選ばれたふたりの腕に山のような箱が積みあがる。

「これぐらいでいいかな。さぁビッキーに見つかる前に早いところ運んでちょうだい。」
「ならエメラルドをよこせ、カオスコントロールで一気に運んでやる。」
「ダーメ、そしたらアナタ逃げちゃうでしょ。
 言っとくけど走っても無駄だからね、ソニックがすぐさま追いかけて捕まえるんだから。」
「それならエミー、俺の荷物は多少減らした方がいいんじゃないか?」
「ダーメ!」
「「ちぃっ!!」」

この日一番恨みがましい舌打ちが同時に放たれた。
家に帰りつくとヴィクトリアがリビングのソファに座っていた。山なりの荷物を気にして声をかけてきた。

「なにをそんなに買いこんでいる?」
「へへ、ストレスを溜めこんでたみたいでな。」

アゴで指し示す。エミーの上機嫌な様を見て彼女は、あぁ、とだけつぶやきまたソファに戻った。
あれは演技などではない、本当に気分がいいのだ。
作戦的には自然な振る舞いなので非常にいい、しかし自分だけ楽しんでいるのはなかなかハラが立つ。
これを公私混同というのだろう。


「テイルスさん、こんな具合でいいでしょうか?」
「いいね。ボクのもこんな感じだよ。」
「わぁ、ステキです!」

壁や天井を風船やテープで部屋中を飾る。天上から吊るすものなどもふたりなら楽々付けられるのだ。
できた、一声上げたスフィアが作ったボードを見る。本人が自画自賛するカラフルな「Happy Birthday!」。
これを飾って完成だね。早速ふたりで協力して取り付けた。
華やかさが一層増した。あとは主役をここに迎えるだけ。


「オオカミ女、話がある。」

当日、ナックルズが彼女を呼び出した。マスターエメラルドの件と理解した彼女は面倒くさそうな溜め息を吐きつつ彼の後に従った。

ナックルズはナックルズの目的があって行動している。
ソニックたちと居てもそれは変わらず、以前にもヴィクトリアが持つ欠片を奪い返そうと勝負を挑むことがあった。
今回もいつものことだと思っている。慣れたようにお互い戦いやすい場所を探し移動する。

来たのは街外れの北の森。市街地から離れ、物を壊してもここなら苦情も来ない。それを理解して彼女も立ち止まる。
だがここの森はスフィアの庭でもある。作戦どおり彼のテリトリーにおびき出すことには成功した。

「今日こそマスターエメラルドの欠片、返してもらう!行くぜ!」

言うが早いかすぐに拳を振るう。彼女はあっさり避けた。初撃が当たるとは考えていない。すぐにジャブ、彼女を追い詰める。
しかし相手はそれ以上に早い。回避に専念して仕掛けてこようとはしない。
今回に限っては本気で掛らなくてもいい。テイルスの指示があった場所にさえ追い込めば作戦は成功だ。

だがそれでは収まりがつかない、気持的に。
この際本当にノして欠片を奪い返すんだと、半ば本気になって当てにかかった。
作戦などと回りくどいことは無視だ。ノして、気を失っているうちに連れて行けば万事解決。拳に更に熱がこもる。
こうして都合がいいことに、彼がヘタに演技するよりもかえって計略に感づかれずに済んだ。
益々ラッシュする拳をひとつひとつ丁寧に避ける。
余計気持ちを昂ぶらせるナックルズ本人も、気付かないうちに目標地点に近づいていた。

「おおおおぉぉぉぉ!!!」

そして渾身の一撃を放とうと体重を深く落としたときだった。足もとがぱっくりと口を開け、ナックルズはあえなく落ちて行った。
突然消えた相手に困惑するヴィクトリア。彼の身に何が起こったか確かめようとした瞬間。
同様に彼女の足場も割れた。穴に飲み込まれる前に聞いた声はスフィアのものだった。

「秘密基地へっご招待~☆」

遠ざかる高笑い。相手はもう一人いたのだった。

落下が突然ならば着地もいきなりだ。受け身を取る間もない、建物の一階や二階分ぐらいか、割と浅い底に尻もちをつく形で落ちた。
しかしちゃんとそこにクッションが備えられていた。ぼふん、と一度空気を吐きだしたそれに弾かれ、二度目で落ち着く。
衝撃は体にこそ大したものでは無かった、一方で目に入った地下室の光景にショックを受けた。

「Welcome!」
「Hi! ビッキー、待ってたわよ。」
「!?」

こいつがうろたえる顔を見れるなんて、たまにはドッキリ仕掛けるのもいいもんだなとソニックは思っていた。
主役を迎えながらもイタズラな笑みを浮かべ、しかし彼女はそれに頓着する余裕もないようだ。

「!これはっ」
「ヴィクトリアさんのお誕生パーティです。」
「『帰霊祭の日』が今日、9月15日なんだよ。」

ぐるりと部屋を見渡す。その瞳に楽しく装飾されたリボン、風船、造り牡丹の花、レース縫いの掛け幕、
そして大きく「Happy Birthday!」の文字がペイントされたボードが映し出された。
一通り見終えるころには彼女は事態を把握し、落ち着きを取り戻したように見えた。感情を見せない冷やかな顔。

「作戦通り上手くいったんだね。」
「ナックルズはちと余計だったけどな。」

少し離れた場所に転がっているナックルズは見るに無様で、どうやら落下の際頭を打ち付けたようだ。
それも横目に見て彼女は言い放つ。

「仲間を欺くとは、とんだ連中だな」
「お、それって俺たちのことを仲間だと認めてるってこと?」

動揺を隠したつもりだろうがそうはいかない。言葉尻に狼狽を見つけて尻尾を掴む。
するとどうだ、目をまん丸にして、こちらを直視する。
二秒ほど、発言を振り返る間を経て、そして笑った。そうなんだな、そうだったのだなと笑う。
彼女が初めて見せるあたたかい笑み。冷笑ではない、嬉しそうな顔。
それを見た彼女の仲間たちも自然とほほ笑む。笑顔の理由があたたかかった。

「お、上手くいったか。ナックルズ、寝てないでさっさと祝えよオイ。
 シャドウお前もだ、ムクれてないで祝え祝え!」

階段からスフィアが下りてくると床に倒れていたナックルズを抱え上げ、隅にいるシャドウを強引に主役を囲う輪へ押し込んだ。
そこで目を覚ましたナックルズが彼に向かって吠えたてる。

「さっきの、わざとやりやがったなてめぇ!」
「ははははは『Dr. & His Assistant』みたいで面白かったぜ!!b」

殴りかかる拳を柔術のように絡め取りあっという間に抑え込んだ。痛みに耐えかねタップし、大人しくなった。
シャドウはそれを見てからヴィクトリアの方へ二、三歩近付いた。

「みなさんこれをドウゾ!」

クリームがみんなにクラッカーを渡して歩く。全員に行き渡ったころ誰ともなく祝辞を口にする。



「ヴィクトリア、お誕生日おめでとうっ!!」



一斉に放たれたクラッカーの細いリボンがヴィクトリアに降りかかる。そして絡まり、彼女の髪は綺麗な虹色となった。

この後ケーキを食べ、プレゼントを渡し、ゲームをして思いっきり騒いだ。
笑顔の中心にはヴィクトリアが居て、彼女は今まで決して見せることがなかった、とても穏やかで優しい目をしていた。
もう鉄面皮の下の、さびしそうな影は仲間の明るい笑顔のおかげで消え去ったのだ。

手にあるビンゴボードが見事一直線に穴をそろえた。
ソニックは大きく「Bingo!」と声を上げたが、何より嬉しかったのはヴィクトリアが拍手をくれたことだった。





「ところでその格好はなんなんだ?」
「スフィア、お前の母親から頂いたのだ。動きやすくて気に入っている」
「母さんっっっっ何してんの///」


スフィアが顔を真っ赤にする様を見て、一同はそろって大笑いした。














































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   ラムネ様から神絵を頂い て、そこから啓示を受け出来上がりました。ラムネさんにはこの場でも改めて感謝致します。
   
   招待する と Show Time は似てる。そうどちらも祝福のために。
   


   細か過ぎて伝わらないですか。。。