「あー、ビッキーどこ行ってたのよ!」

帰りつくなりエミーにキッチンへ連れて行かれる。何の用か推し量りながらも、どうもヴィクトリアには見当がつかない。
先に待っていたのはクリームとスフィアの母親。調理台にはなにやら道具が揃えられている。

「バレンタインチョコを作るの。ビッキー、あなたも一緒に。」

エミーは気合が入っているようだが、二人はなにやら楽しみにしている様子。
これまでの経験上、何かの祭りごとということが感じられた。前にもこうして巻き込まれるように参加させられてきたのだ。

ただ今回も内容はわからない。周りから察しようとする、その動作が彼女の無知を知らしめていた。

「もう、あなた本当にイベントに疎いんだから。」

とため息をつきながらも今日行うことについて逐一説明をくれる。
思いを伝える為、チョコを手作りすると。

「そんな相手などいない」
「日ごろお世話になっているお礼でもいいんデス。」
「それならなおさらだ」
「ね、ね、ヴィクトリアちゃんもそんなこと言わないで一緒に作りましょ?」
「私には無為なことだ」

なかなか了承してくれない彼女に対し、エミーはつい癇癪をおこしてしまう。

「義理でも何でもいいから作るの!」

物凄い剣幕だった。それを恐ろしいと思わなかったが、熱の入れ込みようから興味が湧いた。
彼女の押しに負けておくことにした。


チョコレート作り開始。まず市販の板チョコを細かく刻む。溶かして好きな形にする前の準備段階だ。
千切りのように塊を小さくしていく。早くとけるように、それとダマにならないよう細かい方がいい。

それに留意しながら進めていたエミーは、ヴィクトリアの手元を見て驚いた。
刻んだとは程遠いチョコレート塊。それが依然まな板の上に散乱していた。


彼女は物凄く大雑把なのだ。


「ちょっと、やる気あるの?!」

これはヒトにあげるんだからね、つい口を挟んでしまう。
それでも彼女は突っ慳貪な態度のまま。
余計に腹立たしくて語気が荒くなる。

「アンタ、好きな人とかいないの!?」
「いない」
「じゃあ昔は!」

勢いで出た言葉だったが、この問いにだけ無言だった。彼女は左手を擦るような仕草を見せた。
なんだ、ちゃんと女の子してるんじゃん。そう感じたエミーの怒りは鎮まった。

チョコ作りを再開し、今度は溶かしたものと生クリームを少しずつ混ぜ込む。
これも彼女は一遍に入れてしまうなどと、どうも作業が荒いのだ。
皆でフォローしながら進めていく。そしてようやくそれぞれ完成まで達した。

あとは冷やして固めて、完成品を渡すのだ。





「ハイ、ダーリン!!」

と言われてチョコを受け取るスフィアの父親は、普段は無言無表情だというのに、とても照れくさそうな顔を見せた。
うつむき加減で、なのにそこから覗く表情はとても嬉しそうだった。
この夫婦はまだまだおアツいようで、息子がこれを見たらどう思うだろう。


「ソニックには私の手作りよ!」

対抗心をたぎらせる目で迫って来るので彼はタジタジだ。
チョコはもらってくれたが抱擁は結局拒否されてしまった。これでは気持ちを受け取ってもらえていないと、エミーはとても不服だ。

クリームはナックルズとテイルス用に作っていた。日ごろお世話になっているお礼と言い添えて手渡す。

「それで、お前は?」
「ない」

そのことに触れて欲しくなかったようだ。腕を組み、目を合わせようとしない。
コイツがそんな甲斐甲斐しいことをするとは考え難い。していたらそれは、とんだ笑い草だろう。

でも他の女子メンバーの反応が気に掛る。迷っているのか、残念がっているのか、曇った顔をしている。
しかし当人にないと言われてしまった以上、深く訊くことができない。

そこへスフィアが現れた。勝手口から入ってきたのだろう、キッチンからの登場だった。
しかも何か手に持って、口にも食べ物を含んでいる様子だった。

「ちょっと、スフィアそれどこにあったやつ!」
「ん、冷蔵庫にムグ入ってたモゴやつ。」

口をモゴモゴさせながら答えるスフィア。彼に対し女性陣の顔つきが変わった。

「何勝手に食べてるのよ!」
「え、ダメだった!?!?なんか形ヘンだな~と思ったけどさ何?何?」
「この、バカ、KYダメ息子!!」
「あでで耳ひっぱらないででで!」
「スフィアさんヒドイです!」
「うわっクリームに言われるのがが一番ダメージでかい;;」

一斉放火を浴びるが誰も事情が呑み込めないままだ。
叩かれたりひっぱられたり、しまいに彼は腕を取られ押さえつけられてしまった。
一旦収まった様子をみてから、彼女がつぶやいた。

「それは、私が作ったものだ」

一通り彼が叩かれたあと、本当に小さく囁いた。
顔は髪に隠れてしまって見えなかった。

「なんだ、あるならそう言ってくれればいいのに。」

ソニックは急に明るい声を出して、淀みなくさらりと言いのけた。
後ろに、お前からのチョコが欲しい、と言い足して。

全員がヴィクトリアを見た。それぞれが彼女の、ソニックに対する行動を、一個人として興味があった。
やがて彼女はスフィアから箱を奪い返すと、ソニックの方へ歩み寄った。
そして一欠けを彼に手渡した。


それはとても歪なチョコレート。作る際にたくさんダマを残したのだろう。


箱から覗いたそれらも一口大の大きさで、だが不揃いな格好をしていた。
彼はすぐに頬張り味わった。口の中で完全に溶け切るまで時間を掛けてじっくりと。
食べ終えると、彼は笑顔になり

「Sweet!」

ウィンクした。味だけでなく、見てくれによらない気持ちがそこにあったのだ。
内側にキャラメルが閉じ込められていた。工夫を凝らしたチョコは初心者には難しかっただろう。

「な、うまいだろ。テイルスにナックルズ、それに親父も食ってみろよ?」

だから食ってたと言わんばかりにスフィアが言いだす。
それに従うわけではないが、彼女は皆に渡した。
受け取った三人は一様に甘い顔をした。

「恥ずかしがらずに素直に出せばいいのに。」

それともう一個くれ、というスフィアは図々しかった。まだエミーと母親に取り押さえられているというのに。
それでもヴィクトリアは彼の方へ近づいていく。
彼の傍で手に持つ箱をかざすとスフィアは期待を寄せた。しかし目の前でそれをぐしゃぐしゃに握りつぶし始め


「貴様には、これだ!!」


鉄拳を喰らった。そうしてスフィアはしっかり彼女の気持ちを受け取ったのだった。







































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   2009年2月14日MEMO掲載。
   チョコを貰うということはそう甘くはないのだよ。