クリームは真新しいランドセルを背負って上機嫌だ。
幼い彼女もいよいよ来年から小学生。ママに買ってもらったそれが背中でつやつや光っている。
この輝きと初々しさが相まって、ピカピカの一年生と称されるのだろう。
「にあっていますか?」
「うん。とっても!」
すっかりお気に入りでテイルスにも見せびらかす。そんな嬉々としている彼女をみているとつられて一緒に楽しい気持ちになれる。
自分もちょっと前までこうだったのかな。振り返り懐かしい気持ちになる。
クリームのママ、ヴァニラさんが新入生のクリームさん、ちゃんとごあいさつできるかな、
というので早速テイルスを先生に見立て練習して見せた。
「おはようございます。」
言いながら丁寧にお辞儀する。普段から礼儀正しい彼女にとって慣れた動作であったが、嬉しくてはしゃいでいたのだろう、
元気よく傾いだ勢いに乗ってランド
セルのふたが開いてしまった。
空っぽであればよかったものの、気が早い彼女は既に筆箱やノートや連絡帳など沢山詰め込んでいた。
それらがめくれ上がったふたを滑り台にして床へなだれ落
ちた。
クリームには何が起こったかよくわからない。背後から頭に被さってきたものに驚き、
振り払おうと上体を起こした後に見たのは足もとに散乱する、ランドセル
に入れていたはずの品々だった。
すっかりロックを忘れていたようだ。テイルスの短い、あぁ、という悲鳴が耳に残る。
あわてて拾い集める。彼も一緒になって屈みこむ。
手当たりしだい抱えて集め、二人で全部拾った後に、どうやって入れようか困ってしまった。
両手で抱えたままでは背中のランドセルには到底入れられない。
普通に考えて、一度ノートもランドセルもテーブルに下ろせばいいのだがそこまで気が回らな
かった。
考えあぐねているうちに彼から声を掛けられる。
「大丈夫、入れてあげるよ。」
テイルスはノート類を彼女から受け取り背後にまわると、拾い集めたそれをすとんすとんと入れていく。
それをクリームは両手で万歳、ふたを高く上げ開いたまま終えるまで待つのである。
全部入れ終え、ふたから手を放してもらって、しっかりロックする。
はい、これで大丈夫。ランドセルをぽんと叩き完了を知らせる。
「テイルスさんはまるでクリームのお兄さんみたいですね。」
テイルスのしっかりした振る舞いからヴァニラさんがふともらす。
そう言われて悪い気はしないのだが、どこか落ち着かなくなるテイルス。
でもクリームは急に不機嫌な顔になって
「ママ、テイルスさんはお兄さんではないデス!」
強く主張しだす彼女。確かに言う通りなのだが、なぜムキになるのかは分からずついそちらを見てしまう。
するとそこにあったのは、自分に向けられたこの上なく機嫌の良い笑顔。
同時に腕に抱きつかれてしまい、これは一体どうしたことか。
戸惑い、視線を泳がせ辿りついた先に見たヴァニラさんはただほほ笑みながら、あらあら、と楽しそうにしていたのだった。
「そうですね。ごめんなさい、クリーム。」
「わかってもらえればけっこうデス。」
この親子のやり取りが理解できないテイルスは一人取り残されてしまった。
二人だけで通じて、一体何がわかったのだろう。
そんな彼の様子も承知の上で、またヴァニラさんが口を開く。
「テイルスさん、どうかクリームのことをよろしくお願いしますね。」
「そ、それってどういう・・・」
「おねがいします!」
「えぇ!」
隣からも声が上がり、抱き寄せる腕の力が一層強くなった。
耳にして、それも感じて見た彼女の顔は真っ直ぐこちらを捉えていた。
目が合って、気恥かしさを感じ、すぐに逸らしてしまった。
でも彼女は一向に放してくれそうにない。
ヴァニラさんは依然ほほ笑んだままである。
2009年11月MEMO掲載分より移動。
こういう具合にウブな子が大好物です。