ソニックはその少年を目の前にして困ってしまった。
手には願いを叶える小さな光。
「だってこのコ、明日になったら死んじゃうんだもん!」
彼が抱えているのは弱り果てたチャオ。
彼はそのチャオと別れたくなかった。
幼い頃からずっと一緒だった。
だから願った。
明日が来ないことを。
そして叶えた。ここでは永遠に今日を繰り返す。
日付が変わるたびにまた今日がやって来る。
初めてこの土地に来てから違和感があった。
次の日に同じことを言われて不思議に思った。
次の日に昨日と同じことをしている人を見て気が付いた。
次の日に一分一秒一言一句違わぬ会話を聞いて確信した。
そのときに初めて外に出られないとわかった。
見えない壁が土地を囲っていた。
この土地は人の願いが叶えられる伝説が残る場所だった。
ソニックはこの状態を願った者を探し始めた。
機械のような正確さで日常を繰り返す土地の人々。
事故や事件も毎回起きる。人が困っている様を見ると性格上放っておけない。
手を差し伸べた。その日は円満に解決するのだが、次の日に当然同じことが発生する。
それでもまだ遭遇していない事件を見たらその都度首を突っ込む。
無駄だとわかっていても体が勝手に動く。それを止める気も無い。
何度もなんども同じ日を繰り返して、願った者は結局わからないままだった。
この土地に起こる出来事を全て把握したと思う頃、空中を漂う白いものを見つけた。
ふわふわと、手に乗せてそれは淡く光っていた。
伝説では願いが叶うとき白い光の玉が現れるという。
見つからない理由がわかった。
民家の中はまるで意識の外だった。
繰り返す日々の中では恥も外聞もない。
一軒ずつ乗り込んでいってようやく突き止めた。
彼はそうしてずっと家の中にいたのだ。
外しか周っていない自分には見つけられるはずも無い。
彼は友達と別れたくなかっただけだ。
悲しい現実を受け入れたくなかった。
少年の心には未来が暗すぎる。
少年には過去が楽しすぎた。
少年は楽しかった日々を繰り返すことを選んだ。
相反する願いはぶつかり合い、一方を砕いて実現される。
砕かれた願いは二度と叶わない。
その願いを自分は砕くことが出来るだろうか。
幼いが故に純粋な思い。
繰り返し続ける現状を打開するにはそうするしかない。
しかし彼は一つだけ間違えている。
幼いが故に。
願いではない。単なる我侭。
そんなものにつき合わされるのはもうごめんだ。
「悪いがこの時間ループは今日でお終いだ。」
「やだよ!」
「俺は広い所が好きなんでね。今から明日を願えば新しい日々が始まる。」
手には願いを叶える小さな光。
「だってこのコ、明日になったら死んじゃうんだもん!」
握り締めた手に力が入る。
「僕見てきたんだもん、だから、だからっ!」
「明日が来なければいいって?」
光が二人それぞれを包んだ。
一方が少年。一方がソニック。
真っ白な空間がぶつかり合う。
食い違う願いがぶつかり合う。
「それでも俺は明日へ行く!」
光が一段と増した。こちらも向こうも。
「聞くんだ!」
「明日は辛いことだけじゃない!」
「それ以外に良いことだって必ず待っているっ、信じるんだ!」
光が揺れている。見えなくてもわかる。
迷っている。
「大丈夫、明日には俺が側にいる。」
より強い願望が一方を粉砕する。
光の玉は砂となって掌から零れ落ちた。
目覚めたときには今日なのか明日なのかわからなかった。
毎日見てきた天井。ベッドからの光景。でも外を見て変化が現れていた。
昨日まで晴れだったのに今日は雨。
ソニックは外へ駆け出した。彼の側へ行くために。
彼が抱えていたのは弱り果てたチャオ。
泣きじゃくって、嗚咽を漏らして。
掛ける言葉が見つからない。
無慈悲な光景が目の前に広がる。
でも歩み寄って側へ。
そっと
チャオを抱く
そして
床に寝かせた
チャオは次第に繭に包まれていった。
少年は床に顔を伏した。
それでもソニックは言った。
「目を逸らすなよ。」
繭は消えた
ただ
同じ場所に
卵
「転生したんだ。」
弱々しく手を伸ばす。
触れて
抱えて
包み込んだ。
やがて少年の胸の中で卵は孵った。
新しい命は少年を頼った。
絶望と歓喜の涙が一続きに流れる。
後から流れるほうが勢いが良く澄んでいた。
「・・・ありがとう。」
ソニックは早々にこの土地を去った。
久々の自由を満喫して向かう先は気まぐれ。
それ故に同じ道は二度と歩めない。
同じ冒険は二度とできない。
ただ同じドキドキは
いつも待っていた。
時間ループネタを描きたくなってやってみた。
戻らないから過去は愛おしい。
やってくるから未来は輝かしい、と。