「お前たちもなのか」

外から帰ってくるなりつぶやく彼女。少々驚きも含まれたそれは部屋にいた全員が聞き取る分には十分な音量であったが。

かぼちゃ、かぼちゃ、トンガリ帽子、マント、ケモノの腕、コウモリの羽、ガイコツ頭、かぼちゃ、包帯男、大きなボルト、キバ、
かぼちゃ、ステッキ、ゾンビ の顔面、黒の猫耳、そして橙と黒を基調とした小物の数々、かぼちゃ。

「日中におかしな格好をした連中が練り歩いていたが」

大勢集まって一体何をしているのだか。ため息交じりに言葉を吐いて見せる。
みんなキョトンとしていた。ヘンな格好と言われてしまえばそれまでだが、しかしそれでは身も蓋もない。せっかくのイベントだというのに。

「ハロウィンです。みなさんでカイブツさんになるんです。」

依然彼女は腑に落ちないという顔をしていた。クリームの言葉にも首を傾げるばかり。ハロウィン、カイブツ、聞いたことがないとばかりに単語を繰り返すだ け。
そうか、知らないんだ。

レインボーシティはプリズムにてハロウィーンパーティが開かれた。
今年に一部が開館したばかりでイベント開催も初めてであったが、
客の入りは上々でどうや ら電車を使い遠くから来た人たちもたくさんいたようだ。
その賑わいを見てきたのだろう、パレードもあったらしい。そして奇異な装いをした人々を眺めてこんな感想を漏らしたのだ。

スフィアの家でもその準備を進めていた。こちらはちゃんと町内を回る、日中のコスプレ大会とは違うトリック・オア・トリートの方だ。

誰が何に扮するか選んでいたところにヴィクトリアが帰ってきた。
最近は暗くなるのも早い。夕日は早足に山の向こう側へ落ち、そそくさと眠りに就こうとしていた。
太陽が寝静まれば幽霊や怪物がうごめき始める。夜は彼ら彼女らの時間だ。

「この際だ、一緒にやってみろよ。」

馬鹿馬鹿しい仮装などと言いかけた時、クリームがそっと彼女の手を握った。
たったそれだけ、見つめていた以外には何もしなかった。
それだけで彼女は続く言葉を吐けなくなった。
やらない、躊躇している間にスフィアの母親が現れた。

「あらヴィクトリアちゃんもハロウィンに出てくれるの?よかったー付き添いをお願いしたかったところなのよね。
 どうもスフィアだけじゃ心配でならないか ら。」
「母さん一言多い。」

はい、と巡回ルートを示したメモを手渡しまた奥に引っ込む。これでダメ押しになったのだろう。
彼女は渋々衣装を選びはじめた。クリームも一緒になり、お揃いにすることになった。

ソニックはヴァンパイア
テイルスはパンプキンヘッド
ナックルズはフランケンシュタイン
エミーはデビル
クリームは魔女、かぼちゃをあしらったかわいいタイプのものだ
同じく魔女はヴィクトリア、ホウキはクリームに薦められるまま手にした。

これらの格好で街を回ることになった。

「スフィアのは赤と青の何?」
「クモ男。」

安全にだけ気を付けて行ってらっしゃいとスフィアの母に見送られる。手にするジャック・オ・ランターンは全て彼女の手作りだ。

メモを確認した。すっかり住み慣れたこの街についてはどの家を訪れるかのにだけ注意を払えばいいだろう。
早速一番近い家にまで来た。クリームとテイルスを先頭にドアの前に向かい、家の中のヒトに向かって

「トリック・オア・トリート!」

元気良い声が通る。そしてヴィクトリアにも同じことをするようにせがみ出す二人。

「ほら、一緒に。」
「トリック・オア・トリート!」
「と、トリック、なにを?!」

両腕を捉えられ前へ前へ。楽しそうにする二人を相手に振り払うことができずされるがまま。
やがて声を聞きつけ家主が現れた。

「おぉ見ない顔だね、かわいいかわいい。」
「おっちゃん久しぶり。」
「なんだ、スフィアじゃないか。お前にやるお菓子はないぞ、悪戯もまっぴら御免だ。」
「や、ちょっとばかし顔出してないからってその扱いは無くねぇ?」
「お前、今までの行いをよく振り返ってから言え。そんなことより、この子らは知り合いかい?」
「まぁね。付き添い付き添い。」

顔見知りのようだ。ここは彼が生まれ育った街だから知り合いぐらい居て当たり前なのだが。
少しだけ立ち話したのち、さぁお菓子をあげようね、とオレンジと黒を基調とした包装のものを幾つも貰った。
そして用意していた、ほぼ同じデザインの袋へそ れらを入れる。
ありがとうを言って、次の家へと向かう。このやり取りがいまいち理解できないままのヴィクトリアは戸惑うばかりのようだ。

次の家でもお菓子をもらい、次へ行ってもトリック・オア・トリート。こうしてお菓子をたんまり頂いていく。

これはそういう風習なのか、流れだけは掴んで、調子は合わせられるようになってきた。
トリック・オア・トリート。
後ろをついていく分には小さい子どもが三人居るようだった。

成果は上々、たくさんのお菓子を頂いて家に帰ってきた。
そしてテーブルにそれらを広げ、各々食べたいのを手にとって。

パーティの始まりだ!

いろいろゲームを買って準備は整っている、それらで遊んだ。
だが一番盛り上がったのは化粧遊び、ハロウィン用に準備したそれを使いどれだけ「ヒドイ」化粧 を施せるか競うのだ。
始めソニックとスフィアの顔を使ったが、結局みんな順番に化粧をされ、仕上がりを見る度皆で大笑いした。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、夜も遅いのでもうお開き。ハロウィンパーティを終えることになった。
小さい子は先に寝る準備に入るとして、残りで片づけを行っている最中に問いかけ。

「結局このイベントの趣旨は何だ?」
「それは教えられない・・・」

意味深に焦らすスフィア。普段から鋭い眼差しを更に細め睨む。だがそれにも動じずにゆっくり語り出す。

「なぜなら・・・」

視線がより強くなるのが感じられる。

「俺も知らないからだ。」
「・・・」

無言のうち片づけを終えた。

きれいさっぱり片付き、翌朝には騒ぎの残り香を感じさせなかった。
朝食にはかぼちゃのスープが振る舞われた。皆おいしいと平らげたのだが

「ここで母さんからみんなに御知らせだ。」

なんだろうと一同スフィアに注目する。口元を不敵な笑みで歪ませながら言った。

「食べ尽くすまでしばらくは毎食パンプキンスープだ。」

ハロウィンの主人公だけはまだしばらく健在のようである。







































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   2009年10月31日MEMO掲載分より、一部改変。
   
   一日でよく作ったなぁ自分(▼(w)▼)
   


   ええただのダジャレですよ!