本日の虹の都の賑わいはようやく幕を閉じた。
たった一人の為に街全体が動いた。
それは元来の田舎気質ゆえのウワサの急速な広まりと、都会的狡猾さによる規模の拡大化が働いたからだ。

スフィアがソニックの誕生日の事を近所の商店街のヒトに話した。
慣れ親しんだ相手との単なる世間話であったが、そこから組合の会合を通じて一気に広まっ た。
そしてバースデーイベントを企画し店々が準備を始めた。
そのうねりを、この街に本社・支社を置く各企業が名前を売るチャンスと見て食いついた。
もちろんスーパーデパートメント:プリズムもこの機に乗じ戦略的に企画を立てていた。
館内を挙げての一斉記念セール、極め付けは記念碑公開イベントを行う のだと言う。
挙句には市長までもが加わる始末。彼の場合一個人としての単なるお祭りへの興味なのだが、立場的に大事になるのは必至。
イメージアップ戦略だと逆に批判さ れるとわかっていても彼は参加したくてたまらなかったのだ。


何と言っても、世界の英雄が我が街にいるのだから。


よって当初の予定である親しい仲間とのパーティ計画は丸つぶれ。
誰も彼もが主役を欲し、我先にと引きずり込む。
ソニックはそれを一つ一つこなした。彼には純粋な思いも邪な思惑も見えていた。
その上で、全ては自分がいなければ成り立たないという事をよく自覚していた。だから嫌な顔をせず各イベントへ出席し続けた。
迷惑を掛けない為に。

そうして仲間たちの事を後回しにしてきた。理由は仲間だからだ。
仲間だから迷惑を掛けられる。信頼していれば気を置くことはないのだ。

盛り上がりがようやく収まり始めた時、既に日は落ちていた。
最後にプリズム一号館正面入り口にて行われた記念像お披露目会を終え、疲れを惜しみなく見せつつ帰宅した彼を迎えたのはスフィアだった。

「誕生日だってのに、大事になっちったなはは☆」

様々な特色を持つ彼に唯一欠けているのは、反省の色である。
ツッ込む気すら失せソニックはさっさと自室に入り休息を取るのであった。


部屋に入った瞬間、香りに気付く。
清涼感のある柑橘系の香り。だがオレンジなどと違い温かみもある。
疲れで沈んだ心を高揚させてくれる、優しいフレグランス。

ベッドサイドに見慣れない小瓶を見つけた。手に取りラベルを確認するとそれはベルガモットの香水。
その瓶を重しにしてメモが一枚添えられていた。縦長の筆記体でそこにはこう書かれていた。

「Happy Birth Day」

香水を身に纏いソニックはまた一つイベントをこなすことを決めた。


空に昇る正円の中には、輝く銀と深い紺が同等のスペースを共有し同居している。
あの丘に彼女は居た。何時かの時と同じように舞っていた。

相変わらず洗練された身振り。無駄がなく動き全てに意味があった。
だから隣にスペースがあることに気付けた。
もう一人の存在によってより映える立ち振る舞い。
欠けているピースを埋めてくれと言わんばかりに。

ダンスなんか正直我流だ。踊れるのか少し戸惑うも、彼女は依然誘い続けてくる。
儘よ、自分のリズムで踏み出した。

表現しているのは互いに自分の色。なのにリズムは一体感を感じさせた。不思議だ。
ステップを受け、手降りを返し、視線を交え、合わさるは呼吸。
そのシンクロニシティが伝えるのは、彼女からのこの日への祝いの思い。
表し、受け取り、感謝し、表し、返す。

まるで言葉。彼女が一番得意としている表現方法は舞踊だったのだ。
だからより深い思いに触れられた。だから強くありがとうを表現した。
ベルガモットの香りが更に二人の心を躍らせる。

闇夜に輝く銀の舞。闇夜に染まる青の舞。
半分だけの照明の下、二つの色が交わり踊る。
その円形舞台は出会いへの感謝に満ちていた。








































全話リストへ
   ソニック19周年記念作。
   超音速で作ったんだよコレ。